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第10話「力量の差」

Last-modified: 2016-08-23 (火) 22:57:37

ガンダムビルドファイターズ side B
第10話:力量の差

 

 8月3日、いよいよガンプラ世界選手権開会式の日。
静岡県ヤジマスタジアムには、実に5万人の観客が詰め掛けている。
ある者はガンプラファンとして、ある者は選手の応援として、
またある者は一流ビルダーの技術を盗もうと、その目を光らせて・・・

 

「それではこれよりー!第17回、ガンプラ世界選手権の開幕を宣言します。」
運営委員会会長のミセス、ヤジマ・キャロラインによる開会宣言が成される。
舞台の下、スタジアムには世界各地の予選をくぐり抜けてきた128人の選手、
その中に宇宙もいた。
「(ガンプラって、どんだけー・・・)」
その圧倒的な人数は、舞台から見るとさらに威圧感が増す。ただの遊びに
世界からここまでファンが詰め掛けるとは。
しかも自分はここで試合をするのだ、と考えただけで
プレッシャーで潰れそうになる・・・。

 

「さぁ、それでは早速、予選第1ピリオドを始めます!」
「「「えええーっ!?」」」
大喜びする観客とは裏腹に、選手は一様に驚きを隠せない。
なんせ開会式の予定しか聞かされておらず、皆ガンプラすら持ってきていないのだ。
「ちょ、ちょっと待てよ、」
「聞いてないぜ、ガンプラ持ってねぇぞ。」
「やべ、俺昨日のパーティでの酒が抜けてねぇ・・・」
口々にざわめく選手たち。しかもみんな日本語なのが凄い。
「慌てるなみんな、アレを見ろ!」
通る声で皆を制したのは、サングラスに特徴的な髪型を持つ男、3代目メイジン・カワグチ。
彼の指差した方向には、巨大な机にかけられた大きなシーツ、その周囲には
大量の作業机が搬入されていく。
「第1ピリオド、その種目はー、『即席ガンプラメイク&バトル〜!』」
机にかけられたシーツが取り外される、その中には大量のガンプラの箱、
多分2000箱は下らない数だ。
「そう、参加者にはこれからあの中からガンプラをひとつ選んでもらい
完成した人から順次申請、対戦していただきます!制限時間は4時間、
勝利者には最低4点+試合時間によっての勝利ポイントが与えられます。」

 
 

これだけの説明で、理解できる者は理解した。
「なるほど、作りこめば強いガンプラが出来るが、時間がかかるため
 対戦相手のガンプラも強くなる。」
「逆に素組みなら速攻で出来るが弱い。しかし相手も短時間で組んだ
 ガンプラになるわけか。」
「要するにファイターに振るか、ビルダーに振るかってことだな。」

 

 あちゃー、と頭を抱えるのは観客席にいる大地。
出場している弟、宇宙は、自分のガンプラであるトリックスターしか知らない、
ましてビルダーの腕前は他の選手とは比べるまでもなく落ちる・・・
しょっぱなから絶望的な戦いになってしまった。

 

「それでは第1ピリオド、レディーッ・ゴー!」
選手が一斉にガンプラの山に群がる、無論体格のいい選手が他を押しのけ
ひ弱な選手はガンプラを選びにすらいけない、その筆頭が宇宙だった。
「うわっ!」
屈強な選手に押しのけられ、転ぶ宇宙。
「大丈夫?」
手を差し伸べられる。宇宙より少し上の、17〜8歳の少女。
「あ、ありがと、大丈夫です。」
手を取ることをためらった宇宙はそのまま立ち上がる、ズボンをパンパン、と払って。
「まったく、無粋なことですわね、あれではじっくり選べませんわ。」
ふと見渡すと、少女のほかにも何人かその奪い合いを見物してる面々がいる。
「残り物には福がある、と言うしな、焦ることは無い。」
「ま、ガツガツしてるヤツはビルダーの自信が無いんだろ、急いで作りたいからな。」
「俺、あそこに行ったら絶対吐くわ、昨日の酒・・・」
ひとり情けない表情を浮かべて青い顔をしている男、その脇で屈強な男が呆れている。
「まったく、こんな奴が2年連続王者かよ、絶対3連覇させたくねぇな。」
「うるせーグレコ!お前だって昨日しこたま飲んだだろうが、このウワバミ・・・うぷ。」

 
 

 ようやくガンプラ周囲の人だかりが解け、宇宙もガンプラ選びにかかる。
しかしどれを選べばいいのかさっぱり分からない。今からトリックスターを
もう一機製作するのは不可能だし、かといって素組みのベストメカボールじゃ
多分瞬殺される。迷った挙句、兄と同じヅダをチョイスする。
 すでに近くの作業机は埋まっている、一番端の机に移動する際、
すでに作業に入ってる選手をチラ見してみた・・・
「(みんな凄すぎる・・・勝てっこ無いよこんなの。)」
手の動き、道具のチョイス、パーツの扱い、どれもありえないほど
高速で手際がいい。まるでF1レースのピットクルーだ。
宇宙が作業机に座る頃には、もう最初の試合が始まっていたほどだ。
「とにかく作らなきゃ・・・」
箱を開け、説明書を広げ、つたない手で組み始める。宇宙の腕では
制限時間が4時間じゃ素組みでもギリギリだろう。
初めてのHGグレードプラモに悪戦苦闘する宇宙。

 

「勝者ー、ライナー・チョマー!」
「圧倒的です、さすが若き天才ルーカス!」
「アジアの鉄人健在、ルワン・ダラーラ4ポイント獲得!」

 

 対戦開始から3時間15分、ようやく宇宙のガンプラが完成、列に並ぶ。
次々に試合が消化され、列を進む宇宙、次が出番だ。対戦相手は・・・
「出たーっ!殿堂の王メイジン・カワグチーっ!対戦相手は日本代表の・・・」
観客席で大地が白目をむいている、よりによってメイジンかよっ!
 勿論試合は瞬殺だった。宇宙の素組みとメイジンが3時間かけて作ったガンプラなら
どう考えても戦いになるはずがない。
「ガンプラの本場、日本代表にしては不甲斐ない、精進したまえ!」
キツ目の激励をかけられる宇宙、予選第1ピリオドは残念な結果になった。

 

「ま、今日は運が無かったな、明日以降頑張れよ。」
宿舎で宇宙を慰める大地、しかし宇宙の表情は暗い。
無理もない、現役ガンプラファイターとの格差をまざまざと見せ付けられたのだ。
そしてそれは、翌日以降も顕著に表れるのだった。

 
 

 2日目、予選第2ピリオド、種目は”レース”
しかしそれはガンプラの走りではなく、モビルスーツサイズのバギー車を
ガンプラで運転してのレースだった。
当然、腕しかないボールでは満足に運転できず、またも敗退、0ポイント。

 

 3日目、予選第3ピリオド、種目”格闘技”
くじ引きをし、出た種目での格闘技試合をする。宇宙が引いたのは
よりによって『テコンドー』。
やむなくヅダを使用するが、同じクジを引いた韓国代表の選手に
かかと落とし一撃で瞬殺、修理不可能なレベルにまで粉砕されてしまった。

 

 4日目、予選第4ピリオド”綱引き”
全体を2チームに分け、勝者チームには20ポイント、
単純に勝ち負けのみならず、綱を引く強さによっては特別にポイントが
入るルールだが・・・宙に浮いてるボールは綱を引いても力が入らず
綱引き自体も負け、またも0ポイント。

 

 5日目、予選第5ピリオド”巴戦”
3人ひと組になって、まず1対1で対戦、勝者が残りの1人と対戦し
2連勝すれば勝ち抜け、10ポイントを得られる。
宇宙の組には昨年度準優勝のアメリカ代表、グレコがいた。
予選では比較的健闘した試合だったが、経験値の差もある上に
地上戦ということもあり敗北。

 

 6日目、予選第6ピリオド”ギャラリーバトル”
会場に応援にきている観客との対戦、5人抜きごとに1ポイント、
最高100人抜き20ポイントゲットまで対戦できる。が、負けたらそれで終了。
宇宙は4人を抜くが、5人目に現れたランバ・ラル似のオッサンに惨敗。
気のせいかもしれないが、世界大会に混ざっても遜色のないレベルに見えた。

 

 「まぁ・・・今大会は運が無かったよ、予選は逆にラッキーだったんだし。」
控え室で肩を落とす宇宙に声をかける大地。一応、保護者なので入室許可は出ている。
しかしここまで0ポイント、残る予選はあとひとつ、もはやベスト16入りは
絶望的な状況だった、

 

 ここまでポイントトップはリカルド・フェリーニと3代目メイジン・カワグチの2人
満点のこの二人に続くのがグレコ、ルワンの古参組、新星のルーカスは7位、
ライナー・チョマーは14位と微妙な位置、ひとつ上の13位には日本代表の一人、
サザキ・ススムの名もある。
いずれにせよ最終戦までで上位7人はほぼ当確ライン、残りのイスも
ボーダー付近の選手が争いそうで、ボーダー下の選手たち、まして
ポイント0で128位、つまり最下位の宇宙にチャンスなど皆無かと思われた。
最終ピリオドのルール発表までは・・・

 
 

「それではこれより、明日行われる予選最終ピリオドのルールを発表します!」
控え室から会場に戻った選手たちに最終ピリオドのルールが告げられる。
「ラストはおなじみ、バトル・ロワイヤルです!」
巨大なバトルシステムが会場に設置されている、やはりきたか、という表情の各選手。
「そして、特別ルール!このロワイヤルで相手のガンプラを破壊すると
 その選手が持ってるポイントの半分をゲットすることが出来ます!」
 一瞬の静寂の後、おおおおおっ!と歓声を上げる選手たち、そして観客。
「つまり、今120ポイントを得ているメイジンを倒すと、その選手には一気に
 60ポイントが与えられる、というわけ。ただし撃破されてもメイジンは
 120ポイントのままです。」
選手の目がメイジンに集まる。やれやれ、と含み笑いを浮かべるメイジン・カワグチ。
「ただし、ここ肝心ですよ、ポイントはあくまで『トドメ』を刺した選手にのみ
与えられます!いくらダメージを負わせてもトドメを他の人にかっさらわれたら
意味がありません。」
 ざわつく会場、強さのみならず、したたかさが求められる勝負のようだ。
「舞台はお約束の宇宙〜大気圏〜地上の広大なステージです、泣いても笑っても
 最後の予選、各選手悔いの無いように。」
選手たちに熱気が篭る。ここまで振わなかった選手も確かに1発逆転が狙えるルールに
下位の選手も興奮を隠せない。
「開始は明日午前10時!さぁみんな、万全の準備をしてこいっ!」
解散と同時に選手たちは足早に退場する、明日に希望を、望みを繋いで。

 

「・・・ダメだ、このルールじゃ宇宙に勝ち目は無い。」
嘆く大地。まるで宇宙にだけチャンスを与えないような非情のルールを理解した。

 
 

「どう?キャロライン。このルールは。」
主催席で自慢げに話すニルス。
「どうって、せっかくサトオカ・ソラがここまで0ポイントなのに
なんで逆転可能なルールにしたんですの?」
不満そうに返すキャロライン。
「…ねぇキャロライン、貴女がメイジンやフェリーニだったら、戦いの舞台は
宇宙と地上、どっちにする?」
「そりゃ地上ですわ。宇宙にいたらポイント狙いのハイエナどもに四方八方から
集中攻撃されるのは明白ですもの。」
「じゃあ、そのポイント狙いのハイエナ達も地上を選ぶよね。」
「もちろんそうですわね…。」
「で、サトオカ・ソラ選手のガンプラは?」
「あ!宇宙専用のボール!!…すごいわニルス、そこまで考えて?」
「まぁね、彼には気の毒だけど、あのガンプラがあまり人目に付くのも困るし
このへんで退場してもらわないと…ってうわっ!」
キャロラインがニルスに抱きつく、そそくさと目をそらすガードマンや運営委員。
「今日は贅沢なディナーにしましょ、やっと肩の荷が降りた気分よ。」
連れだって主催席の部屋を後にするヤジマ夫妻。

 
 

彼らが出て行って2分後、ある男が主催席に入ってくる。
「おい!ここは関係者以外立ち入り禁止…ってドイツのチョマー選手じゃないか、
選手は特に来てもらっては困るんだがね。」
「ああ、分かってる。でも聞いてくれ、俺の提案を受け入れてくれたら
今回のガンプラバトル、大盛り上がり間違いなしだぜ!」
親指を立て、ウインクをしてアピールするライナー・チョマー。
毎年、大会を盛り上げる『お祭り男』だけに無碍にもできない、
人柄を考えても収賄や不正を仕込むタイプではないし…。
「…聞くだけ聞こうか。」

 
 

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