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第11話_「命の価値は」

Last-modified: 2014-04-01 (火) 01:15:56
 
 
 

「良いな?ジェリドの命令書は後続のカプセルが視界に入ったら開くのだ」
アレキサンドリアのブリーフィングルームでは
艦長のジャマイカン少佐が大きなモニターを背に
雛壇で両腕を後ろに回して、目の前に座る
ティターンズカラーと呼ばれている紺色の
ノーマルスーツを着た兵士達に作戦の説明をしていた。
その中にエゥーゴによって専用機となるはずだった
《ガンダムMk-II》3号機のパイロット、
ジェリド・メサ中尉は作戦指示が与えられ「はっ!」
と言うと、雛壇の横にいた士官から
命令書を手渡される。
思わず、それを反射的に開こうとしたが
ジャマイカンの言葉を思い出してその手を止めた。

 

命令書がジェリド中尉に渡ったのを確認すると
ジャマイカン少佐は左隣の席に座っている
《Mk-II》1号機のパイロット、エマ・シーン中尉に目をやる。
「エマ・シーン中尉の交渉は15分間が限度だ。いいな?」
その座った目付きで彼女を見ながらジャマイカンが確認する

 

「は!そのカプセルというのは強力な爆弾でしょうか?」
エマ・シーン中尉が軽く右手を挙げて返事を返し、
『カプセル』というワードが気になり疑問をぶつけた。
「そんなところだ」
と彼女へ素っ気ない物言いで答えた。
それを聞いたエマ中尉がスッと立ち上がり
後ろを振り返り兵士達の顔を見て
「では、初めて《ジム・クウェル》に搭乗する者もいると思うが高度の訓練と思え。
今回の作戦はあくまで《Mk-II》を取り戻す為の交渉である」
と、はっきりとした口調で
彼女と作戦を共にする部下達へ伝えた。
透き通るような声にいかにもな優等生の彼女。
軍人一家の名家のお嬢様だと言う事だった。
そういう出自もあってか、周りからは
疎まれる事が多いが彼女はなるべく
そういった雑音を気にしないようにしている。
そんな地球出身のエリートを集めたティターンズにとって
彼女はまさにうってつけの人材だと言えた。
だからこそ、冷静沈着且つ聡明な彼女に
エゥーゴとの交渉という大役を任せたのだったのだが。

 

「よし、それでは明日は
別の者に小隊長をやってもらうからそのつもりで」
ジャマイカンはそう言いうと
ブリーフィングルームを後にした。

 

ライラ隊の攻撃により、
機関部にダメージを負った
《アーガマ》は足止めを受けていた。
ブリッジ内にはティターンズによる第2波に備え
緊張が走っていたがそれと同時に焦りの色も見えていた。

 

ブレックスはいつ現れるとも知れない
ティターンズが気になるようでモニターから目を離さずに
ブライトへ尋ねる
「全速は出せんのか?このままでは敵の第2波が来る…」
「メインエンジンがやられてますので…」

 

ブライトからは歯切れの悪い応えが返って来た。
先の《ガルバルディ》との戦闘で受けた
機関部への損傷で艦隊の足止めを見事に受けていた。
ブレックスはモビルスーツを出し惜しみした結果では?
と考えたが、相手の第2波を考えれば
仕方のない事だろうと感じていた。
先ほどの戦闘でカミーユやアポリーを出して
どちらかがダメージを受ければ、確実に次の戦闘に
影響を及ぼし兼ねない事も分かっていた。
幸いクワトロは被弾なく済んだ事はまだ救いだとも思っていた。

 

CIC席に座るヘンケンはこのブリッジにいる中で
唯一ノーマルスーツを着ていなかった。
敵にやられるわけがないと言い切る彼の気合いが伺える。
そんな彼が振り向いてブライトの方へ視線を送る。
「ブライト艦長、次は待機させていたアポリー中尉や
カミーユにも出撃してもらいましょう」
ヘンケンの言葉にブライトが
ノーマルスーツのヘルメットを外して大きく息を吐くと
「無論そのつもりだ、ヘンケン中佐。
彼らはその為に温存したようなものだしな…」
ブライトがそう言うと、ヘンケンは大きく頷いた。
そんな二人を尻目に考え込むような雰囲気で
腕を組んでいたブレックスが口を開く
「しかし…あまりに鮮やかな退き際だった。
どう思う?ブライト艦長」
「本気で落とすつもりはなかったように見えました。
我々がエゥーゴと分かったからこそ
足を止めたのだと思います。」
ブレックスの問いにはっきりと答える
ブライトの言葉にブリッジにいる者達は納得していた。

 

濃紺の機体色である《ガンダムMk-II》1号機の
パイロット、エマ・シーンは
小隊長を務めモビルスーツ小隊の先頭を突き進んでいた。
後続に続くのは濃紺と濃紫の機体色の
《ジム・クウェル》3機が追従する。
ティターンズの新たな量産モビルスーツで
連邦宇宙軍再建の為に開発された《ジム・カスタム》に
ティターンズが手を加えたモビルスーツだった。
ルナツー工廠で生産開発されたこの機体は
地球至上主義を掲げるティターンズにとって
連邦とジオニック系技術の融合となった《ハイザック》とは
双璧を成す連邦軍だけの技術で造られたモビルスーツとなり
とあるテストチームで完成したモビルスーツの
データがフィードバックされているモビルスーツらしい。

 

エマは目標地点を目指し前を見据えていると
コックピットのHUDに《ハイザック》のパイロット
ジェリド・メサの顔が映し出される
「エマ中尉、隙があれば《Mk-II》を奪い返して
《アーガマ》を沈めても構わないんじゃないのか?」
今回の作戦でジャマイカンの特命を受けている
ジェリドもエマ小隊に続いていた。

 

「何を言っているの?ジェリド中尉。
作戦行動以外の行為は認められないわ。」
エマは相変わらず短絡的な思考しか持ち得ない
彼に半ば呆れ返っていると
「相変わらず硬いね、小隊長さんは。」
とジェリドは重ねる。
この男の言動にエマ中尉は努めて冷静を装うが
「あなたはあなたはの作戦をしっかりやる事をお考えになったら?」
と挑発するように言い放つと
ジェリドは幼稚さを隠そうともせずに言葉を返す。
「ふ…!中尉こそ油断して《Mk-II》を奪われるなよ?」
「あなたのようなヘマはしないわ。
それより見えて来たわよ?」
ジェリドの言葉に意を介さず、前方を見ていた
エマの言葉の通り、モニターに白い船体が映る。
「あいつか…!よし、俺は作戦の通りここで待機する!」
そう言うとジェリドの《ハイザック》は
《アーガマ》からやや距離を置いたポイントへ
機体を待機させた。
「レーダーに感あり!
敵モビルスーツらしき熱源をキャッチ、数は5です」
そう声を上げたシーサーの言葉に
ブリッジ内は再び緊張に包まれる。
「来たか…大尉の《リック・ディアス》の補給はどうだ?」
「既に完了しているそうです」
ブライトの言葉にレコアがそう返すと頷いて、
モニターに目をやるとシーサーが更に続ける。
「さっきと侵入方位が違います!
機種不明機が3、
それに《ハイザック》と《ガンダムMk-II》です!」
機種不明?新型のモビルスーツがまた投入されたのか?
そう考えてながら侵入してきた方を確認すると
赤く点滅する光が4つほど確認できた。
「発光信号確認!…停戦の合図です!!」
「なんだと !?」
「本気か!?」
トーレスの報告にブレックスとヘンケンが
またかといった言い方で叫ぶ。

 

モビルスーツデッキでは
休戦の合図があった事を聞いていた
メカニッククルー達が騒いでいた。
それが耳に入ったクワトロがアストナージに確認をする。
「また休戦だと?」
「はい、今度は白旗を確認したそうです。」
きっばりとと返すアストナージの言葉に
カミーユが間に入って口を開ける。
「モビルスーツが白旗を?」
カミーユの問いかけに
アストナージの隣にいたトラジャ・トラジャ軍曹が
頷いて「そうらしい。」
と言うと、クワトロがカタパルトデッキに出て
左手に白旗を持っている《ガンダムMk-II》を確認する。

 

ブリッジでは白旗を手に接近する《Mk-II》の
様子を見ていたブレックスが「どう思う?」と
ブライトやヘンケンに意見を求める。
「分かりません…
ですが我々は時間を稼ぐ必要があります。」
「応じるしか選択肢はなさそうですね。」
ブライトに続いてヘンケンが致し方なしといった
表情でブレックスに返す。
「メインエンジンを直すまでの時間か…」ーーー。

 
 

《アークエンジェル》では先程まで鳴っていた
艦内のアラートが止んでおり
居住ブロックの食堂にある大型モニターには
外の様子が映し出されていた。
「おい!あっちのモニターで外の様子が見れるぞ!」」
部屋から出ていたトールがキラ達にそう叫ぶと
皆は顔を見合わせて頷くと
トールのいる食堂の方へと駆けて行く。
食堂には既に避難民の多くが
モニターを食い入るように見ていた。
食堂にいた人々はざわついている。
何人かの避難民の会話で白旗を持っているのは
ティターンズのだと分かった。

 

「ティターンズが…白旗?」
キラ達もモニターから見えるその光景を見て
何か様子がおかしいと感じていたーーー。

 
 

《アーガマ》の右舷カタパルトに《Mk-II》1号機が
着地するとコックピットハッチが開く。
《アーガマ》にはビームライフルを構えた
《ジム・クウェル》が周りを取り囲んでいた。
それを出迎えるような形となったクワトロとアポリーが
《Mk-II》の開いたハッチを見る。

 

「一人だ…勇敢だな」
身を乗り出すように見下ろすノーマルスーツを来た
ティターンズの兵士が見えると
クワトロがそう呟いた。
コックピットから降りて来たティターンズ兵の
顔はバイザーによって確認する事は難しかった。

 

クワトロの前に降りてきたエマ・シーン中尉が
左手に持つ小型マイクをヘルメット当てる。
「バスク大佐の親書を持って参りました」
「……?」
(女がたった一人でか…)
マイクから聞こえた透き通るような女性の声に
声でクワトロは少し驚いていた。

 

「このモビルスーツに近付く者がいれば
あのジムが狙撃します」
そんなクワトロを尻目にエマが淡々と忠告すると
クワトロは再度周りを取り囲んでいる
ライフルを構えた《ジム・クウェル》に目を配らせる。

 

「…了解した…指揮官に会わせよう。着いてこい。」
クワトロは少しの間を置いてから言うと艦内へと通すーーー。

 

エアロックが解除されていた区画を抜けると
クワトロとエマはヘルメットを外して通路を進む。

 

「一人で乗り込んで来たらしい…」
「モビルスーツでか?」
「ガンダムだよ…《Mk-II》の1号機だ。」
「いい女じゃないか…」
「だがティターンズだからな…バリバリの」
「主義者だってのか?」

 

クワトロに引き連れられて通路を進むエマに
《アーガマ》のクルー達は彼女の顔を見ながら
ぶつぶつと喋り出しており、彼女もその会話は
聞こえていたがあえて聞こえないふりをしていた。

 

「エマ・シーン中尉って言ってた人だ…」
その中にいたカミーユは
グリーノアの騒動で出会ったエマの顔を見るとそう呟いていた。

 

エマはクワトロの案内により応接室へと通された。
そこで彼女を迎えていたのは
ブレックスとブライト、ヘンケンの三人だった。

 

ブレックスと顔を合わせたエマは手に持った
一つの紙を差し出す。
「バスク・オム大佐からの親書のお返事は、
即答でお願いいたします。」
「厳しいな…」
どこか事務的な言い方にブレックスはぼやきながら
渡された親書の文章に目を通す。

 

まもなくして、親書を手にしたブレックスの手が
震え出すと同時に鬼のような形相をした
彼の表情をブライト達が目にする。
「……っなんと破廉恥な!中尉はこの手紙の内容を知っているのかね!?」
ブレックスは声を荒げ、彼女にそう聞くと、
眉一つ動かさぬエマは「いいえ」と一言だけ答える。

 

ブライトやヘンケン、そしてクワトロも
親書を手にしてその内容を確認する。
それを目にしたヘンケンとブライトも目付きが
鋭くなり腹が煮えたぎるような思いになる。

 

「…だからそんな涼しい顔をしていられる」
ヘンケンは親書から目を離して
エマの顔を見ながらそう言うと、
ブレックスは再度親書を手にして、
エマ・シーン本人に親書を手渡して、中を確認させる。

 

「え……!?カミーユ・ビダンとともに…
《ガンダムMk-II》を返さない場合は…」ーーー。
親書の内容を見たエマの表情は
まるで信じられないといった様子だった。

 

「カミーユの両親を殺すということだ」
クワトロが一言そう言うと
「これがティターンズのやり方だよ。
まるでギャングやヤクザだ。
一軍の指揮官が思いつくことではない…!」
と憤怒の表情を見せるブレックスが重ねた。

 

「ま、まさか…!バスク大佐がそのようなことを…
これは軍隊のやることではありません!」
自分が信じていたはずの軍が
このような事をするはずがない…
願いにも似た彼女の気持ちは
既に苦し紛れにも聞こえるような言葉しか返せずにいた。

 

「だがこれはバスクの直筆だ。
エマ中尉、君も読んだ通りだよ」
とヘンケンが鋭い言葉で彼女の言葉を論する。
「そうだ、ティターンズは軍隊ではない。
私兵だよ。わたくしの軍隊なのだ。」
とブレックスがヘンケンに続くと少しばかり
取り乱していたエマの態度が大人しくなる。

 

「しかし…地球連邦軍であることには変わりがありません。
あたしは…いえ、自分はバスクの私兵になった覚えはないのです。」
落ち着きを取り戻した彼女の言葉には
悲愴感が漂っていた。
軍人一家の名家の出である
彼女の軍を信じたい気持ちが尚もそうさせている。

 

「バスクのではないよ、中尉。
もっと大きなもの…
地球の引力に魂を引かれた人々の私兵なのだよ」
ブレックスがそう言い放つと
彼女には返す言葉が既に見つからなくなっていた。

 

「しかし…こんな事は
ジオンだって思いつかんような手口だ…!」
ブライトがそう言ってその精悍な顔を曇らせていた。
「ですが単なる脅しかもしれません」
ブライトの言葉に腰へ手を当てて聞いていたクワトロが言う。
そこへブレックスが二人の会話に割って入るように
「いや、バスクならやるよ大尉。
ヤツの事はこの私が一番良く知っている」
と言うと何かを思い出すかのような表情を覗かせていた。

 

扉の向こうで聞き耳を立て
一連の話を聞いていたトーレスが「全く…!」
と言いうと、一緒になって聞いていたシーサーが
反対側の壁に備え付けられた連絡用の受話器を取り
モビルスーツデッキに繋ぐと
「ティターンズの奴ら人質を取ってるらしいぞ!」
と言うと、モビルスーツデッキにシーサーの言葉が響く。

 

「よくやるじゃないか…バスクめ!聞いたか!?」
それを聞いていたアストナージが苦虫を噛み潰すような
様子で隣のデッキクルーに言うと
「なんで人質が成立するんだ?」
と言ってアストナージに問いかけ、
「カミーユ・ビダンの母親だからさ!」
と答えると、
その話は瞬く間に《アーガマ》全体へ広がって行く。

 

「人質…?」
モビルスーツデッキに一足遅れて入ってきたカミーユは
騒がしくなっているクルー達の言葉に耳を傾けると、
自分の母親であるヒルダ・ビダンが
人質となっている事を知る。
「今の話、本当なんですか!?
僕の母が人質だって…!」
忙しなく動くデッキクルーの肩を掴んで
カミーユが詰め寄ったーーー。

 
 

「カミーユ・ビダンの母親が人質に!?」
「ああ、《ガンダムMk-II》及びカミーユ・ビダンの
引き渡し要求に応じなければ彼の母親を殺すと言っている。」
ラミアスがそう確認すると
《アークエンジェル》のブリッジの空気が途端に重くなり
事態の深刻さを感じ取る事が容易に出来た。

 

「なんて事を……」
ノイマンがそう呟くとナタルが一歩前へ出て
モニター越しのブライトへ問いかける。
「ノア大佐。奴らの要求を呑まれるのですか?」
「ブラフの可能性もあるが
あまりゆっくりと考えている事も難しそうだ。」
変わらぬ重い表情でブライトが言うと、
ラミアスやナタルは顔を見合わせると《アーガマ》と
《アークエンジェル》のブリッジには少しの沈黙が流れる。

 

「…こうなったら周辺のモビルスーツを撃破して
奴らへの回答にすべきだな…。」
沈黙を破ったブレックスは苦渋の色を浮かべて口を開けると
ブライトやレコア達ブリッジクルーは
驚いた表情でブレックスの方へ顔を向ける。

 

「准将、それは軽率です!」
クワトロが珍しくブレックスへ噛み付くような素振りで言うと
ブリッジに戻っていたトーレスから通信が入る。
「正体不明のカプセルをキャッチ!」
「カプセル?…なんだ?映像を回せ。」
トーレスへブライトがそう指示をすると
ブリッジからの映像が応接室のモニターへ映った。

 

 

《アーガマ》の前方にゆっくりと流れて来たカプセルに
ジェリドが気付くとジャマイカンから
渡された命令書を開いて目を通す。
「カプセルというのはあれか…
カプセルを敵が奪う気配を見せたら、カプセルを撃破しろ?
…戦艦を沈めるほどの爆弾なのか…?」
ジェリドが一人コックピットで言うと
「了解だジャマイカンさん」
とさらに言って操縦桿を動かし
マシンガンを手にして準備をする。

 

 

ブライトはブリッジの扉開けて入るなり
「カメラを射出しろ!」
と指示すると、《アーガマ》のブリッジ横から
カメラが勢い良く射出すると
カメラに繋がれたワイヤーが延び、
カプセルに向かって直進して行くと
そのカメラの映像が鮮明に映し出された。

 

ブレックス達もブリッジに到着すると同時に
モニターに大きく映った映像を目にする。

 

「…!?カプセルの中に!?」
ブリッジに通されたエマが
カプセルの中に見える何かを確認すると
ブライトが「人間…!?…まさか!!」と言って
中に見えるものが人間に見えたのが
エマ自身だけではない事を理解した。

 

「わかったろう、エマ中尉?
あれがティターンズという組織なのだよ」
「…嘘です!ホロスコープです!
あれはただの映像です!!」
ブレックスがそら見ろ。と言わんばかりの口振りで
エマへ言うと、いよいよあり得ない状況に
頭が混乱して反論するが
往生際の悪いエマにとどめの一言をブレックスは言う。
「バスクはそんな面倒をしない男だ。」
それを聞いたエマはグッと息を飲み込み俯いてしまった。

 

ブリッジの人間達はカプセルの中身がおそらくは
カミーユの母親だろうと思っていた。

 

「あれの中身を確認したいが罠の可能性もある…」
カミーユ本人に確認させる手もあるとも思ったが
それをやっては彼がどうなるか?
奴らの思う壺なのでないか?
などと様々な思考がブライトの脳を駆け巡る。
「ええ…何かおかしい気がします。」
クワトロもブライトの言葉に同調するように考え込んだ。

 
 

《アークエンジェル》もカプセルを確認していた。
ブリッジにいる者たちは
ぞくりと寒気を感じると同時に汗が滲み出ていた。
「中に人がいます…!
あれがカミーユ・ビダンの母上でしょうか?」
ナタルが身を乗り出してラミアスの方へ顔をやる。
「な、何なの…あれは…チャンドラ曹長あの画像を解析して!」
人質をあのような事をしているティターンズに
怒りを感じ始めていたラミアスは語気を強めつつ
リアルな映像ではない事を願い
チャンドラへ指示を送る「は!」と言って
チャンドラがコンソールを操作し始める。

 

《アークエンジェル》のモビルスーツデッキでは
ブリッジから映し出される映像がそのまま流れており
全員が固唾を飲んで見ていた。
「まさかあれがカミーユ・ビダンの母親ってんじゃないだろうな!?」
モビルスーツデッキで待機をしていたムウが
ロベルトに確認すると
「おそらくそうでしょう…人のやる事ではない…!」
大きく頷きながら、怒りにも似た表情で吐き捨てた。

 

食堂のモニターから外の様子を見ていた
キラ達や避難達はその映像を見て静まり返っていた。
「な…なんだよ…あれ…」
「あれ…人よね?」
トールとミリアリアが声を震わせて小さく言うと
やはりあれは人なのだとその場にいる全員が認識していた。

 

「女の人…だよな?」
「なんであんな所に…」
サイやキラもこの光景に妙な感覚を覚えていた。
なんの為にこんな所に人がいるのか理解出来ない彼らは
ただただその行く末を見届ける他なかったーーー。

 
 

カミーユはデッキクルーの目を逃れ
《Mk-II》に乗り込むとコックピットハッチを閉じ
全天周囲モニターが作動して360度の映像が映った。

 

「《ガンダムMk-II》3号機出します!
邪魔はしないでくれ!オレはお袋を助けに行くんだ!」
カミーユがそう言うと、
《Mk-II》の右側にある壁に備え付けられたウェポンラックから
ビームライフルを右の手に取る。
周りにいたクルー達は慌てて
《Mk-II》から離れて行くのを
カミーユはモニターから確認していた。

 

モビルスーツデッキからの連絡を受けた
ブリッジオペレーターのキースロン少尉が叫ぶ。
「《Mk-II》3号機が動いた!?
カミーユがやってんの!?なんでだ!!」
それを聞いていたブライト達が慌てた様子で叫ぶ。
「なんだと!?」

 

声を荒げているブライトの横で
エマは「あの子が…?」とぼつりと言うと
誰に言うようでも無く
「…カプセルに入ってる人の事…
分かっているんだわ…」と一人呟く。

 

それを聞いていたヘンケンが
CIC席のマイクを手に取って「誰かやめさせろ!」
と焦る気持ちを抑えずに大きな声を上げているが
エゥーゴ仕様とも言える白く塗り直された
《ガンダムMk-II》はカタパルトを使わずに
スラスターを噴かせながら既に発進していた。

 

「なんであんなところにお袋がいるんだ…!」
全速力で突き進む《Mk-II》は目の前で鉢合わせた
《ハイザック》を気にする様子もなくカプセルに
向かって猛進して行ったーーー。

 

 

《アレキサンドリア》と合流した《ボスニア》の
チャン・ヤーはまた面倒を被ると内心苛立っていた。

 

「出撃命令だと?」
コックピットで待機するライラ大尉の言葉は予想通りの反応だ。
と思っていたチャン・ヤー少佐は、口元の髭を摩りながら
「ああ、ジャマイカン少佐からの命令だ。」
と苛立ちを隠すように目を閉じてライラの質問に答えた。
だがこう答えただけでこの女が納得する筈が無い。

 

「人質を使ってまでの作戦に参加しろというのか?」
「……命令は命令だ。私も気に食わんが仕方なかろう。」
また予想通りの反応だな。
だが、これ以上の説明が出来んのだから
後は黙って出撃して貰わんと困ると考え。
「とにかく、ライラ大尉は出撃だ。」
と言葉を重ねて通信を切った。

 

ティターンズは自ら交渉を反故にするつもりか?
ならばエマ・シーンとかいうのはどうなる…
相手を油断させる為だけのエサに使われたのか?
ジャマイカンの作戦…気に入らないな。
だが…奴かどうかを確かめるチャンスでもあるか…
そう考えていたライラの体は妙に熱を帯びていた。

 

 

「来た…!カプセルを奪おうってんだな!?」
ジェリドは目の前を通り過ぎた《Mk-II》に
武器の照準をロックオンするとマシンガンを放つ。
これを《Mk-II》が躱すとジェリドは軽く舌打ちを
しながら再び照準を合わせようとする。

 

カプセルの目の前まで到着したカミーユ。
既にカプセルの中がモニターから肉眼できる状態だった。
彼が目にしたもの
それは紛れもなく彼の母親だった。

 

ヒルダは怯えた様子で
何かを伝えようと体を何度も大きく動かしていた。
なぜ?なんでここに?カミーユの頭の中は真っ白だった。
パイロットスーツの下に着ているインナーシャツや
下着が汗でぐっしょりとなっている気持ちの悪い
不快感を感じながら混乱する頭を整理出来ずにいた。

 

「いつもそうだ…いつもそうだ…いつもそうやって…!
あなたは何やってんです!そんなところで!」
カミーユはそう叫び
操縦桿を軽く動かしてカプセルを覆うように
両手のマニュピレーターが
カプセルに触れようとしていたその刹那。

 

「爆弾もろとも消えて無くなれよ《Mk-II》!」
ジェリドはグリップのボタンを親指でグッと押すと
両手で構えたままのマシンガンが火を吹くように
カプセル目掛けて銃弾の雨が飛んで行くーーー。

 

銃弾の雨はマニュピレーターとカプセルに
ぶつかり火花が広がったその瞬間、
カプセルが割れて中にいたヒルダの体は
マシンガンの銃弾によりただの肉片と化す。

《Mk-II》の右手マニュピレーターには大量の血が
打ち付けられるようにこびり付き、
その瞬間を目の当たりにした《アーガマ》や
《アークエンジェル》のクルー達、
そしてキラ達や避難民達もその恐ろしい光景を見ていた。
ヒルダの無残な血肉が無重力空間に
放り出された時には彼らは思わず目を伏せた。

酷い…
こんな簡単に人の命が奪われていいものなのか…
あんな死に方は人の死に方じゃない…
こんな時代は早く終わらせるべきなんだ…
キラは唇を血が流れてきそうなほどに
強く噛み歯を食い込ませていた。

ーーーーー

ザフトの《ヴェサリウス》と《ガモフ》は
隕石に隠れながら
エゥーゴとティターンズのその一連の様子を見ていた。
「た、隊長…!あれは…」
アデス艦長は状況を飲み込めずといった感じだったが
クルーゼは何もかも分かっているかのような様子で
「諸君、あれがティターンズというものさ…」
そう言い放つクルーゼの体内を流れる赤い血は
滾(たぎ)るほどの高揚感に満ち足りていた。

面白い…実に面白いものを見せてくれる…
これこそが私の望むものだ…
憎悪の念が広がる宇宙は
クルーゼの心を満たしていたーーー。

 
 
 

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