Top > 第12話〜戦士の才能〜
HTML convert time to 0.011 sec.


第12話〜戦士の才能〜

Last-modified: 2011-12-10 (土) 17:08:31

 
 

「これまでも貴様には随分と助けられたが、今回はまた……どれだけ感謝しても足りんな」
「……どうも」
俺はバジルール中尉の皮肉に吐き捨てるように返事した。
ここは、アークエンジェル内の独房らしい。
名目上は、協力的なゲリラと争ったためだが、実際はゲリラと引き離して、俺の安全をはかると共に
情報を聞き出すのが目的だ。
「で、アイツはどうしてます?」
「怪我は無い。その後は普通にしてるよ」
「普通ね……」
「まったく、馬鹿なお姫様だな」
「ねえ、中尉。お願いがあるんですが、聞かなかった事にしてくれません?」
「無理だな」
即答ですか。まあ当たり前だな。
「ヤマト少尉、貴様は優秀な軍人だ。子供とは思えんほどのな。だったら分かるだろ?」
オーブの姫がアフリカで反ザフトのゲリラに参加している。ショッキングなニュースだよな。
これで中立なんて、誰が信じる? 
ヘリオポリスでのMS開発の件だけでも厄介なのに、今回の事がザフトに知られたら、
宣戦布告無しに攻撃されたと言われても無理は無い。
連合にとっては、高い技術力と資金を持ったオーブを自陣営に引きずり込むチャンスだ。
「生憎と政治には疎くて」
「なんだ。分かってるではないか」
「皮肉ですよ。でも中尉は軍人でしょ? だったら政治のことは…」
「軍人だからこそ、戦場で起こったことを全て報告する義務がある」
「なるほどね」
参ったな。俺のミスだ。俺がカッとなって、奴の名前を言ったから……
だが、本当にばれてないのか? あの人に。
「まあ、これで貴様がザフトのパイロットと話していた件は不問だ。報告どおり、バクゥを無傷で
 手に入れたかったからだと認めよう」
「だから感謝しろと?」
俺がバクゥを手に入れるためにバクゥのパイロットを逃がした時、ゲリラの中に見ていた奴がいた。
まあ、当たり前だ。逃げるパイロットを狙撃した奴がいたんだから。
そして、そいつがアスハとケンカした事に腹を立て、その事を言いやがった。
何が勝利の女神だ! バカが! 
「そう怒るな。本当に貴様には感謝してる」
「だったら、黙っててくれても良いんじゃありませんか?」
無理を承知で頼んでみる。何だかんだで愛着のあるオーブを不利な立場にしたくない。
「さっきも言ったが……それは出来ん。許せ」
そんな辛そうな顔されてもさ……もう、怒る気力もなくなる。
分かってるさ。連合にとっては貴重な情報だ。それを伝えるのは軍人として正しい。
そして、ナタル・バジルールは正しい軍人だ……笑ってしまうほどに。
「代わりに私に出来る事なら何でもしよう」
おいおい、んなこと言ってると肉体要求するぞ。
まあ、そんなスマートじゃ無い事はしないけどさ。
「中尉も不器用ですね」
「……何がだ?」
「中尉が、もっと狡猾なら、ここは了解してみせて俺に感謝されるように振舞います」
中尉は心外だという表情をする。駄目だ。この人、真面目すぎ。つい、苛めたくなる
「そして、俺をのせて戦わせますよ。甘すぎます。そんなんじゃ出世出来ませんよ」
「別に出世したくて軍人になったのでは無い!」
「ご立派。貴方のような方の下で戦えて幸いであります」
「貴様……皮肉か?」
「正解です。自分でも分かってるんでしょ? 貴方には人望が無いって。一生懸命やってるのに、
 艦のみんなは何故か艦長を慕ってる。正直、俺もラミアス艦長は無能だって思いますよ」
「何もそこまで」
「本当の事です。アークエンジェルは中尉が居なければ、とっくに沈んでいました。でも、誰もそうは
 思わない。逆に、あんな堅物が副官で艦長も大変だと同情されてる」
「余計な世話だ!」
「全くです。だから、俺を慰めようなんてしないで結構ですよ。それとも本当は慰めるふりをして
 俺に慰めて欲しいのか? 何だったら抱いてやろうか?」
「なっ!……」
立ち上がってビンタ……スナップが効いてて素晴らしい……しまった。からかいすぎた。本気で痛い。
それにしても顔を真っ赤にして、この反応は処女か?
「ス、スマン……だが、貴様の方も上官に対して…」
感情的になって手が出たことを謝る。冷徹な軍人であろうとする中尉には、感情で動いた自分は
屈辱だろう。本当に不器用すぎる。
「失礼します」
ちょうど、良いタイミングで部屋をノックして入ってくるフレイ。正直、助かった。
「どうした?」
「はい。先程は申し訳ありませんでした」
何を謝ってる? 訓練で気絶した事か。無意識に俺を殺すと言ったことを憶えてるのか。それとも、
さっきの戦闘に参加出来なかったことか? まあ、どれでも良い。
「気にしなくて良い。要件はそれだけか?」
「いえ。この後どうすれば…」
「走ってろ」
「……了解です!」
そう言い残して部屋を出る。こいつも健気だな。
「厳しいな……あの娘は使えるのか?」
話を変えられるネタに飛びついたのか、それとも前々から気になっていたのかは不明だが、中尉が
聞いてくる。
「まだ、何とも言えませんよ。ただ、少なくとも、やる気だけはあります」
「やる気だけあっても、死ぬだけだ。貴様もだが、彼女、最近は仲間との距離が開いてないか?」
良く見てるな……
「みんな状況は分かってますからね。どう接して良いか分からないだけで、嫌ってるわけじゃありません
 フレイも余裕が無いから、みんなと話す時間が取れないだけです。その内、元に戻りますよ」
「その内とは?」
「……彼女が自分の望みが不可能だと諦めたとき」
「……随分と気が長い話だ」
「まあ、その前に訓練に慣れれば、周りが見えてきますよ」
「まあ、良いさ。私には関係が無い事だ。問題は彼女が戦力として使えるか否かだ。貴様はここを出て
 バクゥの調整をしろ。艦長には私から許可を取る」
「はいはい。ありがたくて涙が出ますね。そんなんだから、その歳で未だに処女な…」
「死ね! 貴様は!」
……痛い…また殴られた。

 
 
 
 
 

第12話〜〜戦士の才能

 
 
 
 
 

 
 
 

そんな訳で、バクゥを調整中……
「フレイ! ここに座って」
「う、うん」
さっきまで走ってたのか、汗臭いが嫌な感じでは無かった。つーか慣れてるし。ただ、彼女は辛そうだ。
無理も無いか、最近までは、少し汗をかけばシャワーを浴びれる身分だったんだし。
「今から操縦方法を教える。安心しろ。スカイグラスパーより簡単なくらいだ」
そう言って、フレイに説明を始める。
「分かった。やってみる」
コクピットに直結させたシミュレーターを開始する……ふむ。なかなか飲み込みは早い。
まあ、大西洋連邦の事務次官の娘でありながら、オーブのヘリオポリスのカレッジに通うくらいだから
頭が良いのは当然か。
「まあ、今までのは基本だな。そして、これからがMSとしての本領だ」
今までは戦車形態で動かさせていたが、今度は足を伸ばして起動させる。
「え!……ちょっと…」
「真横に動ける。これがバクゥと戦車の違いだ。
 開戦当初は連合は砲撃力の高いザウートを警戒してたが
 本当に厄介なのは、このバクゥだったんだ。理由は分かるか?」
「動きが早すぎる……こんなのに当てるなんて…」
「そうだ。逆に、コイツに乗るには早い動きが要求される。そうしないと良い的になるぞ」
「わ、分かった……使いこなしてみせる」
そう言ってシミュレーターに集中する……本当に集中している。
先程まで汗で不快がってたのが嘘のようだ。
力を、復讐の道具を手に入れたことが嬉しいんだろう。
「なあ、何やってんだ!?」
そんな中、気配を読めない能天気な声……馬鹿が来やがった。
「それ、私にもやらせてくれないか?」
俺は冷たい眼で、そう言ってくるアスハを睨んだ。
「悪いが、これはオモチャじゃ無い」
「そう怒るなよ……さっきは…悪かったな。殴るつもりはなかった」
「は?」
「…訳でもないが…あれは……はずみと言うか……まあ許せ」
「あのな……」
「ずっと気になっていた。あの後…お前はどうしただろうと」
「あの後?」
何の事かと悩んだが、すぐに思い出した。
「ヘリオポリスでの事か?」
「ああ。私だけシェルターに入ったからな……なのに、こんなものに乗って現れようとはな」
「ふん。アンタの家が作ったMSをこんな物呼ばわりか?」
「私は知らなかったんだ! それで……」
「調べるために、ヘリオポリスへ?」
「ああ……」
「まあ、良いさ。それより悪かったな。あんたの名前を言ってしまった。謝ったって許される事じゃ
 無いけどな」
「ああ。気にするな。それより、良く私を知ってたな」
…………………………………………………おい?
「ん? どうした?」
「いや、あのな、許してくれたのは嬉しいんだが……不味いだろ?」
「へ?…………ああ! 心配するな。サイーブは私の正体を知ってるぞ。それに敵対してたザフトなら
 兎も角、連合だったら、そうは心配ないだろ」
サイーブ? ああ、ゲリラのリーダーか…………じゃ無く、やっぱりバカだ。
ま、まあ気が良い奴だってのは認めよう。うん。懐も深いよ。でもな……
「ん? どうした? 溜息なんか吐いて。幸せが逃げるぞ」
………アンタにだけは言われたくない。
いき遅れの上に毎年失業率を増やしてる国の首長なんかにな。
分かってんのかな……いや、分かんないからこそ、未来のオーブは、あんな惨状なんだが……
現実を見ない理想主義者の上に、この気の良さ。
人間としては兎も角、国のトップとしては最低だ。
「あのな……」
少し説教してやろうと……オッサン言うな!……思ったその時。
「空が燃えてる?」
アスハが外を見ながら呆然と呟く。
「どうした?……何処だ!?」
「タッシルの方向だ!」
「タッシル?」
「サイーブのところに行く!」
そう言いながら、駆け出すアスハを、俺は呆然と見送った。
タッシルとはゲリラの街か?…………それにしてもアスハめ。
どうしようもなくバカでお人よしだな!

 
 
 
 
 
 

 
 
 

「キラ・ヤマト、ストライク、発進する!」
予想どおり、タッシルとはゲリラの街で、副司令に攻撃されたようだ。
それにしても攻撃前に街の住人に避難を呼びかけたのといい、その後の撤退の遅さといい……
「試されてるって、何で気付かない!」
あの人は、投降してほしいんだ。
でもゲリラは聞き入れなくて……俺にもゲリラの言い分は分かる。
だけど、それで結局は自分だけでなく、周りの人を道連れに死ぬって何で分からない。
「俺だって……」
俺だって、不満はある。デュランダル議長を尊敬してる。
「でも、俺が……」
俺が逆らったら、現政権に反感を持つ多くの人間が期待するだろう。
俺はキラ・ヤマトを倒した人間だ。
俺が立てば、反乱勢力は1つになれるって誘われたことも1度や2度じゃ無い。
「でも、そうしたら、苦しむのは、」
俺が立ったら、テロじゃ無く戦争になる。そうしたら苦しむのは力の無い人間だ。
「もう・・・・・・嫌なんだよ!」
力が無い人間が泣くのを見るのは。
「・・・・・・あれか?」
目の前の光景が、俺を今に、現実に引き戻す。
すでに戦闘が…いや、一方的な殺戮が開始されていた。
「もう、やめろぉぉぉ!」
俺はビームライフルを放ち、敵に備える。バクゥは3機。これなら……
「あの動き?」
楽に倒せると思ったのは一瞬。3機のバクゥが陣形を組む。
「フォーメーションデルタ!?」
副司令の考案した陣形。
この前のアスランたちが使っていたフォーメーションほどは洗練されていないが、
不慣れな砂漠戦に加え、敵は砂漠での戦闘を得意にする猛者。結構厳しい……
「……でも少佐の援護は期待できない」
フラガ少佐はタッシルに向かって、今頃は処理に追われてるはず。
「やるしか……なに!?」
バクゥが砲撃された? 何処から?……あれは?
「フレイ! 無茶だ!」
勝手に飛び出したのか? フレイの乗るバクゥが戦場に現れた。
まだ戦場に出るには早すぎる。
「フレイ! 戻れ!」
「……嫌よ。アイツ等を見逃したりしない」
バカが! 見逃すって何様のつもりだ!
戦場では女だからって、素人だからって、そんな甘えが通じる場所じゃ無いってのに…
「死ね!」
フレイのバクゥがレールガンを放つ。
ザフトのバクゥも味方の機体のバクゥに攻撃され最初は
戸惑っていたが、すでに鹵獲されたことを知っているため、状況を察している。
「そんなんじゃ当たるはず…」
案の定、回避され、逆に反撃を喰らう。
一瞬、ヒヤリとしたが、上手く回避した。だが、何時までも…
「させるか!」
フレイに攻撃させまいと、俺も攻撃に移り、敵の気を引き付ける。
強引に躍り出て、敵の真ん中に突っ込む。さあ、これで攻撃しやすいだろ!
1機にライフルの照準を合わせた時、右から攻撃してくる機体…
「こいつ…動きが良い!」
咄嗟にビームライフルを放ったが、回避された上に反撃のレールガンを喰らった。
「……まさか……それに乗ってるのか?」
間違い無い。他の2機に比べレベルが違う動き……
「虎ぁぁぁあぁ!」
集中し、精神を覚醒させる。そうしないとヤバイ相手だ。
奴のバクゥにライフルを撃った瞬間、違うバクゥが横から来る。だが…
「遅い!」
シールドを投げつけ、怯ませた瞬間、ビームライフルで止めを刺す。
「これで………もう1機は!?」
迂闊だった。副司令に気を取られすぎた。もう1機を見失うなんて……
「フレイ!」
フレイのバクゥに向かう、もう1機のバクゥ。俺はそいつの後を追うが……
「そんな……後期型!?」
その1機の頭部の先端から左右に伸びる光……ビームサーベルだ。
もう配備されていた。
そうか、考えてみれば副司令がキラさんと戦ったのはラゴゥだったんだ。
だったら、バクゥの後期型が配備されていても不思議では無い。
「……間に合わない!」
追いつかない。砂漠じゃバクゥの方が早い。
そしてフレイの機体と接触すればビームサーベルで……
爪の攻撃だったら、そう簡単にはやられないが……
「きゃぁぁぁああぁ!!!」
通信機から響くフレイの悲鳴……
「嘘だろ?」
なあ、戦士に…パイロットに向いてる奴ってどんな人間だと思う?
結構聞くのが勇敢な奴だ。何故なら戦場で怯えないからだってさ。
でも俺の意見は反対。臆病な方が良い。戦場に慣れない内は勇敢な奴は無謀と同じ。
自らの力を弁えずに死んでいく。
逆に臆病だったら生き延びて、その内、戦場に怯えなくなる。
次に敵を討つのに躊躇しない事。これは当たり前だ。
余程の腕の差が無い限りは、そんな甘いことを言ってたら殺されてしまう。残酷なくらいで丁度良い。
そして、状況判断の的確さ。
これは冷静な判断力があれば良いんだけど、これが難しい。
レイなんか凄かった。全然動じないし。でもさ。
慌ててたって咄嗟に良い判断をする奴が、たまに居るんだ。
「運が悪かったな。バクゥのパイロット!」
俺はフレイのバクゥに体当たりを食らって引っくり返ったバクゥのパイロットに叫ぶ。
そう。臆病なフレイは悲鳴を上げながら逃げ出した。
もっとも安全なバクゥの正面…サーベルの無い鼻先に。
普通は後ろや横、とにかく離れようとするはずだが、それはハズレ。危険だ。
しかし、フレイは一番安全な逃げ場所を咄嗟に見つけだしていた。
そして、鼻先を付き合わせた勢いで両機とも引っくり返ってしまった。
考えてみればフレイは、父親を失った時、先遣隊が全滅して、進退窮まっていたアークエンジェルの
クルーの中で唯一、ラクス・クラインを人質に取るという突破口を探し当てた。
臆病で、残酷で、そして最も正しい選択をする。
「お前は天才だよ。フレイ」
俺は引っくり返ったバクゥの首をビームサーベルで跳ね、次いでコクピットを刺して止めをさした。
「え?……あの…どうなったの?」
「終ったぞ」
副司令の乗ってたバクゥは、すでに撤退している。
「さてと……勝手に飛び出したろ?」
「う!……その……」
「アークエンジェルに戻るぞ。それまでに中尉への言い訳と、処罰の覚悟をしとけよ」
「う!……ど、どうしよ」
敵を目の当たりにして興奮して飛び出したんだろうな。そんで今になって冷静に考え始めた訳だ。
俺は切り落としたバクゥの頭部を片手に帰艦する。
そして、俺の横には考え事をしながらもバクゥを動かしてるフレイ。
俺はその才能に驚きを隠せなかった・・・・・・あれ? そう言えば、フレイって俺を殺す気
満々なんだよな・・・・・・怖っ!

 
 
 
 
 
 

 
 
 

「それでは、フレイ・アルスター二等兵の初陣と無事な帰還を祝って………乾杯!」
「「「乾杯!」」」
艦長の音頭に一斉に乾杯……って、待て待て! 何なんだこの艦は? 本当に軍艦か?
何で、こうなってるんだ? 俺の予定では今頃、中尉の説教を喰らったフレイが独房に入れられる
はずだったんだが?
「それにしてもフレイ。凄いね」
「そんな……結局、敵を倒したのはキラだったし」
「それでも、無事に戻ってこれたんだし」
「そうそう。俺、絶対にフレイ死んだって思ってた」
「あ、あのね……」
「サイなんかずっと泣いてたぜ」
「お、おい!」
「……ご、ごめん……」
何か気まずい雰囲気……フレイ、サイと距離置いてる? 
まあ、復讐に身を投じた以上は仕方無いのかな?
それとも、このまま俺とのフラグが起ったり……は無いか。
「ま、まあ、こうして無事だったんだし!」
「そうだよ! 取り合えず喰おうぜ。これケバブって言うんだって」
「ちょっと、そんな肉の塊……」
「何言ってんだ! お前はパイロットだろ? だったらこれくらい! ほらチリソース」
アスハ……何でお前が……何処にでも湧いてくる奴だな。
つーか、ここは連合の軍艦だぞ。
「いやぁ〜元気になって良かったわ」
「艦長?」
呆然として距離を置いていた俺に艦長が声をかけてくる。
「艦長の仕業ですね」
なるほど。仲間との溝が出来ていたフレイを気遣って、この人が発案したんだろう。
「それがね、じつはナタルが言い出したの」
「は?」
「やっぱり、意外だった? 私も驚いたもん。でも、本当は優しいのよ彼女。今日だってタッシルの街で
 子供に囲まれてたみたいだし」
「そうなんですか……」
あまりにも意外な答えに、俺は呆然としてしまった。

 
 
 
 
 

「何だかな……」
パーティ会場を抜け出し、俺は風に当たってた。
砂漠は日が落ちると急激に冷え込んで寒い。
それにしても、発案者がバジルール中尉だったのは意外だった。
何でも、艦長はヘリオポリス組の関係が変だとは気付いていても、どうすれば良いか分からなかったらしい。
そんな時に中尉がパーティを開こうと進言したそうだ。
アスハのお陰で補給物資の目処が立った事もあり、一度ストレスを発散させたが良いとの判断だった。
「生意気な……」
お堅い、いい歳をした処女の分際で、そんな気配りをするなんて……どうせ、俺は気が回らない上官って
言われてたよ。
なんか置いて行かれた気分だ。余計なこと言わなきゃ良かった。
「寒っ……」
風が冷えてきて、益々寒くなってきた。
だが、寒いのは風の所為だけでは無いだろう。
「やっぱり場違いだよな……俺ってさ」
俺が会場を抜け出した…いや、逃げ出した理由。
それは俺が本物のキラ・ヤマトでは無いってこと。
ヘリオポリスのみんなが笑い合ってると、何となく疎外感を感じた。
フレイの笑顔は随分と久しぶりに見た気がする。
そう簡単には、彼女の闇は消えないだろうが、それでも笑えるようになったのは良い事だ。
「このままだと彼女にも置いていかれるか?」
俺達の共通点は決して適わぬ望みを抱いてしまったこと。
俺は戦争の無い世界。フレイはコーディネイターの皆殺し。
今なら分かるが、これは不可能だった。
戦争なんて人が居る限りはなくならない。
そして、コーディネイターもそう。
現状でも核を使ってプラントを全て潰したところで、地球にはオーブだけでなく、大勢のコーディネイターが潜んでいる。
もし、そいつらが報復にテロ活動をしたら、絶対に止められない。
それに最大の問題はコーディネイターが作られた存在だってこと。
国際法では、とっくに作っちゃいけないって事になってるのに、キラさんは産まれた。
現在の議長シーゲル・クラインも禁止されてから産まれているんだ。
「人の欲望には限りが無いんだよ」
そんなコーディネイターを絶滅させるには、人の欲望を向き合わなければならない。
フレイが、この問題にどう向き合うか興味があったが、彼女は向き合う前に諦めて平穏な道を選ぶかも
しれなかった。何となくそんな気がする。
そうなれば、彼女は俺と同類では無くなる。未だに夢を捨てきれない俺は、また置いていかれるんだ。
「……なんか、今の俺って渋くない?」
そんなシリアスな自分に酔ってた時、背後から足音が近付いてくる。
何だ? このルート決定のようなシチュエーションは? もうヒロイン確定なのか?
誰が来る? フレイか? 中尉か? それとも意外にも艦長か? 正直アスハは勘弁なんだが……

 
 
 
 

「ようボウズ。こんなところで…」
「失せろ! 消えちまえよ!」
何でここでフラガ少佐が来る? 絶対におかしいだろ!
「待てよ! 何なんだ! その言い草は!」
「今はそれどころじゃないんですよ!」
何でだ 待てよ……何処で選択を、間違った? 
このままじゃ『エンディングNo.13 アニキと俺』になるぞ!
それは避けたい……落ち着け。何とか回避手段を……
「なあ、葛藤してるところ悪いんだが……」
「なんすか!?」
「き、機嫌が悪いな……」
当たり前だ! もうアンタには心を開かない! 間違ってもアンタのルートに入るわけには行かない。
そうだ。忘れるなよ俺! コイツはステラを………………ステラ?
「そうだ……」
「ん?」
今ならステラ生きてるじゃん! 何で忘れてた? 
今は何処に居るんだ? そうかロドニアだ。あそこのラボで……早く助けなきゃ!
俺はフラガを見る。コイツに協力をしてもらって……
「ロドニアに行きましょう!」
考えてみれば、俺と会った時のステラは俺と同じ歳か一つ下くらい……って事は、今は13か14歳。
………じゃあ……発育中? あの約束されたナイスバディが、現在まさに成長中…………今なら未熟な
体型と、後日のナイスバディを楽しめるお得キャンペーン期間!…………絶対に行かなくては!
「なあ、ロドニアって何処だよ?」
「ユーラシアですよ! ダーダネルス海峡付近の…」
「無茶言うな! それって地中海の北じゃねえか! ジブラルタルもスエズもザフト領なんだよ!」
「そこを何とか!」
「無理なもんは無理! だいたいユーラシアってアルテミスでのことを忘れたのか? そもそも今後の
 行動予定は決まった。このまま紅海に抜けて太平洋を横断する」
「そんな……すぐ側まで来てるのに……」
発育中のステラが……でも、俺が1人でロドニアのラボに突っ込んでも、あそこは強化人間の巣らしいし
確実に死ねる場所だ……ゴメンよ。ステラ……でも必ず助けに行くから……
「発育中ぅぅぅ!!!」
「わけ分かんねえよ!」

 
 
 
 

 
 

「アサギ機、戦闘不能。全滅です」
あ〜疲れた疲れた♪ 3機を同時に相手なんて大変だったなぁ〜♪
「何やってんのよ。貴女たち、それでもオーブのパイロットなの!」
「そ、そう言われましても主任」
「相手は子供なのよ!」
「ただの子供じゃありませんよ」
「凄いすぎるよ……これがコーディネイターの能力なの?」
コーディネイターでも色々だけどね。
実際、3人とも悪くは無いよ。僕が強すぎるだけで。
「シンに、このまま正式なパイロットになってもらえば?」
「でも、あの子の機体、シミュレーターじゃGはかからないんでしょ?」
「まあね。だから実戦では使えないんじゃない?」
「それもそっか」
ムカッ!……舐めるなよ。ひよっこ共。
ヤキンで死んだ君たちが、その後も戦い続け、ネオザフトに逆らうテロリスト共から
"歌姫のヒモ"と、恐れられた僕を侮るなんて……お仕置きが必要だね。
「じゃあ、僕の機体にもGをかけますね」
「ちょっと、本気?」
「大丈夫ですよ」
僕に対して、そんな暴言を吐いたことを後悔してもらおうか……さっきまでは手加減してたけど、
久しぶりに屈辱の達磨プレイを♪
「それじゃ、始めます」
ふ〜ん……この身体だと結構Gがきつ………ちょっと!
「にょえぇ〜〜〜〜〜!!!」
「だ、大丈夫?」
何なんだよ? この軟弱な身体は……
「シミュレーター止めて!」
シン……君は、こんな身体をよく鍛えたね……ダメだ……意識が……

 
 
 

続く

 
 
 
 
 

】【戻る】【