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第12話「乾坤一擲」

Last-modified: 2016-04-30 (土) 23:56:20

ガンダムビルドファイターズ side B
第12話:乾坤一擲

 
 

「お!来た来た。」
 予選最終日から一夜明けた朝、選手宿舎の掲示板の前に宇宙と大地がいた、
そこに大きな紙を丸めて持ってくる係員。
そう、決勝トーナメントの組み合わせ発表である。一般にはこの後2時間後に
大々的に発表されるわけだが、選手には先にここでの公開が告知されていた。
掲示板のガラスが空けられ、押しピンで紙が張られる。

 

         Aブロック

 

メイジン・カワグチ  VS リーナ・レナート
ヤン・ウィン     VS サトオカ・ソラ
リカルド・フェリーニ VS グレコ・ローガン
ライナー・チョマー  VS ヨハン・シェクター

 

         Bブロック

 

レイラ・ユルキアイネンVS マイケル・チョウ
ルーカス・ネメシス  VS マツナガ・ケンショウ
アレクセイ・ジョン  VS サザキ・ススム
ルワン・ダラーラ   VS エマ・レヴィントン

 

「げ、2回戦でメイジンかよ。」
「よぉーし!2回戦でメイジン戦だ!」
 宇宙の左と後ろで全く逆のコメントが聞こえる、左は大地だが・・・後ろ?
振り向くと20歳くらいの、少し長めの髪を左右に分けた青年が立っていた。
「あ、えと・・・たしかオランダのヤン選手、おはようございます。」
「ああ、サトオカ君だな、1回戦の相手の。」
不敵に見下ろすヤン、言葉には出さないが『眼中に無い』といった感じだ。
「よろしくお願いします。」
握手の手を差し出す宇宙。ふん、と嘆いた後、握手に応じるヤン。

 
 

「君も日本人だろ、いいねぇ母国アニメは扱いが良くて・・・。」
頭にハテナマークを浮かべて大地に目をやる宇宙、大地も当人を前に説明に困る。
「ま、2回戦にメイジンがいることに感謝しな、君には『優しく』勝ってあげるよ。」
「言ってくれるねぇ、ただ、ひとつ教えておいてやるよ。」
突っかかる大地。宇宙が、よしてよ〜、と止めに入る。
「お前のセリフを日本じゃ『負けフラグ』っていうんだぜ。」
「・・・っ!」
あーもう!と言いながら大地を押しのける宇宙。
「あ、兄がすいません。僕はあくまで予選最下位ですから、目の前の相手を
 おろそかにするつもりはありません。」
宇宙が下手に出たおかげで、少しはヤンのテンションも下がったようだ。
「だから、優しくなんていわずに、本気でお願いします。」
意外な言葉をかけられて、ヤンがほくそ笑む。
「ま、気が向いたらな。」
そう言って背中を向け、自室に戻るヤン。

 

入れ違いにエマが掲示板の前にやってくる。
「おはよう、ソラ君。」
「おはようございます。」
大地が二人を見て、周囲を見渡し一言。
「しっかし、見に来たの3選手だけかよ、みんな組み合わせはどーでもいいのか?」
エマがはぁ、とため息をつく。
「何言ってるの、みんな必至でガンプラの補修やってるわよ。あのロワイヤルで
 ガンプラが無事だったの、たった5人なんだから、誰かさんのせいでね。」
言うまでも無く張本人はチョマー、宇宙、そしてエマ本人だ。
 試合は明日からで、今日は休養日。しかしメインガンプラを破損した者は
本番までに修復させなければならない、組み合わせを見る余裕すら無い選手もいるだろう。
「そういや兄さん、チョマーさんとは会った?」
「いや、お前の敵でいるうちは会わないよ。馴れ合うのは良くないしな。
 どっちかが負けたら挨拶にいくよ。」
「じゃ、ソラ君、決勝で待ってるわね。」
そう言ってきびすを返すエマ。その背中を見送って、無茶言うなぁ、と呟く宇宙。

 
 

昼過ぎにヤジマスタジアム前、そしてネットでも組み合わせが発表される。
「いきなりメイジンキター!」
「おいおいAブロック第三試合、昨年の決勝の再現かよ!」
「ルーカスとマツナガ、確か高校時代に戦ってたな。」
「メイジンとフェリーニが潰しあえば、ルワン2度目の世界制覇あるぞ!」
掲示板の前で、ネットで、様々な予想、感想が飛び交う。
しかしやはり話題は有名選手中心で、宇宙やエマなど話題にならない選手もいる。

 

 そんな選手の一人が、宿舎近くの喫茶店で二人の男と会っていた。
「よくぞメイジン戦を引き当ててくれたな、リーナ!」
少女リーナの向かいに座っているのは、かつてメイジンを最も追い込んだと言われる
レナート兄弟、リーナの父フリオと叔父の兄マリオ。
「10年越しの雪辱の時が来た、というわけだ。そこでだ、リーナ。」
言ってトランクをテーブルの上に置く。
「こいつを使え!お前なら必ず使いこなせるハズだ。」
言ってトランクのケースを開けにかかるマリオ。

 

「・・・いらない。」
首を振る少女、マリオの手が止まる。
「何言ってるんだリーナ、せっかく兄貴が作ってきたんだぞ、この日のために。」
「若いなぁ、叔父さんの力添えで勝つのはイヤか?」
もう一度首を振るリーナ。
「ねぇ叔父さん、お父さん。ふたりが10年前、メイジンに負けたのはどうしてだと思う?」
「リーナ!」
生意気を言うな、という勢いで凄むフリオ。しかしリーナは怯まずに続ける。
「私、あの試合の録画、何度も見たわ。それで分かったの、あの試合にどうして負けたか。」
「・・・興味深いな、言ってみろ。」
マリオがトランクを下ろして問う。フリオはやれやれ、と手を広げる。
「ねぇ叔父さん。あの試合、どうして最初の狙撃で決められなかったの?」
「「なっ!!」」
絶句する兄弟。
「最初のハウンドの狙撃は、完全にメイジンの意識の外からの狙撃だった。もしあれで
 致命傷が与えられてたら、父さんたちは勝ってたわ。でも実際はコンテナを撃ち落しただけで
 最後にはそれを拾われて負けた。」
「無茶を言うなリーナ、高速で動くあのケンプファーに横から当てただけでも神業なんだぞ!」
娘に本気で手を上げる寸前まで怒るフリオ。
「違うわ!外したのは他にも策を重ねてたから。」
娘の言葉の意味がわからず、しばし固まる兄弟。
「叔父さんあの時こう思わなかった?『もし外してもタイムストップ作戦がある、EXAMもある』って。
 その考えがあの狙撃の精度を下げたの、だから外したのよ。」
「・・・!!」
 ぐぅの根も出ない兄弟、娘の意見を否定する余地が無い。
「だから私は、私のたったひとつの戦法でいくわ、もしそれがメイジンに見破られたら
 私はボロ負けしても構わない。」

 
 

「この国のことわざで『乾坤一擲(けんこんいってき)』ということわざがある。」
しばしの沈黙の後、マリオが問う。知らない、と返すリーナ。
「この一勝負、この一撃に全てをかける、という意味だ・・・見せてもらうぞ、お前の『乾坤一擲』を。」
「うんっ!」
ようやく笑うリーナ。フリオは呆れ顔で一言。
「親たちの秘密兵器を袖にするかよ、アムロ・レイかお前は。」

 
 

「いよいよ決勝トーナメント1回戦!Aブロック第一試合を開始します!」
明けて8月11日、いよいよ決勝トーナメント開始である、今日はAブロックの
4試合が消化される。
大方の注目は第3試合のフェリーニVSグレコ、そしてこの緒戦のメイジンの勝ちっぷりに
集まっていた。
「それではっ!メイジン・カワグチVSリーナ・レナート。はじめて下さいっ!」
ガンプラをセットする両者、メイジンのレッドウォーリアは完璧に修復されている、
一方のリーナはリーオーをベースに、下半身にドムのパーツを多数加えた複合機だ。
「メイジン・カワグチ、ガンダムレッドウォーリア、出る!」
「リーナ・レナート、リーディングリーオー、行きます!」
発進する両者、ステージは10年前と同じ市街地、ただし夕暮れの背景だ。
目視できる間合いまで接近する両者、動きを止めるメイジンに対し、
正面を見据えたままホバーで横移動するリーオー。
「見せてもらおうか、あのレナートの遺伝子の強さを。」

 

メイジンがライフルを抜くより早く、リーナがマシンガンを乱射する。
移動しながらなので精度は悪く、あくまで威嚇にすぎないが、間に立つビルが断続的に身を隠し
狙いをつけにくくしている。
「ふん、何か狙ってのことか、なら虎穴に入るのみ!」
問答無用で高々とジャンプするレッドウォーリア、空中からリーオーに向けて突進!
リーオーもマシンガンで応戦、とその瞬間レッドウォーリアはまるで
野球のフォークボールのように下に落下、一瞬で地面に取り付くとライフル1撃。
寸分たがわずリーオーのマシンガンを撃ち抜いた。
ギャラリーから様々な感想が上がる。
「すげぇ、あれだけ急降下した瞬簡に撃って当てるのか!」
「仕留められたんじゃね?遊んでるなメイジン。」

 
 

 間髪いれず突進するレッドウォーリア、リーオーは横っ飛びに距離を開けようとするが
メイジンも道路一つ挟んで追撃、ライフルを仕舞いサーベルを抜くと
加速して先回りし、間にあった小さ目のビルを根元から切り裂き、そのビルを押して
リーオーに突撃する。
「ひっ!」
あまりの展開に仰天するリーナ、ビルを挟んである程度安心と思ってたら、そのビルごと
突進してきたのだから無理も無い。よけるか?それとも受け止めるか?
リーオーは前者を選んだ。ナナメ後ろにホバリングして距離を取る。
次の瞬間、ビルからレッドウォーリアのサーベルがミシンのような勢いで生えてきた。
受け止めていたら蜂の巣だった所だ。

 

「接近戦が望み、というわけでも無さそうだな。」
サーベルを仕舞い、再びライフルを構えるメイジン。
リーオーは既にドム用のバスーカを構えている、先手を取って発射されるバスーカ弾。
レッドウォーリアのライフルが1発目のバスーカ弾を正確に射抜く、爆風の中から
2発目の弾が飛んでくる。それはライフルに落とされることなくレッドウォーリアに届いた。
が、爆発はしなかった。なんとレッドウォーリアはライフルを持っていない左手で
バスーカ弾を掴んでいる、信管に触れないように後ろから、まるで缶ジュースを持つように・・・
「すごすぎる・・・なんであんな真似ができるんだ!」
「メイジンならやるさ、バルカンにバルカンを当てて相殺できる男だぜ。」
野球のピッチャーのように振りかぶって、弾を投げ返すメイジン。
山なりの軌道を描いてリーオーに向かう弾、当然リーオーもホバリングでかわす。
が、メイジンはライフルを連続発射し、投げた弾をお手玉のように弾いて無理矢理
リーオーのほうに持っていく。
「なんであれで爆発しないんだよ!」
「無茶苦茶だぁーっ!」

 

 リーオーのすぐ際で爆発するバスーカ弾、ヨロけつつも再びバスーカを向けるが
その砲身にライフルを撃ち込まれ爆発、すんでの所でバスーカを離し致命傷は避ける。
しかし、レッドウォーリアは既にリーオーの移動先に待ち構えていた。
「ふんっ!」
ビームサーベル1閃、リーオーは左手首を切断される。
そのまますれ違い、なんとか距離を取るリーオー。しかしここまでの戦いで
戦力差は歴然であった。
「接近戦でも遠距離戦でも問題にならないな、こりゃイジメだよ。」
「つか普通にリーナも上手いよ、よくここまで持たせてる。相手が異常すぎるんだ!」
「明らかに遊んでね?何度も仕留めるチャンスあっただろうに。」

 
 

 モニターにリーオーを捕えるメイジン、少しいぶかしがった表情で。
(接近戦でもなく、遠距離戦でもなく、常に中間距離を維持してくる。
 やはり何か狙ってのことか?しかし、ここまで罠の類は無いし、仕掛ける隙も
 与えた覚えは無い・・・何を狙っている?リーナ・レナート。)
10年前、リーナの父達のガンプラに散々罠を仕掛けられたメイジン、その娘との対戦に
やや慎重にならざるを得ない、無論ガンプラバトルを楽しんでいる面もあるが。

 

「もう限界だ、使っちまえリーナ・・・」
圧倒的な試合展開に、観客席で嘆く父親のフリオ。
「まだだ、リーナの策は粘れば粘るほど効果が高い!」
「しかし兄貴、あのままじゃ使う前にやられちまうぞ!」
「くっ・・・」

 

 レッドウォーリアが次に選んだ武器は、赤いガンダムハンマーだった。
ビルの上に立ち、鎖を振り回し、鉄球を投げつける。鉄球にはバーニアが付いており
逃げるリーオーを蛇のように追いかける。
円月刀のようなビームサーベル、ヒートシミターを抜きハンマーを斬りつけるリーオー
しかし重量のあるハンマーは斬りつけるくらいでは止まらない、体ごとハジかれる。
それでも体だけは正面を見据え、ホバリングでひたすら中間距離を維持する。
ハンマーに追いまわされ、殴られ、それでも駆け回る。
「もう無理だよ・・・早く楽にしてやれよ。」
「やっぱりメイジンは殿堂から出てくるべきじゃなかったんだ。」
観客が口々にこぼす。無理も無い、すでにリーオーは攻撃すらしていないのだから。
「・・・罠もなし、武器もなし、か。」
メイジンがハンマーを放す。ビームサーベルを抜き、リーオーに向き直る。
「ならばせめて斬り合ってくれよう、最後の抵抗を見せてみろ、リーナ・レナート!」
猛スピードで突進するレッドウォーリア、リーオーもヒートシミターを構える。
誰もがその姿が『蟷螂の斧』に見えた。

 
 

 リーオーに斬りかかるレッドウォーリア、シミターの曲線を利用してそれをいなすが
次の瞬間レッドウォーリアの蹴りがまともにリーオーを捕える。
吹き飛び、ビルに激突して止まる、そこにレッドウォーリアが突進する。
「・・・ここだ!」
「「今だっ!」」
操縦席でリーナが、観客席でレナート兄弟が同時に叫ぶ。
レッドウォーリアが今まさに斬りかからんとした時、リーオーの腰についていた
ドム用の発光ライトが輝き、メイジンの視界を一瞬奪う。
「めくらましか、だが甘いっ!」
ニュータイプのような直感力を瞬時に働かせ、リーオーのいた左側を斬りつけるレッドウォーリア
だが、その一刀に手ごたえは無かった。

 

その瞬間、レッドウォーリアの右肩口に、ヒートシミターが食い込んだ。
背中から袈裟がけにリーオーが斬りつけている。
「なに!?」
「決まれえぇぇぇぇぇぇっ!!」
背中から両足でレッドウォーリアの左足を挟み込み、手首の飛ばされた左手でヒートシミターの
剣先を下に押し下げる。当然その左手がドロドロに溶けていくももおかまいなしに。
「バ、バカな・・・何故・・・」
呆然とするメイジン。動きを封じられ、敵の刃が自分のレッドウォーリアを両断していくのを
ただ見ているしか出来ない。
肩から胸、腰、そして股間へ斬り進んでいくシミター。
そこを抜けた時、メイジンの傑作機レッドウォーリアは初めて2つに分断され・・・
猛烈な勢いで爆発した。

 

 吹き飛ばされ、転がり、ビルに激突して止まるリーオー。さっきまで自分がいたところには
火炎の赤い花が咲いている。

 

 会場の誰もが思っていた。メイジンが負けるわけが無い、と。
バックパックで脱出済みなんじゃないか、今爆発したのはバルーンで出来たダミーじゃないのか、
これから奇跡の逆転劇が起こるんじゃないか、と。

 
 

 ーBATTLE ENDEDー

 

 裁定が下った。誰もが予想しなかった結末に、水を打ったように静まり返る会場。
聞こえるのは、リーナ・レナートの疲労から来る苦しそうな呼吸のみだった。
「や、やった、やったぞフリオ・・・?」
隣に弟はいなかった。階段を下り、娘のところに向かっている。
ステージに上がり、娘に横に来ると、その手を取りそっと差し上げた。
「・・・お父さん。」
「やったなリーナ、お前の勝ちだ。見事だったぞ、お前の乾坤一擲。」
「・・・うん!」
誰かが控えめに拍手を始めた。それがキッカケのように大喝采が起こる会場。
父と娘の大健闘に、誰もが惜しみない賞賛の拍手を送った。

 
 

「ふざけるなあぁぁぁぁぁっ!!!」
選手控え室でヤン・ウィンが机を叩き、吐き捨てる。
その異常な怒りように思わず引く周囲。
「あんな、あんな小娘に、俺の獲物を・・・くそがあぁぁっ!」
ひと呼吸置き、部屋を出て行くヤン。残った選手は、なんだありゃ、と嘆く。

 

 少し後、入れ替わりにメイジンが入ってくる。サングラスでその表情は読めない。
「・・・ふ、ふっふっふっ、ははははははっ!」
突然笑い出すメイジン、再度引く周囲。
「面白い、何故負けたか分からないことが、こんなに面白いとは。
 これからは私も挑戦者になったわけだ、愉快だ、実に愉快だよ。」
サングラスを外し、投げ捨てる。不燃物のゴミ箱に収まるあたりがメイジンらしい。
「久々に思い出したよ。ガンプラバトル、これだから面白いんだ!」

 
 

 大本命、3代目メイジン・カワグチ。決勝トーナメント1回戦、敗退―

 
 

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