Top > 第15話〜〜勝ったのに……
HTML convert time to 0.010 sec.


第15話〜〜勝ったのに……

Last-modified: 2013-04-22 (月) 18:35:12

空中で対峙する僕とアサギさんのM1。他には何も存在しない。
「くっ!……なんなのよ…」
苦悶の声を上げるアサギさん……ふっ、まあ仕方ないよね。すでにジュリさんとマユラさんのM1は達磨になって、地面に這い蹲っているんだから。
これが実戦なら、もう降伏して下さい。これ以上戦うのは無意味です。とか言って、相手のプライドをズタズタにしてやるんだけど、今回は訓練だからそうはいかない。
「いきます」
「―!」
僕の冷たい声の宣言に焦るアサギさん。最後だから、徹底してやらせてもらう。
「つぅっ!」
ビームライフルを撃って、シュライクを傷つける。推力を低下させ地上に降り立つしか道は無い。
「チッ! まだ…え!」
空中の僕を狙おうとしたのに、僕まで地上に降りたので驚いてる……でも、驚くのはこれから!
「舐めたマネを!」
僕に向かって飛んでくるアサギさんの撃ったビーム。でもそれは僕が左手に持ったビームサーベルで、払い飛ばす。
「う…そ……?」
良い声♪ じゃあ止めを♪
右肩、左肩をビームライフルで撃ち抜く。次いで右足、左足……支えを失い落下する胴体。中のパイロットにはなす術も無く……今頃、モニターに映る僕のM1が傾いてるだろう。でも、それも見納め。最後にもう1発撃って頭部を破壊。迫るビームの光はどうだった?
「しゅ…終了です……」
シモンズ主任が呆然としながらシミュレーターの終了を告げる。これでは前回のように叱責する気も起きないようだ。
そして、僕はマユちゃんの元へ……気に入ってくれたかな?
「マユ…」
「お兄ちゃん……ねずみをいたぶる猫みたいでカッコ悪い……サイテー」
……………そ、そんな………僕は………

第15話〜〜勝ったのに……

現在、アークエンジェルはタルパディア工場区跡地に向かっていた。アフリカを突破するには最善の道と言える。だからこそ、あの人は待ち構えているだろう。
俺がストライクのコクピットで待機している時、爆音が聞こえた。始まったって事か。
「地雷原、一瞬で壊滅だそうよ」
バクゥのフレイから通信が入る。まあ彼女も緊張してるんだろ。
「ま、レジスタンスのトラップなんて、そんなもんだろ。で、調子は?」
「身体が軽い……昨日休ませてもらって良かったみたい」
「そうか、良いことだ」
「うん。ありがと」
「……で、声が震えてるが、怖いか?」
「……別に怖くなんか…」
「怖いのは悪い事じゃ無い。俺だって怖いさ」
「そうなの?」
「ああ、戦いを恐れないなんて、ただのバカさ。まして相手は虎だぞ」
「そうね。あの地雷原があるから、こっちに来たんでしょ?」
「それだけじゃ無いけどね……どっちにしろ…」
「お2人さん、仲が良いのは結構だが、そろそろ出撃だ」
出たな邪魔者め。
「了解」
「まあ、最近のお前等なら心配ないとは思うけどな。踏ん張れよ。なにしろ連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんぞはっきり言って当てにならん」
俺が言おうと思ってた台詞……アンタが邪魔した台詞……
「分かってます。少佐も気を付けて下さい。何処から攻撃が来るか分かりませんから」
「はいよ。忠告感謝ってね」
忠告じゃ無く脅しだよ。アンタって人は……ダメだ。苦手意識のせいか勝てる気がしない。
「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!」
「ストライク、スカイグラスパー、バクゥ、発進!」
そして、艦長と中尉の指示が出た。
さあ、ここでは始末させてもらう……虎!
「キラ・ヤマト、ストライク、発進する!」

外ではすでにゲリラとザフト軍との戦闘が開かれ混戦になっていた。
「随分とかき回してるな……」
「戦闘ヘリは気にするな! ボウズと嬢ちゃんはMSを!」
「はい」
「フレイ、バクゥは俺が相手する。君はアークエンジェルと行動しろ!」
「わかった!」
「俺はザウートやジンは相手しない。バッテリーが持たないからな。近付いてきたら君が倒せ!」
「や、やってみせる!」
悪いが今回の戦闘ではフレイの援護はしてやれない。でも彼女ならザウートやジンには負けないはず。
それにアークエンジェルの援護があれば少しは安心できる。
「バクゥは何機出てる?4…5機か!」
思ったより少ない……今までの戦闘で品切れか?
「だったら!」
さっさと片付ける。虎との戦いを邪魔はされたくない。
「遅い!」
バクゥの攻撃を避けながら反撃のビームライフルを撃つ。
自分でも驚くほどスムーズに動ける。
「なんだか……訓練してやってるつもりで、俺が訓練してたか」
フレイとの訓練は俺にも砂漠での動きのコツを掴ませてもらえた。それにザフトよりフレイの方が厄介な動きをする。
「迂闊に近付いて!」
バクゥのビームサーベルに慣れない所為か、接近戦を仕掛けてくる奴まで居る。
「使い方を間違ってるぞ若造!」
そして、最後のバクゥを視界に納める。
「これが最後!」
ビームライフルで撃破し、息を吐く……アークエンジェルは? フレイが想像以上に良くやってる。
近付いてくる敵を根絶やしにしてるようだ……あ! 装甲車踏み潰した……あれって、普通は躊躇するんだけど……
「怖いなぁ…………伏兵? 不味い!」
虎め、戦艦を伏せていたなんて……あれは?……
「フレイ…ついでに少佐……アークエンジェルは頼む」
……俺の前に立ちはだかるラゴゥ。
「君の相手は私だよ、少年」
「アンタを殺す! 虎ァ!」

ラゴゥ相手には半端な距離は不味い。ましてや相手は虎。
「迂闊に近付くと、やられる」
いったん距離を置いて……
「逃がさんよ!」
俺が逃げるとでも思ったか、ビームを撃ちながら、距離を詰めてくる……
「だったら!」
アンチビームシールドの防御に頼って構える。回避はしない。そんな余裕は俺には無いし、向こうにも与えない。
「行くぞ!」
エールのスラスターを全開にし、すぐにライフルからサーベルに持ち替える。
向うが俺の狙いに気付いて、距離を取るより早く……
「捕ったぁぁぁ!」
「チィッ!」
ラゴゥもビームサーベルを展開する。それを牽制に距離を取ろうとするが、そうはいかない。
「逃がすかぁ!」
ビームサーベルの突き……あと少しで顔の正面に直撃だったが、伏せて避けられた。ラゴゥのビームキャノンを破壊したが……
「残念だったな少年! 今度は…!」
……ラゴゥのビームサーベルがストライクの脚を狙ってきた…いや、最初から脚を狙うつもりで、さっきの攻撃を伏せてかわしたんだ。
「させるか!」
だが、俺も突きをさけられた時点で、向うの狙いは察した。下がったら間に合わない。強引にラゴゥの上を転がるように避ける……
「流石だな……少年」
装甲が溶けたがギリギリでセーフ……
「終わりだな。虎」
ラゴゥはさっきの攻防でビームキャノンを失った。対する俺はサーベルを収めてビームライフルを腰から外して構える。
「そう簡単に……いくかな!?」
俺の撃つライフルのビームをかわしながら…いや多少は当たっても強引に接近を狙う……
「……いくさ」
アンタは甘いんだよ。今の構図を、飛び道具が無いアンタを俺が離れて倒そうとしている。だから距離を詰めれば勝機が掴める。そう思ったんだろ?
やはり、アンタの負けだ。

「な、なに…?」
砲弾を潜り抜けて、安心したか? それとも勝ったと思ったか?
「何時の間に…?」
頭部をアーマーシュナイダーで串刺しにされた虎が呆然と呟く。
俺はシールドで隠しながら、こっそりと左手でアーマーシュナイダーを持っていた。
後は直前で邪魔なシールドを外し、下から突き上げる。
「見抜けなかったアンタの負けだ」
ラゴゥからビームサーベルの刃が消える。
「少年…君は……何者なんだ? その若さで、こんな駆け引きを…」
歳のことは言うな。
「今度こそ終わりだな……アンタほどの軍人だ。この状況でも周りは見てるんだろ?」
炎上するレセップス。共に戦った中型戦艦はすでに沈んでいる。
「そうだな……ダコスタ君。 退艦命令を出せ!」
良い判断だ。無理に艦で撤退すればアークエンジェルか少佐のアグニの餌食になる。
「勝敗は決した。残存兵をまとめてバナディーヤに引き揚げ、ジブラルタルと連絡を取れ!」
通信が終った後、しばらくの沈黙が流れる……
「さて、ここで僕を見逃すほど、甘くは無いよな?」
「当然だ。だが、女は降ろしてやれ。ラゴゥは複座式だ。乗ってるんだろ?」
「…………何故このラゴゥが複座型だと知ってるか興味は尽きないが……まあ、良いさ。
 それなら気にするな。そう勧めたんだが、断られたばかりだ」
そうか、さっきの沈黙は同乗する彼女に逃げるよう言ってたんだな……
「彼女も死んだ方がマシなクチか」
「そうらしい」
「分かった……では、アンドリュー・バルトフェルド……死んでもらう!」
「最後まで……足掻かせてもらう!」
武装を失って、なお戦うか……だが、終わりだ……

終った……破壊したラゴゥを見下ろしながら、俺は呆然としていた。
「キラ!」
通信機から声が入る。ノイズの無いハッキリとした声……
「フレイ……」
Nジャマーの干渉を受けないほどに近付いたバクゥからだった。
「敵は撤退したわ。キラにも帰艦命令が出たけど、聞こえなかった?」
「ああ。こうもノイズが酷くちゃね……信号は出たのかな? 見る余裕が無かったけど?」
本当は聞こえていたかも知れないけど、呆然としてたから自信が無い。
「まあ、しょうがないよ。この状況だもん。ところで、それは?……」
「……虎だよ。さっき倒した」
「え!」
フレイにとってはバクゥに似たMSに興味があったんだろうけど、さすがにパイロットが敵の大将とは思わなかっただろう。
「そうか……やっぱりキラは凄いね。あの砂漠の虎を仕留めるなんて」
「そんなこと……」
仕留める? 本当に仕留めたのか? だって、キラさんも……
「チッ!」
俺はラゴゥの操縦席を覆う装甲を剥がし始めた。
「キラ!?」
フレイが驚いた声を出してるが、構ってる余裕は無かった。
キラさんに聞いたことがある。副司令と戦ったとき、絶対に死んだと思っていたと。生還の可能性を考えられないほどの損傷をラゴゥに与えたはずだって……
「まさかな……」
……そして、俺の眼にラゴゥの操縦席が映る。
「そんな……」
俺はコクピットを開けて、ラゴゥの操縦席に移動した。
「もう! キラってば!」
無視された事に腹を立てたフレイも俺の後を追ってくる。だけど、俺は彼女を止める余裕が無かった。
だってその時の俺は、操縦席の中の光景に心を奪われていたから……
バルトフェルドには、まだ息があった。あの爆発の中、確実に死んだと思ったのに……
キラさんの時も、そうだったんだろう。副司令を庇うようにして死んでる人が居る。
この人は守れたんだな。俺と違って、大切な人を、命を懸けて守ったんだ。

「もう! キラ! 聞こえない…え!?」
呆然としていた俺に追いついたフレイが、中の光景を見て声を失う。
「こ、これ……?…」
吐き気を抑える震えた声、今まで無縁だった生々しい人の死がフレイの目に映ったんだ。
本当に吐き出さないだけマシだろう。
「虎の恋人。前、カガリと一緒に会った」
「お、女の人なんだ……」
知らなければ、分からない姿。爆発の衝撃でヘルメットが割れたんだろう。その後襲った炎は、
あの長くて綺麗だった髪を焼いた。
その細身の身体では、屈強な副司令の身体全てを覆えず。彼の左半身は大怪我をしている。
それでも……
「虎の方は、まだ生きてる……」
そう言いながら、俺は銃を抜いた。
元々、俺はそのつもりだった。ここで殺すと決心していた。
この人は、ここで殺すべきだ。この後、この人がやる事を考えて、俺はそう思った。
ここで始末しておけば、ラクス・クラインは武力で起つ事が出来なくなる。彼女の目的は別の方法でやるべきだ。
そもそも、平和の歌姫は戦場に出るべきでは無い。
「アンタには悪いが……」
せめてもの情けだ。そのまま……愛する女に抱きしめられたまま、死なせてやる。
本当は覆いかぶさった彼女を退かした方がやりやすいが、このままでも殺せる。
ちょうど、ヘルメットのバイザーが割れている。そこに銃口を突っ込めば……
「……!」
そして、バイザーに銃口が触れた時、彼女の頭部から何かが落ちてきて、銃に当たった。
「…………何だ?」
俺は、それを拾い上げた。金属部は熱で溶け、表面は炭化している。何か飾りがあったのかもしれない。
彼女は、こうなってまで、守ろうって言うのか?……こんなちっぽけな抵抗で……
「何?……それ?」
「多分……髪留め……凄く髪の毛が長い人だったから……」
「そうなんだ……ねえ、キラ……」
俺は、副司令に覆いかぶさって死んだ女性の肩を掴むと、強引に彼女を引き剥がした……

「何を考えてるのだ! 貴様は!」
バジルール中尉の怒声が耳を打つ……なんか記憶にある光景なんだけど?
「お、落ち着いて……ね。ナタル」
「ですが!」
宥める艦長に反発する中尉。これは何時もの光景だし……
「そうだな。まあ、ボウズのやったことは結果的には敵の大将。しかも砂漠の虎を捕虜にしたんだし」
次いで正論でフォローする少佐。ムカツクけど、これも何時もの光景……
だったら、何だろ? この既視感?……
「私が言いたいのは、そんなことじゃありません! たしかにヤマト少尉は敵の指揮官、アンドリューバルトフェルドを生きたまま捕虜にしました。これは功績です。ですが問題は…」
怒りを溜め込むように息を吸う……
「何故、それを無断で! こちらの許可も無くアークエンジェルの医務室に運んだかです!」
「いや、そりゃあ……」
「しかも、驚いて呼び止めるマードック曹長を突き飛ばして!」
いや、通行の邪魔だったから……退けって言っても聞かなかったし……まあ、悪かったって思います。
「まあ、曹長も怪我はしてないし、彼には俺がフォローしたから……ま、後でボウズにはきちんと謝らせるからさ」
「私が言いたいのは、そういう事じゃありません! 敵を捕虜にした場合は何より先に、上官に連絡する義務を怠った事です! もし、捕虜が目を覚まして艦内で暴れだしたら…」
思い出した! あの時と同じだ……ロドニアで…ミネルバでも同じ事を……
「ぷっ……くっ…」
いかん。思わず吹き出してしまった。でも笑いが止まらない……
「……スマン。俺、フォロー止める」
「バジルール中尉、処分は任せます。好きにしちゃって」
穏健派の2人も俺の態度にカチンと来たようだ……目が据わってる……
「独房に入ってろ! この馬鹿者は!」
ま、しょうがないよな……それにしても俺、全然成長してなかったや。あの頃のままだ。
でも、これで良いよな……ステラ。

「バ〜カ、アンタさ、何考えてんの?」
独房に入って丸一日が経過……退屈してる俺の元へ、フレイが嫌味を言いに来た。
まあ、それだけじゃ無いと思うが……
「いや……何かな? 殺せないって諦めて、もうこうなったら助けなきゃって思ったら身体が勝手に………つーか、フレイだって、助けたそうにしてなかった?」
「してない! アンタがいきなり彼女…を退かした後、虎を抱き上げて、さっさと消えただけ!」
「置いていかれて、寂しかった?」
「……殺すわよ?」
……お嬢様、凶暴さが増してないですか? 今回の戦闘でも随分と活躍なされたようで……
「まあ、良いわ。それよりこれ」
「ん?……拾ってきたのか?」
フレイの手には、俺に射撃を躊躇わせた物……
「一応、洗っておいた……良く見たら、何だか分かんない物が付いてたし……」
「肉片?」
「…………ち、違うと思う。て言うより、お願いだから違うって信じさせて」
「多分、それ炭化した肉片か脳…」
「黙りなさい!」
う〜ん……よく分からん奴。鬼みたいに平気で敵を殺せるタイプかと思いきや、変に情けかけるし、
デリケートだし……まだ不安定なのか?
「なあ、フレイ」
「ん?」
「昨日の戦闘で、コーディネイターを殺したわけだが、どんな感想?」
「…………分からない………自分でも分からない。憎んでたコーディネイターを殺せた。嬉しくないと言ったら嘘になるけど……同じくらい人を殺した罪悪感みたいなのを感じてる」
……それで、俺のところへ来たんだな。自分で自分が分からなくなってる。
ルーキーにありがちだ。平和を乱すテロリストを殺して、それでも、彼等の言い分に耳を傾けると理解や共感できる部分があったり。
彼女には早すぎたんだ。昨日の光景は。生々しい死の光景と、憎む相手の行動にしては美しい姿。
しばらくは、敵を倒せた喜びと、生き残った喜びだけで良かったんだが……
「あまり、深く考えるな。悪いけど、それしか言えない」
「難しいこと言うね……今朝方も夢に見たんだけど……」
「夢? あの光景を?」
「……え〜と、ちょっと違ってて……砂漠の虎とその恋人じゃ無く、アンタとわた…」

「よっ! 邪魔して悪いな」
…………またコイツか……
「少佐? どうしたんです?」
「いや、嬢ちゃんじゃ無く、中に居る不届き者に用でね」
うるせえよ。
「なんすか?」
「ああ、虎が目を覚ました」
「も、もうですか!?」
俺もビックリ。あの怪我だと2〜3日は目を覚まさないか、下手すりゃ、そのまま死んでしまうって思ってたんだけど……さすが虎、凄い体力だな。
「まあ、動けはせんがね……で、ぜひともボウズに会いたいそうだ」
「俺に?」
「どうする?」
「………行きます」
「よし、出ろ」
そう言って、少佐がドアを開ける。
「フレイ、あれを」
俺がフレイに手を差し出す。
「うん」
フレイが俺の手に乗せたものを少佐は不思議そうに見ていた。
「何だ?…それ?」
「はっきりとは分かりませんが、多分髪留めだと思います」
「は? それのどこが?」
まあ、判んないよな……俺だって、彼女の生前の姿と、コレが落ちてきた場所から検討をつけただけで、確信は無かった。
「おい?」
そんな返事を期待されてもな……
「虎が呼んでるんでしょ。早く行きましょう」
「……分かったよ。ったく……」
返事をしない俺に、不貞腐れた態度で応じる少佐……別に嫌がらせじゃ無いんだけどな……

「入ります」
俺が病室に入ると、中にはアークエンジェルの軍医と艦長、それに何故かアスハが居た。
中尉は艦橋だろう。
「バルトフェルドさん、彼が来ました」
艦長が、副司令に伝えると、彼は視線だけ動かして俺を見る。
「……助けてくれたそうだが……礼を言うべきかな?」
「必要ありません」
顔の半分に包帯を巻いている痛々しい姿。シーツの膨らみから左腕と左足は失われていることが、確認できる。やはり怪我が酷くて、切断したんだろう。
間違いなく、俺の知っている副司令の姿に近付いている。
「そうか……だが、何故助けた? 君はどういう訳か、僕を殺したがっていたと思ったが?」
艦長の目が俺に注がれる。後方からは少佐の視線を感じる。2人にとっても疑問だったのだろう。
「どういう訳も何も、俺は軍人で、貴方は敵の指揮官。殺そうとするのは当然だと思いますが?」
「それだけには、見えなかったがね?」
そうさ。それだけじゃ無い。俺はアンタに八つ当たりをしたかった。でも……
「これを…」
「ん?」
フレイに渡された物を彼の胸の上に置く。
「俺が貴方を連れて行った後、彼女が持ち帰りました」
フレイに視線を移しながら伝える。
「これは……」
それを手にしようと、腕をゆっくりと上げていく。
「まだ、無理をしては!」
軍医が制止しようとするが、止まらない。止められるはずが無かった。彼は、それが何であるかに気付いたんだから。
「間違いない……アイシャの?」
「彼女は貴方に覆いかぶさって死んでいました……貴方を守って……それでも俺は、貴方を撃とうとしました。そうしたら、今度はそれが……」
「この髪留めは、俺が彼女にプレゼントしたんだ。髪が長いからヘルメットを被るときに困るからって」
「か、髪留め!?」
艦長が驚きの声を上げる。まあ、それが髪留めって言われたらな……

「まあ、すまなかったな……刺激が強い光景だったろ」
その髪留めの変化から彼女が、どんな死体になったかを察したんだろう。でも……
「綺麗でした」
嘘じゃ無い。本気でそう思った。俺がやりたくて、出来なかったことだから……
「凄く綺麗な……」
「ふっ、無理する必よ…」
「私も、そう思いました」
「フレイ?」
俺が気を使ってると思ったんだろう。だが、フレイも俺を肯定した。
「安らかな……笑顔でした。本当です」
誰も信じないだろう。そもそも表情どころか性別すら分からなかったんだから。そんな事はここに居る人間…軍人だったら誰でも分かることだ。
でも、俺は信じる。表情が分からなくても、俺にもそう見えたから……
「そう言えば……名前を聞いていなかったな」
「キラ。キラ・ヤマト」
視線をフレイに向ける。
「え? フ、フレイ・アルスターです」
「そうか……礼を言うよ。ありがとう。キラ、フレイ」
虎は…溶けた髪留めを握り締め、そう呟くと目を閉じた。
おそらく、彼女との思い出を振り返っているんだろう。
「それでは、失礼します」
その時間を俺達が邪魔して良いはず無い。
俺は、部屋のドアへ向かった。フレイと少佐も付いてくる。
「ありがとう」
もう1度言われたが、俺は返事しなかった。いや、出来なかった。
俺は、殺すって決めてたのに出来なかった。また敗れた。また負けたんだ。
俺は、彼女に…アイシャって言ったけ…負けたんだ。
そして、その事を悔しく思わない事が悔しかった。

「本当にごめんなさい。お兄ちゃんも悪気があったわけじゃ無いんです」
「い、いや……き、気にしないで……」
「ほら! お兄ちゃんも謝る!」
「ご、ごめんなさい」
僕はマユちゃんに言われ、どんよりと落ち込む3人娘に謝罪する羽目になった。
でもね。これって傷口に塩を刷り込んでるような気もする。
だって、見た目は子供の僕に達磨にされて屈辱の完敗……僕も可能な限りいたぶったし。
その上、謝罪って……悪気は無いって分かっても……キツイよね?
でも、マユちゃんにそれを言うわけにはいかない。だってこれ以上嫌われたくないし……
「少女よ! 気にしなくてもいい!」
そこに現れた野太い声……あ! 馬場さんだ。この頃から居たんだ……って、当たり前か。
うん。年齢から言っても、すでにこの頃からパイロットだったに決まってる。そうしとこう。
「此度の敗北……彼女たちだけで無く、我々にとっても教訓とあいなりました!」
相変わらず暑苦しいオジサンだな……マユちゃんもビックリしてる。
「このまま自らの未熟に気付かずにおけば、愛する祖国、オーブの惨状を見ることになったかもしれません」
えっとね。心配しなくても、未来のオーブの惨状は酷い有様だよ。
「ですが、我々は知ることが出来た! ならば、やることは1つ!」
ずいっと僕に近付いてくる馬場さん……やめてよね。暑苦しいんだから。
「シン君……いや、アスカ教官!」
「きょ、教官?」
「先程の戦闘、感服しました。我々を鍛え直して下さい!」
「「お願いします!」」
「え?」
何時の間にか馬場さんの後ろには、むさいオジサン達が一斉に頭下げてる……こ、怖いよ。
でも、なんか見覚えが……あ! シンが大暴れしてオーブ艦隊壊滅させた後の……
「お兄ちゃん」
ん? マユちゃんが期待する目で…………分かった!
「やりましょう! 一緒にオーブを守りましょう!」
「「「教官!」」」
うん。マユちゃんも喜んでる。そう言えば、訓練の時も熱血系の漫画を参考にしてたっけ……

続く

】【戻る】【