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第22話「エマ・レヴィントン」

Last-modified: 2016-01-17 (日) 20:42:29

第22話:エマ・レヴィントン

 

 ヤジマスタジアムの会議室、ここに決勝トーナメントに残った16人の
ファイターが集結していた。
「それでは、決勝戦のセレモニーは以上のようになります、何か質問は?」
挙手する者はいない、ほぼ全員がニヤケ顔だ。
「いやー、ヤジマさんも案外演出家だねぇ。」
チョマーが感想を漏らす、セレモニーにしては大掛かりな仕掛けに、敗退した
ファイター達も高揚気味だ。
「で、サトオカ君たちは、どちらが出場するんだ?」
ヨハン・シェクターの問いに目を伏せる大地、代わりに宇宙が答える。
「とりあえず、決勝までにトリックスターが戻ってきたら僕が、
 戻ってこなければ兄さんが出るつもりです。」

 

 兄と話し合った結論だった。今から慌ててトリックスターを作ろうとしても
ベース機探しすら難航する上、決勝までに間に合うかと言えばまず無理だろう、
元々が2週間以上かけて作った機体、2機目でも3日足らずで以前と同等の
性能を持たせるのはまず無理だ。
「主催者の捜査本部はどうなってる、手がかりくらいは掴めたのか?」
ヤンがキツ目に問い詰める、会議長の役員は申し訳無さそうに顔を伏せ、答える。
「今現在もニルス様はじめ、スタッフが全力をあげて捜査中です、決勝までに
 何とかしたいとは思っておりますが・・・」
「思ってる、だと!」
激高しかけたヤンをグレコが押さえる、彼自身も眉間にシワを寄せながら、ではあるが。
「仕方あるまい、まさかあのような事態、誰も予想できんよ。」

 

「それでは皆様、3日後の決勝までに、先ほどの規定に沿う改造をお願いします。」
「5分もあればじゅうぶんですよ、そんなの。」
ルーカスが答え、他の者もうんうんと頷く。解散し、退室するファイター達。
宇宙と大地も席を立つ、それをずっと座ったまま見送る選手が一人。
「・・・何か裏がありそうですわね。」
エマ・レヴィントンである。最後に退室した彼女は、なぜか出口ではなく
大会主催者席兼、盗難対策本部へと足を運んだ。

 
 

「さーて、フリーチケットも貰ったし、明日から2日間みっちり遊ぶぞー!」
宇宙が歩きながら、プラチナチケットを嬉しそうに掲げる。
「しかし、本当に良かったのか?今からでもトリックスターを作り直してみても・・・」
「それは言いっこなし、せっかくのイベントなんだし楽しまなきゃ勿体無いよ、
 せっかく阿波踊りまでパスして来てるんだし。」
8/15〜16、大会決勝前の2日間は恒例の『ガンプラ・イブ』というイベントの日
以前は1週間ほどやっていたが、さすがに遠方の観客にとって、準決勝からそこまで
日があくのは滞在的に無理がある、で今年は2日間開催。
ちょうど彼らの地元、徳島の阿波踊りと重なってしまったのだ。
「兄さんがガンプラをはじめたキッカケのイベントでしょ?10年ぶりなんだし楽しもうよ。」
「そっか・・・そうだな。」

 

 明けてガンプラ・イブ初日、さっそく全開で祭りを満喫している面々がいる。
屋台エリアの一角、その近辺の出店を経営危機に陥れる一団があった。
「やっぱ、こっちの食いモンはうめぇなぁ!」
「ちょっとレイジ、そのヤキソバ私のよ!」
「ねーねーお母さん、これ何て食べ物?フワフワしてておいし〜」
・・・アリアンご一行様だ。親子3人でテーブルに山と積まれた食物が次々に消えていく。
「ねぇねぇルーカス、コレもおいしいわよ・・・って、もうダウン?若いのに小食ねぇ。」
一家に付き合ったルーカスは早々に撃沈したようだ。
「あ、あの細い体のどこに・・・入るんですか・・・うぷ。」
青い顔で苦しむルーカスをププセが介抱している。
「あの人達に付き合うのは無理ですよ。」
ちなみにルーカスもレイラも気付いていないが、貰ったフリーチケットを
宿舎に忘れてきていたりする、支払いの段になったらどうなるかはまた別の話だ。

 

 南側、フリーバトルエリアでは、大勢のファイター達が野試合に興じている。
「喰らえ、カミキバーニング、ナックルーっ!」
「受けてみよ、マックスター・マグナムパンチっ!」
漢のどつきあいを演じているカミキ・セカイと矢三布監督。
「出でよ、スナイバルドラゴギラ!」
「噛み潰せ!レビルガンダムうっ!」
その隣では新潟のシキ三兄弟が、ガンプラ心形流の松岡と首長竜対決の真っ最中だ。
「うわぁ・・・何アレ。」
通りがかった宇宙が漏らす、本当にアレはガンプラバトルだろうか・・・。

 

 中央ブースでは、メイジン・カワグチとイオリ・セイによるガンプラ製作講座が行われ
イベントスペースでは、今大会の地方予選の司会を務めた面々がカラオケ合戦の真っ最中、
その他、各ブースでもイベントが盛り沢山で、回っているだけで一日はあっという間に過ぎた。

 
 

「ん〜、遊んだ遊んだ。」
「明日はどうする?兄ちゃん。」
風呂上りに牛乳を飲みながら大地に問う。
「ああ、俺は明日は、ちょいヅダをいじろうと思う、チョマーさんに会って面白い改造を
 聞いたんで、試そうと思ってな。」
「じゃあ僕も手伝うよ。」
「いや、そんな手間はかからないから、お前は明日も遊んで来いよ。」
「・・・分かった、じゃあ頑張って。」
布団に入って泥のように眠りに落ちる宇宙。それを確認した大地がやれやれ顔で漏らす。
「まさかチョマーさんに『一緒にナンパしようぜ!』って誘われてるとか言えんしなぁ・・・」

 

 2日目、兄を置いて出発する宇宙。宿舎を出た門の所に顔見知りが立っていた、
薄い赤色に、白いフリルの服を身を纏ったお嬢様だ。
「あ、エマさん、おはようございます、明日はよろしくお願いします。」
挨拶する宇宙に、にこやかに笑って返すエマ。
「そうね、明日は敵同士、いい試合をしたいわね。」
普段よりややオシャレの入ってる金髪の美少女の笑顔に、思わずどきっとなる。
それだけに次の言葉の破壊力は宇宙の想像を越えていた。
「だからソラ君、今日はわたしとデートしましょう!」

 

「ちょ、おい、なんだあのカップル」
「つり合ってねー。兄弟でもないだろーし、何なんだアレ。」
完全に公開処刑である、腕を組んで歩く男女はいいのだが、一方はいかにも田舎者の少年、
相方は頭半分は背の高い金髪のお嬢様なのだから。
顔を真っ赤にして視線に耐える宇宙、エマはエマで平然と宇宙に腕を絡めて歩いている。
「あ、あのー・・・これからドコへ?」
「ちょっと行きたい所があるの、付き合ってね。」
南エリアに歩いていく二人、そこにはヤジマ社特性のプールと、その併用ショップがあった。

 

「お待たせ。」
目に毒だ、目に毒すぎる。女の子と付き合った経験すらない宇宙にとって、
金髪碧眼、スタイル抜群の水着美少女など目に毒以外の何者でもない。
競泳水着なのがせめてもの救いだろう、これでビキニとかなら鼻血出してぶっ倒れるのが関の山だ。
「ふーん、もっと華奢かと思ってたけど、意外に筋肉あるのねソラ君。」
宇宙の腕を掴んでまじまじと見るエマ、指先の感覚と至近距離の女体にパニック寸前の宇宙。
「は、畑仕事とか、新聞配達とかやってますから・・・」
「ふーん、運動もできるんだ。ならいけるかもね。」

 
 

 紺色の競泳水着が宙を舞い、鮮やかに回転しながら水面に吸い込まれていく。
高さの割に控えめな水しぶきを上げ着水するエマ。
周囲の人間から一斉に喝采が上がる。
「すげえええええっ!なにあの女、プロ?」
「かっこいいいいっ!」
「素敵〜」
かつてスイス国内で飛び込み競技のトップを張った実力は微塵も衰えていないようだ。
水から上がるエマにタオルを渡し、拍手する宇宙。
「すごい!すごいですよエマさん、あんなのはじめて見ました!」
「前にちょっとやってただけよ、全盛期ならもっとすごいの見せられたんだけど。」
着水までに何回転したのか、あの回転感覚があればこそのガンプラバトル、オッゴの
オールレンジ攻撃を実現させているのだろうか。
「どう、ソラ君も飛んでみる?」
「え?」
問答無用で5メートルの高さの飛び込み台に連行される宇宙、別に高所恐怖症ではないが
ここから飛び降りるとなると話は別だ。
「ちょ、ちょっと無理ですよエマさん、さすがに未経験者がここから飛び込んだら・・・」
尻込みする宇宙、その背中にぴとっと張り付き、肩に手を置くエマ。
宇宙は今、自分の顔色が真っ赤なのか真っ青なのか知りたかった。
「大丈夫、ちゃんと『少し未来の自分』をイメージして。自分がこれからどういう姿勢で
 どういう角度で飛び込むか想像して、その通りに体を動かせばいいの。」
「・・・少し先の、自分、」
イメージしてみる、軽く踏み切り台を蹴って、体をさかさまにする、後はそのまま真下に
落下して、指先で水面を突く感じ・・・
「なんとなく、分かる気がする・・・」
これでも好奇心旺盛な男子である、未体験の飛び込みに少し興味を引かれる。
「私が先に行くわ、見ててね。」
飛び込み台で宇宙と入れ替わり、オーソドックスな方法で飛び、水面に吸い込まれるエマ。
その姿を、先ほど自分が想像した飛び込みと重ね、修正する。
水から上がり、宇宙に手を振るエマ。踏み切り台の際に経つ宇宙。
「ソラ君、GO!」
その合図と共に台を蹴り、姿勢を作って、あっという間に水面に突き刺さる宇宙。

 
 

ざばがぼぉぉぉぉぉっ!!!
「!!!」
着水の衝撃は予想以上だった、全身に痛みが走り、上下がどちらか分からなくなる。
必死に水面を目指しもがく宇宙、泡の上がる方向に気付いてそちらに向かい
ようやく水面まで到達し、大きく息を吸い込んだ。
「ぷっはぁっ!」
なんとかプールサイドまでたどりつき、よたよたと上がる宇宙、エマが拍手で迎える。
「上手だったわ、やっぱり運動神経いいじゃない。」
「なんか、怖かったし痛かったけど、すっごく面白かったです!」
「うんうん、さすが男の子!」
タオルを頭にかけてもらう、この時点でようやく周囲からの拍手に気付く宇宙。
「よっ!ボクちゃん男だねぇ!」
「カッコ良かったぜぃ」
「がんばったねぇ少年・・・あ、あれ?」
冷やかす面々の中に、何かに気付いた女性が一人。
「ちょ、ちょっと!あの二人・・・もしかして!」
「え?ええ!おいおいファイナリストの二人じゃねぇのか!?」
「ホントだ!エマ・レヴィントンとサトオカの弟!!」
「明日の決勝を前に、こんなところでデートかよ!写真写真、ってここプール!スマホ取って来る!」
「サインもらわなきゃ、色紙ってドコで売ってる?」
正体がバレたとたんに慌しくなる周囲。やばっ、という表情の宇宙に対し、エマは得意顔で・・・
「逃げるわよっ!ソラ君。服だけ回収して外へ!」
ソラの腕をひっつかんで更衣室に突撃する。男女に分かれてロッカーに飛び込み、服と荷物を抱えて
プール外に飛び出す二人。そのまま合流して道路でタクシーに飛び込む。

 

「ふぅ、なんとか振り切れましたけど・・・」
「ええ、あのまま囲まれてたらせっかくのデートが台無しですものね。」
決勝前に密会、不正を疑われるという心配はエマには無いようだ。
そのままホテルに向かい、服を着替えてレストランで昼食を取る。
一体いくらするのだろうか、名前も聞いたことの無い食材に冷や汗をかきながら喉に押し込む。
幸いここでもチケットが有効だったのが救いだったが。

 
 

「そういやソラ君、君はどうしてボールを使うの?」
食後にエマが聞いてきた、色んな人に何度も聞かれた質問。
「僕、宇宙飛行士になるのが夢なんです。」
「へぇ、素敵じゃない。」
「だからボールが好きなんです、ガンダムとかは僕の生きてる間に実用化はされそうにないけど
 ボールなら今すぐにでもありそうだし、『目指す機械』に思えるんです。」
「・・・いいわね、夢があって。」
少し憂鬱な表情でエマが返す、それから彼女は自分のことを宇宙に語り始めた。

 

名門レヴィントン家の一女として家を継ぐ立場にあること、異常集中力の持ち主で
様々なジャンルを短期間で極めてきたこと、物事にのめり込んだらとことんハマること、
まだガンダム/ガンプラを始めて3ヶ月しか経ってない事、果たせなかったメイジンとの約束・・・

 

「じゃあ、エマさんもまだガンプラ歴3ヶ月なんですか?」
「エマさん『も』ってことは、ソラ君、あなたも・・・?」
「はい、兄ちゃんにボールのガンプラを貰ったことがキッカケで・・・。」
「そうなんだ、ほんと奇遇ね。私たち似たもの同士なのかも。」
「セリフまで完全暗記してるエマさんにはかなう気がしないけど・・・。」

 

「ねぇ、映画を見に行きましょう!」
エマの提案で映画館に足を運ぶ二人。ガンプラ1色の街では、映画館も様々なガンダム映画が
上映されていた。チョイスしたのは ”機動戦士ガンダム MS IGLOO”。
宇宙もビデオで一度見ていたが、やはり映画館で見るのは迫力がある。
エマのオッゴが変形したヨルムンガンドの話、兄の使うヅダの話、二人に共通点の多い映画だ。
「(そういえば、エマさんはどうしてオッゴを使うんだろう・・・)」
後で聞いてみようと思ったが、その必要は無かった。
第5話、オッゴのパイロットであるエルヴィン・キャデラック少年兵を見るエマの目が
完全にハートマークになっていたから。
「(もしかしてこの人、年下好み・・・?)」
微妙に身の危険を感じ、隣の席のエマから少し体を離す宇宙。

 
 

 すっかり夜もふけ、帰路につく宇宙とエマ。同じ宿舎なので文字通り『帰るまでがデート』だ。
すっかり打ち解け、自然に腕を組んで歩く二人。
「明日が楽しみね、ボールVSオッゴ、いよいよ激突よ。」
「あ、でもトリックスターが戻ってこないと・・・」
「大丈夫、きっと戻ってくるわ、私が保証してあげる。」
門をくぐり、宿舎の中に入る、エマの部屋まで送る宇宙。
「それじゃ、おやすみなさい。」
「あら、忘れ物よ。」
言って頬を向けるエマ、指をほっぺたにちょんちょん、と当てる。
頬にキスしろ、ということは理解できた。
少しためらった後、意を決して顔をその白い頬に近づける・・・
 接触寸前、いきなり正面に向き直るエマ、そのまま至近距離から唇を重ねる。
「!!!!!」
少しの密着の後、すっと離れて笑い、扉を開けるエマ。
「遭遇戦では先手を取った方が有利なのよ!じゃあ、おやすみ。」
部屋に入って扉が閉まる、その後約5分間、宇宙はゆでダコのような表情でフリーズしていた。

 

 ようやく部屋に戻ると、大地とチョマーが向かい合って酒を飲んでいた。
「くっそおぉぉぉ、リカルド・フェリーニぃぃっ!せっかくあの娘といいフンイキだったのにいっ!」
「一体何回俺らのジャマすりゃ気が済むんだっ!フェリーニ許すまじっ!」
・・・どうやら大地も、『フェリーニ被害者の会』に名を連ねることになりそうだ。

 
 

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