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第24話「止まれ!」

Last-modified: 2016-01-25 (月) 23:07:35

ガンダムビルドファイターズ side B
第24話:止まれ!

 

「検問にも、税関にも引っかからないはずだ!犯人はあれからずっと
 この会場内に潜伏していたんだ!」
ニルスが吐き捨てる。まさかの犯人の居場所、完全にウラをかかれた。
「この会場のどこかにいるはずだ!必ず探し出して、トリックスターを取り返せ!」
命令一下、慌しく動こうとした役員を別の声が止める。
「待ちたまえ!今動くのは得策ではない!」
声の主は出入り口に立っていた、タキシードに身を包んだ初老の紳士。
「あ、あなたは・・・サー・レヴィントン!」
ガンプラバトルのメインスポンサーの一人にして、スイス大企業の会長、
ファイナリスト、エマの父親でもある。
「見たまえ、観客はまだこの現状がセレモニーの一環であると思い込んでいる、
 ここで君たちが物々しく動くと、またテロを悟った観客がパニックを起こすぞ。」
「で、ですが・・・」
「大丈夫だ、僭越ながら手は打ってある。今は待つのだ、ニルス君。」

 

 月面基地に特攻していく大地のヅダ。グレコの呂布トールギス以外の全員を追い越し
台座のトリックスターに迫る。
「バカ野郎!『コイツ』が見えてないのかっ!」
グレコが声を張り上げる。見上げるほどの巨体が、トリックスターと一緒に
ドームの中に収まっていた、ジェネラル・ジオング。
3つのモノアイがヅダを捕え、その口に周囲の粒子がかき集められる。
「なっ・・・!」
世界の全てを破滅させる主砲・デスレイン。わずか0.01%のエネルギーをチャージするのに
膨大な時間を要する主砲が、4度放たれようとしていた。
「さっきまでのビームの正体はアレかっ!」
「デスレインを・・・ビームライフル並に連発するんじゃねぇっ!」
そのエネルギーとなるのは無論、ジェネラル・ジオングの脇で高速回転し、粒子を増幅し続ける
トリックスターに他ならない、そしてサテライト送信を通じて、他のSD軍団にも
粒子を送り込んでいたのだ。
「させるかあぁぁっ!」
発射寸前、ジェネラルの首に渾身の体当たりを食らわす呂布トールギス。
首がずれ、同時に放たれたデスレインはヅダの脇をかすめ、その先の宇宙を駆け抜ける。
交錯したヅダはよろけながらも着地、トリックスターに駆け寄り、手を伸ばす。
が、ヅダの手は、そして体は、高速回転するトリックスターを通り抜けた。
「なっ!・・・なんだと!?」
まるで立体映像のように、ヅダに重なって存在するトリックスター、
確かにそこにあるのに、触れることができない。
粒子はどんどん製造され、SD軍団に送り込まれているというのに・・・

 
 

「ハッキングによる遠隔操作か!」
観客席でアランが叫ぶ。ガンプラ・マフィアのよく使う手。光通信などを使い
バトルシステムに不正に乱入、フィールド外のガンプラを参加させる方法だ。
「しかし、相手に触る事が出来ないのはおかしい!遠隔でも機体に攻撃はできるはず・・・」
矢三布監督が返す、その疑問にアランが答える。
「ハッキング側がダメージレベルCなら可能です!」
「あ・・・」
機体をトレースし、立体映像に転送することで、仮想戦闘を可能にしガンプラを壊さない
ダメージレベルC。
実際に粒子でガンプラを動かし、機体にそのままダメージを転移するダメージレベルA、
本来、この2つの形式を混在してのバトルは出来ない。しかしハッキングによる参戦なら
こんな不具合を併用しての実現もありえなくはない。
「なんというコトだ・・・目の前にいるのに触れることもできんとは。」

 

「うわぁぁっ!」
ジェネラルの張り手で吹き飛ぶヅダ、リーオーが体ごとキャッチするが、そのまま飛ばされ
月面を転がる。
 オッゴ以外の全てのガンプラが月面に到着、それを追ってSDの6体も降りてくる。
SD軍団はトリックスターとジェネラルジオングを守るように取り囲み、なおかつ至近距離から
トリックスターの生み出す粒子を次々に吸い込んでいく。
「いかん!射線から離れろっ!!」
メイジンが叫ぶと同時に、閃光斬が、グレートバスターキャノンが、サザンクロス・ソールが、
炎凰獄焔燐が、アルティメットメガバスターが、鳳凰無限界が、そしてデスレインが、
放射状に発射される。

 

 月に巨大なえぐれが生み出され、余波を受けたア・バオア・クーは完全に消滅、
エネルギー嵐が荒れ狂い、直撃を避けたガンプラ達はその余波だけで月から吹き飛ばされる。
「みんな、無事?」
宇宙空間にいたエマが問う。最初に答えたのは大地。
「グレコさんが・・・やられた。至近距離で殴りかかって、鳳凰無限界に飲み込まれるのを、見た。」
リーオーにかつがれたまま、ボロボロのヅダがそう告げる。
「・・・来るぞ。」
メイジンが高揚のない言葉で呟く。月面ではもう『次の一撃』の発射準備が完了している。
愕然とする暇さえ与えられず、反射的に動いて逃げる機体たち。
 再度、破壊光線が四方に乱れ飛ぶ。光の嵐に包まれた宇宙空間で、ファイター達が運に任せて
生き残ろうとする。
その努力が無駄になった機体、ネーデル・エンド・オブ・ザ・ワールド。その羽根だけが
宇宙空間を漂っていた。

 
 

「もう、やめろーっ!!」
絶叫したのは宇宙だ。その悲鳴に似た声に、観客が息を飲む。
「こんなコトのために、僕は・・・僕達は、トリックスターを作ったんじゃあない!」
視線の先には、先ほどよりさらに高速で回転しているトリックスター。
その回りのSD達は、すでにその粒子をたっぷりと吸い込んで、3発目の努級攻撃を
放とうとしていた。
世界が3度目の悪夢の光に包まれる。それが晴れた時、ルーカスのコックピットは機能を終えた。
残っているのはエマのオッゴ、メイジンのレッドウォーリア、フェリーニのトレミーラ、
リーナのリーオー、大地のヅダの5体。
その全員の、そして観客全員の目にはもう、絶望の色しか写らなかった。
SD達は早速、高速回転するトリックスターの粒子を存分に吸い込んでいる。
「止まれ!トリックスター、止まるんだっ!」
回っている、いや、エネルギーを絞るためにだけ『回されて』いる、
まるで遠心分離機のように。
「そうだ、止まれっ!こんなチートあるかよっ!」
「止まれ!お前の主人の命令だぞっ!」
観客からも、宇宙に答えて次々に声が上がる。
「お前は『緑の彗星』だろうが、停止して回転だけしてどうするっ!」
「止まれってんだ、このスダチ玉っ!」
里岡応援席から、隣の九州、関東応援席から、スイス応援団から、フェリーニ被害者の会から
次々に『止まれ』コールが上がる。
その声も空しく、4発目の業火がフィールドを包む。光が晴れた時、リーオーが頭だけになって
漂っていた。顔に『祝』のシールを貼り付けたまま。

 

「止まれっ!止まれっ!止まれっ!止まれっ!」
宇宙が必死に声を絞り出す、答えて観客も一斉に『止まれ!』コールだ。
しかし無常にもトリックスターは回転を続け、粒子を生産する。
その時、一人の少女が宇宙の横に駆け寄って、彼の手を取った。
「君は・・・レイラさん?」
「これ!願いの叶う石、これを持って!」
小さなペンダント状の石を手渡される、青緑に輝く自然石にみえるそれは、
どこか見覚えのある色だった。
「それを握って祈って!きっと願いが叶うから!」
「わかった。やってみる。」
石を握り締め、画面のトリックスターを見据えて叫ぶ宇宙。

 
 

「止まれっ!トリックスター、もうやめるんだっ!」
−とーまーれっ!とーまーれっ!とーまーれっ!−
「僕と一緒に決勝を戦うんだ!そんな酷いことをやってる場合じゃないだろ、止まれ!」
−とーまーれっ!とーまーれっ!とーまーれっ!−
「エマさんとの約束を忘れたのか!ネーデルの風車を乗せた時はどうだったんだ!」
−とーまーれっ!とーまーれっ!とーまーれっ!−
「そんな使われ方をして気分がいいのか!止まれっ!そして戻って来いっ!」
−とーまーれっ!とーまーれっ!とーまーれっ!−
「とまるんだあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 粒子が発生していた。それも膨大な量で。トリックスターからではない、宇宙の手の中から。
「うわっ!?」
手の隙間から吹き上げるように飛び出した粒子は、そのままバトルフィールドに吸い込まれていく。
それと同時に、SD達の5発目の攻撃が、残ったガンプラを飲み込もうとしていた。
フィールドが光に覆われ・・・そして、晴れる。

 

 ヅダも、レッドウォーリアも、トレミーラも、オッゴも・・・無事だった。
球状のバリアが彼らの機体を包み、破壊光線から防いでいたのだ。
そして、同じようにバリアに包まれている機体が1機、月面のトリックスター。
そのバリアに圧迫されるように、その回転が徐々にゆっくりになっていく・・・。
「そうだ、止まれっ!」
仁王立ちでトリックスターを見つめる宇宙、周囲も観客も息を呑んで見守る。
やがて、縦と横の回転運動を終了し、宇宙の正面を見据えて停止する。

 

「あれは、アリスタかっ!」
イオリ・セイが叫ぶ。宇宙の手に握られた石、それは『こちらの化学』ではまだ解明されない
異世界の産物、奇跡を起こす宝石。
「止まった!」
「やった、止まったぞっ!」
観客から声が次々と上がる。拍手と口笛と歓声で充満する会場。

 

「ならもう、チートビームは撃てないってこったな。」
「借りを返させてもらうぞ、SD軍団!」
いつの間にかトレミーラとレッドウォーリアがSDの輪の中に紛れている。
「早っ!」
宇宙と大地とエマの声がハモる。ワープでもできるのかあの2機は・・・

 

 SDの剣を奪った2機は、そのままジェネラルジオングに斬りつける、
バツ字斬りにより4つに分断されたジオングは、頭だけ残して爆発する。
脱出した頭部分が上から2機を睨む、見上げるメイジンとフェリーニは薄く笑う。
「ま、年貢の納め時だろう。」
フェリーニがそう呟き、レッドウォーリアは親指を立て、下に突き下げる。
ジェネラルが最後のデスレインを発射しかけたその時、上空から全力で突撃してきたヅダが
火の玉となってジオングの頭部をブチ抜いた。
 木っ端微塵に砕けたジオングヘッド、それと同時に6体のSDも動きを止める。
「どうやらメインに操縦していたのはジオングのみのようだな。」

 
 

 主催席、レヴィントン卿の秘書が使っていた電話を切った。
「会長、判明しました。賊はあのバトルシステムの真下、舞台の空洞部分です。」
「だそうだよニルス君、ちょうど戦闘も終わったし、整然と取り押さえてくれたまえ。」
「わ、分かりました、僕も行きます!」
ニルスが10数名の警備を引き連れて舞台に向かう、目指すは犯人とトリックスターの確保。
「にしてもサー・レヴィントン、一体どうして分かるんですの?」
キャロラインが不振そうに呟く。
「私が、あの粒子の秘密を買ったからだよ、裏ルートを使って、ガンプラマフィアと取引きをしてね。」
「え!?」
「娘に頼まれてね、あの粒子発生装置のガンプラのデータを法外な値段で買ったのだよ、
 今日の決勝戦が始まるまでに、とう条件付でね。」
「えええええっ!」
「彼らも焦っただろう、多分大会終了まで会場に隠れてるつもりだったんだろうが
 この条件でそうもいかなくなった。それでこの決勝直前のセレモニーで
 あのガンプラを起動させて、この騒動を起こしたのさ。」
もはや言葉も出ないキャロライン。
「このセレモニーであのガンプラを動かしながら、私の会社に光通信でそのデータを
 せっせと転送してきたよ、発信源がここだと知ったので逆探知をかけて
 賊の居場所まで割り出せたがね。」
「なんとまぁ・・・しかし、どうしてこの会場だと?」
「ニールセン・ラボに私の部下を張り付かせておいたのさ、エマージェンシー、だったかな?
 あのガンプラが起動するとラボに連絡が行くんだろう?」
「なぜそれを!」
「娘が3日前、ここの屋根裏で盗み聞きをしたそうだよ。・・・くっくっくっ。」
「あ・・・あ・・・あの娘が・・・」
「まったく、とんだお転婆娘じゃわい、貴方を見習わせたいものじゃ。」
今ここにニルスがいたら豪快な苦笑いが見えたに違いない、キャロラインにも
10年前にそんな武勇伝があったから。

 
 

警備員が舞台の袖に到着した。観客を囲むように配置し、ニルスが警告を
発しようとしたその時、
−ドカン!ドン!ドンッ!−
舞台の下、側面の板が激しい打撃音を立てて揺れる、内側から蹴り壊そうとしているようだ。
−バカァン!!−
側板が消し飛び、ラメ入りの黒靴とともに足が出る。そしてその空いた隙間から
一人の男がのっそりと出てくる、左手にノートPC形のハッキングシステム、右手に
トリックスターを持って。
その風貌、貫禄、体格。どこから見ても堅気ではない。
「ヤツは・・・10年前の!」
主催席、つまり対策本部からラルさんが呟く、見知った顔のガンプラマフィア。
正面に立つニルス、いやアーリー・ジーニアスがサムライの目をして見据える、
「大人しく・・・しろ・・・?」
男はニルスを完全に無視して、舞台横から階段を上がっていく、その先にいるのは、宇宙。
「くっ!」
大地が前に立ちはだかる、その周囲を14人のファイター達が囲む、グレコなどは今にも
鉄拳を見舞いそうな形相と姿勢で。
「大丈夫だよ、兄ちゃん。」
宇宙が大地の肩に手をおき、そのまま大地を押しのけて男の前に立つ。
宇宙の右手には、レイラから預かった『願いが叶う石』
その石にこう祈った、「止まれ、そして戻って来い」と。

 

男がトリックスターを宇宙に差し出す、穏やかな顔で。
「子供の頃に見た『ガンダム・フォース』大好きだったよ。君はいわばシュウト君だな。」
トリックスターを受け取る宇宙、ついに、ついに戻ってきた愛機。
「いい機体だ。決勝戦、頑張ってくれたまえ。」
宇宙の肩をぽんぽんと叩いて階段を下り、ニルスの前に歩みより、両手を差し出す。
傍らにいたガンプラGメンが懐から手錠を出し、その両手にはめる。
「ひとつ、頼みがある。」
「頼み事ができる立場だと思うか?」
睨み返すニルス、すぐにでも豚箱に、いや裁判にすらかけたいくらいの心境だ。
「この決勝戦だけ見ていきたい、それだけだ。」
「・・・」
ニルスの頭に困惑が生じる、もし即警察に引き渡せば、現場検証やら事情徴収やらで
しばらくこの舞台はつかえなくなる、しかしもしそれを後回しにして脱走でもされたら・・・
「いいですよ、見て行ってください。」
壇上から宇宙が答える、右手にアリスタ、左手にトリックスターを持って。
隣でエマが柔らかく微笑む。ホント、甘い子ね、と呟きつつ。

 
 

 −決勝戦は、システム再構築のため、今から1時間後に開始いたします−
ニルスが携帯でそうアナウンスさせる。通路を引き上げながら、セレモニー失敗の愚痴をこぼす
「せっかく用意したホワイトベースとグレートデギンは全壊、折角の決勝なのに
 普通に試合開始せざるをえないとは・・・」
その愚痴を観客席で耳ざとく聞きつけた丸坊主の少年、ガンプラ心形流の松岡が声をかける。
「俺に作らせてください、一時間もあればなんとかなりますって、それ!」
「おいおい、『俺たち』だろ、そこは!」
「ボールなんだからホワベよりサラミスがいいんじゃないか?」
「相手はオッゴだから、ヨーツンヘイムで決まりだよな。」
周囲のビルダー達が次々に名乗りを上げる。そう、今ここは世界のどこよりも
その手の達人が集結しているのだ。
「スイスのエマ応援団もいるはずだ!彼らにも声をかけろ。」
「まかせろ、俺なら彼らの母国語も全部喋れる!」
キジマ・ウィルフリッドが席を立ち、反対側のスタンドに走る。

 

波紋のように広がるこの流れは、やがて特別作業室に集結し、2機の母艦を生み出すことになる。
そして、プラフスキー粒子の隠された機能が、まもなく発動する―

 
 

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