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第36話〜ブーステッドマン〜

Last-modified: 2013-04-22 (月) 23:39:19

何とか逃げ切る事が出来た。
黒いアークエンジェルと、3機のGタイプの戦力は凄まじく、追撃するザフトのMSを足止めし、私達はコスタリカまで下がって態勢を整える事が出来た。
「助かった……」
「そうだな」
MSを降り、キャリー少尉と話していると、黒いアークエンジェルからジープが出てくる。
そのジープに乗っている人は私の想像していた通りの人だった。
「バジルール少佐!」
「久しぶりだな」
少佐と敬礼を交わす。
「これが、ドミニオンですか?」
「ああ、そうだ。それに…」
「バジルール艦長。彼女が?」
私達の会話に割り込むスーツ姿の男性。何だろ?
「はい。彼女がフレイ・アルスター中尉です」
「そうですか。初めまして。僕はムルタ・アズラエル。よろしくお願いしますよ。アルスター大尉」
「大尉?」
「ええ。貴女は今回での戦闘の働きを認められて昇進しました」
「活躍って?」
「ええ。多数のザフトのMSを撃破し、撤退する連合兵の多くを守るために最後まで頑張った功績です」
じゃあ、私たちの戦いを見てたってこと? それだったら!
「そこまで見ておきながら、何で援軍がこんなに遅れたんですか! どれだけ死んだか!」
「おや? まさか本当だったんですか?」
「え? 本当って?」
「いえ、貴女の功績。本当にザフトのMSを倒したり、撤退の兵を守ったんですか?」
「え? だって、見たから言ったんじゃ?」
何で? 何で笑ってるの? 何がそんなに可笑しいのよ?
「これは驚きました。ですが、これからは、そんな馬鹿な真似はしなくて結構です。貴女はMSに乗って戦わずとも、彼等が倒した敵は貴女が倒した事になりますから。
 貴女は艦内で黙って座っていれば良いんですよ」
何それ?……彼等って後ろの3人?
「貴女は、このドミニオンのMS隊の隊長に就任しました。こんな薄汚いコーディネイターなんかの居る部隊では無くね」
キャリー少尉を睨みながら、汚らしい言葉を……
「その言葉! 取り消してください!」
「何を言ってるんです! そもそもコーディネイターなんかが居るから、こんな戦争になってるんです!
 そんな連中、庇う必要なんて無いんですよ!」
「今まで利用して…」
「中尉! 良いんだ」
反論しようとした私の肩をキャリー少尉が抑える。
「私は失礼する。私が居ては話も出来ないだろ」
「少尉……」
敬礼して部隊の元に戻り、隊員と会話を始めている。他の皆も、この異様な雰囲気を持った男の登場に戸惑い、遠巻きから観察していたみたいだ。
「まったく、何なんですかね。この部隊はエリート部隊と聞いてたんですが、何でコーディネイターと親しく出来る人間が大勢居るんです」
「少尉の人柄です。みんな頼りにしています」
みんなってのは言いすぎだけど、それでも少尉が連合に入った理由を話した後、次第に少尉と親しくする人が増えていった。
「まあ、良いでしょう。それより紹介しますよ」
後ろに控えていた3人に目を移す。どう見ても軍人っていうより無頼漢のイメージ。
「右から、オルガ・サブナック、シャニ・アンドラス、クロト・ブエルです。今後貴女の手足となり、コーディネイターを始末してくれますよ」

第36話〜〜ブーステッドマン

ドミニオン艦内に移動し、詳しい説明を聞く。私の手足とか、これ以上戦わなくて良いとか、訳が分からない。
そして、聞かされた話は予想を遥かに超える馬鹿げた話だった。
「強化人間!?」
「ええ、コーディネイターを凌駕する能力を持つよう、投薬、特殊訓練、心理操作によりアイツら以上の身体能力を持たせました」
「それって……」
「そう。彼等はコーディネイターという化け物を退治するために作られたんですよ……」
意気揚々と彼等、ブーステッドマンについて説明を続けるアズラエル理事。
3人ともパイロットではなく装備品、消耗パーツ扱い……
そして、私にはお飾りの隊長になれと言う。
「……馬鹿げてる」
「え? 何ですって?」
この人は以前の私だ。コーディネイターを憎んで、そのため力を欲した。きっと、この人は自分がコーディネイターだったらと思ったことがあるはず。
「ところで、アズラエル理事は、お子さんは?」
「は? いきなり何を?」
だけど、同情はしない。逆に傷口を抉り開いてやる。
「いえ。単に自分の子供を、どのようにコーディネイトしたか興味が湧いて」
「はぁ!? 何で僕がコーディネイターなんかを!」
「でも、貴方は自分がコーディネイターだったらと思ったことがある」
私の断言に顔が引き攣る。やっぱり図星。
「なに言ってんですか! 勝手にそんな下らない想像を…不愉快な人ですね貴女は!」
私はわざと無視して彼等と彼等の乗るMSのデータに目を通す。
オルガ・サブナック、強化インプラントステージ2、X-131の生体CPU。X-131カラミティ、砲撃戦用のX100系フレーム、バスターの強化ではあるけど、火力は比べ物にならないか……おまけに機動性も上がってる。
欠点はバスターと同じく、格闘戦用の武器は全く無しで、接近戦は苦手。いや、大火力ばかり詰め込んでるから、バスターよりも懐が弱いかも。
次にクロト・ブエル、強化インプラントステージ3、X-370の生体CPU。X-370レイダー、X300系でもイージスとの共通点は変形する事以外あまり無いわね。
近距離用射撃武器を使用した一撃離脱戦法がメインの戦闘方法。
え? クローの付け根の武器ってプラズマ砲なのにビームサーベルにもなるんだ。
面白い武器だな……欠点は大して無し。如何に足を止めるか、或いは不意を討つか。
最後にシャニ・アンドラス、強化インプラントステージ4、X-252の生体CPU。GAT-X252フォビドゥン、X200系フレームを採用した特殊戦闘用MS…………特殊すぎ。長中近距離全てに対応した武装。
おまけにビームを屈折・偏向させる特殊兵装ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備、他の2機と同様にTP装甲を採用してるから防御面では無敵。破壊するには素直にバッテリー切れを待つか。
ん?…………ゲシュマイディヒ・パンツァーって、装甲の表面に発生させた磁場でビームの粒子を反発させてから、軌道を修正……って、事は密着した状態からのビーム兵器ならダメージを与えられる。
対艦刀やビームサーベルはもちろん、マイダスメッサーなら遠距離から攻撃できる。
どれだけ磁場の反発が強いかは不明だけど、軽いビーム粒子を反発させる為に作られたんだから、マイダスメッサーみたいな、重量がある武器となると弾くのは困難。
ちなみにパイロットの能力は、アズラエル理事が自慢したように、常人をはるかに上回る身体能力の数々に、人工的に調剤された脳内麻薬みたいな薬物で生み出される脳神経活動と集中力。簡単に言えばキラみたいな反射神経を持っている。
だが、その代償として、脳内麻薬みたいな薬物、文字通り麻薬の禁断症状があり、長時間の戦闘には耐えられない。
後は……
「あの質問ですが、強化インプラントステージって何です?」
「人を無視しておいて、言う事はそれですか!?」
「強化の進行度の事だ。つまり、高いほど精神破綻の度合いが大きい」
「バジルール艦長!」
「ありがとうございます。つまり、シャニが一番イッチャッテて、オルガは比較的まともな性格と?」
「そうだ。だが、あくまで比較的だな」
バジルール少佐の言い草だと、オルガも結構イッテルと……OK。
「じゃあ、戦りましょうか」
「え?」
「この連中より、私が強い事を証明します」
「ア、アルスター大尉、貴女、自分が何言ってるか分かってるんですか!?」
「ええ、もちろん」
「……で、コイツ、なに言ってんの?」
「さあな。取り合えず俺たちが舐められてるのは間違いないな」
「はん、おもしれえじゃん」
3人の視線に殺気が膨らんでいく。正直怖い……でも、負けるわけには行かないのよね。

「お初にお目にかかります。ユウナ・ロマ・セイランです」
「初めまして。ラクス・クラインですわ」
何で私までここに居るんだろ?
「彼女はルナマリア・ホーク。わたくしの協力者ですわ」
……確定ですか?
「全て知っていると? 腹心のような存在と考えても構わないので?」
「はい♪」
また断言された……私って、いつ腹心になったんだろ?
「では早速ですが、我がオーブは連合とプラントとの停戦を望んでいます。そのために、ぜひ御協力を頂きたいのです」
「その前に確認しておきたいのですが……わたくしとキラの事は?」
「…………聞いてます」
「それで、アスハ代表、新しく就任されたカガリ様は何と?」
「それは……」
言い難そうだ。でも、これで分かった。ラクス様の行動を本当に知っているのだと。
「安心しました。どうやら本当に全てご承知のようですわね♪ これで話しやすいというものです」
「どうも……それで、先程の答えですがペテン師だと言ってます」
「あらあら♪」
「参ったな……こうなったら、こっちも取り繕うのを止めます。それが望みなんでしょ?」
「ええ、察しが良くて助かります」
「では、本題の前に1つ聞かせて頂きたい。何故、我が国にNジャマー・キャンセラーを?
 貴女が聡明だとは承知してはいますが、いくら何でも、今回のオーブの行動を予見してた訳では無いでしょう? 下手すれば連合に渡っていました」
「カガリさん……そう呼んでもよろしいですかね?」
「ご自由に」
「カガリさんの決断は確かに想定外でしたわ。ですが、連合に渡すほど愚かだとも思っていませんでした。
 そうなった後の事を予想するのは簡単ですから」
「恥ずかしながら、僕は連合に攻められるのが怖くて、連合に渡そうと進言しましたがね。まあ、父にその後のテロ対策を考えてから、出直して来いと言われましたが」
「あら♪ 羨ましいですわ♪」
「へ?」
羨ましいって、何がだろう?
「それで、Nジャマー・キャンセラーを渡した理由ですが、パナマではザフトが勝つと予想しました。
 そして、次ぎの標的がオーブになると。今オーブを落とされると困ります」
「では、最初からオーブを仲介役に?」
「選択肢の1つとして考えてはいましたが、もっと単純な理由ですわ。オーブのマスドライバーが連合に渡っては、残りのザフトの戦力では、奪還が困難です」
「…………とすると、和平の前提に全てのマスドライバーが連合の手から離れる事が?」
「はい。そうで無くては、大西洋連邦は停戦のテーブルに付いてはくれないかと?」
「ですが、それは難しいでしょう。パナマが落ちればザラ派の支持は下がらないでしょ? だったら、プラントこそ停戦に応じるはずが無い」
「ええ、今は無理でしょうね。むしろ連合側の和平派の方が、今でしたら声が大きいのでは?」
「そう。今回の厄介な件は、例えば連合の抗戦派が負けて支持を失っても、プラント側で継続を望む。
 逆も然り。どう止めるかが問題なんですよ。ですから、次ぎの大きな戦闘で連合が勝てば和平派が動く予定です」
「難しいでしょうね。確かにカガリさんのアイディアは分かります。早く停戦したほうが良いと思わせる理由は充分にありますが、連合としては、これから一方的な勝利を掴むつもりなのでしょう。
 でしたら、取り合えずは地球からザフトを追い出すくらいまでは止めません」
「ええ、そうでしょうね。ですから、そこから充分だと…」
「その判断は任せますわ♪ 正直、そうなったら次はプラントまで攻める声を消せるとは思いませんが」
それは同感。徹底的にザフトを潰して有利な条件で停戦を結ぶ。連合はそう考えるはず。
「他に手があると?」
「一応、その前に、こちらから停戦を呼びかける機会があるでしょう。もう1度、マスドライバーを全てザフトが手にした上で」
「反撃して勝てるつもりですか?」
「その予定ですわ♪」
この人が、そう言う以上はそんなんだろうけど……どう考えても戦力不足……まさか私に期待?
無理だってば。いくら核動力でも数の暴力には勝てない。
「わかりました。その辺の判断は状況を見ながらと言う事で、はっきり言って戦争の推移を全て予見する事など不可能ですからね」
「ええ、そうですわね」
「では、これからが本題になります。よろしいでしょうか?」
「お願いしますわ」
……今までのが前フリ? もうヤダ。この人たち…… 

「今回、停戦を強く希望しているのはロゴスのメンバーです。これ以上の戦争の継続は、経済的に困難で、早く終わらせて欲しいと言うのが本音です。
 しかし、問題は例え終戦を迎えても、現在のプラントは信用が出来ません。正確に言えばザフトが」
「と、仰いますと?」
「では聞きますがザフトとは何です? 政権? 軍隊? プラントそのもの?」
「それは………なるほど、困りましたわ。一言では言えませんわね」
「そうなんですよ。元々はプラントは制圧されて植民地になった国では無い。あくまで理事国が作った会社なんです。つまり、ザフトの母体、黄道同盟は労働組合が一番近いでしょう。
 なのに、今は軍事力を持ち、政治を行っている。
 過去にも植民地が独立する事はありましたが、組合が独立しても国にはならないでしょ?」
「そうですわね」
「ですが、停戦後はプラントは国になるでしょう。そしてザフトは政府に」
「そして、ロゴスとしては、会社としての取引先が、企業では無く政府になりますわね」
「変な話でしょ? 企業でしたら互いの利益で付き合えますが、国同士は色々と確執が生まれます。
 ましてや、ザフトだと尚更です」
「ですが、現状ではプラント内の企業は全て国営になる。それだとお付き合いも難いですわね」
「ええ、ですから停戦後の世界を考えれば、プラント内の企業は民営化してもらった方が良いんですよ。
 それだと、政府を飛び越えて企業同士で付き合える」
「つまり、国同士だと戦争の被害者の声が色々と足を引っ張るから、企業同士で先に友好関係を結び、企業倫理の元で付き合えば良い。そして、互いに不可欠な関係になってしまえば、今後の戦争での抑止力になると?」
「ロゴスでは、そう考えています」
「さらに言えば、戦争をしていたのはザフトで、コーディネイターでは無いと、問題を摩り替えればコーディネイターと取引があっても企業としてのイメージダウンを和らげられますわね」
「はっきり仰る」
「ですが、それはプラントも同様ですから。良い方法だと思います」
「ありがとうございます。ちなみにお父上にも賛同は頂いていますが…」
「民営化とは国では無く、民が望んで行うもの。つまり、わたくしに民を誘導しろと仰るのですね?」
「はい。そのご協力をお願いします」
「承知しました。わたくしに出来うる限りの事をさせて頂きます」
「お願いします。それと、もう1つお願いがあるのです」
「何でしょう? わたくしに出来る事があれば」
「貴女にしか出来ない事です。1度、オーブへお越しください」
「オーブへ?」
「はい。貴女のコンサートをオーブで開きたいのですよ。カガリが見に行きます」
「………なるほど♪ では、その後、食事にでも誘っていただけるのでしょうか?」
「お察しの通り。御二人には友好を結んでいただく願っております」
「その願い、むしろ貴方やカガリさんでは無く、和平を願う民が、ですね?」
「ええ、良い宣伝になるかと」
「是非、こちらこそお願いしますわ。それにカガリさんと本当の友人になれたら、楽しそうですわ♪」
「ハハ……そうですね」
嫌そうだ。つーか無理そう? まあ、ラクス様の正体を知って友達付き合いは難しい。でも……
「では、日程に関しては、こちらの予定を調べて後ほど空いてる日にちを連絡しますわ」
「お願いします。それでは、今日のところは失礼します」
「今日はお越し頂き、ありがとうございました。その……ところでキラはどうしてるでしょうか?」
「彼ならオーブで防衛を固めるために動いています。ラクス様がオーブへお越しの際は、会えるように取り計らうつもりです♪ むろんカガリも承知してます。キラ君本人には聞かせてませんが」
「あら♪ ますます行くのが楽しみになって参りました」
うわっ! 生贄だ。凄いやオーブ。和平のための多少の犠牲は覚悟の上なんだ。
まあ、私には関係ないからいいや。それより……
「ラクス様♪」
ユウナさんが帰った後、ラクス様にゴマをする。
「どうかなさいましたか?」
「私、ラクス様に付いて行きます!」
そう。もちろんオーブに行くときは一緒に! 初めて光明が見えた。
「ええ、わたくしと貴女は一心同体ですもの♪ これからも、お願いしますね♪」
「……ハイ」
それは、さすがにヤダな……

「へえ、ラクスって人、婚約解消したんだ」
「………そうだな」
雑誌を見るマユちゃんとシン……シンの視線はラクスの写真に注がれている。
フフ、上手く行ってるみたい。以前だったら絶対に目を背けたのに。
「こんなに綺麗な人なのに何でだろ?……お兄ちゃんはどう思う?」
「うん。そうだね。本当に綺麗な人だね」
僕も写真を見る………………うん。綺麗だ……むしろ可愛いや。僕は彼女と10年以上連れ添った。
そう。素敵な女性なんだよ。だったら、何故シンとくっ付けようなんて………そんな! ラクスは僕の恋人なのに!……………って、アレ?
「まさか……」
シンを見るとニヤニヤしてる。
「―っ!」
「お兄ちゃん?」
ダッシュで自分の部屋に………このマクラは? シンに渡したマクラ!?
「どうやら、気付いたようだな」
部屋の入り口にはシンが……
「は、謀ったねぇ! シィィィン!」
「アンタが言うなぁぁぁぁ!」
「な、何て事を……」
「そりゃ、こっちの台詞だ。何だかラクスの写真とか見るとドキドキするから変だと思ったら」
「なんだか、お互いにヤバイ事になってる気が?」
「ああ、この状態で会うと危険だ。本気で口説きそうだ」
「僕も……この装置は封印する」
「そうしろ。まったく、当分は会わないだろうが……つーか、アンタ、そんなモン作れるなら前の世界で自分に使えば良かったんじゃないか? もしくはラクスで他の奴に」
「……………それを先に言ってよね」
「知るか! とことん才能を無駄遣いしやがって!」

続く

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