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第4話「兄と弟と」

Last-modified: 2016-08-23 (火) 22:32:13

ガンダムビルドファイターズ side B
第4話 「兄と弟と」

「いやー、それにしてもラッキーだったな。」
帰りの軽トラの中で、大地が上機嫌で言う。
「何が?」
「組み合わせだよ、組み合わせ。準決勝が俺とお前ってことは、どっちか一人は確実に
決勝に行ける、ってコトだろ?」
「そりゃそう・・・だけど。」
 宇宙は困惑していた。ズブの初心者がいきなりベスト4まで進んだだけでも異常な事態なのに
次の対戦相手は兄、しかも自分のガンプラ[トリック・スター]の実質半分は兄が作ったようなものなのだ。
その兄と・・・

 

 勝ってもいいのだろうか。
 本気で戦ってもらえるんだろうか。

 

 農家の跡取の兄にはガンプラに賭けた夢がある。世界大会に出場し、かつての憧れの人と
もう一度本気で対戦してもらう事。
そんなささやかな兄の夢を、万が一自分が奪ってもいいのだろうか。

 

 年の離れた兄は、弟と何をして遊ぶにも本気を出すことは無かった。適度に手を抜いて
勝ったり負けたりを繰り返していた。3人組に聞いた話「接待プレイ」のくだりもすぐ納得できた。
小さい子供も多くいるガンプラバトル、多分兄はバレないように負けてあげてたに違いない。

 

 出来れば兄の夢を叶えてあげたい、でも一度、本気の兄と戦ってみたい・・・。

 

「なぁ宇宙」
宇宙の考えを遮るように大地が話し始めた。
「悪いけど、俺は世界大会に行くぜ、それが俺の夢だからな。・・・だから、本気で行くぜ、負けても泣くなよ。」
まるで宇宙の考えを見透かしたように語る大地。
「頭のいいお前は察してると思うが、俺はお前と何かする時、本気を出したことは無ぇ、
 そういうの、人によっては「良くない事」みたいに言われるけど、俺はそうは思わない。」
「兄ちゃんの憧れの人みたいに?」
「ああ、俺がお前より小さかった頃、初めて作ったガンプラで「勝たせてくれた」あの人のおかげで
 俺はここまでガンプラが好きになったんだからな。だから、この勝負は譲れない、もう世界は目の前だからな。」
「分かった、っていうか望むところだよ兄ちゃん。」
ずっと本気で戦いたかった兄と、ようやく戦うことが出来る。宇宙の迷いは無くなった。
「お、俺に勝てるつもりか?俺はそのガンプラの長所も弱点も知り尽くしてるんだぜ?」
「やってみるよ、僕に出来ることを。」

 
 

「ただ今より、ガンプラバトル世界選手権、東四国予備予選の準決勝、第一試合を開始します!」

 

 −里岡宇宙 VS 里岡大地ー
スクリーンに対戦者の名前が掲げられる。同じ名字を持つ二人の登場に会場がどよめく。
両者がガンプラをセット、特に変わりの無いトリック・スターに対し、ヅダは背中に巨大なコンテナを担いでいる。
「見せてやるよ、宇宙。「本気」っていうのがどういうものなのかをな。」
舞台を粒子が覆いはじめる。中央モニタには[DAMAGE LEVEL B]の表記、受けたダメージに合わせてガンプラの接合部が
外される設定。だが、接着剤使用のトリック・スターがダメージを受ければ最悪修復不可能もありうる。
それを承知での大地の「本気」が牙を剥こうとしていた。

 

 トリックスターはいつものように、テイクオフ直後から機体を回転させ、エネルギーをチャージする。
そこに猛烈な勢いで突っ込んでくる大地ヅダ・セイバー。
「来た!やっぱり。」
最初の初動を見逃すはずが無い、と踏んでいた宇宙は開始直後の仕掛けを読んでいた。
機体を止め、盾を横に構えて初弾を防ごうとする・・・が、攻撃は無かった。
ヅダはトリックスターの周りをジグザグに飛び回りながら、何かを撒き散らしている。
「・・・あれは、機雷か!」
観客の誰かが叫んだ。確かに、あれはギャンが使用する機雷だ。しかし・・・何という数の多さ!
「あのコンテナの中、全部機雷なのか!?」
一体何機の機雷がばら撒かれたか、少なくとも二人のいる宙域ではもはや満足に動くことすら出来ない。
「トリックスターは動くほどに性能を増す機体だからな、まずは動きを封じさせてもらったぜ!」
「くっ・・・でもそれじゃ兄ちゃんもロクに動けないよ。砲撃で勝負!」
狙いを定め、キャノンを発射するトリック・スター。ヅダはそれを寸前でかわすと、そのまま高速で
機雷の海に身を躍らせた。

 
 

 ありえない動きだった。高機動型のヅダがその出力を全開にしながら、機雷の海を縦横無尽に高速移動、
逆噴射で停止し、アンバック(腕や足の振りによる反動)で素早く向きを変え、別方向にすっ飛んでいく。
その華麗で見事な技術に会場中がどよめき、やがてヤンヤの大歓声に変わる。
「す・・・すごい!」
「当然さ、撒いた機雷の位置は全部覚えてる。目をつぶってても動けるぜ。」
言いながら足元に装備されたマシンガンに手をやるヅダ。
「くっ、まずい!」
火を噴くヅダのマシンガン、弾丸がトリック・スターの盾を叩く。その反動で押されるドリックスターの先には機雷が!
「うわあああっ!」
一度機雷が爆発すると、その反動で飛ばされ別の機雷に衝突する、まさにピンボールのように弾かれ続けるトリックスター。
ようやく収まったと思えば再びヅダのマシンガンがボールを弾き、そしてまた多数の爆発に巻き込まれる。
両横の盾によってなんとか致命傷は免れているが、完全に「詰み」の状態だった。

 

「このままじゃダメだ、なんとかこのエリアを脱出しなきゃ・・・」
爆発で機雷の海にも少々の隙間は出来た、2〜3発は当たるだろうけど、あのスキマを突っ切れば・・・そう決心して全開加速する。
案の定2発の機雷を爆発させたが、弾かれながらもなんとか機雷の海を脱出する。
その背後にヒートホークを構えたヅダがいた。
「いらっしゃいませ。」
皮肉の効いた一言と共にヒートホークが打ち下ろされる。ボール唯一の飛び道具である砲塔がコナゴナに破壊されてしまった。
「うわっつっ!」
その場を離脱するトリック・スター。しかしもう離れての攻撃手段がない、接近戦でないと・・・
「・・・あ!」
今、兄のヅダは機雷の海を背負っている。今ここから突撃すれば、少なくとも後ろには逃げられない、千載一遇のチャンスかも。
「ここだ!」
一度距離を開けてから、ヅダに向けて突撃するトリック・スター。盾の先のビームダガーをオンにして、左右の盾を少し上下にズラす。
ドリルのような回転を付けながら突進するトリック・スター。
「スパイラル・ドライバーっ!」
「そう来ると思ったぜ、甘いぞ宇宙!」
なんと逃げるどころか突っ込んでくるヅダ、さらにヒートホークを自分の左肩にあてがう。
「その技の弱点は、中央部にわずかにできる隙間だ!」
左手を前に構え、シールドに付いた白兵戦用ピックを前方に向ける。
「ダメージレベルBなら、こんな使い方も出来るんだぜ、宇宙。」
左肩にあてがったヒートホークを関節に差し込み、こじる。すると左腕がキレイに体から切り離される。
そのままピックの伸びた左腕がトリックスターに突っ込んでいき、ドリルの隙間をすり抜けてボール部分に直撃した!

 
 

「勝ったっ!」
 まるでタマゴのように綺麗に真っ二つに開くボール・・・開く?
「後ろ向き、だと!?」
「兄ちゃんなら、必ずこの技の隙間を狙ってくると思ってた。」
兄の狙いを読んだ宇宙は、背中向きに必殺技を放っていた。
背中にチョウバンがあり、そこで開閉するこの機体は、背中から攻撃を受けると簡単に”開く”。
それにより弾き出されたミニボールが、盾から砲塔を装備する。狙いは1箇所、外した左腕の関節穴!

 

「いっけえぇっ!」
放たれた一撃は、見事左脇の穴を通過し、内部に吸い込まれていく。
次の瞬間、ヅダは内部から崩壊し爆発、四散した。

 

−BATTLE ENDED−

 

 数瞬の静寂の後、拍手に包まれる会場。
その中、分解されたヅダを抱えて大地が宇宙に歩み寄る。
「狙ってたのか、あれ。」
「うん、僕にはこれ以上の改造は出来ないし、なにかひとつでも作戦をって考えたんだ。」
「そっか。」
それ以上何も言わずに舞台を後にする兄、弟も少し離れて後をついていく。
そのまま控え室まで二人は無言だった。

 

 −続きまして、準決勝第二試合を行います−

 

「おっと、さぁ決勝の相手をチェックしとかなきゃな。」
ケロッと言って宇宙に目をやる大地。
「立ち直り早いね。」
「ま、負けちまったもんはしょがねーよ、今後はビルダーとしてサポートしなきゃいけないからな。」
「うん、お願い。」
 そもそもコナゴナになったボール自体、宇宙では直せない。兄の助けは何より有難いし
悔しさを隠して陽気に振舞う兄を見ると、その分まで頑張る気にさせる。
「ま、河野の圧勝だろうけどな、あのクロスボーンはマジでシャレにならねぇよ。」

 
 

−BATTLE ENDED−

 

 会場内が凍り付いていた。優勝候補筆頭のクロスボーンは見るも無残にへしゃげ、ひん曲がって横たわっている。
対戦相手のマックスターは全くの無傷、あの河野がカスリ傷ひとつ負わすことも敵わなかったとは。
ヒザをつく河野に冷ややかな目つきで語るミスターG。
「強さだけを求め、あれやこれやと装備を重ねても、通用するのは団体戦くらいだ。
 真に強いガンプラは、その元機体の特性を生かすことこそ肝要なのだ!」
この対戦を見た後だと説得力があった。高出力レーザーもサーベルも弾幕も、マックスターは全て拳のみでなぎ払ってきた。
マックスター本来の持つパンチの強さを極限まで高めたこの機体の前に、クロスボーンは小枝のごとくへし折られた。
「お前のガンプラは3年前のルーカス・ネメシスの真似にすぎん、自分の機体で勝負出来ない輩に世界大会は門を開けはせんよ。」

 

 その言葉を聞いた河野がはっ!と顔を上げる。
「もしや、貴方は・・・」

 
 

−同時刻。スイス、レヴィントン家−

 

「もう1週間ですよ、どうしましょう旦那様・・・」
執事が困り果てた顔で泣きつく、サー・レヴィントンも頭を抱えている。
「久々に出たか、熱中するのは本来良いことなのだが、こうも極端ではのう・・・」

 

 部屋の中、愛娘エマ、レヴィントンはガンプラの本を一心不乱に読みふけっている。
TVにはガンダム関係のDVDが延々流され、傍らにはすでに完成させたガンプラが数十体、未完成の箱は100にも及ぶ。
例のパーティの後、この部屋に篭って1週間、食事や睡眠はおろかトイレにすら行っていない。

 

「健康状態はどうか?」
「幸いそちらは問題ありません、6歳の時にチェスの勉強をなさってた時は救急車を呼びましたからねぇ・・・」
「本を読むのに夢中になって、よもや呼吸を忘れるとはなぁ・・・」
「日本では没頭するのに過ぎることを『オタク』と呼ぶそうです。しかし本場日本にもエマ様ほどの
 『オタク』はまずおりますまい。」

 

 −異常集中力−

 

 エマ、レヴィントンが生まれながらに持つ能力。一度何かに集中し始めると、他のことが一切目に入らなくなる。
チェスも、フェンシングも、そうやって短期間でモノにしてきた。
あのパーティ会場で言った「手慰み」は決して毒のある言葉ではなく、自分には短期間のキャリアしかない、
長くそれ1本でやってる人には思い入れの面で及ばない、という意味だったのだ。

 

 ガンプラ世界を震撼させる大ニュースが発表されるのに、あと1ヶ月・・・。

 
 

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