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地球と火星ー二つ星の戦争-

Last-modified: 2014-08-11 (月) 14:28:22
 

「地球と火星ー二つ星の戦争」より、"AG.141年・L3"の節

 

激動となったゼハート時代も141年4月20日に終り、ヴェイガン地球侵攻軍の新司令官としてゴドフロ・シェルナが火星から旗艦ファ・メナスに着任したのは5月3日のことであった。若年だった前任者と異なり、20年以上の軍歴を重ねていたが、前線での勤務は無かった。
このころ、火星のヴェイガン中央指導部では地球圏の戦線を整理・縮小するべく研究が進められていた。相次ぐコロニー襲撃に加え、3月のビッグリング、4月のノートラムと攻勢が続いたことにより消耗した各部隊の戦力を集中し、来るべき次の攻勢に備えるという構想であった。
この方針に対し、主戦派の若手将校や前線の将兵からは反対の声が上がった。彼らは、「自分たちが血を流して開いた戦線をみすみす手離すのか」「先の攻勢の失敗の原因は若輩者の指揮官にある。今度こそ地球への直撃作戦を遂行する」などの主張を繰り返していた。

 
 

シェルナとその司令部は、元々このような強硬論者の支持を受けたものであり、彼らの主張を無視することはできなかった。
6月末よりシェルナは各地の予備兵力の算定と連邦側の配置の偵察を幕僚に指示すると、9月15日にはL3の工業コロニー・エセン、ボーハム、ディスバーグを目標とした攻撃計画を策定し、L3への兵力の移動を命令した。
この一連の動きは中央指導部の意に反するものであったが、イゼルカントは容認する意向を見せたために、なし崩し的に許可することとなったのである。

 
 

こうして、11月10日、ペトリエ・ガラス司令の統率のもとに母艦4隻、MS107機からなるヴェイガン艦隊がスランカムより出撃し、ノートラム戦役最後となる攻勢であるエセン作戦が開始された。

 

唐突ともいえる動きであるが、連邦軍司令部の対応は迅かった。のちの「TARAC研」となる情報部内の特務機関を中心とした偵察活動により、ヴェイガン側のL3への兵力の集積の動きを掴んでいたためである。
連邦側にとって、この戦争はじまって以来の完璧な事前情報収集であり、フリットはじめ軍高官は、自らの改革による一つの成果が示された、と自信を深めた。
スランカムを監視していた情報部部隊がヴェイガン艦隊の出撃を発見報告すると、フリットは即座にクリスティアン・クラエス少将率いる第3艦隊を迎撃にさしむけた。
両司令部の協議において、敵の侵攻方向にあるボーハムの宙域での会敵、試験運用中の"ターボル"コロニー宙域防空システムの投入が決定されていた。さらに翌11日には、後詰めとして第7艦隊、軌道防衛艦隊に出動準備が命じられた。

 
 

11月14日夕刻、ボーハム近傍の宙域で、連邦側の戦艦12隻、MS145機と、ヴェイガン側の母艦4隻、MS107機が衝突した(ボーハムの戦い)。
ヴェイガン側はこれまでのように内通者からの情報を得ることができなかったために搦手を使えず、正面からの艦隊決戦に持ち込まれてしまった。
また、MSの不足により、ファ・レーゼ、ファ・ケルス、ファ・ブールの三隻の艦載MS隊は定数を揃えられたが、旗艦ファ・アークの艦載機は不足していた。
ガラス司令はこのファ・アークMS部隊を予備兵力として留め、コロニー攻撃のために温存することにしたが、麾下の指揮官たちは反駁した。
「ただでさえ数で敵に負けているのに、さらに自ら頭数を減らすのか。事前の情報を鑑みるに正面の艦隊こそがこの方面の敵の枢要であり、これを全力をもって叩くべきではないのか。」との主張である。
その場はなんとか抑えられたが、その後の指揮統率において、ガラスは常に麾下の各級指揮官への一定の「配慮」を強いられることになる。

 

連邦艦隊は3隻一組として、横長の布陣を敷いていた。
ファ・レーゼ攻撃集団の29機は中央へ、ファ・ケルス攻撃集団27機、ファ・ブール攻撃集団28機は側面から、連邦艦隊に食らい付いていった。
三手に別れた各集団は、露払いの艦砲を掻い潜ると、五月雨のような連邦側MS部隊の迎撃にあった。これらはそれぞれが1,2小隊ほどで、反撃するとすぐに退いていったが、ヴェイガンMS隊の編隊は乱れた。
ヴェイガン側の進撃に併せて艦隊は後退する動きを見せたが、ガラスとその司令部は連邦側に消耗戦に引き込もうとする意図を認め、MS部隊に蹂躙・殲滅に拘らずに、中央集団の突破と両翼からの包囲を指示すると、自らも艦隊を前進させた。
しかし、この命令が行き渡り、実行される前に連邦軍は隊列を整え、編隊を再編中のヴェイガンMS隊に艦砲とMS部隊による十字砲火を浴びせた。
ヴェイガン部隊は前進してきた母艦の援護のもと、どうにか後退に成功したが、敵の潰走を見たクラエス司令は自軍に前進を命令し、戦線は押し戻されてしまった。

 
 

一度目の攻撃に失敗したヴェイガン艦隊ではMS部隊の再編成と次の攻撃の準備が進められていたが、前線のMS隊と各艦の指揮官から、予備兵力の投入、さらには子艦を分離させて前線に出すことへの催促がひっきりなしに司令部に届いていた。
初回の攻撃の損害から、ガラス司令はここに至って方針を変更し、直属としていたファ・アーク攻撃集団をファ・レーゼの集団に合同させ、中央の衝撃力を強化した。
加えて各艦から子艦を分離させ、MS隊の援護として投入した。戦術そのものは変わらず敵艦隊の包囲・殲滅であるとした。

 

11月15日朝、9隻の戦艦を伴ったヴェイガン部隊が進撃を開始したとの報に接したクラエス司令は、敵部隊の規模と前日の戦闘での報告をつきあわせ、ヴェイガン側は予備兵力を投入していると判断した。この「本命」を叩くべく、ターボル・防空システムの投入を命じた。
艦砲の援護の下、ヴェイガンMS隊は連邦艦隊への攻撃を開始した。作戦は順調に進み、とくに中央集団は強力な突破力を見せていた。
連邦側も抵抗し、側面の包囲を防いでいたが、抗しきれないのか陣形を崩して後退を重ねてゆき、ヤマモト、フレドリクソン、ソビエスキが損害を受けた。
中央集団は1時間足らずで突破に成功した。ファ・レーゼ攻撃集団指揮官セテル・マルムより報告を受けたガラスは艦隊の前進を命令し、併せて両翼の集団の陣形を敵後背に伸ばさせて、包囲を完全にしようとした。
ヴェイガン艦隊司令部は「勝った」というムードに包まれようとしていたが、異変は直後に起こった。

 
 

突如、1機のドラドが爆発したのを皮切りに、MSが次々とコロニー方向からの砲撃で撃破されていった。
それだけではなく戦艦にもより大威力の砲撃が浴びせられ、大破させられていた。防空システムの作動によるものであったが、混乱したヴェイガン部隊は陣形を乱し、一時的に後退していった。
これを好機と見たクラエスは自軍に反攻を指示すると、敵両翼の後退の隙をついて艦隊を二手に分け、ヴェイガン部隊に左右から逆包囲して集中砲火を浴びせかけた。
初戦の二の舞となったが、今度は全軍が一ヶ所でまとめて攻撃を受けたため、より破滅的な結果となった。慌てたガラスは、連邦軍がMS隊をもって包囲の環を閉じる前に艦隊を脱出支援に向けた。
前線部隊もマルム隊などのMS隊が血路を開き、殿を務めることで辛くも脱出に成功した。

 
 

深追いを避けて早々に追撃を打ちきり、艦砲を撃ちかけるだけとなった連邦側を尻目にヴェイガン艦隊はMS隊を収容すると、"見えざる傘"に隠れながら撤退した。
母艦に収容されたMSは合計41機。ヴェイガン艦隊は艦載機の60パーセントを失ってしまったことになる。さらに、子艦も投入した9隻のうち4隻が大破・撃沈されていた。
連邦側はMS40機ほどの損害のほか、沈失した艦はなかった。
ノートラム戦役の他のいくつかの戦いと同じような性格の、正規軍たる連邦軍と民兵の要素が強いヴェイガンの組織力の差、戦争当初のヴェイガン兵器のアドバンテージの喪失が現れた戦いであった。

 

エセン作戦の失敗を知ったヴェイガン地球侵攻軍司令部は騒然となった。
強硬論者は主張を下げ、ガラス司令の責任を追及する者たちが出てきた。それは同時に、彼を任命し、作戦の立案・構想に責任を負うシェルナへの追及にもなった。
しかし火星の中央指導部の決定により、現在、戦線の整理・縮小を進めている中で、上級指揮官を二人も処分することは計画に不都合を招くとして両名の処分は保留とすることとされ、既定路線の更なる推進が命じられた。
ヴェイガンの大敗となったこの戦いは皮肉にも、20年あまり後の次期作戦に進むための準備に一役買うことになった。

 
 

作者注
※ちなみに「スランカム」はL3のヴェイガン側の拠点で、もとは資源衛星という設定です

 
 

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