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鉄《クロガネ》SEED_2-3

Last-modified: 2008-02-28 (木) 02:07:41

「啼いておる……」

「どうしたの?」

「ツヴァイが…… 啼いておる……」

 

男が見上げる視線の先には五十メートルにも及ぶ巨大な阿修羅の如き起動兵器が、腹の底に響くような唸りを上げていた。
確かにその顔に値する部分には確かに涙腺のような線が浮かび上がっていた。

 

「ふふふ…… ツヴァイよ、失われた半身が疼くのか?」

 

暗い笑みを漏らしつつ、男はその巨神を魅入った様に見つめている。
火山の胎動が如き震動は、収まることを知らぬが如く鳴り響き続けていた……

 
 

鉄《クロガネ》SEED 2−3 「決着、そして……」前編

 
 

「限りなくドンピシャのタイミングだな」

 

コクピットから眼下を見下ろすカイが呟く。
ステルスシェードで敵の監視域を抜け、最大戦速でユニウスを貫く。
巨大な艦首回転衝角を持つクロガネだからこそ出来る最短、最速コースである。

 

「あれは、グルンガスト弐式」
「ああ、どうやら我等は後手に回り過ぎていたようだな」

 

艦橋の上に立つ三機は、クレーター外縁部に立つ一際巨大な機影を見下ろした。
神話に出るような神々しい金色と青に染まった巨人……
やはりシャドウミラーによるテロ実行部隊への意図的な技術的、装備的まな支援はもはや彼らが抑えるできない処まで来てしまったようだ。

 

「おのれシャドウミラー。我々の世界だけでなくこの世界にまで干渉してくるとはな」

 

敵の周到さと後手に回ってしまった自らへの憤りにカイがぎり、と歯軋りする。

 

「教官!!」
「シンか?」

 

と、彼らの目前にミネルバ隊のMSが三機の前に降り立った。どうやら四機共目立った損傷は無い様だ。

 

「ゼンガー教官、この戦艦は一体……」
「話せば長くなる、今はユニウスを止めることに集中したまえ」

 

すかさずレーツェルがシンの問いを受け流す。

 

「……今はまだ話すべきではない。来るべき日まで」

 

ゼンガーも同様に回答を拒否する。が、シンは暫しの沈黙の後首を縦に振った。
それほど長くはないが、彼等…… 特にゼンガーに剣術や機動兵器の扱いの手解きを受け、師事してもらったつもりである。
彼らが嘘やまやかしを言う人間ではない事は十分理解しているつもりである。

 

「教官達がそう言うなら、俺、信じますから」
「……すまん」

 

自分を信じる部下に真実を語ることが出来ない……
以前にも感じたことがある罪悪感に、ゼンガーは唯、謝ることしか出来なかった。
その空気を呼んでか、ルナマリアが通信に割って入った

 

「と・も・か・く!! 今はどうやってテロリストを排除して、ユニウスを破砕するか?でしょう?」
「ルナマリアの言う通りです。ミスターアレックスも、よろしいですね?」
「勿論、この問題に対してはオーブの人間である俺には何の口出し出来ない。それより……」

 

アレックスは、再度機体のモノアイを目下のテロリストのMS部隊に向けた。
こちらがこの艦に接触した時点で、こちらも敵と判断したらしい…… すでに各々得物をこちら側に構えている。
当面の全滅の危機は脱したが戦力差は依然テロリスト側が有利、増援が来てくれたとはとはいえ、数の上では圧倒的な不利に立たされている。
そしてあの金色の機動兵器…… スペック的には未知数だが、あの機体から発する怨念にも似た闘気は、並々ならないものを感じる……
厄介な相手だ、とアレックスはひとり呟く。
実戦を遠のいて一年ほど…… 今の自分にこの戦闘から生き残れるほどの腕があるのか?
アレックスの首筋に緊張の汗が落ちる。

 

「……全機傾注!!」

 

カイの一言でアレックスは一気に現実へと引き戻された。そうだ、今は戦闘に集中しなければ

 

「三分後にこの艦、『クロガネ』が砲撃を行なう。
 ルナマリアは艦上より各MSへの砲撃支援、俺とレーツェルとレイ、そしてアレックスはMS部隊を攻撃」
「承知した」
「了解」
「分かりました」

 

各コクピットのモニターにこの艦を中心としたワイヤーフレーム状の3Dモデルが浮かび上がる。
七つの青い点が味方、クレーターの外周し沿って点在する赤い点がテロリストのMS部隊を指している。

 

「シン、お前はコイツだ」

 

カイは一際目立つ赤い点を指す。それが意図するものは、シンにあの巨人の相手をしろ。ということである。

 

「お、俺だけで!?」
「ふふ…… 怖気づいたか?」

 

あんまりと言えばあんまりな命令に、さすがのシンもたじろいでしまう。
その反応にゼンガーは意地悪そうに口の端を歪めた。

 

「ふふ…… 怖気づいたか? シン・アスカ」
「も、問題ありませんっ!!」
「安心しろ。奴にはゼンガーも当てる。むざむざお前を無駄死にさせる訳にも行かないのでな」
「『アイアン3』より各機へ…… カウント3で本艦は主砲を斉射します」

 

直後にクロガネから通信が入る……時間である。各機体が其々のターゲットへ照準を合わせる

 

「3……2……1、主砲、発射します!!」
「いざ!!」

 

一瞬の閃光をバックに6機のMSが地上の獲物へと踊りかかった。

 
 

全身を緑に染め上げたMSが、ハイマニューバと対峙する。辺りのMSは粗方撃破され完全に1対1のタイマンになっている。
ハイマニューバは両手で構えた重斬刀を上段に構え、緑のMSは左肩を前に出した唐手の型で、双方動かぬまま、時が過ぎて往く……
先に動いたのはハイマニューバの方、刀を上段に構えたまま背中のスラスターを全開にして突進する!!
一方の緑のMSは右の拳を少し下げたまま、微動だにしない……
双方の距離が数十メートルまでせまった時、緑のMSが拳を突き出そうとする!!
しかしこの距離では腕の長さが足らず拳は空を切ってしまう。
ハイマニューバのパイロットはそう判断し、あえてそのまま体勢を変えずに突進する。
この時、敵のMSの腕が稲妻のような青い光を放っている事に気が付けば、彼の運命も変わっていたかもしれない。
緑のMSは右の拳の形を手刀の形に変え、そのまま体ごと敵に突き出した。
しかし敵との距離はあと数十センチ足りない!! 目測をあやまったか?
と、緑のMSの腕の稲妻がいっそう光り輝いた。

 

「うおおおおおっ!!」

 

パイロットの雄叫びと共に腕に内蔵された電磁レールが手刀を神速の槍へと換える!!
稲妻と共に延びた腕部のフレームはやすやすとハイマニューバの胴を突き破り、爆砕させる。
パイロットは最期の瞬間、何が起きたかを理解できなかっただろう。

 

「この拳一つで勝てるとは思わん。だが、この拳を舐めるなよ!!」

 

カイ・キタムラの駆る先行試作型『グフ』・改……
格闘戦を主観に置いて設計されたグフの先行試作型をベースにフレーム強度と出力の強化し、
フライトウィザードと量産型に搭載される予定のビームソードを排し実弾式のショットガンを左腕に固定装備、
さらにクロスコンバットを主眼にチューンされたMSである。
その最大の特徴はその右腕の「プラズマ・フィスト」、特殊合金製電磁式射出アームである。
その神速の拳は彼の近接格闘技術と相まって絶大なものとなる。

 

「射出のタイミングが早すぎたか、まだまだ改良が必要だな……」

 
 

鋼鉄の黒馬が戦場を駆け抜ける…… 
そのスピードは歴戦の戦士であるはずのハイマニューバのパイロット達にすら捕らえきれるものでは無かった。
黒馬が去り抜き際にMSがまた一機、胴をビームの閃光が貫いた。
クレーター外縁の坂を利用してUターン、塵と岩石の黒煙の中モノアイが妖しく光る。
残る敵は三機、数の上では圧倒されているはずだが、そのMSは臆する事無く背中のブースターを一気に吹かし駆け抜けていく……
四足獣を模したボディ、黒に金と赤のカラーリング、モノアイの上、額に当たる部分に刻印された紋章、
レーツェル・ファインシュメッカーが駆る愛馬(トロンベ)『ガイア・トロンベ』である。
背部のビームウイングの変わりに二対のサブ・アームを取り付け、そこに大型ビームライフルを装備し、
内蔵式の大型ブースターを追加し、本来のグリフォンを思わせるシルエットから鋼鉄の軍馬と化している。
原型は四肢の制御技術を評価する機体の為、
MSへの変形機構はオミットしており搭乗者本人の「其方のほうが好みだ」という希望から、非変形型MSとなっている。
ある意味、バクゥ、ラゴゥから続く局地戦MSの純粋な発展系とも言える機体である。

 

「捉えられるか?我がトロンベを!!」

 

二挺のビームライフルの照準をそれぞれ敵機に合わせ、鬣を模したビームカッターを起動し、残りの一体に飛び掛る。
鋼鉄の黒馬は敵を頭から胴までを切り裂くと同時に二機の胴体をも撃ち貫く。全くの同時に三機のMSは火球に包まれた。

 

「……新たなる我が愛馬よ、その名の如く竜巻となれ!!」

 

黒き竜巻……レーツェル・ファインシュメッカー。その青き瞳は、後悔と贖罪のグラスに覆われている……

 
 

「これが…… 教導隊……」

 

アレックスはその華麗ともいえる操縦技術に、此処が戦場だという事も忘れて見入られていた。
が、それと同時に彼の脳裏にはある疑問が湧き上がっていた。
確かに彼らは教導隊という名に相応しき腕前を持っている……
しかし、彼らほどの腕前を持つMS乗りが今の今まで表舞台に出てこなかったと言うのは不自然だ。
仮に裏の世界の住人だったとしても、彼らほどの腕前ならば噂程度のレベルで何処からかその存在を伺い知ることが出来ただろう……
戦後たった一年で突然現れた謎の集団…… 教導隊、彼等なら何か手がかりを掴んでいるのかも知れない。

 

この世界の『異変』を……

 
 

『うおおおおおっ!!ブウウウウストォ、ナァックル!!』

 

それだけでMSの胴体ほどもある巨大な鉄拳が文字通り「飛んで」くる。
普通の人間、通常のMSならば、この圧倒的な光景をみた瞬間、全ての戦意を消失させるだろう。
しかし、鉄拳の進む先に居るこのMSと、この男は違った。
鎧武者の様な外観の中に光る単眼がかろうじてこの機体がZGMF系列のものだと識別できる。
張り出した肩、通常のザクより二周りほど大きい腕、流線型に尖った頭部、そしてその上にはG型の様な二本のツノ、
しかしG型と比べて此方はツノの中ほどで内側に折れ曲がっている。
これが、ゼンガー・ゾンボルトの駆る彼専用のMS『CO・ZENGER』である

 

「破ァ!!」

 

鋼色のザクはその拳を両手に持った自らの全長程の諸刃の大剣で切り払うと、一気に距離を詰め、
その剣を巨人の頭上から一気に振り下ろした!!
しかし、その一刀は巨人のもう一つの腕に遮られてしまう。しかし、それはゼンガーの予想の範囲内でもあった。

 

「今だ、シン!!」
「はいっ!!」

 

巨人の背後に現れたのは、シンの駆るインパルス、トリコロールに染められたMSはその手に持った剣を振るう。
剣の全長が延び液体金属を固着させた実剣からビームの刃を持つスラッシュモードへ、
必要に応じて姿形を変える斬艦刀、シンの愛刀である。
コクピットのコンソールに15分のタイムカウンターが表示される。スラッシュモードの出力リミットだ。
シンはその身の程を大きく超える長剣を巧みに操ると、巨人の死角から一撃を見舞う。狙うはその背中!!

 

「食らえっ!!」
「ぬうっ、小癪なぁっ!!」
「いかん!! 下がれシン!!
「うわっ!!」

 

巨人の背部に付いた辮髪のようなスタビライザーが根元から切り取られる!!
だが巨人もやられてばかりではない。殺気を背後に感じると、後部スラスターを全開にし、MSを火達磨にしようとする。

 

「危なかった……」

 

どうやら間一髪で噴射炎から逃れる事が出来た。
安堵の息を吐く、が、その油断が突如目前に現れた巨大な足に気付くのを遅らせてしまった。
ガァン!! という激しい衝撃と共にインパルスが吹き飛ばされる。
まるでMSごとミキサーにかけられたように滅茶苦茶に吹き飛ばされる。
二、三回バウンドした後、インパルスは岩山に衝突し、シンは意識を失った。

 
 

「シン!!」

 

50メートルを超える巨体がコゼンガーに向けられる。しかし次に向けられたのは、弐式からの通信の声であった。

 

「さて、邪魔者は居なくなった……
 ザフト最強と謳われる教導隊、その中でも特に剣撃戦に秀でた男が居ると聞いていたが……
 なるほど大した腕前だ」

 

声の主はゼンガーを敬服するような声色だ。ゼンガーは黙したまま次の言葉を待つ

 

「俺の名はサトー、ジン・サトーだ、貴様は?」
「ゼンガー、ゼンガー・ゾンボルトだ」
「ゼンガー…… その名、覚えておこう」

 

何故かその声は、歓喜とほんの少しの羨望が混じっていた。

 

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