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鉄《クロガネ》SEED_3-3

Last-modified: 2008-06-04 (水) 00:17:59

『ミネルバ』中層部にあるクルー待機室は警戒態勢時のパイロットの待機場所であると同時に一同の憩いの場でもある。

 

「あれ、シンじゃない。どうしたのよ?」

 

半舷のため開けっ放しになっているドアから見知った人影を見つけたルナマリアは、同僚との会話を切り上げ人影、シンに駆け寄った。

 

「ルナか……」

 

どうやら浮かない顔をした少年はルナマリアの顔をじっと見つめる。ルビーの如く鈍く輝く瞳は少女の顔をまるで血に染まったかの様に写しこんでいる。

 

「ど、どうしたのよ、シン!?」

 

いつもはこんな時「なんでもない」と無神経に言い放つシンが、今日は何かがヘンだ。何時もは竹刀を振り回しているという意味でヘンだが……
普段とは全く違う雰囲気に、ルナマリアも鼓動は跳ね上がってしまう。

 

「なぁ、ルナ…… 死んだ人間にやれる事って、何がある?」
「はい?」

 

曇った瞳のシンの台詞に何故か肩透かしを食らってしまう。

 

「死んだ人間に対して、俺達は何が出来るのかな、って」
「……なるほどねぇ、とりあえず言うべきことと言いたいことを言いなさいよ。あんたがさ、」

 

オーブはシンの故郷でもあり、最愛の家族を喪った場所でもある。終戦以来全く足を踏み入れてなかったせいか、
突然の帰郷に対して何か戸惑いがあるのではないか? とルナマリアは推理する。

 

「違うんだ…… そうじゃないんだ……」

 

しかしシンはその答えに首を盾に振る事無く何事かぶつぶつと呟きながらルナマリアを通り過ぎ、自室へと消えていった……
実際ルナマリアの回答は間違ってはいなかった。確かにシンは突然の寄航に戸惑いを感じている。
それは事実だ。しかし彼の心を占めているのはそんな事ではなかった。

 

『死んだものの為に出来る事……』

 

奇しくも妹を失ったあの場所で出会った二人の青年。
彼らは自分に言った、「死んだ者には何が出来るのか?何を残してやれるのか?」と、
シンの心の中では未だこの問いの答えを求めていた。

 

「……なによ、期待したアタシが馬鹿みたいじゃない……」

 

果たして彼女は何を期待していたのか…… それは神のみぞ知る。

 
 

鉄SEED 地球編 「出会い、決意、戦端」

 
 

オーブ首長国連邦代表護衛官アレックス・ディノは現在、自らの人生幾度目かの岐路に立たされていた……
原因は今より数時間前のこと
自身の住居であるアスハ家の屋敷に一人の男がやってきた。ユウキ・ジェグナンと名乗った男は自らはデュランダルの使いと言い、アレックスに接触を求めてきたのだ。
そこまでならまだ良かった。
プラントがこちらに要求した物…… ここ数年の地球圏におけるテロ事件に関する情報、をこの男に渡せば良いからだ。
しかし、問題はそこからだった。
この男の目的がアレックス、つまり二年前に存在した「あの男」そのものであった。ということだ。

 

「真実」を知りたければ、プラントへ来い。

 

去り際に男はそう最後に言い屋敷を後にした。
「真実」…… 今のアレックスにとって最も必要なもの。
相次ぐテロ事件や国家間の武力衝突…… この世界に一体何が起こっているのか?

 

(やはりプラントへ戻るべきなのだろうか…… いや、地球とプラント間の緊張が高まりつつあるこの時期に代表の元を離れるわけには!!)

 

自室で部屋中を行ったり来たりを繰り返すアレックス、しかし明確な答えは一向に浮んでは来なかった。
アレックスの混乱がピークに達し始めたその時、部屋のドアを誰かが小突いた。

 

「アレックス、私だ」
「代表!?」

 

思いがけず本人の登場となってしまった。入るぞ、という言葉と共にブロンドの少女が顔を出す。

 

「何もこんなところにまでっ!?」

 

アレックスはすぐさま立ち上がるが、カガリはそれをやんわりと手で押さえながら部屋の隅に置かれたベッドに腰を下ろす。

 

「悩んでいる様子だったからな、お前としてもこっちの方が話しやすいだろう?」

 

妙なところで気を使わせてしまった様だ…… アレックスは恥ずかし紛れに後頭部を掻く

 

「いえ、代表こそ……」
「カガリだ」
「は?」
「ここでは硬いことはいいっこ無しだ。私もここでは私情を挟ませてもらうぞ『アスラン』?」

 

悪戯っぽく微笑む少女に一瞬あっけに取られ…… そして負けを認めた。

 

「やれやれ全く、最近敵わなくなってきたな」

 

『アスラン・ザラ』は両手を上げて降伏のポーズをとる

 

「当たり前だ。公務員とは名ばかりのお前とは違って私は日夜化かし合いだからな!!」

 

陽気に笑うカガリの首筋に見える傷跡が目に入ったアスランは何故か心を突き刺されたような錯覚を受けた
本来、彼女はこの場所にいるべきではないはずだった。
「自分に政治は似合わない」、カガリはそう言い、あえて自ら表舞台に立とうとせず大戦後に交流を持ったサハク家の人間と共に、建造途中であった軌道エレベータの建造再開とそのための各コロニーへの事業参加の呼びかけに従事していた。
私よりも政治に長けた人間が国を動かすほうが国民の為だ。私は看板役が分相応だな
彼女は自らの力をわきまえていた。
自分が嘘を吐けない事も、国という大きすぎる物を背負うには若すぎることも…… 誰よりも知っていた。
しかし、ある意味「あの事件」は必然であったのかもしれない……
「オーブ議事堂爆破事件」
一部の国粋主義者、所謂アスハ派の中でも過激な一団が「オーブは五大氏族、ひいてはアスハの人間が導かなければならない」という声明のもと、議事堂内で白昼堂々自爆を行なったのだ。
当時オーブでは失った有能な五大氏族系列の人材の穴を埋める為、氏族だけでなく外部からの人材を数多く受け入れていた。
その事実が連合の傀儡とされてしまうのではないか?という彼らの危機感を助長させてしまったのかもしれない……
結果、彼らの思惑通り大半の議員は死亡、もしくは政治的活動を大きく制限されてしまうほどの被害を受けた。
彼らの誤算は唯一つ、彼らが信ずるべき「ウズミ・ナラ・アスハの血脈」が巻き込まれていたことだった。
この事件によってカガリは心と体に大きな傷跡を残すと共に、この齢20のまだ若い少女が政治の表舞台に立つこととなった。
再び失われた人員を埋める為、そして先の彼らの様な人々に対し、五大氏族の存在をアピールする為である。
しかし、それでも尚喪った人員は大きかった…… 議員の中にはお世辞にも国を動かすという大役に相応しいとは言い切れない人間も居る。
しかしそれでもやらねばならないのだ。
彼女の小さい背中には八千万を超える人間の生活と命が懸かっているのだ……

 

妥協など出来るはずもなかった。そんな彼女を支えられるのは誰だ?
どす黒い政治の世界で、彼女の味方足りうるのは数えるほどしか存在しない…… そんな時勢の中で、自身の我侭を貫けというのか? 馬鹿げている!!

 

「なぁ、アスラン。プラントに行きたいんだってな……」
「!?」

 

その言葉に一瞬で我に返った。アスランはわが耳を疑う。何故彼女知っているのか?
その反応にカガリは「してやったり」という顔をする。

 

「やっぱりな、ミネルバがこちらに寄航しているからな。行動は早いと予期していたが……」

 

カガリは一呼吸置くと、一転して真剣な表情と化す。その雰囲気にアスランは、まさかという思いに駆られてしまう。
この感覚が自らの思い過ごしでありますように…… その一呼吸の間、アスランは人生最多の祈りを目に見えない何かに捧げた。

 

「本日午後、大西洋連邦並びにその同盟国から全世界に声明があった…… 先のユニウスセブン落下未遂はプラントの自演行為と断定、あとは判るな?」

 

嗚呼、矢張り。としか言いようが無かった。
宣戦布告、世界一の超大国がそんな事をする相手は唯一つ、

 

「プラントは何と?」

 

せめて前大戦の二の舞だけは避けたい…… アスランはカガリの肩を掴み縋り付く様に訊ねる。
しかし対してカガリの答えは至極冷静だった

 

「プラント政府は関与を否定、強行手段をとることも無く艦隊も出してはいない。あくまで話し合いで解決するつもりの様だ」

 

だから落ち着けと言わんばかりにアスランの両手に手を添える。正気に返ったアスランは居心地の悪そうに手を離す。
どうやら前大戦の過ちを相当恐れていたらしい……
無理もないとカガリは思う。
アスラン・ザラの父、パトリック・ザラは二年前のヤキン・デューエ戦役においてナチュラル全滅を掲げた男である。
デュランダル、いやプラント議会の誰かが彼の思想に感化していたとしたら、そう考えるのも無理はない。

 

「アスラン、お前はプラントへ行け。お前にはその義務がある」
「しかし……」
「『こんな時に』か? それこそこんな時だからこそだ。プラントにはこちらの姿勢をはっきりさせておきたいからな」
「ということは……」
「ああ。オーブは中立を保つよ。今度は国も焼かせない」

 

若干20歳の国家元首は腕を組みながら立ち上がる。
その顔には不安や恐れといった表情は一切感じられない。
いや、そういった表情は奥へと押し込んでいるのだろう。
彼女にはもはやそういった感情は許されないのだから。

 

「だから安心していって来い。だから……」
「『必ず帰って来い』だろ? ……必ず帰ってくるさ」

 

再会の誓いを立て、二人は固い抱擁を交わす。

 

友情よりも深く、かといって愛情ほど盲目なものでも無く、互いに同じ位置を目指して進む彼らの関係はむしろ「絆」と表すのが相応しかった

 
 

仲間内ではその場所を『工房』と呼んでいた。
工場よりも規模は小さく、かといって設備は引けをとらない。まさに『工房』と呼べる場所であった

 

「そこはこっちのフレームに使ったほうが良くはないかい?」
「いや、伝送系の相性からすればこいつをだな……」
「なるほど」

 

その工房のど真ん中、何かしらの機器のハッチに首を突っ込んでいる二人の男。時折中を弄っているのかカチャカチャと音がする。
よく見れば男達が覗いているのは何か巨大な機械の一部だと判るだろう。配線と鉄骨のような物で組み上げられた骨格の様なもの……
彼らが調整を行なっているのはその骨格の調度腕に当たる部分である。

 

「さて、」

 

ハッチから顔を出したバルドフェルドは、大きく深呼吸し金属とオイルのにおいを頭から叩き出すと、同じく顔を上げたイルムに無言で頷く。
それが何を意図するかを理解したイルムは機械からひょいと飛び降りると、機器に繋がった発電機のスイッチを蹴飛ばした。
発電機特有の重低音と共に腕の先に繋がっている手首がまるで感覚を確かめるかのごとく、握ったり開いたり一回転する。
それを見た二人はオイルまみれの顔に笑みを作る。どうやら完成は近そうだ
と、軽いクラクションの音と共に『工房』にトラックが入り込んできた。出てきた運転手はシートに包まれた荷台に上り、シートを引っぺがした。
つや消しのブラックに染められた装甲板、人が運用するには大きすぎるほどの火器、弾薬

 

「お待たせ。頼まれてたE型の予備パーツとセンサー類、オマケの対人用火器。勿論『廃棄処分済み』よ」

 

荷台に立ったマリュー・ラミアスは見せびらかすように漆黒の装甲版を叩く。
東アジアに本社を置くアクタイオン社のE系列パーツが何故此処に在るかと言えば、まぁ何処の会社でもライバル社の製品のリサーチは行なう訳である。
勿論、そういったパーツであるからこそ本来造船課所属であるマリューがこうも簡単に持ち出せるのであるが……

 

「やっと来たねぇ、待ちくたびれたよ」
「ごめんなさい。管理部をちょろまかすのに手間取っちゃって……」
「いやいや、こっちは丁度今各パーツの駆動テストと素組みが完了した所さ」

 

三人は目の前に横たわる黒い巨人を見下ろす。こうしてみるとMSというものがいかに馬鹿げた大きさかが良くわかる。
最も、この世には更に大きく更に馬鹿げた機動兵器が存在しているのだが……
しかし、「馬鹿げている」という意味ではこの機体も相当馬鹿げているといえよう。
傍目には何の変哲も無いただのフレーム状のMSである。
が、しかし、この機体……

 

「G競侫譟璽爐烹唯咾料甲を被せる、なんて力技良く考えたよなぁ……」
「間接部と動力部以外をMSの装甲で覆う…… か」
「初めは規格が合わなくて苦労したけど、何とかなったわね」

 

後は自動整備システムに任せればAI制御の工作機械が組み立てを行なってくれる。
三人は此処までの数ヶ月を振り返り感慨に浸っている……

 

「「「はぁ……」
「あ、そういえばキラ君は?」

 

マリューが思い出したようにイルムに向き直る。イルムは両手を上げながら首を横に振る

 

「会わなきゃいけない奴がいるってさ、」

 
 

市街地から少し離れた海岸地帯、ここ一帯は市営の公園地帯となっており、休日ならば家族連れや恋人たち等で賑わいを見せる巷では有名なスポットでもある。
その波打ち際で少年が一人。小波に足が触れるか否かの位置で海に向かって小石を飛ばす
小石は波を切って数回跳ね、やがて海へと沈み小さな波紋を作る

 

「もがいて、足掻いた所で強者のうねりの前には無力、か」

 

誰にともなく呟き、新たな石を投げようとして…… その手を止めた

 

「……来たな」

 

少年は男性にしては長い、肩まで伸びた髪を掻き上げると此方へやってくる二人の男女へ視線を向ける。
その男の方に意識を向けた瞬間、自らの中で闘志と殺意が噴出しそうになる、が彼自身の強靭な理性でそれを押さえつける……
落ち着け…… 今は殺さない…… やる時は、奴に敗北の二文字を焼き付けてからだ……

 

「意外と早かったな。キラ・ヤマト」

 

鏡越しに映るように瓜二つな男に対し、カナード・パルスは自分が出来る最大の殺気を奴ぶつけてやる

 

「聞きたいことが在ったからね、時間は早いほうがいい」

 

その殺気を受け流すかのごとく至極冷静に応じる。
どうやら此処でやる気はないらしい…… あくまで決着は戦場で、ということだろうか?
まあいい、とカナードは頭を切り替える。白けた、と言った方が正しいかもしれない。

 

「何処から聞きたい? 俺か? それともそいつか? それとも……」
「『シャドウミラー』」

 

ほう、とカナードは片眉を吊り上げる。ここまで知っているなら話は早い。

 

「俺も詳しい事は知らん。奴らと俺はただの協力関係に過ぎない」
「彼らは今何処に?」
「さぁな……奴ら曰く『我らは極めて近く、されど遥に遠い存在』らしいからな」

 

言い当て妙ってか?とふざけた口調で答える。それに対しキラは何も反応しない。これ以上は彼も知らない、ということだ。

 

「彼女の存在には何の意味がある?」

 

キラは傍らに立つミーアに目をやる。このラクス・クラインに瓜二つな少女は不安げな表情でカナードを見つめている……彼女も答えを求めているのだ。
自分が何者であるのかを

 

「この女の存在自体に意味は無い。あくまで俺が必要なのはコイツの『ジェネコード』だけだ」
「『ジェネコード』?」

 

対してカナードは冷酷なまでの笑みを浮かべたままチッチッと指をふる

 

「俺はそこまで親切じゃない…… 他には?」
「何故君は…… いや、」

 

キラは何か言いたげであったが、口を閉ざす。答えを知っていたからだ。彼が何故自分を狙い、彼が何故フリーダムを駆るのかを……

 

「そういうことだ」

 

憎む理由は決まっている。自分達がこの世に生を受けた瞬間から、決まっていたことだ。
人間は機械や者と違い意思を持つ。製造に失敗した所でハイ処分、とはいかない。
それを理解できなかったからこそ彼等を生み出したコロニー『メンデル』は崩壊したのではないか?

 

「俺は…… 貴様を打ち負かし、最高傑作の名を俺の物にする」

 

カナードは踵を返し海岸を去る。これ以上の会話は無用だということだ。
キラとミーア、と呼ばれた少女も同じくカナードに背を向け歩き出す。彼らもまた語る言葉は無い。

 

「……私、要らない子だったんですね」

 

帰路の途中、ミーアは伏し目がちにポツリと呟く。何も知らないまま連れ出され、何も知らぬまま殺されかけ、挙句の果てに自身の存在価値など無いとまで言われた。
喪失ではなく、無……
その様子をキラは黙したまま見つめ、そっと肩に手を置く

 

「『人は誰しも他者の影響を受け自己の人格を形成する』……」
「え?」
「ミーア、人は誰だって生まれた時には存在する意味なんて在りはしないんだ。友達や大切な人、そういう他人との出会いや別れを経験して人は人になるんだ」

 

この少女はかつての自分と同じだ。自らの価値観やアイデンティティーが崩壊し、自分が何者であるかを見失っていたあの時と……

 

――君こそ、幾多の犠牲の上に成り立つ最高傑作、人類の夢!!――

 

「最初から存在価値のある人間なんて居やしない。自分の生きる意味は自分で探すものさ」

 

そう、青年には友が居る、家族も居る、追いかけるべき男も居る。あんな世迷言に自らを縛り上げる意味など最早何処にも無い
さぁ、帰ろう。と青年は少女に手を差し伸べる。はい、と微笑む少女は、恐らくこの瞬間世界中の誰よりも輝いていただろう。

 
 

「これまた、随分とゲテモノになったもんだなぁ……」

 

ネオ・ロアノークはそう呟くと仮面の内の相貌を情けなく歪ませる。
格納庫に並び立つ三機のMS、それぞれアーモリーワンで強奪した三機のG、『であったもの』だ。
カオスは背面に在ったドラグーンが廃され、変わりに二対のブースター、そして蜘蛛の足の様な鋭いアームが追加されている。
横に並ぶガイアは装甲版が新調され、各部にまるでパンクメタルのミュージシャンの如くブレードが折りたたみ式で取り付けられている。
奥に置かれたアビスにおいては、両肩の砲台が倍以上に増設されついでとばかりに伸縮式の隠し腕まで追加されている。

 

――これじゃアビスじゃなくてアシュラだな――

 

「あら、各パイロットの適正に合わせて最適な形にしたまでよ。最も一からの開発だったから少し時間はかかったけど……」

 

ネオの呟きに応えたのは、白衣とローブを合わせたかのような服をまとった妖しげな美女である。

 

「ああ、いや別にドクターを批難しているわけじゃありませんて」

 

慌てて言葉を取り繕うロアノーク。それもそのはず、彼女はこの部隊の機動兵器開発の殆ど、否、ロアノークを含めたファントム・ペインそのものの存在に関わる人物である。
Drレモン・ブロウニング、それが彼女の名である。

 

「貴女がここに居るってことは……」
「ええ、『エクステンデット』、いえ『アンデット』の調整作業はひと段落。まだ措置を始めて日が浅いから、まだまだ道のりは長いわね」

 

と言うとレモンは自身の背後に目を遣る。そこには先の少女、グラキエースが立っている。

 

「貴女の事も含めてね」
「宜しくお願いする」

 

グラキエースはぺこりと頭を下げると、格納庫の隅に置かれた彼女の愛機に向かう。
雪の結晶を擬人化したようなフォルムは地球上のどの機動兵器とも似つかわしくないものだ。

 

「ホントに大丈夫なんすか? あんな事言って」

 

心配そうに尋ねるロアノークにたいしてレモンはさも当たり前のように首を横に振る

 

「あの子だって解ってるわ、延命できる可能性の低さは」

 

レモンは少女の後姿を見ながら静かに吐露する。そう、可能性はほんの数%に過ぎない。
しかしその希望にすがるその姿は、最早彼女が人に在らざる人造人間ということを簡単に忘れさせてしまう。
自らの手で『人間』を生み出すことを課題とするレモンにとって、彼女の存在は自らの目標であり、『レモン・ブロウニング』とっても非常に意味のあるものだ。

 

「でも、科学者って生き物は不可能を可能にする生き物なのよ?」

 

そこに自らの求める答えがあると信じて

 

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