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転移戦線_第05話2

Last-modified: 2013-12-23 (月) 20:02:58

 『転移戦線』 第五話 「宿敵の牙心」

 

 特別輸送部隊第一大隊第二中隊……第二と言いながら中隊は1つしかない、敵に対しての欺瞞の為なのだがどれ程の効果があるかは不明、多分役には立っていまい。
 キャルフォルニア基地の片隅にある粗末な大型ハンガー、そこにある中型輸送機とMSが3機、それが彼らの全てであった。
 今、整備士達が彼らの白いMS――鹵獲したジン――に貼り付くように整備をしている。
 この機体は連合がMSの情報を得る為に何度も分解したり試験したりした揚句、もう得られる情報は無いと判断されここに来た機体だ。
 それを白く塗って与えられ、開戦から戦い続けて来たのでかなりガタが来ているが……変えは無い。
 完動機体をジャンク屋から買い取りたい所だがそれは軍人のプライドが許さないらしく、結局ジャンク屋の真似事のような手段を使って戦場跡や撃墜機から使えるパーツを回収しているのが現状だ。
 それに整備士達の動きは見て判る程お粗末で、出撃前に自分で見直さなければならないだろう。
 連合にMSという物が無いので整備の経験が無いというのもあるが……実は今後量産される連合製のMSの為に整備士達に事前にMSに触れさせておくという名目で、各地からとっかえひっかえで整備士達が送られて来ているのだ。
 すなわちここにいる整備士達はMSに慣れれば交代する……全員不慣れなのが当たり前。
 MSを運用している部隊が少ないのでこうした経験を積ませ熟練整備士を生み出すには打ってつけなの部隊なのだが……その為に自分の部隊が犠牲になるのは納得は行かないが納得するしか無い。
 と言うか、どう考えても上層部の自分の部隊を磨り潰したいという意図が見え隠れするのだ。
 MSを整備する整備士達は全員毎回素人、ろくな補給も無い、そして危険地域へのピンポイント投入……誰が見てもそう見えるだろう。
 それでも彼、ジャン=キャリーは連合に止まって戦い続けていた……彼の信念に従って。
 彼は第一次コーディネイターブームの頃地球で生まれ、その後両親の死をきっかけにプラントへ移住した。
 そこで工学博士として研究に専念していたが戦争へ盛り上がるプラントに嫌気が差し、開戦と同時期に地球に帰還してその脚で連合軍へ入隊した。
 自分が連合軍に入ればナチュラル達の敵であるコーディネイターの自分に異端の目を向けられ、決して居心地は良く無い事は判っている。
 しかし戦争による憎みの連鎖を広げ無い為…早期に戦争を終える為、あえてその逆境に耐える決意で入隊したのだ。
 プラントで独立と独立戦争を同じに唱える者の多さと、戦争で起こるであろう数々の問題を全く考えずに熱狂するコーディネイター達を見ていた彼はザフトに入りたいとは思わなかった。
 コーディネイターが言われている通りにすべからく聡明で思慮深いのであれば、諸問題を考えない筈が無いだろう……そして人類共通の悲劇である戦争は回避する筈だ。
 ところが現実には独立戦争に向かってさしたる考えも無く盛り上がって行く……これではナチュラルと同じではないか。
 否、元々ナチュラルとコーディネイターにさほどの違いが有った訳では無い、人類と言うカテゴリーからは一歩も外に出る物ではなかったのだ。
 そしてそう思い当たるまで彼自身もコーディネイターである自分に一種の特別意識を持ち、無意識に差別していたという事に気が付いた。
 同時にそれに気付いたコーディネイターは限りなく少ない事にも気が付く……だからこそ、自分達以下の存在だとナチュラルを見下し、戦争を起して蹴散らしてもいいと考えるのであろう。
 これではコーディネイター側――自分達を一種の特権階級と見なす思想と言ってもいい――から戦争を止める方向に向く筈が無い。
 そして戦争を早期に終えるには序盤にザフトの勢いを止め、連合の領土内側まで食い込まれずに生産地帯を護る事が肝心だ。
 幸いにも開戦に向けて地球は連合としてまとまった物の……連合も一枚岩では無い。
 戦いが長引けば対ザフトだけではなく内戦が表面化し、結果戦争は泥沼化し長々と続く可能性もある。
 本来なら彼の年齢なら普通は軍には入れなかっただろう、しかしMSと言う新兵器の前に手も足も出なかった連合は鹵獲した機体を操縦できるコーディネイターの兵士を必要としていた事もあり、直前までプラントに居た情報にも通じる彼は手厚い優遇を受ける事になる……それが一時的な物であるとはお互いに判っていたが。
 彼と他のコーディネイターのパイロットと鹵獲ジンで編成された部隊は開戦当初から火消しとして激戦や苦戦を続ける戦線を転戦し、戦線崩壊寸前の連合を少なからず支えてきた。
 だが2月に始まった戦争は半年を過ぎた8月辺りから双方の大規模軍事行動が減少し、地上・宇宙を問わず小競り合いが繰り返されるようになり、彼の予測通り戦局は膠着状態となる。
 ……こうして火消し役としての彼らの仕事も少なくなって行き、そして戦争も1年を迎えた現在連合はMSの量産を行える一歩手前まで来ており……相対的に彼らの価値は低下、コーディネイターに向けられる憎しみと同じ物が彼らにも向けられるようになって行った。
 戦時中軍に居づらくなったからと言って軍を辞めれる筈が無い。
 むしろ敵になるのを恐れて軟禁や逮捕、あるいは殺す方が手っ取り早いし、確実に敵にはならないだろう。
 彼らの生き残りを再編成した特別輸送部隊が編成されたのはこうした背景があったからで、彼らは積極的に粛清されるような事も無かったが、碌な補給や資材を与えられずに危機的状況にある部隊や拠点へ敵を自力で突破して物資を届ける危険な作戦を強要されていたのだ。
 それでもなお彼ら特別輸送部隊の戦闘意識は高い。
 それぞれがジャンのようにコーディネイターが連合の中で戦うべく理由と信念、時には脅迫概念を持っているからだ……例え軍上層部が彼らの全滅を期待していようが。

 
 

「J、司令がお呼びだぞ」
「はっ、ありがとうございます整備長」

 

 MSを見上げ考え事に浸っていた彼は、初老の域に達するかどうかと言う人物に声を掛けられ振り向く。
 彼は数少ない特別輸送部隊の固定整備要員だった……いくら整備士がとっかえひっかえになるとは言え、彼らにMSの整備を指導する人物は必要になる、それが彼ら数少ない固定の整備士達だ。
 ジャンも他のパイロットと同じく自分の機体を預ける整備士には敬意を払っている。
 そして固定整備士の中でもトップに位置し、しかも最も腕の良い整備長はジャン達コーディネイターを他の整備士達のように差別はしていなかった……それはここに来る前からだったらしい。
 その為彼は自分の子供をコーディネイトしたという噂があり、良い腕を持ちながら方々をたらい廻されてここに落ち着いたのだ。
 彼もその噂を肯定も否定もしない、だが常々『敵と味方の区別ぐらい付けろ』とコーディネイターに白い目を向ける整備士達――時には一般兵や仕官をも――をスパナで殴り倒していた。

 

「副官も帰ってきたようだし……出撃が近いのか?」
「予定ではこの後インドの沿岸方面に赴く事になっていましたが……お呼びであれば予定に変更があったのかもしれません、アルベルト副長が帰ってくるのはまだ先だった筈です」
「その副官だが、なにやら資材満載の輸送機に乗ってきたんだが……あれは使っていいのか?」
「聞いてませんが……その辺は呼び出し先で聞けると思います」

 
 

 ジャンが司令室に入った時、特別輸送部隊の司令であるウィステリア=ベケット中佐と第二中隊の副官でもあるアルベルト=ローズレイク中尉が室内に居た……2人のただならぬ気配に何事かとジャンは戦慄するが、それはおくびにも出さずに敬礼と到着を報告し、早速本題に入る。

 

「司令、何かありましたか?」
「ああJ、あったさ、大有りだ!」

 

 小柄で頭皮は禿げ上がった白い口髭のベケット司令は、苦笑いをかみ殺したような表情で肩を竦める。
 確かに何か大事があったようなジェスチャーだが……ベケット司令は唯でさえコーディネイターを多数含む特別輸送部隊を立ち行かせようと奔走していた為、逆境はいつもの事だった筈だ。
 軍人らしからぬ好々爺とした外見とは違い有能な軍人ではあったが、開戦当初にミスを犯し閑職に追いやられたらしい……最も、そのミスも上層部の失態を押し付けられた形らしいのだが。
 こうして閑職中の閑職である磨り潰し部隊に飛ばされたが、彼はここでも本来の手腕を発揮した。
 無茶な命令から自由裁量の部分を引き出して部隊を生存させたり、届かない物資を方々手を廻して何とか引き入れたり、味方から向けられる差別に満ちた敵視を逸らさせたり……まさに三面六臂、彼の動き無くしてはさすがのコーディネイターであるジャンも命令に従い戦死していたであろう。

 

「何かそうとうな命令が下ったようですね」
「下ったとも、JOSH−Aからの勅命がな! 特別輸送部隊第二中隊は準備ができ次第、北アフリカに向かってもらう」
「アフリカ? インド沿岸部の海兵と鹵獲品を回収する任務は……」
「それは後回しだ。 この任務は困難を伴い恐らく遂行できうるのは我々しか居ないとのお墨付きだ!
 北アフリカだぞ、敵中真っ只中への補給と物資の回収、しかもその敵って言うのはあの“砂漠の虎”だ!」
「それは……で、我々が“砂漠の虎”から拾い出す栗は何ですか?」
「鹵獲したバクゥの回収とデータを持ち帰る事らしいです」

 

 横から既にある程度の話を仕入れていたらしい部隊の副官でもあるローズレイク中尉が、司令の話では装飾が多過ぎて話が進まないと判断したのか横から説明する。
 ローズレイク中尉はナチュラルだ。 MSを運用できるコーディネイターの部隊とは言うが、その実ナチュラルの方が比率としては多い。
 輸送機の操縦やその砲座、物資の積み下ろしならわざわざコーディネイターにさせなくともナチュラルで十分可能だ。
 他の部署との連携もコーディネイターだけでは無く、ナチュラルが入った方が進め易い。
 それにローズレイク中尉は射撃の特技章を持つ射撃全般の名手で、コーディネイターが裏切った場合は射殺する命令を受けている……戦争で妻を亡くしたローズレイク中尉は謹んで命令を受諾したと言う。

 

「ビクトリア宇宙港がこの前落ちましたが……その時の部隊か何かが?」
「いえ……隊長、アークエンジェルって知ってますか?」
「天使か何かの名前だったかな?」
「J、それはそうだがこの場合違う。 AAとは連合の最新鋭強襲機動特装艦の名前だよ。
 現在MSを搭載して地球に降下……の戦闘が低軌道会戦で、第八艦隊がそこで壊滅してAAもアラスカには降りれず北アフリカに落ちたそうだ。
 AAは大気圏内でも移動出来るらしいが……その速度は遅く単独での突破はまだ成功していない、また物資も厳しいらしく、現地から手に入ったり大気圏降下ポットで細々とするのでは物資が整わないので……」
「我々で物資を大量補給、一気に脱出と言う流れですか」
「そんな中で彼らはバクゥを鹵獲したのですから……連合製のMSと言うのもなかなかの性能ですね」
「そのようだ、軍上層部もそう思ってか今回の敵中突破強襲補給作戦が行われる事になり……その為にローズレイク中尉が予定を変更して大量のMSの資材を受け取ってきた、と言う訳だ」

 

 連合のMSと言う部分に3者それぞれ微妙な表情を浮かべつつ、次の任務について考える。
 司令の口調がいつもより砕けていたり、副官の持ってきたと言う大量の資材、向かう先には“砂漠の虎”が鎮座していて、動きの遅い艦への補給と物資の回収……恐らく真の狙いはAA脱出への援護、確かにこれは難しい――というか無茶で無謀――任務だ。

 

「なるほど……先程整備長が言っていた資材満載の輸送機ってのはそう言うカラクリでしたか。
 で、我々は物資を補給後AAの周囲を固めて脱出させろと?」
「いや、そこまでは命令されていない……出来るに越した事は無いと思うがな。
 少なくとも鹵獲したバクゥと、MSのデータの回収が最優先、AAは2の次3の次ぐらいでいいらしい」
「AAの乗組員よりデータですか……それとも……まさかAAも我々と同様、ですか?」

 

 苦虫を噛み潰した後で無理矢理笑いを浮かべるような顔をする司令と副官……どうやら自分の読みは当たっているようだ、とジャンは理解した。

 

「その辺は深く考えるな、J。 上がどう考えようとも優秀な奴は生き残る、お前達のようにな。
 資材は出来るだけ仕入れておいた、上の方も無茶な任務と知ってか最大限の協力を約束してきた……どうやらバクゥとデータはなんとしてでも欲しいようだからな、不足があれば言ってくれ。
 ともかく現時点を持って特別輸送部隊第二中隊は、第八艦隊所属強襲機動特装艦AAへの補給任務に対して行動を開始する。
 まずは輸送機とMSをキッチリ仕上げ敵突破へ万全な体制を取るんだ、突破より帰ってくる方が難しいぞ。
 期日は決めず、持ち帰る方法も現場の判断で最良の方法を選択していいと言質を取っておいた」
「それは……最悪“AAごと”望みの品を持ち帰る事になっても構わないと……」
「アルベルト副官、それは現場の判断に任せる……一番確実な方法を取れ!
 部隊始まって以来最大の救出劇の始まりだ……アンラッキー☆ホワイトスター・ポーター(白い狂星の宅急便)の出番だぞ、J!」
「その呼び方は辞めて下さい……」
「じゃぁ“煌めく凶星”を略して“きら☆スタ”でどうだ?」
「そんなアニメをパクったエロDVDなのに本編にエロシーンの無いDVDみたいな名前も拒否します」

 

 第二中隊の1・2はぐったりした目で嬉々とする司令を見つつ脱力した……眼前の困難な任務を前に、これが最後の力を抜ける時じゃないだろうかと思いながら。

 
 

「まともな修理部品があるのはいいが、整備の拙さは……後で見直すしかないか」
「まぁ、ナチュラルの整備を拙いなんて…コーディネイター様は仰る事が違うわね、J大尉」
「君か、イメリア大尉……」

 

 ジャンは疲れたようなため息を付いてこめかみを左手で揉み解しながら振り返る……声で判ってはいたがそこには黒髪をポニーテールにまとめた意志の強そうな瞳の女性が左手を腰に当て、挑発的な目で彼を見ていた。
 その左頬から首筋に掛けて舞い散る桜の花弁のような痣があった……噂では過去にコーディネイターとの紛争に巻き込まれ付いた物で、背中にまで痣は繋がっているらしい。
 その傷を受けた時に弟も失っており、彼女はコーディネイターに対して強い憎しみと殺意、そして差別意識を抱いているのだ。
 彼女はレナ=イメリア、ここキャルフォルニアの士官学校教官で、コーディネイターに匹敵する反射神経や操縦能力を持つ現在ナチュラルOS無しでMSを動かせる数少ない人材である。
 厳格な中にも女性らしさを見せる好人物でパイロット訓練生達からの人気も高かったが、ジャンらコーディネイターへは冷血かつ非情な態度を崩さない。
 実際、訓練と称してレナとの模擬戦で破壊されたジンは少なくは無い、それに誰も死ななかったがそれは彼らコーディネイターが丈夫な身体を持っていただけで重傷者も出ている、ナチュラルなら死んでいただろう。

 

「ナチュラルの整備が拙いと言っている訳では無いよ、彼ら自体がMSに触るのは初めてなんだ。
 それに慣れて無い者の整備したMSで出撃するのは私なんだ、ため息の一つも出るというものだろ?」
「……ま、そういうことにして置いてあげる。
 それより小耳に挟んだんだけど……虎を退治して天使様を助け出すんですって?」
「虎の退治は行き過ぎだな……僅か三機のMSと輸送機でそれは不可能だ。
 虎の隙を見計らって通り抜け天使様に贈り物を届ける、帰りは天使様の預り物を命に変えても持ち帰る、それだけだ」
「そう……。
 J、私に協力できる事があったら言ってね。 この件に関してだけなら、コーディネイターのあなたに協力も惜しまないわ」

 

 それは『この件以外は協力はさせても力を貸す気は無い』と暗に言ってるのか……と口から出かかったが、レナの何か言いたげな瞳に口から出たのは違う台詞だ。

 

「君がそんな事を言うとは、珍しい事もある」
「……本来AAに乗ってMSを操縦するのは、ちょっと前に卒業した私のヒヨコ達の筈だったの。
 でもMSの受諾前に全員戦死、MSも一機を除いて奪われ……せめてMSに乗れれば一矢報いる事も……。
 だからせめて残ったMSぐらい本部まで届ければ、あの子達の供養になるんじゃ無いか……って」

 

 そう言ってレナは今までジャンには見せた事が無い憂いを帯びた表情を浮かべる……恐らく戦死した自分の教え子達の顔が脳裏に浮かんでいるのであろう。
 MSは5機あったと言うが、連合初のMSでありテスト機であればパイロットは5人とは限らない。
 つまりレナは連合にとっても貴重な彼女の教え子達MSパイロット――弟と重ねていたかもしれない――を一辺に失ったのだ。
 その仇を取り、遂行できなかった彼らの任務を少しでも達成してやりたいのだろう。
 一番協力して欲しい事は……足りなそうな直接戦力、レナにMSに乗って一緒に来て戦ってもらう事だ。
 しかしMSパイロットの教官である彼女をそんな事で連れ出す訳にはいけないし、なにより帰って来れるかどうか判らない危険な任務にそんな彼女を連れて行ける訳が無い。
 今後必要となるパイロットの育成は今後を左右する重要な仕事だ……今彼女を失えばパイロットの育成は滞る。
 それはどんな結末であれ戦争の早期集結を望む彼にとっても嬉しい事態では無いし、それは彼女自身も判っているのだ。
 だから憎まれ口を叩きに来た様に見せかけて自分に出来る事が無いかと聞きに来たのであろう。

 

「……判った。 何かあればお願いする」
「きっとよ……」

 

 何か言いたげな目線をジャンから進む方向へ流しつつ、レナは去って行く。
 その様子に何かを感じ取ったジャン。 この任務を失敗できない理由がまた一つ加わったのであった。

 
 
 

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