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転移戦線_第05話3

Last-modified: 2013-12-23 (月) 20:03:22

 『転移戦線』 第五話 「宿敵の牙心」

 

「じゃ、四時間後だな」
「気を付けろ」
「判っている、そっちこそな。 アル=ジャイールって奴は気の抜けない相手なんだろ」

 

 カガリが車両を降りる時、キサカとそんな会話を交わす……今は2人共武装したレジスタンスな姿では無く、街を行き交う人々と同じような姿をしていた。

 

「ヤマトしょ、ぁ、しょっ、少年!」
「……はぁ……」

 

 同じく車両を降りてカガリを待っていたキラに、ナタルが声を掛けたが……少尉、と言う訳にも行かず顔を真っ赤にしながら途中で誤魔化したが、トノムラのため息はそれが誤魔化し以外に聞えない事を表していた。

 

「たっ、頼んだぞっ! それにアマダしょ、少年っ!!」
「さすがにシローを少年って言うのは無茶だよな」
「ぬかせ、俺だって若いんだからそう見えたって……」
「それって要するにガキに見えるって事じゃない?」
「それもそうか」

 

 その脇に居たシローとキキが走り去る車両を見送りながら軽口を叩き合う。 2人共軍服ではなく、市井の一般民衆の姿をしている……キキはUCのいつもの格好の上から日除けのマントを羽織っているだけだが。
 4人は今バナディーヤに居る、暑い太陽の下人々が行き交い、露天の店は威勢よく客引きの声を上げ、あちこちで商売や値切りの声や怒声が聞こえる。
 キラとシローとキキは街へ買い出し要員として出る事になり、カガリはその案内だ。
 彼らが買い出しに来たのはキサカ、ナタル、トノムラらが“普通では売っていない商品”の買出しに出たついでに、パイロットや新兵達から軍務以外の買出しをする事で気晴らしをさせる為だった。
 マリューやムゥもこの前のキラがPTSDやASDになりかけた一件以来、乗組員――特に若い志願兵達――の心理的ケアにも目を光らせる事にしていたのだ…… 同じミスを繰り返すようでは仕官とは言えない。
 こうしてナタル達の買い物のついでに、少人数ながらも買い物をさせてガス抜きを、と考えたらしい。
 “砂漠の虎”の駐屯する街へ行くのは危険かも知れなかったがナタル達も行く事だし、少年達であれば軍人には見えないから大丈夫であろうという事に落ち着いた。
 それに、この辺の地酒をマリューが欲しがったと言うのもある。
 ムゥなどは泥水のような地酒のどこがいいのかと思うのだが、マリューは強いアルコール度数と癖のある飲み口が気に入ったらしい。
 この場所を離れてしまっては地酒故に入手できなくなる……そんな思いも買出し部隊を出す後押しになったのだろう。
 そして若い志願兵達でくじ引きが行われ、キラとキキが見事に引き当てたのである。
 街に出たかったトールやカズイはコーディネイターは運もいいのかと悔しがった。
 既に少年達の間ではキラがコーディネイターである事は――キラ自身にも――壁や障害では無い、せいぜいキラを示す形容詞の一つだ。
 気にならないのか? とキラは聞いてみたい気がする……でも聞かなくてももう分かっている気もする。
 少年達はあの厳しい新兵訓練の中で、何よりも得難い連帯感や絆を繋いだから、そしてそれは本物だと胸を張って言えるから。
 だから守りたい、仲間と仲間達の乗るあの艦を。 キラは今迷わずそう言える、迷わず戦える。
 ……とは言え、その為に人殺しをしてもいいのかとなると……それについてはまだ迷っている所もあるのだが。
 それにフレイに関しては今だ微妙な距離というか緊張をはらんだ距離にあった。
 サイとのわだかまりはもう無いが、フレイが絡むとお互いだけでは無く3人の問題となり、三者三様の思惑が渦巻いてはっきりしない……はっきり出来ない。
 特に彼らも経験の少ない恋愛感情のもつれでこじれており、キラもサイもフレイも誰が好きなのか、それが本心なのか同情なのか憧れなのか自分の中でもはっきりしていないのだ。
 キラはフレイに憧れていたが、あの時は誰かに縋りたいと言う思いで優しくしてくれれば誰でも良かったのじゃないかと思っていたし、フレイは自分へ同情のみで抱かれたのだと思っていた。
 サイはフレイを好きだったが、自分はフレイに好かれる資格は無く、親の決めた婚約者と言うだけでもうフレイは振り向いてくれないと諦めている節がある。
 フレイは父の仇であるコーディネイターを殺す為、キラに抱かれる事で道具として操ろうと思っていたもののの…傷付きもがき苦しむキラと触れ合い、それ以外の感情が無い訳でも無い。
 そしてサイにも親の決めた婚約者でキラを操る為に捨てたとは言え、婚約者として共に過ごしてきた日々を捨てきれない感情もある。
 これでは3者の関係もはっきりしないと言うか出来ない、だが3人共はっきりさせたく無いというか、今はできるだけ触れたく無い、それが正直な気持ちだ。
 この心情はキキを通してシロー達に報告され、あの年頃の少年少女達なら極普通の葛藤であろうから自分達で解決するまでは放置する事となった。
 もちろん深刻になりそうならばその都度止めたり、助言を与える事にはなっている……艦内で色恋沙汰から傷害なんてお断りだ。
 もっとも、フレイの直属の上司であるナタルにその役割がこなせるかどうか……そういう意味ではナタルは結婚の経験もあるマリューに頼るつもりなのだが、唯でさえ多忙なマリューにそこまでできるか微妙であったのだが。

 

 そして買い出し部隊にシローが加わったのは、08小隊代表としてこの世界を確認しておきたいと言う申し出がありそれを許可した為で、案内役のカガリと共にこの4人が買い出し部隊となったのだ。
 情報に関しては指揮官陣頭が士官学校の教えであり、またシローも情報の重要性は十分理解していたので、今後の動きを考える為にもこちらの世界の事を自分の目で確かめ、今後彼らが街に出ても大丈夫なのかをておきたかったらしい。

 

「ここが本当に“砂漠の虎”の本拠地? 普通の街にしか見えないけど……」

 

 買出しのメモを取り出すカガリの横できょろきょろしながらキラは呟く。
 キラの横を歓声を上げながら子供達が駆け抜けて行き、どう見ても平凡な日常を育む平和な街にしか見えない。
 キラは確かに息抜きして来いとAAを出されたが、男としてもAA唯一のコーディネイターとしてもカガリやキキを守る――シローは軍人だし男なので対象外――つもりであったのだが……拳銃や格闘の訓練は受けているとは言え、いざ敵に襲われたらと気が気では無く息抜きという感じではなかった。
 ……ついでにフレイと一緒にならなくてよかったと密かに胸を撫で下ろしていたのだ……フレイは今頃男女合同の新兵訓令――キラ達がやったような限界を超える物ではなく、フレイやミリィでもできる普通の訓練――でサンダース軍曹やカレン曹長に鍛えられている筈だ。

 

「そう見えるのは外見だけだ……こっちに来て見ろ」

 

 カガリはそう言うと十字路の角を曲がり皆を招いた。

 

「見ろ」

 

 そこは日干し煉瓦で作られた街並みの一部が崩れ、クレーターが大穴を開け、ガレキが散乱している……そしてその隙間から砂漠迷彩の地上戦艦――バルトフェルド隊の旗艦レセップス――がその巨体を覗かせていた。

 

「あれがレセップス……ここの世界の地上戦艦か。 大きさはビッグトレー並かそれ以上だな」
「へ〜〜〜、あんなのが地上を動くんだ」
「ああ、砂上をまるで船のように移動する……あれが、この街の本当の支配者の居城だ。
 逆らう物は容赦なく消される……この大穴のようにな。 この街は“砂漠の虎”が支配する街なんだから」

 

 4人はしばし廃墟から郊外に停止しているレセップスを見上げ……そしてシローがシローは突然妙な事を言い出した。

 

「そうだ、ヤマト少ぃ、とは言え無いから……今日はキラと呼ぶぞ、キラも俺の事はシローって呼んでいい」
「はぁ? 何の話……ああ、そうですね、お互いの呼び方は変えないと、すぐにぐ……とバレますね」
「あたいは今まで通り“シロー”“キラ”“カガリ”でいいね」
「じゃぁ私は“キラ”“キキ”“シロー”でいいな」
「いやそれ、いつもと変わって無いから」

 

 シローの提案に面食らいつつ、即座に各自の呼称を言うカガリとキキに突っ込みつつ、同い年のカガリはともかく年上の2人をなんと呼ぼうかと思案するキラ。

 

「……じゃぁ僕は……“カガリ”“キキさん”“シロー、さん”……でいいですかね?」

 

 なぜかシローを呼ぶ時だけはためらいがちになるキラ、そして同時にカガリがキラに噛み付いた。

 

「なんで私だけさん付けじゃないんだ!」
「だって、同い年じゃないか」
「それでも、私の方が上なんだよ!」
「なんだよ、それ」
「でもさ、これだけ歳の差があって一緒に行動してるのに“さん”付けじゃ逆に不自然じゃないか?」

 

 そう言うキキもカガリやキラの一つ上でしかないのだが……ゲリラとして戦い、そして村の子供達の世話をしている為に歳以上に落ち着いて――歳相応に無邪気な点もあるが――おり、二十歳前後とAAのクルー達には思われている。
 故に、カガリやキラ達はキキに必要以上に子供扱いしてされている事に気が付いていなかった。

 

「それじゃなんて呼べば?」
「う〜ん、シローとあたいの子供にしちゃァ大き過ぎだし……兄さんとか姉さんじゃないか?」
「じゃぁ“キキ姉さん”“シロー…兄さん”ですか?」
「いや、もっといい呼び方があるだろ?」

 

 シロー兄さんと言う呼び方がいまいちしっくりこないキラ――なんか芸人みたいだ――が首を捻っていると、シローはにこやかに言い出す。

 

「え、なんですか、それ?」
「あれだよあれ……“兄貴”だよ」
「“アニキ”!?」
「そう、これなら一番自然じゃないか? キラ、呼んでみろよ」
「まぁ任務じゃ仕方ないですから……シロー…アニキ?」
「違う、そうじゃない! ここは“兄貴”だけじゃないか?」
「そうですか? なんか違うような……」
「いや、ここはシローの言う通りだな。 じゃぁあたしらはシローを呼ぶ時……“お兄ちゃん”がいいのか?」
「!!!」

 

 カガリがその台詞を口にしたその途端、電気でも喰らったようにビクリとするシロー。
 突然背筋を伸ばしたシローを不信がってがってキキが尋ねる。

 

「どうしたのシロー?」
「あ…いや、なんでもない」
「なんでもないようには見えなかったけど……“お兄ちゃん”?」

 

 キキの“シロー”にはいつも通りだったが、カガリの“お兄ちゃん”にシローは再びビクリと反応する。
 そんなシローの反応にキキはなるほどといった悪い笑みを浮かべる。

 

「“お兄ちゃん”、あっちで美味しい物が食べたいな〜♪」
「むっ、よ、よし、いいぞキキ、食べに行こう! お兄ちゃん奢っちゃうぞ!」

 

 キキはシローの腕に自分の腕を絡めて下から見上げてそう言い、シローの了解の言葉を聞いてからカガリの方を振り向いてウインクする。
 何の事かと思ったカガリだが、その意図をすぐに汲み取って自分もシローの腕を絡める……のは恥ずかしいので、シローの袖を摘んでちょっと照れながらキキの真似をした。

 

「おっ、“お兄ちゃん”! わ、私もいいかな?」
「ああ、もちろんだカガリ! お兄ちゃんにまかせろ!」
「やったー! お兄ちゃん太っ腹! 買った物はぜーんぶお兄ちゃんが持ってね!」
「よーし、まかせとけ!」

 

 シローは笑顔で笑うキキと照れながらちょっと複雑な表情をしているカガリを両手に花のごとく左右に引き連れ、その場を歩き出した。

 

「欲しい物があったら言うんだぞ、お兄ちゃんが買ってやる!」
「ちょっ、シローさん、そのお金はみんなから預った物じゃないですか!」

 

 買出しに来た予算を無駄に使いかねない発言をするシローに、キラが思わず突っ込む。
 だがシローは振り向いたものの、首をかしげてそっぽを向く。

 

「あの……シロー…さん?」

 

 そう言われてもシローはそっぽを向いたままキラを無視して何も言わない。
 振り返ったキキが意地悪げにニヤケた笑いを漏らし、カガリも照れながら複雑な顔をしつつもキラに優しげな笑みを向けている。

 

「あぅ……あ……あ……“アニキ”!」
「よし、“キラ”! お前も来いよ!」
「は、はい、アニキ!」

 

 恥ずかしながらアニキと叫んだキラを、カガリもキキもシローも笑顔で招く。
 生死を賭け、友と銃を向け合い、守りたかったものを守れず、激しい緊張で精神をすり減らし続けていたキラは、久しぶりに暖かい――熱い友情とかは新兵訓練で十分味わった――空気を感じる。
 キキはシローが、自分をキラに“アニキ”と呼ばせる事でリラックスさせるようと仕向けていると気が付き、カガリを巻き込んでそういう空気を作ったのだ。
 はたしてキラがシローを“アニキ”と呼ぶ事でリラックスできるかは疑問としても、シローの行動をとりあえず後押ししたが……キラも何かしら肩の力が抜けたようなので良しとした。
 ……それに、なにやらシローも“お兄ちゃん”と呼ばれるのが妙に気に入っているようであるのだが。
 キラがようやくシローをアニキと呼び、4人の間にほっとした空気が生まれた……と思った瞬間、それは目に入った。

 

「「「「!!!」」」」

 

 崩れた日干し煉瓦の街並みの隙間に見えた物は……灰色の機体色をしたデュエルと、バスターである。
 2機は共に郊外にある超大型のテントに向かっているようであり、微かな振動と駆動音が街の雑踏の間を縫うように静かに響いている。
 ここからはデュエルとバスターの上半身しか見えないが、駆動音の多さからバクゥも多数同行しているようだ。

 

「あれは!?」
「間違いない……デュエルとバスター……」
「あいつら……もう動いているのか……っ!」
「どうやら既に修理がもう終わっているようだな」

 

 カガリが憎しみの籠った目で2機を睨みつけ、キラとシローは片手片足を失わせたデュエルや破壊した筈の頭部が元に戻っているバスターを凝視する。

 

「……デュエルの方は完全に元に戻ってますね……」
「ああ、関節を破壊したのが逆に修理し易かったのかもしれないな。
 バスターの頭部は……一つ目?」
「あ、本当ですね。 外部はともかく、内装は自分達のパーツを使ったのかも……」

 

 キラもシローも驚いていた……なぜならあれからまだストライクはマードック班長の徹夜作業にも関わらず、損傷した左脚は出発する時点では――帰る頃には出来ている筈だが――修理できていない。
 ストライクは試作機でありPS装甲という強力な防御力を有する為、修理に関しては必ずしも最適化されていない。
 また接地した衝撃で膝の関節部が可動方向以外に大きな力が加わり歪んでしまうというイレギュラーな損傷状態も修理をし難くさせていたのである。
 だが敵にある2機のGATは、修理する人員や設備が違うのか、ストライク以上の損傷であった物がもう修理が終わっているのだ。
 敵はこちらの修理や整備能力を上回っている……しかも敵から奪ったMSに関わらず、である。
 キラは敵の大きさに、改めて身を震わせるように緊張感が体を包んだ気がした……。
 そしてそれはキラを見ていた3人にも見て取れ、せっかくキラの緊張状態を解きほぐすと言う買出しの大きな目的に失敗した、と思わせたのである。

 
 

「くそぉっ!!!」

 

 仮設のメンテナンスベッドに機体を固定し、機体を降りたイザークは苛立ちげに脱いだヘルメットをキャットウォークの手すりに叩きつけた。
 驚いた作業員がイザークに振り返るが、あまりの怒りっぷりにいそいそと本来の業務へ戻る。
 怒りを納めないままにリフトを降ると、先にバスターから下りていたディアッカがイザークを待っていた。

 

「やれやれ、完全にやられたな」
「俺達の力はこんな物では無い! 修理が完全じゃないに決まってる!」
「おい、ちょっとこい!」
「何をする!!」

 

 怒りと共にそんな暴言を叫ぶイザークを肩を組んで無理矢理に引きづって行くディアッカ。
 まだ何かわめいているイザークを強引に連れて行きながら振り返ると……バスターやデュエルに取り付いていた整備士達が白い目をしてこちらを睨んでいる。
 そんな整備士達に片目を瞑って手を合わせるディアッカ。
 後で何か差し入れを振舞わなければならないであろう……機体を整備する整備士達の恨みを買っても面白い事は一つも無い。
 そんな事を思いながらメカの小山の横を通って、特別に据えられた大型の整備テントのMS用出入口では無い、なるべく人気の無い人間用出口へディアッカはイザークを引っ張っていった。

 

「えぇい、離せったら離せ!」
「ああ、ここならもう誰も居ない、もういいだろう……」

 

 ディアッカが力を緩めるとイザークはその手を払い、ディアッカの正面に向き直る。
 彼らは今朝方修理の終わった自分達のMSと、バルトフェルド隊のバクゥと演習を行っていたのだ。
 ちなみに彼らのMSの修理がこんなに速く終わったのは、コーディネイターの整備士や技術者が優れていたというのもあるが、デュエルやバスターの予備パーツがプラントから届いていたからだ。
 これらの予備パーツはヘリオポリス崩壊の前後、クルーゼ隊の別働隊が大量に奪取していた物だ。
 予備パーツや消耗品が無ければいくらデータを取った後とはいえ、クルーゼもGATを前線には投入しなかったであろう。
 特に全てのGATの基本になったとも言えるデュエルはパーツ数も多く、今回破損したイザークのデュエルは、腕脚を交換することで短期間で修理は終わっていたのだ……取り外した腕脚は別途で修理している。
 逆にバスターの頭部半分もがれたような状態だったのだがバスターの頭部の予備パーツは無く、複数個存在したデュエルの外装を使い、内装はジンの物を流用しつつ、モノアイを複数個装備する事で精密射撃に必要な解像度や解析度を何とかクリアしたのだ。
 破壊された超高インパルス長射程狙撃ライフルも新品に交換して連結砲を使う事も可能だ。
 特に長距離射撃時に使用する精密射撃用の大型モノアイは普段は額部分のPS装甲のガードの奥にあり、長距離射撃時にその部分を開放して大型モノアイを使用する仕様となっていた。
 ――某デュメナスのパクリではなく、GMスナイパーのオマージュと言う事で――
 そうして修理の終わったMSの調子を見るがてら、バルトフェルド隊の演習に加わったのだ。
 バルトフェルド隊の面々も、来るべきAAや連合のMSと戦う上で同系列のMSとの演習は貴重な物になると思ったのであるが……砂上ではジンと対した変わらない程度の運動性しか持たず、WIGモードも無いデュエルとバスターではバクゥのパイロット達が期待した対ストライク戦のシミュレートにもならず、高速機動戦法であっけなく勝利判定を勝ち取ったのである。
 デュエルとバスターvsバクゥ4機程の小演習でも、多くて半分の機体に命中判定を出せても連戦連敗。
 時間も来た事だしこれ以上は何度やっても結果は変わらないとバルトフェルドは判断し、演習を終えて帰還させたのであった。

 

「こんな筈が無い! 俺達赤服が友軍との演習で、MS戦で負ける筈が無いだろ!」
「クールダウンしろイザーク。 現実を見ろ、俺達はバクゥに対してまるで歯が立たなかった。
 俺達が移動にもてこずっている中、バクゥの速度にかき回され、分断されてボン、だ」

 

 両手のひらを上に開いて肩を竦め、負けたと言う事を示すディアッカ。

 

「いや、俺達が負ける訳が無いんだ!」
「いい加減にしろ! 現実を見れない奴は生き残れないぞ!」

 

 道理や理由も無く、ただ負ける筈が無い、勝てる筈だとわめき散らすイザークのパイロットスーツの襟元を掴み上げ、顔を近づけてディアッカもついに大声を出した。

 

「俺達のMSは人型汎用兵器――バスターは砲撃特化だが――だ、戦場を選ばずにどこにでもそれなりに対応できる!
 だがバクゥは局地戦機、砂漠や不整地で戦う為に作られた専用機、そんな局地戦機が汎用機に負けるように作ってある訳無いだろ! このままじゃ何度やっても俺達の負けなんだよ!」
「うるさい! まだ負けて無い!!」
「負けたんだよ! 俺達は今の演習でバクゥにも勝てなかった! 砂漠で二脚は、四脚やクローラーの運動性には勝てない!
 ましてや地上を滑空するストライクには勝てないんだよ!!」
「キサマ! 敵に負けを認めるのか!」
「認める認めないじゃない、負けた、だ。 これは事実だ!!
 現実も見ないでわめくような奴は、これからも勝てねぇんだよ!」
「なんだと! きしゃまっ!!」

 

 襟元を掴んだディアッカの腕を左手で叩き払って離させ、右手を振りかぶってディアッカに殴りかかるイザーク。
 腕を払われた時点で反撃を予想していたディアッカは、顔面に飛んでくるイザークの拳を顔を傾けつつ左手で外側へパリー(攻撃軌道を手で払って逸らして避ける事)し、逆に半歩踏み込んで右手を振りかぶる事無くイザークの鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

「うぼっ……っ! このぉっ!」

 

 振りかぶらず半歩の踏み込みと腕力だけで鳩尾に叩き込まれたディアッカの拳はそれ程速度は無かったが、知覚しない部分からの攻撃で腹筋を締める事もできなかったイザークを呻かせるだけのダメージは与えられた。
 込み上がってくる物を歯を喰いしばって耐え、左腕を振りかぶって横方向から拳を廻してディアッカの顔横にフックを放つ。
 余裕十分に間合いを取ってその拳を避けたディアッカは、左拳でイザークの顔面にジャブを放つ。
 イザークもスウェー(上半身を後ろに反らして相手の攻撃を避わす事)でそれを避けるが、それはディアッカにとっては予定の行動、ジャブはイザークの注意を引き付ける為の物でしかない。
 再び軽く踏み込んで右拳をイザークの鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

「うぐっ……っ!」

 

 さすがに2度目は腹筋を締める事ができ最初程のダメージは無い。 怒りを込めてイザークはディアッカを睨みつけたが……その直後、鳩尾から跳ね上がったディアッカの右拳がイザークの顎を右から左へ斜めに打ち上げた。

 

「がは……っ!」

 

 口の中を切って少量の血を吐き出しながらイザークは顎を斜めに打たれた事で脳を激しく揺さぶられ、軽い脳震盪を起しつつ膝から力が抜けるように前へ倒れこんだ。
 あくまで後ろに無様に倒れなかったことは賞賛に値するかもしれないが……地面にぶつかる前に両手を前に出して頭部は守る姿勢は、四つん這いに近い状態であった。
 一連の殴り合いはコーディネイターの速度で行われたので、ナチュラルには目にも止まらない一瞬の攻防であった……何か動いたと思ったらイザークがいきなり膝を付いたように見えたであろう。
 実際はイザークとディアッカで格闘戦の実力差はそうは無い、だが士官学校でお互い何度も訓練で拳を合わせてきたディアッカなら、怒りで我を忘れてもMSの操縦を見失う事は無いが多少ではあるが集中力を欠いたイザークに拳を入れる事が可能だった。
 まぁ、こういった荒事にはディアッカの方が慣れているのも確かな事ではあったが。

 

「どうしたイザーク、この程度で膝を付くお前じゃ無いだろ。 それだけお前が冷静さを失っていたって事だ」
「ぐぅっ……っ!」
「お前も判っているんだろ? 認めたくないだけで。 俺達が奴に勝つ為には自身の弱さを認めるしかない。
 その上でどうすれば勝てるかを考えよう、結局、最後に勝った方が強いんだからな……だから俺達は負けない、お前のいつも言う“負けて無い”は、そう言う事だろ」
「俺は……」
「ん?」
「俺は……奴より弱い、それは気が付いていた。 だが味方とは言えバクゥより弱いとまで認めなければならないのか!?
 赤服の俺達が! 相手が局地戦機と言うだけで! 俺は俺とデュエルで、奴に屈辱を晴らすと誓ったんだ!
 それなのに局地戦機も勝てないようじゃ……いつまで経ってもストライクにカリを返せないじゃないか!!
 くそっ……くそっ……くっそぉぉぉぉぉおおおぉぉぉーーーっ!!!」

 

 地面に拳を叩きつけ、慟哭するイザーク。
 なんだ、ストライクに負けたことは認めているのか……と言わんばかりに口元を歪めて苦笑を漏らすディアッカ。
 イザークも馬鹿ではない、負けを認めて始めて繰り出せる一歩がある、とは気が付いているのだ。
 だがそれが自分の愛機であるデュエルでカリを返す、となるとなかなかにハードルは高い……。
 この砂漠では二脚MSは運動性で劣る、だからこそ四脚MSのバクゥが開発され、ストライクは地上スレスレを滑空する方法を編み出した。
 ……しかしデュエルとバスターにはそのような奇策は残されていない。
 スラスターの推力でホバリングや小ジャンプを駆使する事で最低限の運動性は確保できる、機体の修理中に砂漠用に足回りのOSも調整した。
 それでも総合的な運動性ではバクゥに劣ったのだ……さっきまでの演習がその現実を突き付けてくれた。
 そしてこのままでは部隊の戦闘機動に追従できず、戦場では良くてお荷物、悪ければ陸上艦の上で砲台のように支援射撃しか活躍の場は与えられないであろう。
 バックパックを交換して状況に対応できるストライクとは違って、汎用機であるデュエルや、砲撃機であるバスターはその点戦術上の融通が付けられない。
 バクゥにバスターとデュエルの上半身を移植して……などと莫迦な魔改造も一瞬考えたが、そこまで重量が増えれば四脚MSでも運動性が落ちて意味は無い、それに可動する2機のMSをわざわざ1機にして2機分の戦闘力を発揮できるとも思えない、それにPS装甲のある上半身はいいとしてバクゥの部分はPS装甲は無く被弾にも弱い。
 何よりそんな改造が許可されるとも思えないし、自分たちで作ってしまう訳にも行かないし、機材も技術も設備も無い。
 ディアッカとしてもストライクとの決着を着ける事は望む所なのであるが、現状では確実に返り討ちに合いそうで、その現状を打破する戦術や作戦や機体の小改造は微塵も思い付かない。
 それより目の前で慟哭するイザークをどうしたいいのか……自らの限界にぶち当たって男泣きに泣くイザークを。
 それ自体恥ずかしい事とは思わないし、そういう事があってもいいだろう、それで次の一歩を踏み出せるなら。
 ただ、これ以上慟哭させていると誰かが様子を見にやって来そうだ……仲間であろうディアッカに見られるのはいいだろうが、一般兵や整備士にまで見られてしまうのはプライドの高いイザークには耐えられまい。
 そう思ってとりあえずあてがわれた部屋へ戻ろうとイザークに声を掛けよう…………
 …………とした時、先に2人に上から声が掛けられた。

 

「なにを……泣いているのですか?」

 

 小山のようなメカの山の上から降りてきた、作業用ツナギを着てボード型端末を持った短髪の女性が、細長い眼鏡を胸のポケットにしまいながら2人に不思議そうな声で話しかけて来たのだ。

 
 
 

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