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武装運命_第01話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 19:31:35



 少女の代わりに、少年は心臓を抉られた。





「…………あぁ、夢見が悪い」

 誰宛てでもない独り言。

 寄宿舎からアカデミーへ続く道を、シン・アスカはのったり鈍重な足取りで歩いていた。

「うーす」

「おはよー」

 朝の通学路というだけあって、人の波は皆同じ方向へ進む。

 所々から起こる爽やかな挨拶の声も、しかし彼の心を晴らすには至らない。

 はぁ、赤い瞳の嵌った目蓋を閉じて嘆息。

 桜の花びらを乗せた風が、黒い髪をさわと揺らした。

「おいーっす!」

「や、おはよ」

「景気が悪い顔だな」

 と、後ろから親しみの多分に含まれた挨拶が飛んできた。

 3人ともシンの悪友である。上からヨウラン・ケント、ヴィーノ・デュプレ、レイ・ザ・バレル。

「あぁ、おはよ…………」

「うわ気のない返事」

「どーしたのさ、ホントに顔色悪いぜ?」

「保健室にでも行くか?」

「そんなに大した事ないって。夢見が悪かっただけさ」

 彼らの心配に、シンはただぶっきらぼうな言葉を返す。

 普通なら癪に触るような態度だが、友人達は慣れているのか肩を竦めるだけであった。

 どんな夢だか聞いてもいいか、ヴィーノが問う。

 それにシンはひとたび鼻を鳴らし、重い口を開いた。



「学校近くにさ、廃虚みたいなとこがあるじゃん」

「ああ、ロドニア・ラボとかそんな名前だったっけ?」

「そうそうそれそれ」

「あの近辺は確か侵入禁止になっていたようだが、それがどうしたんだ?」

「俺さ、そこで女の子を見付けたんだ」

「女の子ォ? お前g」

「取り敢えずヨウラン黙れ。シン、続きを頼む」

「あ、ああ。で、その女の子がさ、得体の知れない化け物に襲われそうになってたんだよ」

「ほほう。女の子を助けて怪物を倒す感じ?」

「…………助けようとしてその子押し飛ばしたら、代わりに俺が殺されました」

「「駄目じゃん!!」」



 騒ぎながらの登校風景は、

 ――キーン コーン

 始業ベルにて終わりを告げられる。

「あ、やべっ! 今週の門番シメオンだよ!」

「急いだ方がいいな」

 ヨウランの焦った台詞に、レイが言っいてる中身とは正反対な調子で続いた。

 走り出すシン達を含めた生徒。

 が、話をしていた者と聞いていた者の差か、シンは3人より明らかに出遅れてしまっている。

「遅いぞシン! ぼっとしていたらただの的だ!」

「なんの!?」

 先に校門をくぐったレイが掛けた発破に、疑問満載の悲鳴を上げるシン。

 その横を、紅い少女が抜いた。

「あ、ルナ!」

「おはよシン、悪いけど先行くねっ!」

「あ、この、負けるかっ」

 ルナマリア・ホーク。彼女もまたシンの友人だ。

 すらりと伸びた健脚を惜し気もなく晒しながら、走る。

 ふわりふわりと揺れる短いスカート、見えそうで見えないその絶対領域に思わずシンの速度が落ちた。

 ――カーン コーン

 果たして、ベルが鳴り終わった時。

「セーフっ!」

「くっそぉ…………」

 助平根性が祟り、シンは敢え無く撃沈。

 校門のレール上でルナマリアは大きく安堵の息を吐き。

 その瞬間、

 ――ガラ、

 校門が、

 ――ガラガラッ、

 急に、

 ――ガラララララララ!

 閉められる

「危ない!」

 突然の事で反応が遅れたルナマリアを奥へ押し飛ばし、シンは鉄の顎を片手で阻み止めた。

 強烈な衝撃に、“心臓”が唸る。

 ――ガシャァァァンッ!

 門が閉まった。

「1秒遅刻、減点1だな」

 どこか場違いな程に静かな、確認のための声。

「減点3で罰掃除、2年なら知ってんだろ」

「あ、アンタ…………!」

 校門をルナマリアごと閉めようとした男、マーズ・シメオン。

 リーゼントのような毛髪を触りながらどうでも良さそうに言って退ける彼の態度に、危うく死にかけた彼女は当然のごとく噛み付いた。

「ちょっとアンタ、教師の癖になんて事すんのよ!?」

「はん、規則も守らねぇ奴は知りゃしねぇよ。てめぇも減点1だ」

「んなっ…………」

「ルナはセーフでしょ、時間内に入ってましたよ」

 悪びれもしないマーズに面食らったルナマリアを庇う形で、シンが立ち上がった。校門に思いきり打ち付けた左の掌が、真っ赤に染まっていて実に痛そうだ。

「アウトだ。それともてめぇが肩代わりするか?」

「良いですよ、そんじゃ俺が引き受けます」

 ぎっとマーズを睨み付けながら、シン。

 それに何を思ったか、マーズは違反者の欄からルナマリアの名を消し、代わりにシンの名の横に線を2本引く。

 止まぬ喧噪を割るようにして、彼らは教室へ向かい始めた。

 シンは、不条理な暴力に反骨する度合いが殊更大きい人種である。友人一同はそれを理解していたのだが、納得の行っていない者もまたいた。そう、庇われたルナマリアだ。

「ちょっと、シン! 私より先に自分の手の心配しなさいよ」

「大袈裟だな、大丈夫だってこのくらい」

 痛みを散らすように軽く手を揺するシン。

 そこへ、後ろから再度声が掛かった。

「待ちな。てめぇ、学校指定の鞄はどうしたよ」

 視線がシンの持つそれに集まる。

 彼は今、学校で指定された手提げ鞄ではなくリュックを背負っていた。

「あースイマセン、朝探したんですけど見付かんなくって」

「失くしたってか。帰りはどこ寄った?」

「――――……?」

 答えかけ、首を傾げる。

 昨日、俺はどこでなにをしていた?

 沈黙は一瞬、返事より早くマーズが髯の生えた顎を動かした。

「ま、いい。減点3で罰当番だな、放課後中庭の草むしりだ」

 シンの口から悲鳴が出る。

 あからさまにイヤそうな顔をする彼に構わず、追撃。

「終わるまで帰んなよ、夜までかかってもやれ」

「ちっくしょー!」

 悲嘆にくれた叫びを上書きするように、

 ――キーン コーン

 予鈴が高らかな音を立てた。

 この騒動で足を止めていた生徒達が、我を取り戻した様子で一斉に動きだす。

「ねぇ、やっぱり私の分の減点戻しても」

「それはダメだ。一度決めた事には責任取らなきゃ」

「ホント頑固なんだから…………ありがと」

 走りながらの最後の一言は、地を踏み鳴らす音に紛れて消えた。



 生徒達の後ろ姿を見送る――その眼には寸分の優しさもない――マーズ。

 その口が、動く。

          「  見  ツ  ケ  タ  」





 ――昼休み――



「おーまーたーせー」

 腕に結構な数の飲み物を抱え、シンは屋上の扉を掛け声とともに引き開いた。

 アカデミーの屋上は基本的に常時解放されているのだ。

「さんきゅ、シン。いちごオレあった?」

「うむ、御苦労!」

「何様だお前はこら」

「あふん」

 ヴィーノ所望の品を投げ寄越しつつ、ヨウランの顔を足蹴に。

 腰を落ち着けたところで、メロンパンをもふもふ齧っていたルナマリアが問うてくる。

「ね。大分時間経ったけど、腕だいじょぶなの?」

「ん? 腕はもう痛みも引いたよ。……ただ、何でかは知らないけど、心臓がさっきからズキズキする」

 最後は半ば呟くように、シン。

 服の上から押さえてみれば、胸中に納まったそれはしっかりと動いている。

 その目に、不意に、学ランの内ポケットへしまっていたピンク色の携帯電話が入った。

 着信メール有り。

 いつ来たんだろ、考えながら携帯を取り出したシンに、今度はレイが口を開く。

「しかし、お前は本当に無茶をする」

「え、無茶って朝のアレ?」

「そうそう! 今朝は運良く大した事なかったみたいだけど、もし大怪我とかしたらどうするのさ」

「どうするって、体罰教師で訴えるとか?」

「はは、そりゃ良いや。PTAは怖いかんなー」

 黒めな肌色の顔に上履き跡をガッツリ刻まれたヨウランが、けらけらと楽しそうに笑う。顔を拭かないのは何故だろう。

「まぁ、あの時はルナが危ないって思った瞬間考えるより先に体が動いちゃったから。どっちも無事だったんだし、問題ないだろ?」

「ふもっ!?」

 急に振られたせいか、口一杯にメロンパンの真ん中を頬張っていたルナマリアは間抜けな声を出してしまった。

 最初に噴出したのは意外にもレイ。

 続いてヴィーノ、ヨウラン、シンと続き、屋上は大きな笑い声に包まれる。

 急いで小麦粉の成れの果てを飲み込み、怒声を上げるルナマリア。

「ぅアンタ達ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「いっひゃ、逃げろ逃げろ!」

「足下に気を付けろよ、階段から落ちても拾ってはやれない!」

「いっじわるねぇ♪」

「――――オルギア発動、当たって砕く!!」

「ごめんしてっ!?」

 馬鹿な事言ったヨウラン目掛け、紅い少女は猛禽の動きで強襲。

 後ろから飛び膝をブチ決めて蹴倒し、そのままマウントポジションを取って。

「アンタが! 泣くまで! 殴るのを! 止めないッ!!」

「はふぅおふぅはふぅおふぅはふぅおふぅ!?」

 まさにフルボッコ。

 彼を生け贄に捧げて逃げおおせたヴィーノが、取り敢えずといった感じで呼び掛けた。

「そろそろ予鈴っぽいし、俺達先行ってるからねー」

「わかったー」

「ふっともも! ふっともも! ふっとアッー!」

 気でも触れてしまったのだろうか、ヨウランの断末魔を聞きながら3人は教室へと歩き出した。

 数メートル程進んだところで、シンはメールが来ていた事を思い出す。

 手首のスナップを聞かせて携帯を開き、受信ボックスを開くと。



 From:[email protected]

 題名:

 本文:あたらしいいのちを たいせつにね



「………………なんだこれは、たまげたなぁ」

 零れ出た呟きに、何故かレイが軽く己の尻を押さえた。







――夜――



 ほうほうの体で草むしりを終えれば、既にとっぷり日は暮れて。

 ぜっはぜっはと肩で息をしながら草がぎっしり詰まった袋をゴミ捨て場に投げ入れ、シンは地面にへたり込んだ。

 相当に広い中庭、一人で片付けるなんて罰当番としては最悪の部類に入る。

「くっそー、夕飯取っといてとは頼んだけど不安だな…………さっさと報告して帰ろ」

 夜の学校が放つ威圧感を紛らわすように独り言を繰って、鞄を背負う。

 巡らせた首、それが偶然学校の裏に有る廃虚を捉えた。

 ロドニア・ラボ、何処かの軍隊が非道な人体実験を繰り返していたという噂が有る曰く付きの場所。

 背筋を襲った怖気に従い、身をブルリと震わせるシン。

 逆に考えるんだ、報告は明日でも良いさって考えるんだ、自己暗示しながら踵を返そうと、して。

「どこ行くんだ?」

「あれ、どこ行くの?」

 寄宿舎の外へ出たルナマリアを見付けたヴィーノが尋ねる。

「ん、ちょっとシン迎えに行こうかなって」

「あらやだ逢い引きよ」

「昼の続きは要るでありますか?」

「すまん」

 わざわざ外まで出てきて土下座したヨウランの頭をぐりぐり踏み付けながら、ルナマリアはくすりと微笑んだ。

 ああいう顔はそれなりに可愛いんだがなぁ、どうでも良い事を考えるレイ。

「ほら、シンが草むしりしてるのって1/3は私のせいじゃない? それをただ出迎えるだけってのは良くないと思って」

「へーほーふーんほへーんあそーうむぎゃあ!?」

「この時間に女の一人歩きは何かと危険だ、俺も行こうか?」

「平気平気、私も赤なのよ」

 他意がない事をやたらと主張しつつ、足の裏で寸勁もどきをヨウランヘッドに打ち込む。

 めしゃ、湿った音が寄宿舎に響いた。





 声を掛けてきたのは、罰当番を科した張本人マーズ。

「罰当番は済んだみてぇだな…………ま、それはどうでもいい」

「え?」

 疑問の声を上げたシンに、マーズは何かを投げ寄越す。

 四角い皮張りの、それは鞄。

「これ、俺の鞄! 一体どこで、」

「裏山の ロドニア・ラボ」

 マーズが着ているジャージに、無数の線が走った。

 ――ぞわり

 怖気。

「それぁな、夕べ、俺のメシ邪魔したヤツが落としたんだ……」

 少しづつ人間の輪郭を失っていく目の前の男。

 ――ぞくり

 寒気。

「心臓串刺しにして殺したつもりだったんだがな、生きてんなら今度こそ」

 その姿、間違う事なく、昨日の夢に出てきた。

 ――どくん

 “心臓”が、吼える。

「なんだよ、なんだよこれ、夢だよな」

 頬を引き攣らせ、シンは呟いた。

「夢じゃなきゃ、俺はなんで生きてるんだよ」

 何故か、デジャヴ。

 マーズだったモノが鎌首を持ち上げる。

 それは、

 人知を越えた大きさの、



「 確 実 に 殺 す 」

     大 蛇





 逃げる。

(夢じゃない! 夢じゃなかった! それじゃ――――!)

 飛び交う尾の一撃を何とか避けながら、逃げる。シンにできるのはそれだけ。

 と、そこに突然電話がかかってきた。

 普通なら訝しむだろう所であるものの、状況がそれを許さない。思わず通話ボタンを押す。

『3分で行くよ。それまでにげて』

 静かで、儚げな女の子の声。

「やっぱり、そうか! アレは何なんだよ? アンタは誰なんだ!?」

 シンはただ叫ぶ。

「俺は、いったい、なんなんだ!?」

 最早意味すら為さない問い。

 ふと嫌な予感。

 横へ飛んだ拍子に、大蛇の顎が一瞬前までシンのいた空間を噛み千切った。

『…………移動しながらじゃ話しにくい。縮めていい?』

「それでもいいから教えてくれっ!」

 細い隙間に入り込みながら、シンは電話の向こう側に乞う。

『そいつらの名前は、“ホムンクルス”。人間のフリして、人間を食べちゃう化け物』

「人を、食べる!?」

『わたしはそいつらを追ってきたの。それで昨日、あなたを巻き込んじゃった』

「巻き込んだって、それは」

 言いかけたところで、蛇の哄笑が辺りをつんざいた。

 かなり近付かれている。

「くっそ、逃げ切って!」

『むり』

「あァ!?」

『あいつら、自分達を隠すためなら幾らでもくちふーじする。目撃者は地の果てまで追って始末するヤツらだもん――――巻き込まれたら、逃げ場なんかない』

「そんな話アリかよっ!」

 喚き、道を曲がったところで。

 シンは、彼女と、出会ってしまった。

「…………ル、ナ?」

「シン! やっだもー、びっくりしたじゃない」

 何故ここに。

 まずい。

 逃げろ。

「駄目だルナ、早く帰れ!!」

 言い捨て、シンは反転した。

 せめて足留めして時間を稼ぐ、決意と共に転がっていた足下の鉄パイプを拾い上げる。

「ここは危ないんだよ、逃げろ!!」

「ちょっと、何よシン! シンってば――――」

 突然自分に背を向けた友人を追おうとして、ルナマリアもまた駆け出し。

 ――ボゴ、シャッ!

 地面から跳ね上がった大顎に、飲み込まれた

「へ?」

 認識。  理解。 感情。

 大蛇は、地面を掘り進んできた。

 そして今、ルナマリアを。

「へっ、ナマイキでも食っちまえば同じか。若い女はやっぱ美味いな!」

 挑発するように笑う大蛇。舌に当る部分の先端にくっついたヒトのままの顔が、悪趣味な戯画のようで。





 ――シンが一人でこの寄宿舎に住んでいるのは、学業のためだけでなく、身寄りが既に一人もいないせいであった。

 ――なぜ自分が一人になってしまったのか、シンは幾度となく考えた。

 ――だが、答えは出ない。誰に聞いても真実を教えてくれない。

 ――何となく覚えているのは、その時自分が崩壊してしまいそうになる程、恐怖した事。

 ――それも、そうだ。

 ――何故なら。

 ――彼の家族は、皆。

 ――父さんも。母さんも。妹の、マユも。

 ――バケモノ共に、ルナみたいに、■■れてしまったのだから。





 フラッシュバック。

 脳裏には、ピンク色の携帯を握りしめたマユの右手。

 心臓が、疼く。

『…………きんきゅーひなん。“力”使って良いよ、戦って!』

 通話状態だったマユの携帯から、女の子の声が届いた。

 戦え。

 どうしたら良いのか、考えなくともワカる。

 本能が、理解している!

 鉄パイプを投げ捨て、大蛇と向かい合う。

 生きたいと願う生存本能、それがその存在から引き出すのは治癒の力。

 そして、もう一つの本能……闘争本能から引き出されるモノこそ、その存在にとっては本来の用途。

 名を、核鉄(かくがね)。 

「諦めが悪ぃなぁ? てめぇの命は昨日とっくに消えてる筈なんだよ、摂理に則ってとっとと死んでろ」

 人を人とすら見ぬ、冷厳な化け物特有の眼差し。

 それに、シンは怯えなかった。

 胸元へ手を添える。

 掌握。

「殺したきゃ殺してみろ」

 決意。

「ただし」

 そして、

「ルナは」

 咆哮。

「返してもらう!」

 その名称――――

「ウダウダやってるヒマはねぇんだよ、大人しく死んでろや」

 ――バクン!

 無造作に、大蛇がシンを口腔へ送り込む。

 そのまま嚥下。

 最早周囲に動く者はなし、蛇舌の先のマーズが舌を舐めずった。

「へっ、あとは昨日の女を――――」

 野卑た笑みが、唐突に消えた。

 内側から喰い破られていくおぞましい感覚。

 ホムンクルスの身は、同じ錬金術を持ってしか崩せないと言うのに。

 体を捩って苦痛を表す大蛇。

「なんだ? 一体どうなってやがる!?」

 コブラのように大きく張り出した胴部が、無数の罅を刻む。

 もう一度言おう。 

 その名称――――





「 武 装 練 金 ッ !」





 爆ぜた大蛇の背中から、ルナマリアを抱えたシンが飛び出た。

 その手に握られた濃灰の核鉄が、質量保存の法則を丸無視して機械的に変型していく。

 シン自体の身長をも超える長さの、それは、剣。

 真直ぐで、少しも歪みのない、峰に加速器が幾つも組み付いた、片刃の、巨大な、剣!

 ぶわり、風を孕んでシンの制服がはためいた。

「ぶ、武装練金! なんでてめぇなんぞがソレを持ってぇぇぇぇ!?」

 ズタズタに砕かれながらも、大蛇は苦し紛れに崩壊していく体から無数の刺を突き出した。

 空中で移動する術のない彼らには、これを避ける術などない。

 彼らには。

「大剣の武装練金…………まっすぐで、かっこいいね」

 微笑みと共に、その少女は現れ。

 菫を思わせる瞳が、シンの鮮血の瞳と交錯した。

 直後、二人の間を漆黒の疾風が駆け抜ける。

 夜陰の中でも金色に艶めく髪を揺らしてその背に乗り、少女は優しい調子をかなぐり捨てて咆哮した。



「噛み砕け、 ハ ウ ン ド ・ ガ イ ア !」



 犬科を思わせるスマートな獣が、五爪を持って大蛇を完膚なきまでに引き裂く。

 壱撃、弐撃、参撃、数多の攻撃。

 最早、完全な再生は不可能。

「黒犬獣の武装練金…………くそ、てめぇは……練金の――――」

 言い終える前に獣に頭を噛み砕かれ、マーズだったモノはこの世界から完全に意識を無くした。

「き、きみは!」

「こいつら額が急所、覚えておいて。あと」

 落下しながら問うたシンへ、獣に跨がった少女は。

「高いから、着地、気を付けないと死んじゃうよ」

「うわ高ぇ!!」

 命綱なしのフリーフォールは面白くない、シンは後にこう語る。



「思い出した」

 校庭に植えられた桜の木の下にルナマリアを寝かせ、シンは黒獣を従えた――これも核鉄が変じたモノらしい――謎の少女と相対していた。

 飾り布も何もない無骨な剣は、その大きさに相反して思った程重くないようである。

「俺、昨日帰ってる途中あの廃虚に灯りがついてるの見て。何となく行ってみたら、キミがシメオンに襲われそうだったから」

「…………あのね、それ、演技」

「へ?」

 申し訳なさそうな少女の言葉に、シンは刮目した。

「無防備なふりして、ガイアに処理させるつもりだったの」

「…………俺、もしかして無駄死に?」

「けっこう」

 うっかりにも程が有るだろうに、先走り過ぎを自覚して盛大に崩れ落ちるシン。

 それを困ったように眺める少女と獣。

 と、ルナマリアが僅かに身じろぎをした。寄った眉根は悪夢でも見ているためか。

「! 大丈夫か、ルナっ」

 思わず大剣を投げ捨てて走り寄ろうとしたシン。

 しかし、足がズキンと来て腰もギクンと来て体中ガクンと来たら、そりゃもう進めなくなるのも当たり前であった。

 ぶっ倒れかけたシンを、黒獣が後ろからシャツに噛み付く事で支える。

「慌てないの。あのひとは無事だよ」

「無事か、そっか、良かった…………良かった」

 その事に、シンは安堵の溜息を吐いた。

 自分はボロボロにも関わらず、なお他人の心配をする少年。

 それが、少女は少し気に入った。

 刃に触れぬよう気を付けながら、両手でシンの核鉄変じた剣を差し出す。

「もっと大切にしてあげて。この子はわたしのガイアと違って、あなたの心臓の代わりもしてるの」

 言われるままに柄を握るシン。

「奪われたり壊されたりしたら、今度こそ本当に死んじゃう。死んじゃうは、だめ」

 真直ぐな瞳で見詰めてくる少女。

 確かに、シンは己の命の脈動をこの剣から感じていた。



「これが、あなたの“あたらしいいのち”だよ」





 化物。

 錬金術。

 謎の少女。

 シンを搦め取った物語は、今、始まったばかり――――





「で、錬金術って何?」

「…………ステラも、よく知らない」

「えー」

 謎の少女の名前はステラだそうで。











                           第1話 了