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補完小説パトリック・コーラサワー機.▲蹈Ε再隊 前編

Last-modified: 2014-03-07 (金) 14:03:29

 本作は、『機動戦士ガンダム00』アニメ本編と公式小説における、
.僖肇螢奪・コーラサワーのアロウズ入隊及び離脱の状況補完
▲僖肇螢奪・コーラサワー及びカティ・マネキンの心情補完
を主目的として書かれたものです。
その手段として、本文内にアニメ本編と小説の他、DVD特典イラスト・雑誌記事・
PS2『ガンダムマイスターズ』及び『Gジェネレーションウォーズ』のセリフ等を使用しています。
(――文書係091024)

 

※更新のお知らせ
公式小説2期4巻および『機動戦士ガンダム00 メカニック-2nd』刊行に伴い、一部内容を
補足・改変しています(離脱状況・ジンクス靴離灰ピット内描写ほか)。
また、2ちゃんねるとの投稿・表示環境の相違から、文末を中心に表現を部分的に改めています。
本スレの過去ログは新人スレアップローダー(http://loda.jp/sig/)に収録されています。
連載は過去ログ17スレ目から、現行の21スレ目までです。
ページ末尾にコメント欄を設置しました。感想を頂ければ幸いです。
(――文書係100211)

 
 

 ◇    1    ◇

 

 「貴官を呼んだのは他でもない。私に独立治安維持部隊、アロウズに入隊せよとの内示が
司令部より下った。近日中に転属する」
連邦軍大佐カティ・マネキンは、部下である少尉パトリック・コーラサワーが入室し、扉が完全に
閉まるのを待つと、自身は椅子に腰掛けたまま、事務連絡と変わらぬ平淡な口調で告げた。
「大佐、お……私も行きます!!」
「却下する」
カティは一言の下、パトリックの申し出を突っぱねた。
「そんなぁ〜大佐! どうしてですか?」
パトリックは途端に涙目になり、彼女に詰め寄る。
これがいい年をした男のすることかと最初は情けなく思ったが、見慣れてくると存外、可愛げがあり
滑稽である。
「アロウズがどのような組織か未だ定かではないのに、大切な部下を連れて行けるか」
「そんなトコなら尚更、自分も!」
「貴官は内偵には向かん、少尉。これは適正を熟慮した上での決定だ」
「内偵って? ……ええっ、この俺のどこが向かないと!?」
「やれやれ……」
想定内とはいえ、やはり一からこの男に説明してやらなくてはならないのかと、カティは早くも
疲労感を覚えてこめかみを指で按じた。
「第一、貴官は目立ち過ぎる。良きにつけ、悪しきにつけだ」
「いやあ〜、人気者は辛いってことですね」
パトリックはへらへら照れ笑いしながら頭を掻いた。

 

 「後半はどうした、パトリック……」
あながち的外れでもないが、彼の態度から彼女の発言の意図が十分に伝わっていないことは
明白だった。
彼の容姿・性格・言行――どこを探しても、内偵に相応しい要素が見つからない。
およそ軍人らしからぬ赤く揺れる長髪も、切れ長の目に紫の瞳が印象的な、若々しく派手やかな
容貌も。
真面目なのかふざけているのか、本人も自覚がないと思われる数々の軽率で奔放な振舞いも、
全てがだ。
「ガンダムを落としたらキスをしろだの、子供は3人だのと作戦行動中、全回線開放でほざきおって!
AEUの将兵がどれほど我々の仲を噂し、誤解していると思っている!? つまり貴様が側にいては、
私まで目立って身動きがとれないということだ!」
恥ずかしさと苛立ちとが昂じて、彼女は拳を目の前の机に叩きつけた。
「すみません大佐ぁ……戦場だとテンション上がっちゃって、つい」
パトリックは髪を掻きやっていた片手を下ろすと、申し訳なさそうに肩をすくめる。
「戦場だけか?」
勢い余って、思いの外痛む拳をさすりながら、皮肉まじりにカティは返した。
彼女の見る限りにおいて、彼の気分は始終昂揚しており、とても余人の真似し得るものではなかった。
常人なら5分もすれば息切れしてしまいそうである。
「それに誤解じゃないです。大佐を妻に頂いて子供は3人! 美人妻に可愛い子供、有史以来、
プリミティブな男の夢じゃありませんか、ねえ!」
「まったく……」
何を、ぬけぬけと――彼女は一気に畳み掛けて、パトリックが自分を追ってアロウズに来ないよう
言い含めておくつもりが、いつもながらに大胆な愛の告白に呆れ返り、続けるべき言葉を失った。
想いを伝えられず悶々としている者が、この世界には恐らくごまんといるだろうに、この男は一体、
何者なのだろう。
ただ情熱的なフランス人というだけでは、どうにも得心のいかない何かがあった。

 

 ◇    2    ◇

 

 彼女に怒られたときよく見られる癖で、パトリックは弁解ついでに呵呵大笑した。
世界が再び戦乱に向かいつつある大事にふざけるな、とむかっ腹も立つのだが、ともすれば端正に
過ぎて酷薄にも見える顔立ちが、破顔一笑、少年のようになると、まあいいかとつい許してしまう。
臆面もなく彼女の容姿に言及して憚らない強者も、三十を過ぎ、大佐という重責を負う今となっては
彼以外に存在しない。
有史以来の男の夢だの何だのと、言辞が大袈裟に過ぎて胡散臭く、面映いことといったらないのだが、
不思議と悪い気はしないのであった。
ともあれあらぬ方向に飛び火した話の筋を元に戻さなくてはと、カティは再び口を開いた。
「まあいい。これは私とスミルノフ大佐との間で既に決めたことだ。どちらかがアロウズに潜入し、
内情を偵察する。アロウズが軍としての正当性を持たぬ組織であれば、連邦に残った方が抑止力と
なり、有事には内部からこれに応ずる」
「スミルノフ……ああ、人革の穴熊」
「荒熊だ馬鹿者」
「しかし何故アロウズに潜り込むのが大佐なんですか。大佐に何かあったら!」
パトリックはまだ諦めていない様子だが、カティはやっと訪れた予想通りの展開に、得たりと
形の良い唇をふっと歪ませると、不敵に微笑んだ。
「貴官は私がへまをするとでも思っているのか? 随分甘く見られたものだな」
そのまま片頬を斜め上に傾けて、流し目で相手を一瞥する。
これは彼女自身自覚している悪い癖で、これを用いれば相手は大抵、侮蔑されたと悟り憤慨する。
しかし何故か、パトリックには通用しないのだった。

 

 思えば初対面の時、部隊のブリーフィングに大幅に遅刻した彼を拳で殴りつけたときもそうだった。
女のものと思われる移り香をぷんぷんとさせ、「二度もぶった!」などと大昔にどこかで聞いたような
捨て台詞を吐いたかと思うと、双眸をきらきらと輝かせながら威儀を正し、驚くほど素直に謝って
きたのだった。
エースパイロットの実力を鼻にかけ、反抗的な態度を続けるようであれば、腐った性根を叩き直して
やろうと考えていた彼女は拍子抜けした。
当初の思惑に反して懐かれてしまい、その日を限りに彼の遅刻と無断欠勤はなくなった。
後日、花束持参で食事の誘いに自邸までやってきた時には、冷静沈着で知られる彼女も
度肝を抜かれた。
この男の思考回路はどうなっているのか。
プライドの人一倍高い、パトリックのような自信過剰の男には、どれもこたえたはずなのだが、と
予想を悉く覆す彼の反応に、カティは戸惑う。
あれから数年、彼と行動を共にしているが、どうも彼のペースに巻き込まれ、自分だけが
振り回されている気がしてならないのであった。

 

 ◇    3    ◇

 

 「スミルノフ大佐は指揮官としても、MSのパイロットとしても優れた方だ。外部からの
抑止力としてこれ以上の適任はない。だが」
カティはそこで向き直り、パトリックと視線を合わせる。
「その際は少尉にも協力してもらいたい。だから連邦に残れと言うのだ。いいか、分ったな」
「ええ〜」
パトリックは眉を顰め口をへの字に曲げて、いかにも不服だと言わんばかりの態度をとった。
こちらは誠心誠意、諄々と諭しているというのに、いくら何でも大人気がなさ過ぎると
いうものである。
「上官に対して、そのような返答をする奴があるか!」
「……はい」
カティの一喝にパトリックは形ばかりではあるものの、渋々承諾した。
この調子ではあと何回かは、同じようなやりとりを続け、念押ししておく必要がありそうだった。
多少有難迷惑の気味もあるのだが、自分の身を案じてくれているのであるし、彼女に関わる
パトリックの様々な言行についても、「状況を考えろ」という大問題を措けば、純粋な好意の
現れであることは元より理解していた。
どれも事実であるとはいえ、さすがに叱責が過ぎたかと、すっかり打ちしおれてしまった
パトリックを前に、カティは徐々にばつが悪くなってきたのだった。
「そうしょげるな、少尉。アロウズが独立治安維持部隊の名に恥じぬ組織であると判断できれば、
貴官は対ガンダム戦において不可欠な戦力。すぐに転属を司令部に要請してやる」
「ホントですかぁ? 約束ですよ大佐! 困ったときはすぐ駆けつけます! 貴女のハートのエース、
パトリック・コーラサワーが!」
先ほどのしおらしさはどこへやら、一転、机に乗りかからんばかりの勢いで一息にまくしたてると、
眩しいほどの笑顔を彼女に向けて親指を立て、大見得を切ってみせた。
「……あてにしている」
調子に乗るなと言っているだろう、本当に解っているのかともう一度説教したいのをこらえながら、
カティは呆れ顔で頬杖をついた。

 

 ――大佐に何かあったら!
「それは私の台詞だよ、パトリック――」
名残惜しげな様子のパトリックに退室を命じると、カティは椅子に背を預けて瞼を閉じた。
おのずと深いため息が漏れる。
「まさかこの私が、心配されるとはな……」
ひとりごちた唇が、我知らず微笑をかたどった。
まっすぐに人に思われるというのは、こういうことなのだろうか。
それは若年より天才戦術予報士として名を馳せ、聡明で隙のない性格の彼女には、余りない
経験だった。
居心地が良いのか悪いのか、判らないようなくすぐったさを感じる。
彼女のために泣いたり笑ったり、怒ったり拗ねたり得意になったりと、瞬時に変化するパトリックの
百面相を思い返すと、おかしさと共に、温かな感情が心中に沸き起こるのを禁じ得ない。
しかしだからこそ、彼を無責任に伴ってゆくことはできなかった。
カティが指揮権を与えられぬままパトリックが入隊して、問題児と名高い彼を、アロウズが捨て駒に
しない保障はどこにもなかった。
彼は実に驚異的なしぶとさで、撃墜のたび奇跡の生還を遂げるけれども、この僥倖をあてにするほど、
彼女は他力本願ではなかった。
火事場に臆せず飛び込んでゆく、火消しよろしく血の気の多いあの男なら、自分を取り巻く状況など
一切考えず、ガンダムと見れば何の迷いもなく、最前線に飛び出してゆくのは経験上、火を見るより
明らかだった。
彼がそうすることを彼女が許してやるためには、しかるべき手順を踏まなければならない。
まずは彼女自身が実績を上げてアロウズの指揮権を掌握し、その上で、彼が少なくともAEU時代と
同等か、もしくはそれ以上に有利な状況で戦う為の環境を整えてやる必要があった。
これは人間に与えられたただ一つの命を預かる立場にある者として、パトリック一人について
のみでなく、全ての将兵に対して言えることであった。
しばらくは心を鬼にして、彼の健気な申し出を拒み続けなければならない。

 

 そのとき、一人の戦士の横顔が思い浮かび、カティはあることに思い至った。
ああ、現れる形はおのおの違えど、同じなのだ。
パトリックも、自分も。
そして古傷を顔に刻んだ老練の戦士も、孤高の瞳の、あのときの少女も。

 

 ◇    4    ◇

 

 実はカティのアロウズ転属には、パトリックに最初から明かすつもりのない事情が、もう一つ
あったのである。
カティが司令部より転属の打診を受ける以前、連邦軍大佐セルゲイ・スミルノフとの密議において、
彼女は既に内偵役を自ら買って出ていた。
これには、セルゲイが彼直属の部下、超兵ソーマ・ピーリスをアロウズに同行させたくなかった、
という事情も働いていたのだった。
もし自分がアロウズに入れば彼女は必ずついてくると断言し、司令部に直訴してでも実行する
だろうと、セルゲイは思い悩んだ末にカティに打ち明けたのだった。
カティは完璧なまでに美しく整った、しかし硬い表情でセルゲイの横にいつも控えている
小柄な少女を思い出した。
彼女とは数回、面識があった。
銀糸を長く垂らしたような髪に、百獣の王を思い起こさせる、悲愴なまでに力強い光を宿した
黄金の瞳。
その年頃の少女にありがちなそばかすはおろか、黒子一つない白い肌、戦士とは思えぬ、
痛々しいほどの華奢な体つき。
最後に彼女を見た時からどれほど経っていよう、きっと少女から今は女へと変貌を遂げている
はずである。
「私は軍人としても、ひとりの人間としても矛盾している。それは百も承知だ。だが私は
あの娘をこれ以上、戦わせたくないのだ。戦う以外に己の存在意義を見出せぬ乙女を、我々人革連は
創り出してしまった。あれには人としてあるべきはずの家族も、朋友も、過去の記憶すらない」
セルゲイは何かの苦しみに耐えているのか、呻くように言った。
「あれが……人革連の咎なのだよ、マネキン大佐。あれが過去に失ったものを取り戻してやることが
叶わぬのなら、せめて今、この手にある未来は……と思うのだ。一体何の罪滅ぼしのつもりかと
後ろ指をさされ、あざ笑われようがな」
カティの前で、無骨な両手が、目に見えない大切なものを包み込むように組まれた。
「スミルノフ大佐――」
ロシアの荒熊という異称に似つかわしくない、不器用な男の優しさを、カティはそこに見たのだった。

 

 セルゲイは対ソレスタルビーイング殲滅作戦ののち、監視の名目で少女を自分の官舎に
同居させる許可を上官より得、2年ほど前より起居を共にしているという。
妻を早くに亡くし、娘を持った経験がないため、初めのうちは随分戸惑ったものの、この暮らしにも
お互いに慣れてきたようなので、ゆくゆくは彼女を自分の養子にと、彼は考えているらしかった。
セルゲイには少女より幾つか年上の息子があり、同じく軍籍にあったセルゲイの妻が、十数年前
戦死してより不仲であることを、カティは人づてに聞き知っていた。
少女がセルゲイの官舎に迎えられる以前に、彼の息子が家を飛び出して父親に無断で軍籍に入り、
そのことを公言して憚らなかったためである。
「つまらぬことを言った、マネキン大佐。貴女にも済まない」
「私は貴方が連邦に残った方が良策であると、最初から考えていました。私は貴方と同じく、
自分自身の意志で、理想とする世界のために戦っているのです。懸念は無用です」
かくして彼女は一人、虎口に入る決意を固めたのだった。

 

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