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魔導機神_第01話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:59:34

 街中より離れた小高い丘に、二人の兄妹の姿があった。
「いくぞ、マユ!」
「うん。いつでもいいよ」
 澄み渡る青空の下、広場に響く声には活力が漲っていた。
 頬に汗が伝うのを気にすることなく、シンは低空に待機するマユに思いっきり空き缶を投げ始める。
 空き缶の速度は一般的な大人では避けきれないところにまで至るが、マユはそれらを次々と両手で構えたストリームで撃ち抜いていく。
 そこら辺から集めた空き缶を次々と投げ続けるシンは、全身を汗で濡らしながらも投擲を止めることはない。
 互いに言葉は発せず、魔法の訓練という遊びを楽しんでいる。
 それが五分ぐらい続いただろうか。
 シンのストックしていた空き缶が遂に底を尽き、シンは地面に腰を落とした。
「はあ、はあ、流石に、はあ、疲れたな」
「ふふ、ご苦労様、お兄ちゃん」
 マユは念のため周囲に張っている隠蔽魔法を気にしつ、シンにタオルを渡す。
「これで汗拭いてね」
「おう、さんきゅ」
 渡されたタオルで汗を拭くシンを見ながら、マユは静かに微笑む。
「何だよ?」
「ううん、何でもない」
 マユは笑みを深めると、改めて空へと舞い上がる。
 流れる風を感じながら、マユは「現在」というものに想いを馳せる。
「私たちは……間違ってなんかいない」
 それは、マユがここ最近考え続けていた自分たちの正しさについて。
「ラクス様だって、言ってたもん」
 大切な人のために、世界を壊す。
「お兄ちゃん」
 マユは下で仰向けになっているシンを見下ろした。
「必ず……手に入れるからね」
 兄への決意の言葉は、風に流され本人へと届くことはない。
 だから。
「大好きだよ、お兄ちゃん」
 いつの頃からか面と向かって言えなくなった言葉も、今のマユなら言うことができたのだろう。

 平穏な時間。
 だが。
「!」
 それは今、一時の終わりを告げる。
「はい、了解しました。ストリーム!」
『戦いへ?』
「うん、お兄ちゃん!」
 マユは急降下すると、兄へと偽りの事情を伝える。
「ごめんなさい、やらなくちゃいけない事があるの。だから……」
 マユの言葉を、シンは手で遮る。
「俺の事は気にするな。行ってこい、マユ」
「うん」
 シンは、ここ最近多いマユのやらなくちゃいけないことについて聞きたいことが沢山あった。
 しかし、シンはあえてそれを聞かないことにしていた。
 それは、妹への信頼。
 マユは次元の扉を開けると、そこを通じて自分が呼ばれた戦場へと一気に跳躍する。
「頑張れよ、マユ」
 後に残されたシンは、届くことのないエールをマユへと送った。

 次元の海原を一隻の艦が進んでいく。
 艦は管理局所属、次元航行艦、その名をアースラ。
 所々にスパークを奔らせる船体は、超高出力の魔法物理複層障壁を装備した艦としてはありえないほどの損傷を見せていた。
「駄目です艦長!跳躍するためのエネルギーを稼ぐ時間がもっとないと……このフィールドから逃げることはできません!」
 艦内部、指令を発するためのブリッジでは、アースラ史上最大の危機ともいえるこの状況を打破するための策が練られていた。
 しかし、必ず最後にこの問題がアースラスタッフの前に立ち塞がっていた。
「艦長、やはり僕がでます」
「何言ってるのクロノ君!そんなに消耗している状態じゃ、いくらなんでもムラサメ相手には戦えないよ!」
 管理局執務官、クロノの案はエイミィによって却下された。
 エイミィの言葉通り、クロノはここまで逃げるための戦いで既に傷を負っており、最早激しい戦いを行えるほどの魔力は残っていなかった。
「リンディさん、私たちがでます!」
 そして、先程から最後に出る意見に行き着いてしまう。
「私たちなら、まだ戦えます」
 二人の魔導師、高町なのはとフェイト・T・テスタロッサが出撃するという案だ。
 しかし、管理局のエースの名をほしいままにする二人でも、Mジャマー影響下で数十機のムラサメを相手取ることは無謀の極みだった。
「でも……」
 再び最初へと戻るかと思われた即席作戦会議は、艦全体を揺らす振動によって終わりを告げた。
「そんな!あの距離から!?あと七分で跳躍が可能なのに!」
「損害報告!破損箇所は!?」
「右機関部の出力が低下し続けています!このままではムラサメに追いつ……うわぁ!」
 再び襲う振動。
「リンディさん!」
 なのはの叫びに、ブリッジ内は沈黙に包まれる。

 だが、数秒の沈黙はリンディの言葉によって打ち破られることになる。
「なのはさん、フェイトさん…………出撃してください」
 それは追い詰められた末に出た苦渋の決断。
「無茶です、艦長!いくら二人でもMジャマーの影響下じゃあ、あの数のムラサメ相手に戦うことなんて……」
 リンディの決断に、エイミィが反論する。
 機人相手に魔導師をぶつける事は、神子反乱から数ヶ月たった今では愚策とされている。
 Mジャマー内で、人間が機人と戦うということは無理なのだ。
「でも……信じるしかないわ。なのはさんとフェイトを」
「そんなこと言っても……」
 リンディとエイミィのやり取りの中、クルーは必死に艦を動かし、迫り来る数十機のムラサメの攻撃を避けようとしている。
「私たちならいけます!」
 行き詰まりかけた決断を、なのは自身が後押しした。
「なのはさん……」
「クロノだってあんなに頑張ってくれたのに……私たちだけ見ているだけなんてできません」
「フェイト……」
 二人の少女の決意に、ブリッジクルーは過去何度とさせられてきた感嘆を示すことになった。
 この状況下での出撃を、何の迷いも無く実行しようとする心の強さ。
 そして、それを可能とするかもしれない魔導師としての強さに。
「……頼みます、二人とも。五分間だけでいいの。時間を稼いで」
 五分。
 それだけあれば、この空間に張られたMジャマーを破り、逃走することができるという時間だ。
 短いようでいて、その実、生身の魔導師が機人を相手にする時間としては長すぎる時間でもあった。
「いくよ、フェイトちゃん」
「うん。いこう、なのは」
 だが、それでも二人の少女は躊躇うことは無い。
 足元に展開される魔法陣が、二人を戦場へと誘う。
「高町なのは、いきます!」
「フェイト・T・ハラオウン、いきます!」
 今、二人の魔導師の三分を懸けた戦いが始まる。