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00-W_土曜日氏_120

Last-modified: 2009-10-12 (月) 11:43:11
 

「ああ、うめー! サイコーにスペシャルだ」
「うむ、サムライのテイストがする」
「鮭うめえ」
「三人とも、もうちっと上品に食べてくれよ」

 

 パトリック・コーラサワーが新婚旅行から帰還してこっち、プリベンターは暇である。
 細々とした仕事はもちろんあるし、ビリー・カタギリが作ってくれた新型MS(ミカンスーツ)のテスト等もあるものの、基本、大きな事件もなく、平穏な日々を過ごしている。

 

 もっとも、プリベンターの長であるレディ・アンは何かと忙しく、また、アザディスタンの謎集団事件や、それに絡むカタギリ研究所(もうこの呼び方でいいや)のハッキング事件についても独自のルートで情報があったらしいが、デュオやヒイロをはじめ、プリベンターのメンバーには何も言ってきてはいない。
 サリィ・ポォもまだ知らないとのことで、おそらくレディのもとにある情報は未だ確定的なものではないということが伺い知れる。
 いずれ、白なり黒なりが判明したら、メンバーの全員にレディから何かしらの報告が来るであろう。
 そしてその時こそ、コーラサワー等が加わって以降では初めての大仕事が動き出すはずである。

 

「坊っちゃん、醤油取ってくれ、醤油」
「私にはワサビを別で頼む」
「鮭うめえ」
「……がっつくな、お前ら」

 

 で、今現在、プリベンターが何をしているのかと言うと。

 

「ネタとシャリの合わせ技スペシャル一本、て感じだな!」
「このイカなぞ、歯ごたえが実に良い。良いと言った!」
「鮭うめえ」
「まだまだ、模擬戦二千回不敗のスペシャル様の俺には、この程度はほんの序の口だ」
「エビも実に美味! センチメンタルで乙女座な私の腹には丁度良い!」
「鮭うめえ」
「喋りながらでないと食えないのか!」

 

 寿司を食っているのであった。
 本部で。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そもそも、何故彼らが寿司を食べているのか。
 発端は、数日前にさかのぼる。
 その日、コーラサワーは定時で実務を終え、本部から退出した。
 実務と言ってもほとんどがサリィとヒルデ、カトルの仕事であり、彼の手元にはほとんどない。
 あってもせいぜい始末書を書かねばならないくらいである。
 超現場型の彼に机仕事をさせても、ぶっちゃけた話、職場の能率的にはプラスにならないどころか大幅にマイナスなのだ。
 で、愛しい妻カティ・マネキンが待つ新居へとコーラサワーが帰る途中、道で倒れた男性に出会った。
 さすがにほったらかして通り過ぎる程、コーラサワーも鬼ではない。
 「どーしたじいさん」と助け起こしてみれば、額に脂汗を浮かべ、腹を抱えてウンウンと唸っている様子。
 こりゃ何かの病気だ、と判断した彼は、すぐに救急車を呼んだ。
 そして男を引き渡して、「いーことしたぜ」と口笛吹きつつ帰ったわけだが、その翌日、プリベンターに一本の連絡が届いた。
 コーラサワーが助けた男は、街でも有名な寿司屋の店主だったのだ。

 

 この時代においては、寿司は『低脂肪で健康的』な食べ物としてすっかり定着しており、日本独特の文化食品といったオモムキは既になく、世界中に店がある。
 で、病院に担ぎ込まれたその寿司屋の店主は、どうやらもう少し手当が遅かったら命が危なかったらしく、命の恩人として、コーラサワーに何かお礼がしたいとのことだった。
 ここで「別に気にするな、当たり前のことしただけだ」と答えていれば、それこそカミーユ、もとい美談で済んだわけだが、そんなことコーラサワーさんが言うわけない。
 「そーか、寿司職人だったのか。なら、美味い寿司でも食わせてもらいたいぜ!」と即答で返してしまい、向こうも向こうで、「すぐにでも、ウチの若い連中に握らせます」と応じてしまったもんだからさぁ大変。
 そういうわけで、それから連日、プリベンターには昼時に寿司が店から届けられるようになった。
 つうか、なってしまった。

 

「おいアラスカ野、お前、ずーっとサーモンばっかりだな」
「いかんぞジョシュア! 男子たるもの、寿司ネタの選り好みをしていては!」
「鮭うめえ」

 

 ネタは上物、量もそれなり、さらにコーラサワーが頼めば何だって握ってくれる。
 ありがたいことはありがたいのだが、世界の平和を裏から守る公的組織としては、あんまり奉仕されても困るっちゃ困る。

 

「くーっ、このウニの風味! たまんねーな」
「このタコも、コリッとした部分が残っていて実に美味い」
「ああ、鮭うめえ」

 

 コーラサワーとグラハム、そしてジョシュア。
 まったく遠慮というものを感じさせず、ひたすらに寿司を食いまくっている。
 三人ともちゃんと箸を使っているあたりは感心だが、問題はやっぱりそのがっつき加減にある。

 

「向こうだって商売なんだぞ。そろそろ恩人のお前から断りの連絡をいれとけよ」
「あー? 別にいいじゃねえか、向こうが望んでるんだから」
「だからってこのままずーっと昼食を提供してもらうわけにはいかないだろ」
「あー、わかったわかった、じいさんには言っとく」
「本当か?」
「あと一週間は堪能してからな」

 

 貰えるものは貰う。
 そこに何ら抵抗感を覚えない推定34歳、既婚。
 これでいいのだろうか。

 

「良くない」

 

 頭の中で問答し、思わず反語を使ってしまうデュオ。
 しかし、彼も実際、寿司を食べているわけで、あまり強いことは言えないのも事実だったりする。
 と言うか、プリベンター全員がいただいちゃっている。
 もちろん、三人のオバカーズ以外は、ちゃんと節度をわきまえてのことだが。

 

「ですけど、デュオ」
「何だ、カトル」
「あと一週間というのも期間的にいいかもしれませんよ。その辺りが、お礼の区切りがつけやすい頃だと思います」
「時間的な問題はいいんだけど……」
「……量的な問題は、確かにちょっと自重してもらいたいですけどね」

 

 とにかくコーラサワー、グラハム、ジョシュアの三人は食いまくる。
 いくらローファットな食品とはいえ、これだけ腹に詰め込んでたら間違いなく体に良くはないはずである。

 

「カリフォルニアロールも美味いな!」
「むっ、私はそんな邪道は好きではない」
「鮭うめえ」

 

 イカ、タコ、エビ、トロ、ウニ、イクラ、穴子、つぶ貝、はまち、サーモン、ネギトロ、カニミソ、タイ、コハダ、納豆巻き、カッパ巻き、その他諸々。
 安い回転寿司でもここまで食えない、そんな勢いで三人はとにかく箸と舌を動かす。

 

「そういや、何時ぞやのカニの時もまったく遠慮してなかったな」
「ああん? 何か言ったか?」
「何も言ってねーよ」

 

 デュオは溜め息をひとつつくと、熱いお茶を喉の奥へと流し込んだ。
 三人の腹が壊れるのが先か、それとも店が音を上げるのが先か。
 コーラサワーが助けた店主が退院してきた時、店が傾いていたら、本末転倒と言う他ない。

 

「やれやれ」

 

 溜め息をもう一回つき、デュオは茶を飲むのだった。
 いい加減、三人のペースに慣れつつある自分に、ちょっと悔しさを覚えながら。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの悔いねえ寿司食いねぇは続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 リボンズ軍団とのバトルもぼちぼち考えていかんといけませんねサヨウナラ。

 
 

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