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00-W_土曜日氏_14

Last-modified: 2008-09-14 (日) 23:10:30
 

 パトリック・コーラサワーは、真剣な表情でワンセグ携帯の画面を見つめていた。
 その中に映っているのは、ニュースでもなければドラマでもない、はたまたアニメでもなかった。

 

「うおらあああ、三番三番三番ッ、追えやユタカーッ! また溜め殺してんじゃねーっ!」

 

 そう、競馬中継なのだった。

 

「ちきしょぉぉぉ、5−8かよぉぉぉ!」

 

 コーラサワーはわめくと、大量の外れ馬券を病室中にばらまいた。
 ちなみに、今日はこれで5レース目なのだが、床はほとんど外れの馬券で足の踏み場もないほどになっている。
 つまり、1レースからしこたま買ってはとことんカスリもしてないわけだ。

 

「ユタカの馬鹿野郎……一番人気を四角で最後方なんて溜め殺しにもほどがあるぞ……ブツブツ」

 

 薄汚れたパジャマ、茶色の腹巻、捩り鉢巻き、不精ひげ、耳に赤ペン、右手に競馬新聞、左手に酒の一升瓶。
 とてもとても病院のベッドの上にいるとは思えない容貌のパトリック・コーラサワー君28歳独身。

 

「次だ次! 次の特別戦は自信があんだ、スペシャルだ、ヨシトミの逃げから馬単総流しで完璧だ!」

 

 仮にもかつて一軍のエースだった男がこの有様、
 男としてというより、人間としてダメダメであるとしか言いようがない。

 

「おいおっさん」
「今現在のオッズは……おっ、こりゃかなりつくな、取り返せるぜこりゃあ!」
「おっさんてばよ」
「競りかけそうなのは……ユーイチの馬か。でもテンのスピードが無さそうだから問題ねえな」
「聞こえてんだろおっさん!」
「うーんブツブツ……こりゃ三連単の方がよかったか……ブツブツ」
「……スペシャルで模擬戦二千回無敗超エースのパトリック・コーラサワー!」
「ん? なんだ呼んだか? ミツアミおさげ」
「どんな耳してんだ、あんた!」

 

 今日の生贄、もといお見舞いはデュオ・マックスウェル君。
 同じプリベンターのメンバーであるからには、無碍にもできまいということで変わりばんこに見舞に来ているのだが、正直誰も行きたがらないのが現状である。
 とりあえず順番を決めてこうして病室を訪ねてやっているわけだが、
一歩足を踏み入れた時点でかなりエナジードレインされてしまうのはもう仕方がないっちゃあ仕方がないのだった。
 なんせコーラサワー、まともに病人していないのだから。
 なお、ヒルデ・シュバイカーも今日の当番なのだが、一足早くサリィとショッピングにとんずらこいてしまった。
 こういう時、女はソツなくしたたかである。

 

「そんなに元気ならとっとと退院しろよ」
「うっせえよ、許可がおりてねーんだよ」
「許可なんかいるかよ! 自主退院すればいいだろ、病院だってきっと喜ぶぞ」

 

 いっそ一生病室に監禁して二度とお目にかかりたくない、というのがデュオの本音だが、
 日に日にやつれていく医師や看護婦の心中を思いやって心が痛むのもまた事実ではあった。

 

「俺だってこんなとこ早く出てえっつぅの。でも諸事情があんだよ、どーしようもねーんだ」
「なんだよ事情ってのは」
「……本当は今週中に退院できるはずだったんだよ」
「は?」

 

 コーラサワーの言葉に、デュオは首を傾げる。
 そんな話、初耳だったからだ。

 

「レディ・アンにも了承ずみだったんだがよ、来週以降にのびちまった」
「なんで?」
「……」

 

 黙りこくるコーラサワー。
 理由は別にたいしたことではない。
 あっちの世界でようやく復帰するかと思ったら、不意に別人疑惑が持ち上がってきたのだ。
 アリー・アル・なんとかさんではないか、という疑惑が。

 

「とにかく、最低でもあと一週間は俺は入院だ」
「関係ないだろそんなの! 酒は飲めるタバコは吸える、ギャンブルまでできるんなら完全健康体だろが!」
「ばぁか、話に進展があるまでとことんスペシャルと入院で引っ張るしかねぇんだよ!」

 

 身も蓋もないコーラサワーの激白だが、正直それもどこまでもつか。
 いい加減一言でもいいから再登場してほしいもんである、あっちの世界で。

 

          *          *          *

 

「……コ、コーラサワーさん……買ってきましたぁ」
「おー姉ちゃんごくろーさん」
「姉ちゃん、って……看護婦さんじゃないか」

 

 ドアを開けて病室に入ってきたのは、まだまだ駆け出しといった感じの若いナースだった。
 その両手に、山ほど馬券をかかえている。

 

「一応入院中だからな、堂々と馬券買いにいけねぇんだよ。だからコイツに代わりに行ってもらったってこった」
「お前ひどい、ひどすぎる」
「……も、もう行きませんからね」
「そういうつれないこと言うなよ、実はまだ買い足してえスペシャルな目があるんだ。二千組ほどな」
「いやあああああ、もういやあああああああ」

 

 大粒の涙をこぼしながら、病室を一目散に飛び出していく看護婦さん。
 なんと哀れ。
 ついでに言っとくとこの看護婦、しょっぱなで尿瓶持っていってスペシャルくらって、先日の検温でもまたスペシャられた彼女である。
 どうやら病院のお偉いさんによって、コーラサワー担当に任命されてしまった模様。
 ナースという仕事に夢と希望をもって就職してみれば、いきなりこの仕打ちを食らったわけで、もう同情してもしきることはない。

 

「なんだよ根性ねーなあの姉ちゃん、AEUなら模擬戦でボコボコにやられるタイプだぜ」
「ホント最低だ、スペシャル最低すぎるわお前」
「褒めるなよ、ミツアミおさげ」
「褒めてねーよ!」

 

 コーラサワーの闘病(模擬戦)生活は続く――

 

 

【あとがき】
 明日の放送に夢を乗せてコンバンワ。
 それではワクテカを胸にしまいつつサヨウナラ。

 
 

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