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00-W_土曜日氏_140

Last-modified: 2010-06-10 (木) 00:37:43
 

「どう考えても俺の勝ちだっただろ? な、そうだろ?」
「引き分けだよ」
「何でだよみつあみおさげ! お前の眼は節穴か!」」
「そうだとしても、アンタ以上に節穴じゃないと思うね」

 

 新型MS(ミカンスーツ)の模擬戦は、滞りなく進んでいた。
 いや、約一名滞らせる人物がいるのだが、まあ誰かは敢えて言うまい。
 しかし、二十も年下の人間にアンタ呼ばわりされる元エースってのもどうなんだか。
 アンタ呼びをしたデュオ・マックスウェルの態度も失礼と言えば失礼だが、言われた方、パトリック・コーラサワーにも問題があるっちゃあるっちゃ大ありなわけで。
 何つーか、ねえ。

 

「だって俺の方が押してたじゃねーか!」
「主観の問題だろ、結局」
「あのまま続けてたら俺が勝ってた! さっきも、その前も! 続けてれば!」
「終わった後のタラレバは無意味だな」

 

 で、さっきからコーラサワーが何をギャアギャアと言っているのかというと、模擬戦の勝敗についてである。
 新型MS(ミカンスーツ)のテストも兼ねて先程からここ、元・物資集積所だった空き地にてプリベンター同士で模擬戦をしているのだが、何しろ遮る物もなく、敷地そのものも狭いと来れば、そんなもん近距離型に思いっきり有利なわけで、遠距離からの射撃タイプであるトロワの『タンジェリン』とか、一撃離脱型のヒイロの『タンゼロ』などはどうしても制限上、不利になっちゃうのだ。
 かくして近接戦闘に優れた五飛の『バンペイユ』、瞬間的な機動性に優れたデュオの『マンダリン』が基本、どの相手にも押し気味で模擬戦を進め、指揮官機型のカトルの『シトロン』、そして件のコーラサワーの万能型『シークヮサー』は可もなく不可もなく、という展開になるのは仕方が無いっちゃ仕方が無いわけで。
 ほいで、時間も有限であるわけで、延々と決着がつくまで模擬バトってるわけにもいかず、また受け取ったばかりの新型MS(ミカンスーツ)を初日でぶっ壊すわけにもいかず、ある程度やりあったらそこでひとまず区切りをつけるようにしているので(カトルがそう決めた)、それがどーにも「模擬戦2000回不敗でスペシャルなんだよお」なコーラサワーにしてみれば消化不良といった次第なのだった。

 

「別に引き分けでいいだろ、負けなけりゃ不敗の記録も続くじゃないか」
「そーかもしれねーけど、スッキリしねーんだよ」
「別にスッキリするために模擬戦してるわけじゃないし」

 

 とまあ、一部の者に不満が残った模擬戦ではあるが、一通りの対戦を終え、どのパイロットも、新型にかなりの手応えを感じていた。
 かつてのガンダム程ではないにしろ、ネーブルバレンシアと比べると格段に全ての面がパワーアップしているのがわかったし、何より、自分の得意分野に合わせて作られているというのが実にやり易かった。
 全機がまとめて交戦状態に突入する機会があるかどうかはさておき、索敵能力と防御力に優れたカトルの『シトロン』が本陣を固め、遠距離からトロワの『タンジェリン』が時に狙撃で一発必中を、時に牽制射撃で足を止め、中距離からヒイロの『タンゼロ』が一撃必殺を狙って入りと退きの激しい攻撃を行い、隠密性の高いデュオの『マンダリン』が敵陣を撹乱し、近距離では五飛の『バンペイユ』が格闘で敵をなぎ倒せば、かつてのガンダム時代と同様に、高い戦果が期待出来るというものだった。

 

 一方、遠近両用のコーラサワーの『シークヮサー』、近接特化のグラハムの『カラタチ』、完全サポート機のジョシュアの『紅鮭』は、時と場合に応じて投入される遊軍というべき色合いが濃い。
 もともと、他のパイロットと連携面において劣る彼らであるからして、集団戦よりも個人戦、統一した行動よりも単騎の方が実力を発揮し易いのだ。
 この点については、どちらにも対応出来るガンダムパイロットよりかは、指揮官としては使いにくいと言えるだろうか。
 まあ三人とも元軍人だから、本来ならゲリラ的存在だったガンダムパイロットにこの面が負けてるのは本当はアカンわけだが。
 とにかく、基本的には今までと同様(多分に偶然の要素を含んでいたが)、コーラサワーとグラハムは『決戦用』として使われるのはほぼ確定的と言えた。
 ジョシュアは知らん、サリィの護衛でもしててもらうべきでしょう、適当に。
 つうかまあ、グラハムとジョシュアは今、いませんけどね、この場に。
 模擬戦やってませんけど、どの道二人の役割はもう確定的に明らかですわ、ハイ。

 

「いやあ、やっぱり実際に人が乗って動かすと違うよね」

 

 新型MS(ミカンスーツ)を作った男、ビリー・カタギリは素直に喜んでいた。
 コーラサワー達が乗って動かしたことで、かなりのデータが手に入ったのが嬉しかったようである。
 仕事熱心という表現はやや違う気もするが、少なくとも骨惜しみせず、嫌がりもせずに積極的に取り組む姿勢は、開発者として十分に立派と言えた。
 と言うか、八割方趣味の範疇なんだろうけど。

 

「蜜柑エンジンの方はまだまだ改良の余地があるからね、今後も強化が図れるよ」
「かつてのMS(これはモビルスーツ)レベルまで?」
「時間をかければ、あるいはね」
「でもそれだと『兵器』になっちゃいますね」
「今でも十分兵器な気もするけどな」

 

 ポットに入れて持ってきたお茶で一息入れつつ、デュオたちは模擬戦を終えたばかりでまだ余熱の残るMS(ミカンスーツ)を見上げた。
 隠密同心のプリベンターが使うからこそ、裏からの抑止力として、また緊急時の鎮静力として有効だろうが、これがもし、「戦争をしよう」と思う者の手に渡れば、一気に『殺人兵器』になり下がる。
 今でさえ、カトルと五飛が言ったように、「ほとんど兵器と同じ」なのだ。
 何しろ、人の何倍も大きく、パワーがある。
 ちょいと腕を振らせれば十数人が軽く吹っ飛んでいくだろうし、ひょいと足を動かせば二、三人はまとめて踏みつぶせるのだから。
 人類の恒久的な平和を目指す統一政府において、やはりプリベンターは異質な存在ではあるのだった。
 現実に治安を守る警察や警備隊があるわけだが、これらの組織は基本、「戦争する」ことを目的としていない。
 プリベンターが一度強行すれば、いくらでも「OZの代わり」に成り得るのだった。

 

「新しい力を得て、正直気分は高揚している」

 

 太陽の光を受けて、眩しく輝く『相棒』に視線を送りつつ、ヒイロは呟いた。
 口調に熱は籠っているが、同時に冷静さもまた、あった。

 

「だが……こいつが活躍するようなことが無い方が、世界にとっては良いんだろう」

 

 ガンダムパイロット達は、一様に頷いた。
 新型MS(ミカンスーツ)が度々現場に出撃するような事態は、つまりはそれは世界が紛争や事件に塗れている証拠になってしまうのだ。

 

「とは言え、やはりこいつの力は今は必要だ」
「そうですね……」
「統一政府は最初の一歩を踏み出し、ようやく二歩目に移ろうとしている最中だ」
「歩くのを覚えた幼子と同じ、いつ転ぶかわからない……」

 

 二度の世界大戦、冷戦、経済戦争、国際連合の有名無実化、世界の三国分立化、OZの台頭を経て、ようやく地球圏は一応の安定を手に入れた。
 ここまでの歴史は、圧倒的に「争いあっていた」時間の方が圧倒的に長い。
 更生前のマリーメイア・クシュリナーダがリリーナ・ピースクラフトに語った通り、人類は争いのワルツを繰り返し続けることで、生物としての主張である進化を行ってきた側面があるのだ。
 統一政府の足並みが不揃いになれば、主義や思想のあり方について銃剣を用いるワルツの時代に再び戻りかねない。
 そしてまた、それを望む人々も、実際にいるのだ。
 少なくない数で。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「ねーねーにぃにぃ」
「おいネーナ、子猫じゃねえんだから。鳴き声かよ」
「え? 何? 子猫? そんなに私って可愛らしい?」
「そりゃお前……妹のことが可愛くない兄がいるか」
「きゃあ、嬉しい嬉しい。ピースピース」

 

 ブリュッセル中央部にある、リニアトレイン駅のホームに、二人の男と一人の女が、トレインを待っている。
 ヨハン・トリニティ、ミハエル・トリニティ、ネーナ・トリニティの、三兄妹である。
 普段はトリニティ運送という、小さな運送会社を営んでいる彼らだが、実は、隠された裏の顔を持っている。
 アリー・アル・サーシェスやラグナ・ハーヴェイと同じく、この三人も、『イノベイター』のリーダーであるリボンズ・アルマークの部下なのだ。

 

「ミハエル、ネーナ、あまり騒ぐな。ここが駅だということを忘れるな」
「いや、さすがに忘れないって兄貴」
「そーだよヨハンにぃ、私、ちゃんとジョーシキは弁えてるつもりだし。ミハにぃは知らないけど」
「そうそう俺は知らねえけど……って、何でだよネーナ!」
「きゃはははは」
「だから静かにしてろと言ってるだろうが」

 

 この三人、見かけはそれ程似ていない。
 似ていないが、れっきとした兄、弟、妹である。
 ぶっちゃけて言えば、彼ら三人はデザインベビーなのだ。
 簡単な話、特定の親を持たない人工生命体というわけだった。

 

「それで? さっきは何を言いかけてたんだ、ネーナ?」
「え、何の話? ヨハンにぃ」
「……『ねーねーにぃにぃ』と呼びかけてきたのはお前だろう」
「あ、そうだったね」
「ジョーシキを弁えてる、ねえ。言ったことを忘れてる奴がジョーシキたぁ、ジョーシキが腹抱えて笑うぜ、きっと」
「むー! 何よ、ケンカ売ってるの? ミハにぃ」
「だから静かに……で、何なんだネーナ」

 

 三人は、今はトリニティ運送の制服は着ていない。
 皆私服である。
 一応、『ジョーシキ』に則った服装をそれぞれしている。
 長兄のヨハンが「目立つ格好はするな」と命令したからだが、そうじゃなけりゃネーナはヘソ丸出しルック、ミハエルは不良系ルックだっただろう(それぞれの趣味である)。
 まあ下手すりゃヨハンも半ズボンだったかもしれないわけで、そうなりゃなったで目立つの目立たないので済むレベルではなかったかもしれない。

 

「バナナっておやつに入る?」
「何だと?」
「だから、バナナ」
「……」

 

 ヨハンは絶句した。
 妹が何を言っているのか、瞬時に理解出来なかったのだ。
 代わりに反応したのは、ミハエルの方だった。

 

「バッカお前、バナナは含まねえに決まってるだろ!」
「そうなの? ミハにぃ」
「そんなの世界のジョーシキだぜ!」
「ホント? ヨハンにぃ」
「あ、こらネーナ、俺の言うこと疑うのかよ!」
「ミハにぃのジョーシキはあてになんないもん」

 

 弟と妹のやりとりを聞きつつ、理性を回復させたヨハンは溜め息を一つついた。

 

「ネーナ、我々は遊びに行くんじゃないんだぞ」
「え、そんなことわかってるよ、お仕事に行くんでしょ」
「そうだ。だからおやつがどうのとかバナナがどうのとか……」
「でも、でもねヨハンにぃ」

 

 ネーナはぴょこんと跳ねると、ヨハンの前に回り込み、その顔を見上げた。
 ミハエルがついさっき、ネーナのことを子猫に例えたが、成る程、どことなくそんな雰囲気が彼女にある。

 

「こうやってさ、三人で遠くに行くのって、久しぶりじゃない?」
「……」
「お仕事なのはわかってるけど、でも、何だか楽しくてさ」
「ネーナ……」

 

 三人は、人工的に命を造られ、そして人工的に身体能力を強化された。
 ソーマ・ピーリスとはまた別の施設だが、生まれた目的はまた同じだった。
 幼い頃から軍の施設において訓練を受け、そしてその後、色々とあって、『イノベイター』に拾われたのだ。

 

「やることやったらさ、時間って取れるのかな」
「時間?」
「そ。今度のお仕事は大きいでしょ? リボンズが言ってたもんね。だったら、終わったら休みを貰っても別にいいよね」
「お、そりゃいいな! がっつり遊びたいぜ、兄貴!」
「……」

 

 子供のように顔を輝かせるミハエルとネーナ。
 ヨハンは、二人の気持ちは痛い程によくわかった。
 自分もそうだが、この世界に『強制的』に生を受けてからこっち、人並みの旅行や遊びというものは、ほとんど無縁だったのだ。
 軍の施設がOZによって接収される寸前、彼ら三人は軍の関係者によって、表に出された。
 何のことはない、どさくさ紛れに売り飛ばされたのだ、その関係者の小遣い稼ぎの為に。
 そして、リニアトレイン社のラグナに買われた。
 リニアトレイン社の総裁として裏で色々と動くための駒が欲しかった、ということだが、結局ラグナの『道具』としての期間は短かった。
 ラグナのさらに上の立場であるリボンズが、直々に部下として欲しがったからだった。

 

「……そうだな。全てが終わったら、リボンズに頼んでみるか」
「ほんと? 話せるぅ、ヨハンにぃ!」
「おやつはバナナどころじゃねぇな、こりゃ!」
「だから騒ぐなと言うのに。いいか、終わってからだぞ」
「オッケー! ネーナは頑張っちゃうよ!」
「俺だってやってやるぜ!」
「何度同じことを言わせるんだ、大きな声を出すな、目立つ」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人。
 周囲の客は、マナーを守らない奴等だ、といった感じでトゲのある視線を送っているが、
 しかし、そこに異常さまでは感じなかったので、特に何もしなかった。
 これくらいなら、空港でも港でも、はたまた町中なら、どこにだってある『光景』なのだから。

 

「行動についての詳細な内容は、現地で説明する」
「え、別に今でもいいじゃない」
「……俺達は今からニリアトレインの客になるんだ。それを考えろ」
「あ、そっか」
「でもラグナの野郎もケチ臭ぇよな、何で用意したのがリニアトレインのチケットなんだよ、特別に輸送機でも飛ばせば簡単だろうが」
「騒がれずに内部に入るには、一般人という立場が都合がいい。そういうことだ」
「そりゃそーかもしれねーけど、チケットだって普通の指定席だぜ、これ」
「まあ、それは確かにな」

 

 三人のポケットには、薄いカード型のチケットが入っている。
 昨日、リボンズより直接命令を受けたラグナが三人の為に用意したものだが、普通の指定席にしたのは、さて、ラグナがケチな為か、それともまた別の意図があるのか。

 

「お、来た来た、時間通りだな!」
「世界の経済を支えるリニアトレインだ、秒単位はともかく、分で遅れることはない」
「さ、乗ろう乗ろう、にぃにぃ!」

 

 カード型のチケットの中には、客の名前、トレイン番号、席番号、各駅の発車及び到着時刻、その他諸々がデータとして入っている。
 席に用意されたリーダーに差し込めば、クラスに応じてサービスを受けることも出来る。
 そして、三人のチケットにある、行き先とは。

 

「はしゃぐなよ、二人とも」
「私は大丈夫だよ、ミハにぃは心配だけど」
「俺!? 俺は騒がねえよ!」
「もう騒いでるよ」
「たいした時間はかからないが……もう一度言う、目立つなよ? アザディスタンまでは」

 

 そう、アザディスタン。
 マリナ・イスマイールが代表を務める、中東の自治区―――

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 GWは皆さんどう過ごされましコンバンハ
 多忙のために間が開いてしまい申し訳ありません。誤字脱字等ありましたらごめんなサヨウナラ。

 
 

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