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00-W_土曜日氏_25

Last-modified: 2008-09-26 (金) 00:24:22
 

「チキショー、餡子のないドラ焼きだな」

 

 パトリック・コーラサワーは熱い玄米茶を啜りつつ、言った。

 

「何が?」

 

 それにデュオ・マックスェルが答える。
 彼も、同じように玄米茶の入った湯呑を手にしている。
 何故玄米茶かと言うと、単純にサリィが日本茶好きだからである。
 ちなみにレディ・アンは紅茶派とのこと。
 うーんエレガント。

 

「いや、ドラ焼きにかぶりついたとき、中がスカスカだったら腹がたつしガックリもするだろ?」
「だから?」
「つまりだな、そういった状態が何度も何度も続くといい加減鬱になってくるわけだ」
「それで?」
「……えーと」
「すまん、悪かった。言いたいことはわかった。泣きたいなら泣いていいぞ」
「誰が泣くかゴラァ!」

 

 変わらぬ日常。
 今日も今日とて、出番のデの字もなく、アニメは進む――

 

「ところでよ、話はまったく変わるけどよ」
「ん?」

 

 コーラサワーはポットからきゅうすに湯を入れると、左右に数度振り、蓋を開けて中を確認してから自分の湯呑に茶を注いだ。
 なかなかお行儀の悪いことである。

 

「新しいメンバーが来るんじゃなかったのか、今日」
「……誰のことを言ってるんだ」
「どこかでそんな話を聞いた覚えがあるんだがよ」
「気のせいだろ」
「何か納得できねえが、うーん、俺の思い違いかあ?」

 

 首を捻るコーラサワー。
 眉根を寄せて考え込むその顔は、どこか虫歯を我慢するこどものそれにちょっと似ている。

 

「ナルシストとクソ生意気なねーちゃんの顔がチラチラ頭に浮かぶんだが……オイ、本当に来ないんだろうな」
「来ないし来てない」

 

 デュオは菓子箱からウニ煎餅を一枚取り出すと、パクリと口にくわえた。
 なお、この菓子の趣味はサリィではなくレディ・アンのものである。
 彼女が大量に購入したものを、プリベンター本部にも置いてあるのだ。
 うーんノットエレガント。

 

「……マジか、マジなのか?」
「だから本当だっつーの、夢でも見てたんじゃねーのか」
「それにしてはよお、サリィ・ポォもヒイロたちも白々しい態度でどっか行っちまうしよお」
「連中は連中でやることがあんだよ。しっかりしとけよプリベンター・バカ、その歳でボケてどうすんだ」
「バカ言うな! ボケ言うな! 俺はスペシャルに真面目だっつのコラ!」
「なら落ち着いて煎餅でも食っとけよ、俺らは今日はここで待機だ」
「ぬ、ううううううううううう」

 

 コーラサワーは菓子箱の中に乱暴に手を突っ込むと、ウニ煎餅を鷲掴みにし、口に頬張った。
 そして、ボリボリと派手な音を立てて煎餅を噛み砕いた。
 釈然としない気持ちを、ぶつけるかのように。

 

          ◆          ◆          ◆

 

 さて、場所は換わってプリベンター本部からちょっと離れたところにあるとあるビル。
 玄関には、『人類革新重工』と書かれたいかめしい字体の看板がかかっている。
 ここ最近業界で伸してきている新進にして気鋭の企業だ。
 その三階、商品開発部の部長室に、部下からの報告を窓の外の景色を見ながら聞いている男が一人。
 セルゲイ・スミルノフ43歳、その堅実にして鮮やかな手腕により、
 同僚や部下から『荒熊』として恐れられ、敬われている人物である。

 

「……以上が、企画超部からの新製品の提案です」
「ふむ。御苦労、ミン係長」

 

 彼もまた、湯呑を片手に玄米茶をすすってたりなんかする。
 デュオやコーラサワーに比べると異様なまでにマッチしているのは、さすがは年の功とでもいうべきだろう。

 

「新製品の企画か……新製品」

 

 セルゲイはぽそりと呟いた。
 そして、湯呑をデスクに置くと、引き出しから筆ペンと紙を取り出し、サラサラと何かを書きつづった。

 

 〜新製品 企画通って 心晴れるや〜
                      セルゲイ、心の俳句

 

 季語はどこだ字余りだというつっこみはあえてしないミン係長である。

 

「ふむ、よく出来た。……どう思うかね?」

 

 ミンのさらに後ろに控えていた銀髪の若い女性秘書、ソーマ・ピーリスに彼は尋ねた。

 

「……バケラッタ」
「は?」

 

 セルゲイの俳句は心で耐えて顔に出さなかったミンだが、さすがにソーマのこの言葉には驚きの色を現した。
 なぜバケラッタなのか、それはいったいどういう意味なのか、なんでそんな言葉を彼女は口にしたのか。

 

「ああ、気にするな係長。今、彼女はバケラッタに凝っているのだ」
「バケラッタ」

 

 無表情で同じ台詞を繰り返すソーマ。
 なんともシュールである。

 

「では、二人とも下がっていい。指示は追って出す」
「は、はい」
「バケラッタ」

 

 人類革新重工……それは『人類の明日を築くこと』を社是とした、勢い日の出の企業。
 なお、荒熊セルゲイ、中間管理職ミン、バケラッタ秘書ソーマの今後のこの物語での出番は、いっさい予定にない。

 

          ◆          ◆          ◆

 

「みつあみおさげ、本当に新人は来ないんだろうなあ? 何か、今もの凄くイヤな感じが背筋を走ったんだがよ」
「しつこいな、ないって言ってるだろ!」
「本当なんだな? 言い切れるんだな? 約束できるんだな? 何時何分何秒、地球が何回回った日?」
「あんた、こどもか!」

 

 延々と同じ話を繰り返すコーラサワーとデュオの二人。
 菓子箱の中のウニ煎餅は、いつの間にか残り僅かになっていた。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く――

 

 

 あっちが熊ばっかり出てるからこっちも熊を出しちゃえコンバンハ。
 コーラサワー主人公という基本に則って前回のハムもシーリンもマイスターも今回の熊もとりあえずは顔見せだけで当面封印しときますサヨウナラ。

 
 

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