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00-W_土曜日氏_26

Last-modified: 2008-09-28 (日) 00:36:31
 

「真っ赤なお鼻のっ♪ 赤鼻さんはっ♪ 今日もジャブローでっ♪ 潜入中♪」
「デュオ違う、その歌違う」

 

 世の中クリスマス鎧袖一触とはこのことか他愛無い、ではなく一色である。
 仕事が恋人の身には、ふんそれなんてバテレンのイベント? と言いたくなるが、まあ年に一回の大きな行事であるのは間違いない。

 

「しかし、これがプリベンターの仕事か……」
「仕方ないですよヒイロ、何せここの保育園には色々と迷惑をかけたわけですし」
「迷惑かけたのはアイツだろう、あのプリベンター・バカの」

 

 プリベンターは今、とある保育園に慰問に来ている。
 その保育園とは、先だって側溝にタイヤを落とした遠足帰りのバスのところである。
 コーラサワーがいらんことをして、先方の父兄とさんざっぱら揉めた結果、クリスマスパーティで子供たちのために何かして下さいという流れになってしまったのだ。

 

「それはそうなんですけど」

 

 クリスマスというからには、プリベンターのメンバー全員がサンタルックを身につけている。
 当然子供たちは大喜びなわけだが、中でもサリィとヒルデがやたらと、特に男子に受けがいい。
 何故かと言うと、どこのキャバレーの姉ちゃんやねんといった感じにミニスカサンタルックだからである。
 幸いと言っていいかどうか、サリィもヒルデも子供たちが喜んでくれているので、不満を覚えている様子はない。
 ティーンズバリバリのヒルデはともかく、サリィはやや年甲斐もないとふんがっくっく。
 まあ、健康な男子たるガンダムパイロットたちにとっては、少し目のやり場に困ると言えよう。

 

「しかし、誰だよあのミニスカサンタを用意したのはよ」
「レディ・アンだ」
「……最近、時々彼女の精神状態がよくわからないようになる」
「言うなトロワ」
「気にするな、俺は気にしない」
「気にしろよ!」

 

 とにかくそんな感じである。
 似合うと言えば彼らも相当サンタの衣装がマッチしているわけだが、さすがは特定女子対象にキャラクターデザインされただけのことはふんがくっく。

 

「で、肝心のアイツは何でここにいないんだよ」
「わかるだろうデュオ、これは言わば手打ちの儀式だ。そんな場にあのバカを呼べるか?」
「手打ちの儀式なら尚更当人がいなきゃならんだろ」
「別にいいがな、正月にもお詫びに慰問するつもりなら。その時はお前だけで行け」
「ごめんなさい五飛さんもういちゃもん言いません」

 

 パトリック・コーラサワーは不在。
 彼を呼ぼうものなら、この和やかなクリスマスパーティが一変、スペシャル地獄になるのは目に見えている。
 これ以上禍根を残さないために、ガンダムパイロットは涙を飲んで子供たちの相手をしているのである。
 ここですっぱりと保育園との関係を清算したいがために(いや、子供たちに罪はちょっとしかないのだが)。

 

「ま、とりあえずはさっさと終ってくれることを祈るだけだぜ」

 

 デュオは溜め息をひとつついた。
 しかし、彼は忘れている。
 いや彼だけではない、ここにいるプリベンターのメンバー全員が忘れている。
 パトリック・コーラサワーがスペシャルたる由縁を。
 絶望ビームを回避し、数百のミサイルから逃げ切り、ロケットマンとなって成層圏まで行った彼が、ずっと本部でおとなしくしているであろうか?
 答は否、断じて否。
 ほれ、不幸のジングルベルが五飛の携帯をけたたましく鳴らしているではないか。

 

「……誰だこんな時に。もしもし張五飛だ。ん……? 何だ貴様か。ふむ、ふむ、おい、やめろ馬鹿な真似は」
「どうした五飛?」

 

 ヒイロの問いには答えず、五飛は携帯電話をポケットにしまい直した。
 そして数秒後、メンバー全員の顔を見まわした後にポツリと一言。

 

「奴が来る」
「奴?」
「まさかあのバカか!?」

 

 愕然とするガンダムパイロットたち。
 キレイに落とし前をつけるためにこうして着たくもないサンタルックを身にまとって子供たちの相手をしているのに、それをぶち壊そうとするあんぽんたんがやってくるというのだ。

 

「アイツ、誰のために俺らが体張ってると思ってるんだ!」
「どうして止めなかったんですか、五飛!」
「止める前に電話を切られた」
「……ヒイロ、力を貸してくれ。あいつがここに来る前に阻止する」
「わかった。門のところで待ち伏せしよう」

 

 トロワとヒイロは視線を交わすと、子供たちに気付かれないようにそっと部屋から出た。
 肉体的な直接対決ならこのメンバーの中ではおそらく五飛が最強だろうが、
 何せトロワは幼い頃から危ない仕事のスペシャリストだし、ヒイロはヒイロで容赦しない男である。
 二人にかかれば、いかにコーラサワーでも適いはしない。

 

「ちょっと待て、二人とも」
「何だデュオ」
「あいつ、本当に門から来るかな」

 

 ……適いはしない、が。
 それも真正面からぶつかりあった時の話。
 コーラサワーさんに常識は通用しない。
 例え裏口からでも、彼が真正面だと思えば真正面になるのだ。

 

「なるほどな、確かに」
「じゃあ、子供たちはヒルデとサリィに任せて、俺達はこの保育園の全ての入り口を塞ごう」
「何だか占拠みたいですけど」
「今はあのバカの襲来を防ぐのが最優先だ、体裁は後回しにしろカトル」

 

 そう、体裁にこだわっていてはあのトンデモ男の突撃をかわすことはできない。
 無茶苦茶な人間に対抗するためには、やはりある程度無茶苦茶な手段を取らざるをえないのだ。

 

「とにかく、姿を確認したらぶんなぐってでも気絶させろ」
「了解した」
「骨の一本や二本、かまわないな?」
「あれ、何で五飛は青竜刀なんて出してるんです? どっからそんなものを……」
「気にするなカトル、俺は気にしない」
「殺しちゃダメですよ……殺しちゃ」
「努力しよう」

 

 はっちゃけ気味なガンダムパイロットたちだが、まあこれも仕方あるまい。
 何せ相手が相手である。

 

「よし、じゃあそれぞれ……って、何だこの音は?」

 

 五人が各所に散ろうとしたその矢先、大型バイクを思い切り吹かしたような音がした。
 そして、それはだんだんと大きくなっていく。

 

「ロケット音……まさか奴め、空から来る気か?」
「いっちょまえにサンタを気取ろうってか!?」
「まずい、ヒルデ! サリィ! 子供たちを床に伏せさせ……くっ!」

 

 ヒイロの指示の最後に、更なる大きな音、爆発音が重なった。
 ほぼ同時に、凄まじい揺れが保育園の園舎を襲う。

 

          *          *          *

 

「間に合わなかったかっ!」
「あのバカヤロー!」

 

 揺れが収まったのを確認すると、ガンダムパイロットたちは表に飛び出した。
 園舎に突っ込んでくるのだけは阻止しなければならないからだ。
 そして、彼らがそこで見たものは――

 

「……」
「……」
「……」
「……穴、だな」
「ああ、穴だ」

 

 園庭のど真ん中。
 そこには、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
 いや、穴という表現は適切ではない。
 それはクレーターだった。

 

この前のパーソナルジェットを使ったようだな」
「今度は上手く横に飛べたみたいですけど……」
「着地のことまで考えてなかったようだな、あいつは」

 

 五飛はクレーターの淵まで来ると、ひょいと中を覗いた。
 そして無言で奥の状況を観察し、次に顔を上げて空を見上げ、数秒考えた後、冷静な口調で背後のガンダムパイロットたちに告げた。

 

「おい、みんな」
「何だ?」
「子供たちを表に出すな。精神衛生上良くないものがこの下に転がっている」
「……無事なのか?」
「多分な」

 

 五飛は携帯を再び取り出した。
 先ほどコーラサワーの“犯行予告”を受信したその携帯電話を使い、彼は呼び出す。

 

「ああ病院か、救急車を一台手配してくれ」

 

 すっかりプリベンター御用達となった、あの病院を。

 

「全身打撲で入院させたい奴がいる。名前は、パトリック・コーラサワーだ」

 

 パトリック・コーラサワー28歳、今回はついに一言も喋らず、またまたあの病院へと直行。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く――

 

 

【あとがき】
 中日にコンバンハ。
 ここまで主要キャラの中でおそらくしゃべってるトータル時間が二、三番目くらいに短い(下は紅龍とリボンズ)コーラさんにメリー苦しみますサヨウナラ。

 
 

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