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00-W_土曜日氏_32

Last-modified: 2008-10-05 (日) 17:32:15
 

 パトリック=コーラサワーは独りだった。
 彼の目の前に広がるのは、遥か地平の彼方まで続く、一面の黄色い砂、砂、砂。

 

「……どこなんだよ」

 

 夕日によって禍々しく真っ赤に染まる空の下、彼の叫びは虚しく響いていく。

 

「俺は、どこにいるんだよぉぉおおおお!」

 

 ここはタクラマカン砂漠。
 コーラサワーは、そこのど真ん中にいる――

 

          *          *          *

 

 タクラマカン砂漠は、現在の世界で言えば中国の新疆ウイグル自治区にある。
 その語源は、ウイグル語の「タッキリ(死)」「マカン(無限)」の合成語と言われ、「死の場所」「死の世界」といったニュアンスとされる。
 サハラ砂漠に次ぐ世界2位の面積を持つ砂漠であり、タリム盆地の内の270,000平方kmをしめる。
 北に天山山脈、南に崑崙山脈と6000〜7000m級の大山脈に挟まれているため非常に乾燥しており、
 降水量は年に数ミリ程度。過去は海または湖だったとみられ、標高は非常に低く標高がマイナスの地域もあり、最低海抜はマイナス130メートル。
 以上、ウィキペディアより勝手に抜粋。
 まあ、上記からもわかるように、かーなーりキビシイところである。
 で、何でそんなところにコーラサワーがいるのか。
 その理由を知るためには、今から丁度一日前にさかのぼる必要がある。

 
 

「琢磨満貫誤爆? 何だそれ、F1ドライバーが麻雀でフリテンすんのか?」
「アンタ、どんな耳をしてるのよ」

 

 サリィは指を額に押し当てながらため息をついた。
 鼻のすぐ上辺りがツーンと痛むのを彼女は覚えたが、
 それは夕食として食べているパック寿司のワサビが強すぎるせだけでは、おそらくないだろう。

 

「タクラマカン砂漠よ、タクラマカン」
「で、そのタクララマッカンがどうだっていうんだ」
「……ええとね」

 

 サリィは説明を始めた。
 彼女曰く、つい先ほど、プリベンターに連絡があった。
 タクラマカン砂漠、そこにある、現在は使われていないとある石油採掘基地に、MSのサーペントが眠っているというのだ。
 しかも数十機もあり、テロリストなどの手に渡る可能性を考えると、早急に手を打たねばならないとのことだった。

 

「まぁたヘンピな場所にあんだな、おい」
「あるいはデキム=バートンの置き土産かもね」
「タクラマカンの石油はもうあらかた採り尽くされたと言われてますし、それで隠し場所に選ばれたのかもしれません」

 

 カトルがサリィの推論を補足する。

 

「一時期は様々な企業が争って採掘基地を建設しましたが、今稼働しているのはそれこそひとつかふたつだと思います」

 

 出自がアラブの豪商だけに、石油に関しての知識は深い。

 

「で、それで俺らが出て行ってMSを解体しろってか? モグモグ」
「待ちたまえ、それは私の串カツだ。モグモグ、あえて言おう、手を出さないでもらいたいものだな」
「モグモグ、カタいこと言ってんじゃねえよ。お前だってさっきからソースに二度漬けしてんじゃねーか。ルール違反だぞ」

 

 モグモグモグモグとうるさいが、別にモグラの大軍が顔を覗かせたわけではない。
 サリィもパック寿司を食べているのだが、今はプリベンターの食事タイム中。
 勤務時間内の食事は個別に時間を取って、議事堂内にある食堂に行くか、それとも出前を取るか、はたまた外食に行くかなのだが、時折こうして買ってきたものを皆揃ってプリベンター本部で食べることがある。
 今回、パックの寿司(季節の特選ネタ10貫)がサリィ、ヒルデ、デュオ、カトル。
 中華弁当(胡麻かけご飯、シューマイ、海老チリ、春巻き、ザーサイ、中華サラダ)が五飛、ヒイロ、トロワ。
 串カツ山盛りセット(色んな具の串カツが合わせて50本)がコーラサワーとグラハム。
 最後の串カツセットだけが妙にバランス悪いが、まあこれは個人の嗜好ゆえ。

 

「話、聞いてる?」
「モグモグ、ひいへるっへ」
「モグモグ、ひっほほはいは、ふひのははほほのへんぶはべてはらはなへ」
「モグモグ、おはへほほ」
「お前ら子供か! 先に食え! 先に!」

 

 先を争うかのように串カツを頬張るコーラサワーとグラハム。
 デュオの突っ込みのタイミングもさらに洗練されてきており、実に絶妙なタイミングである。
 もっとも、そんなのを褒められてもデュオは喜ばないだろうが。

 

「あーもう、食べてる最中に話した私が悪かったわよ。後で全部言うことにするわ」
「モグモグ、わかった。あ、だからこのナルハム野郎、二度漬けすんなって!」
「その言葉、良しとはできん。口出ししないでもらおう、モグモグ、このグラハム=エーカーのやることに!」
「……とっとと食え」

 
 

 十分後、レディ=アン立案、サリィ=ポォ修正による【タクラマカン砂漠石油採掘基地遺棄MS解体大作戦】が発表された。
 レディ=アンとシーリン=バフティヤール以外の全プリベンターメンバーが出動、政府専用ヘリコプターに乗って現地まで飛び、大型爆弾を使って一気に基地ごと解体(使われていない基地だから何の遠慮もない)、そして後始末の廃材運びは現地当局に任せてトンボ帰り、という一日強行軍なスケジュールだ。

 

「と、いう流れでいきます。質問は?」
「お、聞いていいか?」
「何?」
「バナナはオヤツに含まれるか?」
「……五飛、この馬鹿炭酸、ナマス斬りにしていいわよ」
「そんなぁ!?」

 

 ま、そんな感じで翌日の暗いうちに出発することになったのだった。

 

          *          *          *

 

「ええと、待て待て、冷静に振り返れ俺、何がどうしてどうなったんだ」

 

 あと数十分で太陽が西の地平に沈むという頃合い、コーラサワーは頬を叩いて平静になろうと努めた。

 

「まず、早朝に採掘基地についた、爆弾をセットした、基地爆破した、MSも爆破した、そして帰りのヘリに乗った」

 

 いちいち指を折って数えながら今日の流れを反芻するコーラサワー。
 塾で算数の問題に四苦八苦する小学校低学年のようである。

 

「えー、それで…」

 

 コーラサワーは周囲を見回した。彼の側には、破れたパラシュートといくつかの金属片が砂の上に転がっている。

 

「えー、あー、そうだそうだ、爆弾がひとつ余ったんだっけか?」

 

 余った、という表現は正確ではない。
 彼が設置する数を間違えたため、「余ってしまった」のだ。
 幸い、建物が老朽化していたこともあって、破壊そのものに影響は出なかったが。

 

「で、それのタイマーが入っちまったんだ、そうだそうだ」

 

 これも彼の主観での話で、事実は異なっている。
 余ってしまったことに気付いた彼がそれをツールボックスから取り出す際に、スイッチを誤って押してしまったというのが真相である。
 時限は一時間、ヘリが本部に到着するのにはもっと時間がかかる。
 ほったらかしにしていたら、ヘリごとどっかん、となってしまう。

 

「そして、下が砂漠のうちに捨てよう、ということになったんだな」

 

 はい、二度あることはサンドロック、いや三度ある。
 捨てよう、という結論がメンバーのうちですぐに出たことはあっているが、その手段がおかしい。
 普通にハッチ開いて放り投げりゃいいところを、何をトチ狂ったかコーラサワー君、

 

「おっしゃ、俺の責任だ、俺が始末する!」

 

 と言って、パラシュート背負って爆弾抱えてスカイハイダイビング。
 何というか、『毒を食らわば皿まで』ではなく、『皿を食うから毒も食う』みたいなあまりに爽快すぎる勘違いっぷりである。

 

「チッキショウ、多分五飛の奴が俺を放り出したんだな。あのバーロー、覚えてやがれ!」

 

 意気込む勘違い人間コーラサワーだが(爆発のショックで多少記憶が混乱している模様)、自身の置かれている境遇がどれほど危険なモノか未だ理解できていない様子。
 砂漠のど真ん中で仲間とはぐれ、連絡手段は携帯ひとつ(もちろん電波なんか届くわきゃない)、食糧もなく、現在地もわからず、何よりこれからものごっつい冷える砂漠の夜がやってくる。
 どんだけ強靭な人間でもこりゃタクラマカン、いやタマランとこの砂漠の語源の如く死を覚悟しなければならない状態なのだ。

 

「さらに思い出した、あのナルハム野郎、俺の昼の弁当から唐揚げひとつちょろまかしやがったんだった。ギッタンギッタンにしてやんねえと!」

 

 時としてバカというのは実に都合のいいもので、どれだけヤバイ状況でも、それをヤバイと思わない。

 

「太陽が沈むってことは、あっちが西ってことだな。よっしゃ、コーラサワー・ダッシュ!」

 

 ザカザカと砂を踏みわけ、コーラサワーは沈む夕日に向かってランニング開始。
 やっぱりバカである。
 ヘリから落ちた地点から動いたら、仲間が探しにくくなるのに。
 しかも砂地で走るという行為が、どれほど体力を消耗させるものかということにも考えが及ばないらしい。

 

「晩飯までにはさすがに無理か? しかし、明日の朝食には間に合わせるぜ! おらぁぁぁ!」

 

 朝食までにも無理だよ、絶対。

 

          *          *          *

 

 これより数日後、コーラサワーはプリベンターの懸命な捜査によって発見された。
 生存はほぼ100%絶望視されていたのだが、どっこい彼は生きていた。
 しかも、とても元気な状態で。
 零下まで下がった砂漠の夜で凍死寸前、遺棄された砂漠用の大型トレーラーを見つけ、中で一晩過ごして寒さをしのぎ、
 翌朝また西へ向かって歩き出し、空腹と喉の渇きでダウン寸前になったが、今度はこれまた廃棄された別の石油採掘基地に行きつき、
 さらに基地の地下の倉庫に少量ながら保存食糧と飲料水が残っているのを探し出し(空調が切れており、逆に冷え切っていたのが幸いして状態は良かった)、飢えを凌ぐとダッシュ再開、
 で、今度は小高い砂の丘の上で何かに躓いて、足元を掘ってみれば大昔に埋められたと思われる財宝の宝箱が出てきてビックリ、
 グッフグフ、いやザックザクの宝石が太陽の光をキラキラ反射して、その光がたまたま近くを飛んでいた捜索ヘリに届いて……という、それ何て偶然入った100Hitコンボ? みたいなウルトララッキーの末のことだった。

 
 

 本部に帰還後、「一生分の運気を使い果たしたな、明日死ぬぞお前」とデュオに呆れられたが、デュオは失念していた。
 あっちの世界では、実に紙一重の瞬発的好運とギリギリ的生命危機回避術でコーラサワーが生き残っているとういうことを。
 コントロールを失ってMSごと空から地上に勢いよく落下しても、コクピットの真下を撃ち抜かれても、へいちゃら無傷でピンピン、なんてバカげた話を、果たしてプリベンターのメンバーのうち何人が信じるやら。

 

「何たって俺はスペシャルで模擬戦二千回無敗でエースなパトリック=コーラサワーだからな!」

 

 と、コーラサワーは救出後に偉そうに語ったが、いやはや、バカでなおかつ強運な男は恐ろしい。
 奇跡を奇跡と思わず、さも当然のように起こしやがるのだから。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く――

 

 

【あとがき】
 撃墜時は瞬間心が凍りましたコンバンハ。
 たいさー! で心が温かくなりましたサヨウナラ。

 
 

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