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00-W_土曜日氏_37

Last-modified: 2008-10-12 (日) 19:04:12
 

 しとしとと冷たい雨が降る三月最初の日曜日。
 プリベンター本部では、二人の男が正座をさせられていた。
 パトリック=コーラサワーとアラスカ野=ジョシュア。
 昨日、任務で公共施設に被害を出してしまい、怒られているという次第である。

 

 じゃ、何でそうなってしまったのか。
 答は簡単、コーラサワーとジョシュアが、テストを任された新型ブルドーザー『GN-X』を壊しちゃった上に、またまたプリベンターの評判を落としたから。

 

「イヤッフーゥゥウ、新型新型新型!」

 

 とコーラサワーが喜んで乗り回しているところに、よせばいいのに変に対抗意識を持ってしまったジョシュアが頭文字Dを仕掛け、結果作業区域から外れて森林はぶち倒すは、道路のアスファルトはめくるわ、挙げ句、ダムの管理センターに突っ込んでしまい(今回の仕事は山の斜面に埋まった不発弾の処理)、水量調節が不可能になって多量の水が放水、一時下流はパニック寸前の状態に陥ってしまったのだ。

 

「……あなたたち、反省してる? 本当に」
「待ってくれ、コイツが俺に喧嘩を売ってきたのが悪い」
「何を言う、お前がGN-Xで遊んでいたからだろう!」
「つまり反省してないってことね、二人とも」

 

 中間管理職のサリィ=ポォとしては、ものごっそ頭が痛いところ。
 政府からのお叱りも下からの批難も彼女の頭を通り越してレディ=アンのところに行くのだが、一番責任を感じて心を痛めるのは現場監督の彼女である。
 またしてもこのバカ二人を押しとどめられなかった、と。

 

「あ? ざけんなアラスカ野、てめぇアラスカ野のクセに偉そうにしてんじゃねえよ!」
「アラスカアラスカ連呼するな! 山の手の奥さんがクジ引いて外れだった時の一言みたいだろうが!」
「嫌ならもっと言ってやる! あら、すか、あらすかあらすかあらあらすかすか」
「黙れー! 今回死亡フラグ立てた奴が、ウザいんだよっ!」
「見せ場もなく二話で退場した奴に言われたかねーわ! バーロー!」
「あなたたち、ちょっと黙りなさい!」

 

 罵詈雑言と四文字でくくるにはあまりに低次元な二人の詰り合い。
 今時の小学生でも、もう少しマシな口喧嘩をするであろう。
 サリィもそろそろ頭が痛いのを通り越して、延髄辺りがキリキリきていたりなんかする。
 あと、サリィの向こう側でヒルデがおでこを光らせながらフライパンを磨いていたりするのだが、これにはまだコーラサワーもジョシュアも気づいていない。

 

「あのGN-Xはまだ試作品でもあったのよ。試験も兼ねてプリベンターに回されてきたっていうのに」
「いやしかしよ、ちょっとスピード出して壁にぶつかったくらいで潰れるなんて工事車両として失格だろーが」
「時速250キロでコンクリートに突撃する工事車両がどこにあるっていうの!」

 

 怒筋がピピピとサリィの額に浮かびあがる。
 あんまり怒ると肌に悪いのでは、と側で見ていたデュオは思ったが、彼はそれを音声にはしなかった。
 こういう態度を『空気が読める』というのである。
 ここ、《サンクキングダム学園》の入試に出るから各自覚えておくように。

 

「それにあれは最新のエコ技術を使った次世代型で高いのよ……ああ、もう!」
「エ、エコ? 何だそれ?」

 

 エコ、という部分に疑問を持ったコーラサワーだったが、それに対する答は別のところからやってきた。

 

「はっはっは、それは私が答えよう」
「おわ! い、いきなり出てくるんじゃねえよ! このナルハム野郎!」

 

 グラハム=エーカー。
 プリベンターが誇る変態ツートップの片割れさんである。
 もう一方の片割れが誰か、今更説明の必要もないので割愛する。

 

「この『GN-X』は、今までにないエネルギーで動いているのだよ」
「今までにないエネルギー?」
「も、もしかして太陽炉ですか隊長!」

 

 あれだけ隊長嫌い隊長憎いと口にする割に、キレた時以外は丁寧語なジョシュア。
 この男、やっぱりラブリーヘタレさん。

 

「違う。『ミカンエンジン』だ」
「……未完エンジン?」
「蜜柑エンジン。そしてそれを開発したのは」

 

 グラハムは前髪をまるで映画スターのような仕草でかきあげると、華麗にステップを踏んでドアの方向を指差した。

 

「彼だ。さあ、紹介するから入ってきてくれ」

 
 

「……なんか、これは穏やかじゃないねえ」

 
 

 ドアがゆっくりと開けられ、一人の男が部屋へと入って来た。
 長身で眼鏡、ちょっと窮屈そうな白衣にツッカケ掃き、そしてポニーテール。

 

「蜜柑エンジンの発明者、そして私の友人のビリー=カタギリだ」
「な、な、なんじゃあああああそりゃああああああ」

 

 怒涛の展開に、思わずひっくり返るコーラサワーさん暫定29歳なのだった。

 

          *         *          *

 

「何のことはないさ、言ってみれば、ガソリンが蜜柑に換わっただけのことだよ」
「いや、それでも凄いですよ」
「食べ終わった蜜柑の皮は捨てられるだけ、それを燃料として再利用しようというのだから」
「なるほど、確かにこれはエコだ」
「これは新たなエネルギー革命になるかもしれないな」
「蜜柑の皮を細かく砕いて特殊な薬品で液状にしたもの、それを使って動くエンジン……凄まじい、まさに正義だ」

 

 梅昆布茶をのほほんとした表情で飲むカタギリ。
 いかにも『一流大学出の世間知らずの坊ちゃんが、有り余る暇と金にあかせて売れない発明品作ってます』な雰囲気なのだが、実際はこの人超天才だったりするから、世の中ホント見かけだけで判断出来ないものである。
 ファッションセンスはいささかアレだが、まあそれも天才ゆえ。

 

「すいません、せっかくの『GN-X』を壊してしまって……」

 

 褒めまくるガンダムパイロットに謝りまくるサリィ。
 しかし、当のカタギリ本人はいたってのんきなもんで、笑みを崩そうとはしない。

 

「いやいや、時速250キロでコンクリートにぶつかったら壊れる、というデータが得られただけでも収穫だよ」
「ところでカタギリ、次の車両はぜひ可変機能つきで名前を『フラッグ』にしてほしいのだが」
「却下だね」
「センチメンタルケチだな、カタギリは」
「まあ、名前はともかくとして、クレーンやブルドーザー、トラックに可変は必要ないと思うよ。ト○ンス○ォーマーじゃあるまいし」

 

 微妙に会話の軸がズレているが、それも片や天才、そして片やグラハムであるからだろうか。

 

「なあ、ちょっといいかポニテ博士」
「お前、そろそろ他人を本名で呼ぶことを覚えろよ」

 

 ここでコーラ、デュオにお約束のように突っ込まれつつ、ようやく会話に参加。
 カタギリ登場からおよそ三十分は黙ったままだったのだから、口八丁な彼にしてみればこれはなかなかの偉業と言えるかもしれない。
 まあ、ずっと正座してたので足が痺れて話の輪に加わるどころではなかった可能性もあるが。

 

「なんで『GN-X(ジンクス)』って名前なんだよ、あのブルドーザー」

 

 これまたコーラにしてはなかなかマトモというか普通な質問だった。
 確かにブルドーザーの名前にしては、妙にカッコがつきすぎている。
 だがしかし、まさかこれが地獄の釜の蓋を開ける問いかけになろうとは、はてさて人生とは先のわからない嵐の海である。

 

「ふふふそれはね」

 

 カタギリはよくぞ聞いてくれたとばかり、ニッコリ笑って語り出した。
 ゆっくりと、実にゆっくりと。

 
 

「まず『G』だけど、民名書房の『柑橘類の原点』という本には柑橘類の原種はインドにあると書いてある。それでね

 
 

     〜天才カタギリによる字にも出来ない説明が続いております〜

 
 

 そして『テレゲンの定理』、つまり電気回路において各枝を流れる電流と、枝間の電位差の積の和がゼロとなることを意味する定理なんだけど

 
 

     〜三十分経ちましたがまだ続いております〜

 
 

 結局そのことによって夏みかんの栽培におけるパラダイムシフトが起こったわけだが、これを逆手にとって僕は

 
 

     〜一時間、まだまだ続いております〜

 
 

 そもそもこれは三百年も前に特定家庭用機器再商品化法として東洋の某国で制定されたものだけど、これは未だ不完全な

 
 

     〜二時間経過、まだまだまだ続いております〜

 
 

 まあ、これで設定『6』のBB(ビッグ・ボーナス)確率は1/258になったわけさ、これが『X』の意味。わかったかい?」

 
 

 実に、実に三時間半、コーラサワーが質問してからカタギリが説明を終えるまでかかった。
 何という天才、ビリー=カタギリ恐るべし。

 

「う、うううう……」

 

 コーラサワー、泡吹いて卒倒寸前。
 なお他のメンツはすでに風を食らってとっとと逃亡しています。友人であるはずのグラハムも含めて。
 で、何でコーラさんが逃げてないかと言うと、五飛によって椅子にロープでぐるぐる巻きにされているから。
 説明が二十分経過した辺りでコーラさんも脱出しようとしたわけだが、そこを五飛にがっしりと捕えられてしまったというわけだ。
 で、コーラさんを生贄にして五飛は無事にランナウェイした、と。

 

「ああそうだ、せっかくだから蜜柑の皮に含まれるビタミンCとGN粒子の関連性について教えてあげようか?」
「う、う、うぐぐぐぐ」

 

 天才の法則その1、天才は相手の都合を考えない
 天才の法則その2、天才は喋りだすと止まらない

 

「今度、これを論文にまとめて学会に提出しようと思うんだけどねえ、僕がこれに気づいたきっかけは恩師エイフマン教授の……」
「あがが、ぎぐげげ」

 

 全然理解できない、何語かすらわからない言葉を延々耳元で聞かされる、この苦痛。
 はっきり言ってこれは拷問に等しい。

 

「……ミカンの実には白い筋があるだろう? これには動脈硬化を防ぐ効果のある成分が含まれていてね、それで……」
「ぐぉおおぉ……ふぎゅるぎゅる」

 

 コーラサワーの目にはハッキリと見え始めていた。
 三年前に死んだ、子供の頃にかわいがってもらった親戚のばーちゃんの、おいでおいでと手招きしているその姿が。

 

「……蜜柑は腐りやすい上に箱詰め出荷なので、腐った蜜柑が一つあるとすぐに他のミカンも腐ってしまう。ドラマの『3年○組金○先生』で……」
「う、が、げ」

 

 そして、とうとう。

 

「こ……言葉の暴力、反対……げふっ」

 

 ……コーラサワーは意識を失った。
 カタギリの蜜柑論をBGMにして……

 

 ついでに言っておくと、カタギリの話はこの後も続き、終わるまで実に五時間かかったという。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く――

 

 

【あとがき】
 コーラサワー大活躍コンバンハ。
 だけど反動がめっちゃ怖いですサヨウナラ。

 
 

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