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00-W_土曜日氏_43

Last-modified: 2008-11-26 (水) 20:53:41
 

「どうもよろしく。《人類革新重工》商品開発部のセルゲイ=スミルノフです」
「こちらこそ。プリベンターのサリィ=ポォと申します」

 

 世間が桜や桜やと浮かれ気分な今日この頃だが、プリベンターはそれでもお仕事。
 いや、休みもあるし花見にも行ったが、隠密同心は基本的に常時出張る用意をしておかなければならないのだ。
 コーラサワーやジョシュアを見ているととてもそうは思えないが、そーなのだ。

 

「こちらは秘書のソーマ=ピーリスと、部下のミン係長です」
「今日はお忙しいところ、よろしくお願いします。人類革新重工のミンであります」
「ソーマ=ピーリスであります」

 

 ソーマさん、さすがに今日は「バケラッタ」は封印か。
 空気を読んでるのだとしたら、よっぽどコーラさんより大人である、彼女。

 

「では、早速件のミカンスーツというのを拝見したいのですが」
「わかりました。こちらです」

 

 人類革新重工はここ数年、日の出の勢いで伸長を遂げている気鋭の企業である。
 揺り籠から墓場までというやや使い古された言葉を社訓とし、業界で最注目株の存在だ。
 さて、それではそこの商品開発部の部長と秘書、係長が何故プリベンターに足を運んだのか?

 

「おお、これが…シンプルでバランスが取れた造形、実に見事ですな」
「ええ、まあ」

 

 ビリー=カタギリ禁制、じゃない謹製の有人ロボットMS(ミカンスーツだかんね)。
 これに搭載されているミカンエンジンはミカンの皮を燃料として動く、究極のエコドライブである。
 蛇の道はヘビ、猪○なら顎。
 小型大型を問わず様々なマシーンを手掛けている人類革新重工がこれに目をつけぬはずもなし。
 かくして、開発者のカタギリとプリベンターの長レディ・アンの許可を受け、現在ミカンエンジンが搭載されている唯一の機械、ミカンスーツ・ネーブルバレンシアの視察に来たというわけだ。

 

「実にすんごおい、まったくすんごおおい」

 

 鼻息荒いセルゲイ=スミルノフ部長。
 なお彼の異称は『荒熊』というのだが、興奮すると息が荒くなるからついたのかは、さてさて定かではない。

 

「アビリティレベルはオール50、リーオーの半分と言ったところですか」
「成る程成る程、しかし十分ですな」
「ええ、ですがビーム系の兵器は一切携帯しておりません」
「わかります、プリベンターのような組織の性質を考えれば、その辺りはよくわかります」

 

 伊達に部長という重職にはついていない、セルゲイおじさん、察しもいい。
 言わば裏警察とでも呼ぶべきプリベンターが、堂々と『破壊兵器』を持つというわけにはいかないのだ。
 そもそもミカンスーツだって完全平和主義の中ではかなり浮いたモンであるわけだし。

 

「多少既存のMS(これはモビルスーツね)より小さいようですが、しかしこれが動くのだとしたら……どうだねミン係長」
「ええ、内燃機関としては十分なパワーだと思います」
「すんばらしい、じつにすんばらしい」

 

 セルゲイおじさん、首を縦に何度も振る。
 仕事熱心でいいことだが、側にいるサリィからしてみれば、やや暑っ苦しいのは否めない。

 

「ミカン……エコロジー……パワー……」

 

 と、不意にブツブツ呟き始めるセルゲイ。
 ミンはまたか、という風にちょっと溜め息をつく。
 セルゲイがこうやってボソボソやり始めたら、それは例のアレが出る合図でもある。

 

「人類の 革新ここに ミカンエンジン」

 

 セルゲイ、心の俳句。
 字余りだしそりゃ川柳だ、というのはもう今更野暮なツッコミか。

 

「ふむ、よく出来た。どう思うねピーリスしょ……ピーリス君」
「バケラ……いえ、お見事ですちゅう……いえいえ部長」

 

 セルゲイの背中を眩しそうに見つつ、セルゲイの心の一句に讃辞を送るソーマさん。
 バケラッタが出そうになったのは、まぁ愛嬌というヤツであろう、多分。

 

          *          *          *

 

「是非とも、このミカンエンジン搭載のミカンスーツの動きを見てみたいですな」
「……ええ、それはもちろん」

 

 新しい時代を切り開く重要な発明になるかもしれないミカンエンジン、
 企業マンのセルゲイとしては当然の要求でもあり、展開的にも普通の流れなのだが、ここでちょっとばかしサリィさんが憂鬱入ってるのは何故か。
 はい、答は簡単。

 
 

「イィィ―――、ヤッフゥ―――ッ!! と言うわけで、このスペシャルな俺の出番だな!」

 
 

 お馴染みのAEU製パイスーに身を包み、我らがパトリック=コーラサワーのご登場。
 そう、動かすだけならそれこそガンダムパイロットたちが適任だし、他にもグラハムがいるし、何なればアラスカ野ことジョシュアだっている。
 だが何とも残念と言うか神様は意地悪と言うか、こういう時に限ってプリベンター、サリィとコーラサワー以外の全メンバーが出払ってたりなんかして。

 

「ようおっさん! 俺が華麗な操縦テクを見せてやっから、よーく拝んどけよ!」

 

 今日は世界政府主催の新年度一発目の大パーティがある日。
 そのため、会場の警備のために腕っこきであるプリベンターが駆り出されたというわけだ。
 本来なら現場のリーダーであるサリィもそれに行くはずなのだが、今回はレディ・アンが直々に参加するとあって、本部側の連絡係兼責任者として残留することになった次第。
 レディ以下、その秘書役のシーリン=バフティヤール、ガンダムパイロットのサポート役としてヒルデ=シュバイカーもくっついていったが、ヒルデはどうもパーティと聞いて無理矢理同行した匂いがある。
 ま、武器はフライパンながら彼女もオンナノコゆえ。
 なお、パーティには当然リリーナも出席しており、プリベンターのスポンサーでもあるはらぺこショタ姫ことマリナ=イスマイールもご同様に顔を出している。
 さぞかしガンダムパイロットは会場でマリナに追いかけ回されていることであろう。
 ここは彼女の元おつきであったシーリンの手腕に期待したいところではある。

 

「おっさんって……ちょっと! 失礼よ! それにミカンエンジンの力を見せるのであって、アナタの技術を見せるんじゃないからね!」
「わはははは、同じことだって!」
「同じじゃなーい!」
「はははは、さすがプリベンター、多様で特異な人材を抱えていますなあ」
「バケラ……しかし部長、これは無礼であります」

 

 わかってないコーラ、怒るサリィ、豪快に笑い飛ばすセルゲイ、コーラの言動に憤るソーマ。
 四人の斜め後ろでミンが固まっているが、コーラサワーの傍若無人ぶり(スペシャルぶりとも言う)にドギモを抜かれているためである。
 嗚呼、ついていけない常人は哀れなり。

 

「ところでよー、俺がただ乗って動かすだけじゃつまんねーよな」
「……アナタ、何が言いたいの?」
「せっかく来たんだ、聞けばそこのおっさんは『アライグマ』とか呼ばれて昔ブイブイ言わせてたって話じゃねーか」
「『荒熊』よ」
「だったら、ミカンスーツは一機だけじゃない、俺と模擬戦やって身体で感じてみないかってことだ」
「……あああ、やっぱりアナタもパーティに行かせるんだったわ」

 

 コーラサワーの性格を考えれば、こうやって模擬戦模擬戦言い出すのは目に見えていた。
 サリィにしてみれば、政府から財界からと各方面の重鎮が集まるパーティの護衛に付かせて、そこで逆に騒ぎを起こされるのが嫌でコーラサワーを本部に残したわけだが、結局出口なしの行き止まりネズミになってしまった感じだ。
 外に出したら出した、中に残せば残したで騒ぎを起こす男なのだ、パトリック=コーラサワーは。

 

「ほう……それもおもしろいですな」
「って乗り気なんですか!?」

 

 大手企業の重役なんぞというご立派な社会的身分のセルゲイだが、コーラサワーが言った通り、かつてはブイブイな男。
 何しろロシア軍人時代、ボルガ川において素手で全長10メートルの鮭と闘い勝利したという伝説を持っている。
 顔の傷はその時ついたとか何とか。

 

「ちゅ……部長、お待ち下さい」

 

 と、ここでセルゲイに待ったをかけたのは、常識人の中間管理職ミン係長ではなく、銀髪バケラッタ秘書のソーマ=ピーリスだった。

 

「何かね」
「ここは私が」

 

 上着を脱いで既にヤル気まんまんだったセルゲイの前に、ずずいと進み出るソーマ。
 コーラサワーを見る眼光は、まさに射抜く矢の如しだ。
 敬愛する上司をコケにされたのが、余程原巨人スタートダッシュ失敗、じゃなく腹に据えかねたらしい。

 

「お、おう? やんのか女?」

 

 女にイケメン視線ビームを送るのが得意なコーラさんでも、女から睨まれるのはカティ=マネキン以外では慣れていない。
 やだねぇ、生粋のプレイボーイって。

 

「女ではない」
「へ?」
「ソーマ=ピーリスだ」

 

 かつてここまでコーラサワーにキッツイ目線を飛ばした女性はいただろうか。
 結構いたかもしれない。
 サリィとかヒルデとかマリナとか。
 だがここは敢えてスルー。
 右から左に受け流スルー。

 

「しかしアンタ、操縦出来んのかよ」
「バカにするな。今時MSのひとつやふたつ、操れなくて秘書が勤まるか」

 

 ミカンスーツ、一応コクピットは世界統一の標準規格。
 免許があってもハンドル三角でアクセルが頭の後ろについてる車なら意味はない。
 機体ごとにバラバラで現地整備に四苦八苦したジオン公国軍の轍を踏んではいけまじ、統合整備計画はお早めに。

 

「部長、よろしいのですか?」
「……ミン係長」
「は、はい」
「私は……実に感動している」
「は?」
「思いたまえ、あれほどイキイキしている彼女を見たことがあるかね? 彼女は生の実感を得ておるのだ……」
「はあ?」
「君も彼女の出自は知っておろう、ロシア軍の非人道的な研究施設で肉体改造されたことを……」

 

 ソーマ=ピーリス、バケラッタながら結構重い過去持ち。
 あまりに無茶なやり方に査察が入って施設(OZと繋がってたとか何とか)がぶっとんだのが数年前、
 被検体だった彼女を引き取ったのが、軍とのパイプを持っていたセルゲイだった。
 人としての感情を摩耗させてしまっていた彼女を、足長おじさんならぬセルゲイおじさんは側に置き、何くれとなく目をかけてやっていたのだが、今日ここにそれが報われた感がある。
 バケラッタに凝るくらいだからもっと前から感情復活していたんじゃ、などという無粋なツッコミはスルースルージェットストリームスルー。

 

「すんごおい、ううむすんごおい」
「はああ?」
「ううむ・・・…命の炎……ミカンスーツ……闘争心……ブツブツ」

 

 目の前で繰り広げられる、茶番と呼ぶにしてもあまりに滑稽な一連の流れ。
 もうサリィ=ポォは何も語らなかった。
 語るべき言葉がなかった。
 そして思った。
 ああ、やっぱり人類革新重工の申し出、断っとけばよかったかな、と。

 

          *          *          *

 

 ……パトリック・コーラサワーとソーマ・ピーリスの模擬戦はこの後、実に三時間の長きに渡って続けられた。
 さて、これはソーマの実力を褒めるべきか、それともコーラサワーの実力を褒めるべきか。
 終始キレ気味のソーマがコーラさんを押しまくっていたわけだが、そこはそれ、負けを認めなきゃ不敗のコーラサワー法則第一項が発動、
 無事コーラサワーの模擬戦負けなし記録は継続することとなった。
 これを機会に、奇妙な友情が……

 

「よくも部長を馬鹿にしたな! バケラッターッ!」
「うわああああ、なんじゃこりゃあああああああああ!」
「バケラッタバケラッタバケラッター!!」
「のおおおおおおお、俺はスペシャラルララァアッラッー!」

 

 ……結ばれることとなった、かもしれない。
 スペシャルなコーラさんと、彼よりちょっぴり精神大人なソーマさんの間に。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 設定に関しては単にこっちが先だっただけの話ですコンバンハ。
 どんどん改編してしまって下さい、畑は先に耕した者より美味い作物を作った者こそがスペシャルですよサヨウナラ。

 
 

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