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00-W_土曜日氏_54

Last-modified: 2008-12-24 (水) 21:42:16
 

「暑いな」
「もうすぐ夏だからな」
「こういう時に出動したくねーな」
「不心得者だな」
「ま、でも良かったぜ」
「何が」
「今年の梅雨はカラ梅雨で。ジメジメ暑い上に大雨でも降られたら何もする気起きねえからな」
「梅雨ってお前、ここをどこだと思ってんだ」

 

 六月も終わりに近づき、気温もぐんぐんと上がってきている今日この頃。
 皆さんお元気ですか、プリベンターは今日も元気です。

 

          *          *          *

 

「ああ、いや……日本で事件が起こるかもしんねえだろ」
「可能性的には否定出来ねーけど、発言が出たとこ勝負すぎんだろ」

 

 世界政府議事堂の一角にあるプリベンター本部。
 ここ二週間程緊急の出動がなく、いささかコーラさんも弛緩気味である。
 リーダーのレディ・アンは変わらず議事堂の最奥にある専用室にこもって書類仕事に精を出しているが、実動部隊のサリィ=ポォ以下は基本待機の状態だから、まぁ無理もないっちゃ無理もない。
 無論、いつでも出張れるだけの準備は整えてあるし、細かい雑務もあることはあるけれども。

 

「しかし、あいつらも災難だな」
「何がだよ」
「こんな暑い中、要人警護だなんてよ」

 

 プリベンターの仕事は“火消し”だけではない。
 個々の面子が何しろ精鋭中の精鋭なので、政府関係の行事に警護役としてよく呼ばれたりするのだ。
 中でも張五飛とトロワ=バートンは単体としての格闘能力が異様に高く、ヒイロ=ユイは隠密行動に長じ、カトル=ラバーバ=ウィナーは計画立案能力に長けサポート役として適任なので、どうしてもリーダーのサリィとこの四人が自然と警備任務に赴くことが多くなる。
 残留は連絡係としてヒルデ=シュバイカーが主にその役目に当たるが、複数の事件が同時発生した時のために実動部隊の一部も本部に残しておかねばならず、自然、上の五人が出ると残されるメンバーは決まってしまう。
 そう、我らがパトリック=コーラサワーさんと、何時の間にやらそのツッコミ相棒となってしまったデュオ=マックスウェルの二人がそうで、コーラサワーはその問題を起こす性格ゆえ、そしてデュオはそんなコーラサワーの監視役に適任だというのが理由になっている。
 今日に限って言えばグラハムとアラスカ野ことジョシュアもMS(ミカンスーツだ)でくっついていっているので、尚更“お留守番”なイメージが強くなってしまっているのが何とも悲しいところである。

 

「アレだろ? 建設中の新しいマスドライバーだろ?」
「ああ、出資者が視察したいとか言い出したらしいな」
「ケッ、迷惑なヤローだな。金は出しても口は出さない、それがスポンサーってもんだろうが」

 

 ちなみに、このスポンサーというのは某中華娘だったりするが、二人がそのことを知るのはサリィたちが戻ってからのことになる。

 

「いやしかし、金を出してもらってる以上は無碍に断れないだろ」
「現場は気が落ち着かねーだろ。俺なんて後々のことを考えて口には出しても中には」
「はいはい例えがズレてる以上に卑猥禁止!」

 

 中がイイ、じゃない仲がいいのか悪いのかこの二人。
 すぐ隣の部屋にヒルデがいることをもう少し気にかけてほしいもんである。
 迂闊な事を口走ればフライパンが空中を疾風のように飛来してきかねないぞ。

 

「だいたいマスドライバーなんて必要か? この太陽光エネルギー全盛のこのご時世に」
「ないよりあった方がいいに決まってる」
「だからと言って民間から資金集めてまでやることかよ」
「大量の物資を打ちあげるのに必要だろ。軌道エレベータじゃ限界があるし」
「宇宙港があるだろうが。シャトルを使えばいいじゃねーか」
「かかるコストが倍以上違う。飛行機とはリクツが違うんだぞ」

 

 お前本当に元軍人か、とコーラサワーに冷ややかな視線をぶっ刺すデュオ。
 時々、彼は真剣に思うことがある。
 かつてコイツはAEU軍のエースだったというがそれはマジだったのか、と。
 はるか大昔は腕一本で伸しあがった大空の勇者もいただろうが、MSが主力となってからは、正直バカではパイロットは務まらない。
 人間と同じような動作が出来るメカをレバーやボタンで制御するためには、相当の物理知識及び工学知識が必要となってくるのだから。

 

「ま、とにかくヒイロたちは御苦労なこった」
「さて、お前の相手をしなきゃならない俺の方がよっぽど御苦労だと思うがね」
「あん? 何だそりゃ、どういう意味だ?」
「気にするな、聞き流してくれよ」

 

 デュオはソファーにごろりと横になると、深緑の人民帽を顔の上に乗せた。
 この人民帽、何時だったかジャンク街で手に入れたもので、購入した理由も「ちょうど昼寝の時に顔を覆うのに手頃な大きさ」だったから。

 

「みんなが帰ってくるまで、あと数時間はあらあな」

 

 それまで一眠り、コーラサワーに突っ込み続けてたら精神が摩耗してしまう。
 事件が起こったら起こった時、それならそれで別にいい。

 

「おいみつあみおさげ、お前昼寝するつもりか?」
「ああ、俺は不心得者だからね、っと」

 

 デュオは目を瞑った。
 身体の奥底から、さざ波のように眠気が押し寄せてくる。

 

「何かあったら起こしてくれよ」

 

 コーラサワーとセットにされたからと言って、何時も面倒ばっかり見るのもバカらしい。
 たまにはこっちがペースを握ってもバチは当たらないだろうさ。
 ヒイロたちには悪いが、ここは丁度エアコンも効いていて快適だ……

 

「ふわあ……」

 

 大きな欠伸をひとつすると、デュオは夢の精霊が待つ眠りの園へと、ゆっくりと歩を進めた。
 エアコンの静かな作動音と、コーラサワーがぶちぶち呟く文句を子守唄代わりにして。

 
 
 

 ちなみに。
 「何かあったら起こせ」とコーラに頼んだデュオだが、結局起こされることはなかった。
 理由は二つ、まず一つ目は事件が発生しなかったため。
 そしてもう一つは、コーラサワー本人がヒルデの放ったフライパンを後頭部に喰らい、“眠って”しまったため。
 プリベンターとパトリック=コーラサワーの夢の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンバンハ。
 もう残業いやあああサヨウナラ。

 
 

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