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00-W_土曜日氏_66

Last-modified: 2009-02-01 (日) 19:02:04
 

 昔々、あるところに一人の男がいました。
 彼は常々疑問に思っていることがあり、意を決して天界に行き神様に聞ききました。

 

「神様、『バカは死ななきゃ治らない』という言葉があります」
『うむ、あるのう』
「本当なのですか? それは」
『うーむ、本当と言うか、後天的努力でどうにもならんもんは生れ変わりでもせん限りは無理じゃの』
「そうですか……」

 

 男はうなだれました。
 実は彼は学校の勉強があまり出来ず、社会に出ても要領が悪くて周りからバカだバカだと言われていたのです。

 

「でも神様、死んでしまったら治ったかどうかわかりませんよね」
『そうじゃの』
「僕はバカだとみんなから言われます。自分でもそうだと思います」
『うむ』
「僕はどうすればいいのでしょうか……」

 

 ポロポロと男の目からは大粒の涙がこぼれます。
 今までよっぽどバカにされてきたのでしょう、悔しいのでしょう。

 

『のうお前』
「はい……」
『勉強が苦手、人と付き合うのが苦手、仕事が上手く出来ない』
「……」
『そんなの、お前以外に世界にゴマンとおるわ。ワシがそう作ったんじゃからの』
「はあ」

 

 神様、堂々と差別社会設立宣言
 おかしいなあ、神様ってのはどんな宗教でも平等を訴えるもんなのになあ。

 

『じゃが、お前のバカはお前にしか出来ん。それはどんな天才も真似出来ん』
「え?」
『ワシはそれぞれの生き物の能力に差をつけた。考えてもみい、すべてが同じなんて気色悪いじゃろ』

 

 白一色、黒一色の世界。
 皆が同じ考えで同じ幸せに同じように笑っている世界。
 見方によってはとても素晴らしいようにも思えます。
 ですが、神様はそうではないと言います。

 

『お前、花は好きか?』
「え、は、はい、とてもキレイですよね、いろんな形や色があって」
『じゃろう。たくさんの種類があるから、楽しい、キレイ、おもしろいという感情が湧いてくるんじゃ』
「……」
『そしてお前は、世界に一人だけのお前、ひとつだけの花じゃ』

 

 何だか槇○敬之呼んで来いと言いたくなるような台詞ですが、さすが神様、良いこと言うときは言います。

 

『バカで結構、一所懸命やってりゃそのうち何とかなる。最初にも言ったが、後天的努力次第で結構どうにかなるなる』

 

 前言撤回、世界を作った存在の言葉とは思えません。
 何かの居直りですかこれは。

 

『それにのう、わしはどんな人間にも生き物にも、最低一つは輝く何かを持てるように作っておるよ』
「え?」
『それじゃの、昼寝の時間じゃからワシ帰るわ』
「え、ちょ、神様!? ぼ、僕の輝きって、何ですか!」
『自分で探せー、じゃあの』

 

 そして神様は男の前から消えました。
 男はしばし、呆然とそこにたたずんでいました。
 が、数分経った後、男はくるりと振り向いて歩き始めました。
 その顔は、バカだバカだと皆から蔑まれて落ち込んでいた男のものとは思えないくらいに晴れやかで、輝いています。

 

「バカでもいい、それがどうした」

 

 口調も何かハッキリ、強いものになっています。

 
 

「誰も真似出来ない、僕だけの花をいつか―――咲かせてやるんだ」

 
 

 

 以上、長い前置き終了。
 で、この前置きが本編に深く関わってくるかと言うと。

 
 

「イ――――――ヤッフ――――――! 覚悟しやがれ空飛ぶカツオワカメタラ!」
「林彪等社会陳列罪全! 間違ってるけど私は気にしない! 気にしないぞこのグラハム・エーカーは!」
「いいか、逃げるったってムヤミヤタラじゃねーぞ! 突破したはいいが気づいたら燃料ゼロで大海原ってのはナシだからな!」

 
 

 うん、あんまり関係ないかも。
 だってこの三人、自分がバカだって自覚してないし。
 どこかの誰かが言いました、気付いてないバカは最強だ、と。
 後悔と反省は人生における最大の成長要素だが、そもそも天然おバカは挫折を挫折と思わない、負けを負けと認めない。
 せいぜい石に躓いてこりゃ不運程度の認識で、そんなんだからずっと右肩上がりで成長していくとか何とか。
 お前それホントかよ眉唾じゃねーのとは思う、正直自分も思う。
 だが、世界で活躍しているスポーツマンや芸術家の何人かを見ていると、いや、成る程有り得るなとも思う。

 

「ボス!」
「何だ! ブーストの準備は終わってんだろうな!」
「そ、それは問題ありませんけど、ですが」
「ですが何だ! 手短かに簡潔に四百字詰め原稿用紙の四分の一程度で収まるように報告しやがれ!」

 

 さて、まず語るは怪物カツオノエボシ事件の主犯、アリー・アル・サーシェスの現状について。
 海産物乱獲作戦をプリベンターに邪魔され、トンズラこくもサリィの先回り作戦に思うにいかず、とうとう使ったら危険よ保証なしよの空中浮遊機能を使ってしまったところまでは前回までに述べた。
 で、つまりはこれからである。
 さっきアリーが自ら言っていたが、この最終手段を使って逃げるのにも限界がある。
 仮にプリベンターを振りきっても、突破した先が大海のど真ん中ではアウトなのだ。
 潜水機能を浮上時に強制排除しているため、燃料切れで海に落下したら沈没するしかなく、哀れ海の藻屑になるしかない。
 行きつく先は陸地か、それとも海岸の近海が最も望ましい、っつーかそれしか無事にドロン出来る術がない。

 

「おっ、何か動きが止まってるぞ!」
「よし、討ち取るなら今ということだ。私は真正面から行く、右に回って援護してもらいたい!」
「な、俺に命令すんな! アイツは俺が落とすんだよ、このスペシャルエースが!」
「所属が違ったとはいえ、軍人時代は私の方が階級が上だった!」
「今更関係ねーだろ! お前、自分に都合のいいように会話を捻じ曲げる癖はやめろ! それに歳なら俺のが上だぞ!」
「一歳二歳はたいして違わない!」

 

 ああうるさい。
 サリィの厄介払い的配慮がまさかまさかのモノホン滑り止めになったわけだが、やっぱりこの二人が最終防衛ラインに立っているのはあまりに不安である。

 

          *          *          *

 

「ボスゥ! ベストルート出ました! あの、その」
「とっとと言え! 口籠んじゃねえ!」
「あ、あのプリベンターのMS(これはモビルスーツ)が塞いでるんです!」
「何だとぉ! まさかそこまで読んでやがったってのかぁぎっちょーん!」

 

 で、またまたアリー、サリィを過大評価。
 まぁ事態の素っ転びで捨て戦力に活躍されても、全然サリィとしては嬉しくないでしょうが。

 

「……よっしゃ、海腹川背、じゃねえ背に腹はかえられねえ。強行突破だ!」
「りょ、了解!」
「ブースト充填終了後、フルで突っ切る! 撃たれようが切られようが気にするな!」

 

 こういう腹の括り方はさすがは腕っこきの傭兵である。
 正味、もたもたしていたら海に置き去りにしてきたプリベンターと海洋警備隊に追いつかれてしまう。

 

「カウント! 10秒前から始めろ! 椅子に座ってねえやつは手近な何かにしっかり捕まっとけ!」

 

 天才は天才を知る、ならばバカもバカを知る。
 今や偽装をほとんど剥ぎ落とした元巨大カツオノエボシの雰囲気の変化を、コーラサワーとグラハムも敏感に感じ取るのだった。
 天才とバカは紙一重という言葉があるが、実際常人には無い事態変化を嗅ぎ分ける力をバカは持っているのだ。
 今にして思うが、バカってのは皮肉込みで褒め言葉として使われるが、皮肉無しでもおそらくそうなんであろう。
 誰にも真似できない、まさに世界にひとつだけの輝ける鼻、じゃねー花なのだ。

 

「む、何かヘンだぞあいつ」
「どうやら観念したようだな! 潔し、なればこそこのグラハム・エーカー! 手を抜かず真っ向から斬り捨ててくれる!」
「バーロー、だからあいつをやるのはこのパトリック・コーラサワーだって言ってんだろうが!」

 

 まったく、ここに及んで協力する気はまったくナッシング。
 オレガ星人もここまでくるとホント天晴れですな。

 

「5、4、3、2……」
「むっ、来るぞ!」
「おおっ!?」

 

 ゼロ。
 空飛ぶ偽装クラゲが、空気を揺るがして思い切り跳ねた。
 コーラさんとグラハムの乗るMS(ミカンスーツ)目がけて。

 
 

「ほるああああ、いっけえええええぎっちょおおおおおおおおおおん!」
「敵! 即! 斬! たあああああああああっ!」
「い、いやっほ―――――――――――――――――――お! おおおお!?」

 
 

 アリー・アル・サーシェス、グラハム・エーカー、そして我らがパトリック・コーラサワーさん。
 それぞれ世界の中で彼らだけが持つバカでとかちつくちて、じゃない花を咲かせまくっている。
 それは誰も欲しがらない花かもしれない。
 だが、同時に誰にも真似出来ない咲き方をする花である。
 周囲に疎まれることがあっても、彼らが咲かせたからこそ救われたモノだって必ずあるはずだ。
 彼らがいいと思って咲かせているなら、それでいい。

 
 

「おおお、何じゃこりゃあああ―――!?」

 
 

 て、ところで次回へさらば。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の浪漫飛行は続く―――

 

 

【あとがき】
 コンニチハ。
 また終わらなかったですが、次回は本当に後始末話でカツオノエボシ編終了サヨウナラ。

 
 

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