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00-W_土曜日氏_73

Last-modified: 2009-02-19 (木) 21:09:32
 

「と、言うわけでだ」
「またか」
「カレーは三日続けても飽きないと言いますけど、さすがにこのパターンそろそろどうでしょうか」

 

 プリベンターは今日も暇だった。
 昨日も一昨日も暇だった。
 一週間前も暇だった。
 二週間前も暇だった。
 なに、仕事がないのを嘆くことはない。
 プリベンターの暇は世界の平和の証明だから。
 ……ね、もうそろそろ故・芥○隆行氏にナレーションしてもらいたくらい固定化してきましたよこの出だし。
 まあいいんですけどね、こっちは能天気な世界ですから。
 あっちの世界で誰が苦しもーがあぼんしよーが、その点だけは絶対にこちらには反映しませんので。
 ええ、いいんですよ、永遠のお気楽ワンパターンになっても。
 ネタが尽きたらそこで終わればいいんですから。

 
 

  炭酸のネタとシリアスとを比べれば
  恥ずかしながらネタが勝つ
  出番も活躍もねえものか
  浜の真砂は尽きるとも
  尽きぬ笑いの数々を
  見せる仕事のスペシャルエース
  へへっ
  大佐様でも気がつくめぇ

 

   ◆   ◆   ◆

 

「あのうるさいオデコ嬢ちゃんを何とかしろ」
「何とかしろ、って言ってもな」
「ずっとあのキンキンした声で喋り続けられてみろ! 昼寝も出来ねーだろ!」
「つーか昼寝は昼休みだけにしとけよ!」

 

 プリベンターは、パトリック・コーラサワーたちは困っていた。
 何で困っていたかって、それは先日新たにレディ・アンの秘書となったとある少女のことで。

 

「で、そこなんですぅ。主人公は記憶を失いつつあるのにヒロインにそれをひた隠しにしてるんですぅ」
「そ、そうなの……」
「ここからが涙ナミダの展開なんですぅ、十巻は特に鬱巻と呼ばれているんですぅ」

 

 ミレイナ・ヴァスティ、14歳。
 彼女はオタクだった。
 ドがつくほど重度の。

 

「……で! ここからが大変なんですぅ、主人公の弱点を知った敵は驚くべき手段に打って出るんですぅ」
「ふ、ふうん……」
「何と伝説と呼ばれて密かに隠されていた秘術の封印を解いちゃったんですぅ! これを使うと地球の半分が消し飛ぶんですぅ!」

 

 密かに隠されていたも何も、秘術ってのは普通に隠してあるから秘術なんだよな、とデュオ・マックスウェルは思った。
 ついでに、地球の半分が消し飛ぶったってをの秘術を編み出した奴はどうやってその威力を確かめたのか、さらにそれを誰が評価して地球の半分が消し飛ぶなんて伝えられるようになったのか、とも。

 

「これは大変なことなんですぅ! 原作の十二〜十四巻のバトルは息もつかせぬ攻防なんですぅ!」
「へ、へえ……」
「でもアニメはダメですぅ、監督が変に自己解釈を盛り込んじゃって、敵の行動に一貫性がなくなっちゃったんですぅ」

 

 もうこんな調子でずーっと語りまくっている。
 どうやらお気に入りのライトノベルについてくっちゃべっているようだが、デュオたちにはさーっぱりのとーっぱりわからない。
 なお、直接の危機、じゃない聞き相手になってあげているのはヒルデ・シュバイカーで、これは同性で年齢も近いことから自動的にミレイナに選ばれた様子である。
 で、デュオたちは別に聞き耳をたてているわけではない。
 ミレイナの声がやたら通りがいい上に大きいので、嫌でも聞こえちゃうのだ。

 

「そうだ、今度原作を全部貸してあげるですぅ、きっとハマると思いますですぅ」
「あ、ありがと……」

 

 さすがに年下の同性相手にフライパンを振り上げるわけにもいかないのか、哀れヒルデは押されるがままにミレイナの言葉の洪水を浴びまくっている。
 額から頬に流れる一筋の汗が、彼女の心境を雄弁に物語っていると言えようか。
 ミレイナに悪意が無いのもわかるので、「もう結構」と突き放すわけにいかないのも辛いところである。

 

「しかし、いいのかあの子。一応レディ・アンの秘書なんだろ?」
「側にいなくていいんでしょうか」
「いや、何でも今日の分は終わったらしいぞ、既に」
「本当か? トロワ?」
「ああ、さっきサリィが言っていた」

 

 年齢に合わず非常な才能の持ち主である、とはサリィ・ポォの口から聞いたところであるが、それにしても前任のシーリンだって十分に優秀と言えるはずの人物だったのに、それを上回って仕事をこなすとは一体どんだけの能力の持ち主なのか。

 

「手を抜いた、というわけではないんだな」
「そんな事していたら今頃レディ・アンが怒鳴り込んで来ているだろう」
「……確かに」

 

 人は見かけによらない、と言う。
 しかし、ガンダムパイロットたちの目に映るロールパン型ツインテールのオタク少女が、どうにも超有能な秘書役に見えないのも確かではあった。

 

「そう考えると凄いな」
「何がだ、デュオ」
「考えても見ろ五飛、あのバカ一号二号は見かけ通りだ」

 

 デュオ、きっつい一言国電パンチ
 いや、さすがにこれは言い過ぎであろう。
 バカ一号ことコーラサワーは一応ハンサムな伊達男だし、バカ二号のグラハム・エーカーだって普通にイケメンである。
 いやまあ、あくまで共に喋らなければ、という前提がつくが。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「うおらあああ、オデコ娘三号!」

 

 と、ここで我らがパトリック・コーラサワーさんがちょとキレた。
 肩をいからせてドスドスとミレイナの方へと歩いていく。
 ちなみに、オデコ一号はサリィでオデコ二号はヒルデであるのであしからず。
 ついでに言っておくと、この呼称を使っているのはコーラさんだけです(サリィの場合は正確には「オデコ姉ちゃん」だが)。

 

「さっきからキャンキャンとバッティングセンターの金属バットか!」
「えー? スペシャルさん、何ですぅ?」
「だからウルサイってんだよ! もーちっと静かに出来ねーのか!」
「コーラサワーさんの態度の方がよっぽどうるさいですぅ」

 

 ありゃ、結構言う女である、ミレイナ・ヴァスティ。
 育ってきた環境が余程よろしかったのであろうか、まあ間違いなくマイスター運送の連中のせいではあろう。

 

「ななな、なんだとう!?」

 

 しかし、自分の半分以下の年齢の少女に凄んでみせてあっさり撃退されていたのでは、それこそ模擬戦二千回不敗のエースの名前が泣く。
 ここは一発、ドカーンとかましておいてやらねばいけない場面と言える。

 

「だいたいよ、さっきから何の話してんだ? さっぱりわかんないんだよ!」
「私の大好きな小説のお話ですぅ」
「小説だぁ!?」
「はい! これですぅ、丁度最新刊を買ってきたばかりですぅ」

 

 ミレイナが差しだした文庫サイズの本を、コーラサワーは受け取った。
 と言うより、ミレイナの勢いに負けた形で受け取ってしまった。
 どうやらソーマ・ピーリスに続いて、ミレイナ・ヴァスティもコーラサワーにとって「やりにくい」相手であるらしい。

 

「な、何だこりゃ……マンガか?」
「マンガじゃありませんですぅ」
「いや、だって表紙の絵、マンガじゃねーか」
「違いますぅ、描いてる人はれっきとしたイラストレーターさんですぅ」
「……よくわかんねー」

 

 首を傾げながら、コーラサワーはその小説を開いた。

 

「……『死人使いの祭祀書・Explosion』? タイトルもよくわからん」
「違いますですぅ!」
「わ、何がだよオデコ娘三号!」
「しにんつかい、じゃないですぅ! ネクロマンサーと読むです!」

 

 コーラさん、タジタジ。
 で、ここでヒルデがそっとミレイナの側から離れて隣の部屋へと逃げ込んだのだが、これに二人はまったく気付かなかった。
 ヒルデ忍法押しつけの術、お見事。

 

「えーと、そいで、何で爆発なんだ?」
「え?」
「いや、”Explosion”って爆発だろ」

 

 おおおコーラサワーって頭いいじゃん、と思った人は反省して下さい。
 いくら何でも彼だって英語くらい喋れますし読めます。

 

「このネクラ何とか書って本の名前が爆発なのか?」
「違うですぅ!」
「え、違うのかよ!?」
「Explosionっていうのは言わばシリーズ名ですぅ!」
「は?」
「この前に『Impact』ってシリーズがあるんですぅ! ついでに言うとその前は無印ですぅ!」
「い、インパクト? むじるし?」
「はい! 一期がシリーズ名がついてなくて無印、二期がImpactで通称インパですぅ」
「へ?」
「そして今は三期目で、通称エクスですぅ」
「エ、エクスデス?」

 

 それは○ァイナル○ァンタジー后△っと失礼。
 さて、ここに来てコーラさんの瞳の中と頭上にハテナマークが点滅しまくり。
 離れて(隠れて)聞いているガンダムパイロットたちにも点滅しまくり。
 つまりは、ぜんっぜんミレイナの言ってることが理解出来ていないということである。
 いや、これは別にコーラさんたちが悪いわけじゃないのだが。

 

「ささ、読んでみるですぅ」

 

 ああ、コーラさんペース持ってかれっ放し。
 プレイボーイ形無しだが、いやはや趣味の力は強いと言うべきか否か。

 
 
   キャス・バァルは絶句した。
   彼の放った『漆黒の暗殺刃』(デュランダーン)がいとも簡単に弾き返されたからだ。
   ここしかない、と彼自身渾身の一撃であっただけに、そのショックは大きかった。
 
  「ふふふ、信じられないと言った顔をしているな」
 
   アム・ローレイは無傷だった。
   服にほころびすら出来ていない。
 
  「所詮お前の力はこんなものだ、死人使い(ネクロマンサー)」
 
   アム・ローレイは一歩、前に足を進めた。
   同時に、キャス・バァルは一歩、後退する。
   明らかに彼は気圧されていた。
   背中に絶望と言う名の汗が滲むのを、彼は覚えた。
 
  「死人から力を借りているだけではな。ふふ……覚悟しろ」
 
   ふわり、とアム・ローレイは右手を動かした。
   宙に輝く文字が浮かびあがり、そしてそれが万華鏡を覗いたような形の模様へと変化していく。
 
  「せめてもの情けだ、苦しまずに逝かせてやる」
 
   右の人差し指に雷(いかずち)の矢
   左の薬指に疾風(はやて)の剣
   背に負うは獣神(あらがみ)の牙
   踏みしめるは月の女神(かがみめ)の髪
 
  「……まずい!」
 
   キャス・バァルは戦慄した。
   今まさに、アム・ローレイは究極の魔術を発動しようとしている。
   それを避けるためには、今すぐ逃げ出すかそれとも詠唱を止めるしかないのだが、彼にはどちらも出来なかった。
   何故ならば、すくんでいたのだ、身体が。
 
   大海原に時の砂を撒き
   火を噴く山に夢の枝を挿す
   岩に突き立てしは闘人の神剣
   天に掲げしは魔人の拳
   我は願う、羽人(はねびと)の槌を!
 
  「さあ! 喰らうがいい! 我が最大の魔術、『微塵の堕天使』(エンジェルフォール)を!」
 
   詠唱が終わった。
   空気が渦を巻き、アム・ローレイの指先に集まっていく。
 
  「死ね! アル・テ・イシアのように!」
 
   アル・テ・イシア。
   その名前を鼓膜が感知した瞬間、キャス・バァルの脳は沸騰した。
   視界が白く塗り潰され、腹の奥から猛々しい怒りが噴きあげる溶岩のようにせり上がってくる。
 
  「う、おおおおおおーっ!」
 
   キャス・バァルは吠えた。
   同時に、アム・ローレイが放った恐るべき破壊の槌が彼の頭上に落ちてきた―――
 
 

「どうですぅ? おもしろいと思いませんかですぅ」
「……」
「感動のあまり声も出ないんですか?」
「……な」
「な?」

 
 

「なんじゃあああああこりゃああああああああああっ!」

 
 

 コーラサワーは弾けた。
 本を床にバシッと叩きつけると、目を剥いてミレイナを睨みつける。

 

「あー、新刊を粗末に扱っちゃダメですぅ!」
「ソマツもコマツもジュウシマツもあるかあ! 何じゃこのわけわからん文章はあ!」
「えー、どこがわけわかんないんですかあ」
「だいたいよ、なんだこのフリガナっつーかルビは! どこをどう読んだら漆黒の暗殺ナントカがデュランダーンになるんだよ!」
「そういう設定なんですぅ!」
「雷をいかずち、疾風をはやてはいい。しかし獣神であらがみ? 月の女神でかがみめ? 読み方間違ってるじゃねーか!」
「そういう読み方をする世界なんですぅ!」
「つーかこの呪文は何だ、意味わからん、普通にアイツを倒せーじゃダメなのかよ!」
「お約束です! 様式ですぅ! これがあって燃えるんですぅ!」

 

 両者、真正面から鍔迫り合い。
 八百長の入る隙間もないほどに土俵のど真ん中でがっぷり四つだ。

 

「海に砂撒いてどーすんだ! 山に枝挿してどーなるんだ! 闘人って誰だ、魔人って何処に住んでんだ!」
「変に理屈っぽく捉えちゃダメですぅ! こういうのは感じるんですぅ!」
「ミジンコの天使って何だ!? エンジェルの穴がどうした! 三枚集めたらおもちゃの缶詰貰えるのか!? 意味不明だろ!」
「意味不明って、模擬戦二千回とか言ってる人に言われたくないですぅ!」

 

 これはダメだ、妥協の余地なし。
 ソーマ・ピーリスに続いて、ミレイナもコーラサワーの天敵認定していいようである。
 ソーマとは性格が合わないが、ミレイナとは感覚が合わない。

 

「スパッと行けよ! 天才パトリック・コーラサワーは敵を打ち倒しました、おしまい! でいいじゃねーか!」
「それだとお話にならないですぅ!」

 

 竜虎相撃つ。
 さて、この表現を使うのはかつてソーマとコーラさんがやりあった時以来だろうか?
 残念ながら記憶にない。

 

「ですぅですぅってお前は死神か、オデコ娘三号!」
「スペシャルさんなら頭じゃなくて体でこういうのを理解して欲しいですぅ!」

 

 ガンダムパイロットとヒルデは完全に隣の部屋に退避している。
 死神なら俺だろうと見当違いのツッコミを考えている者一名、無視を決め込んでいる者二名、
 グラハム(まだカタギリのところへ出張中)がいなくて良かったと思っている者一名、
 青龍刀を研ぎ始めた者一名、そしてフライパンを投げるタイミングを窺っている者一名。

 

「これのどこがおもしろいんだ、夢中になれるんだ! 理解不能なんだよぉおお!」
「スペシャルさんは生き方自体が理解不能なんですぅうう!」

 

 プリベンターは平和である。
 こんなことで口喧嘩出来るんだから。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの我は願う悪魔の槍に大神の罰それすなわち心の旅(グレート・トリップ)は続く―――

 

 

【あとがき】
 今日は珍しく暇があったのでコンバンハ。
 ミレイナ、こんな娘にしちゃいましてごめんなサヨウナラ。

 
 

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