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00-W_土曜日氏_77

Last-modified: 2009-03-11 (水) 19:00:11
 

「と、言うわけでだ」
「うむ、赤味噌とんこつはやはり美味い。美味いと言った」
「ラーメンつけ麺俺イケメン、って一度本気で言ってみたかったなー」

 

 プリベンターは今日も暇だった。
 昨日も一昨日も暇だった。
 一週間前も暇だった。
 二週間前も暇だった。
 三週間前も暇だった。
 四週間前も暇だった。
 五週間前も暇だった。
 六週間前も暇だった。

 

 なに、仕事がないのを嘆くことはない。
 プリベンターの暇は世界の平和の証明だから。
 しかし昨今、巷に蔓延する英雄を軽んじる風潮は実に遺憾であります。
 ユニオンのトップガンと人革のエース軍人が紆余曲折ありつつも出ずっぱりなのに、AEUのスペシャル様が未だ出番無しとは、これは完全に国籍による差別、人格による差別であります。
 アニメにおいてもこのような横暴な排斥主義は到底認められるものではありません。
 総理、貴方はどうお考えなのか、いいですか、スペシャル様が出ないと、ガンダムが攻めてきますぞ。
 あのお面は自分のことばかりだし、熊と桃子と小熊は親子劇場をやっているし、挙げ句フ○スクを食べて感情のままに突撃するパイロットまでいる始末、さらには年上を敬わない、上官に皮肉は言う、非人道的な殲滅作戦は行う、このような軍人ばかりです。
 この愚劣なる行いの数々を我々は国民の代表として無視出来ません。
 聞いていますか総理、この期に及んで言い逃れはいけませんぞ。
 このまま事態が進めばですな、ガンダムの介入行動、そしてアロウズの専横は深刻化の一途を辿るでしょう。
 それを食いとめるためにも、一刻も早いテロ特別対策スペシャル出番法の制定を望むところであります。
 総理、居眠りしないで聞いていますか、総理、変わる時、変わるべき時が来ているのです、暗い展開はそろそろ誰もがうんざりしているのです。
 国民の総意、それを汲み上げないで何の政治家ですか、総理、総理、総理―――
 はい、もうやめますごめんなさい。

 
 

 二つのまなこを閉じてはならぬ
 ガンダムものとも思われぬ
 二期の出来事見るがいい
 監督の企みか脚本家の悪さか
 視聴者が忘れたかコーラサワー
 その顔見捨てておかりょうか
 一分出てきて一供養
 二分出てきて二供養
 合点承知のはよ出てこよう

 
 

   ◆   ◆   ◆

 

「……と、言うわけで俺たちはラーメン屋の『えむすわっ堂』に来ているわけだが」
「誰に説明しているんだ、自称スペシャル」
「いや、もうそろそろこの出だしもキツくなってきた感じがしてんだ」

 

 パトリック・コーラサワー、グラハム・エーカー、ジョシュア・エドワーズはとあるラーメン屋に来ていた。
 仕事をサボっているわけではない、ちゃんと定時で退出してきた後のことである。
 つうかここ最近、まともに出動したことがないのだが、ほれ、何べんも言うようだが、それこそが世界が無事平穏であることの明石焼きなのよ。

 

「しかし、本当にうめーな、このラーメン」
「つけ麺もイケるぞ」

 

 コーラサワーは醤油ラーメン、そしてジョシュアは鶏がらベースのつけだれのつけ麺を食べている。
 出されてまだ一分程しか経っていないのだが、すでに器の中の麺がそれぞれ半分程になっていることから、美味いという台詞が決してお世辞などではないことがよくわかる。
 で、このラーメン屋『えむすわっ堂』の店主が誰かと言えば。

 
 

「敢えて繰り返し言うが、この赤味噌とんこつはまさに絶品だな、ダリル・ダッジ」

 
 

 浅黒い肌、赤みがかったドレッド風の髪型、そしてスポーツ選手のようなゴツイ体。
 そう、かつてグラハム・エーカーの部下であったダリル・ダッジその人だった。

 

「隊長に褒められて光栄です」
「うむ、これは褒めて当然の味だ」
「ありがとうございます」

 

 縦の身長も横の体幅も、ダリルの方がグラハムより大きいのだが、不思議と見かけ程の差を感じない。
 ダリルが常にグラハムに対して尊敬の念を持って丁寧に応対しており、そしてグラハムが元上司としての威厳を保ち続けているが故であろう。
 暑っ苦しい連帯ではあるが、これはコーラサワーには決して作り出すことの出来ない雰囲気でもある。
 コーラさんが紡ぐことが出来るのは女性限定の桃色な絆です、敢えて言っとくと。

 

「しかし驚いたぞ、急にラーメン屋を開くと連絡してくるのだからな」
「隊長には黙ったままで申し訳ありませんでした」

 

 現在、店の中にコーラサワーたち以外に客はいない。
 それもそのはずで、まだこの『えむすわっ堂』は正式にオープンしていないのだ。
 数日後に開店する予定で、今日は三人はオープン前の特別招待客というわけだった。
 まあ、実際には呼ばれたのはグラハムだけで、コーラサワーとアラスカ野は半ば無理矢理くっついてきた次第なのだが。

 

「思えば、MSWADの時代からダリルは料理に興味を持っていたな」

 

 ダリルは190センチを超す長身であり、容貌は巌のようにいかめしい。
 そしてパイロットとしては猛牛と呼ぶに相応しく、闘志を全面に出す戦いぶりで、グラハムも高い評価を与えていた。
 その一方、読書とビリヤードを趣味とする一面もあり、グラハムに対して時に慎重論を唱えるという冷静な頭脳も持っていた。
 さらに家事が万能という特技のおまけつき。
 実に一粒で二度おいしい男なのだ、このダリル・ダッジは。

 

「いつだったか、基地の慰労会で振るまってくれたマッシュポテトは実に素晴らしい味だったぞ」
「あれをご所望でしたら、またオープン後にぜひ寄って下さい。今日は残念ながら用意していませんが、サイドメニューとして出す予定ですから」
「何と、それは僥倖」
「ラーメンにマッシュポテトもどうかとは思ったんですが、やはりどうしても外せませんでした」
「その判断に感謝する、ダリル」
「いえ、そんな。こちらとしては、長く連絡を怠ったその罰を頭から被りたいところです。ですが……」
「言うな、ダリル」
「はっ」
「わかっている、男としての誇りだろう」
「隊長……」
「軍を辞めたとは聞いていたが、敢えて私はお前に連絡を取らなかった」
「……」
「プリベンターに誘うということを考えなかったわけではない。だがしなかった。何故なら、お前の想いを理解したからだ」
「た、隊長……」
「新たな道を見つけ、そしてそこで一人前になるまではと自らに縛りをかけていたのだな、ダリル」
「……はい」
「それでこそフラッグファイターだ、真の勇気ある者だ。私はお前のような部下を持てたことを、心のそこから嬉しいと思う」
「う、ううっ、隊長……」
「ラーメン屋にしたのも、敷居の高い高級な店よりも、庶民に親しまれる味を目指したからだな? 実にダリルらしい」

 

 熱い。
 何ともまあ、このスレにそぐわない展開であることよ。
 だが、やはりオーバーフラッグスはこのノリだよなあ、女は要らない男の世界、汗臭い熱血野郎どもの巣。
 昔懐かしのスポ根系と言うか、言葉ではなく魂で語れと言うか。
 男なら男なら男ならこそ死ぬ気でかけた、ユニオンひとすじフラッグ戦士、度胸一発ぶっかませ、男ならやってみな、フラッグガッツでやってみな、なアスト○球団と言うか。
 黒いボディを空に馳せ、熱気吹き出しやってくる、食いしばる歯に吐血が散って、生まれた技は必殺だ、うなるうなる突撃うなる、当たる当たるグラハムスペシャル、な炎の○校生と言うか。
 まあだいたいそんな感じなギャグマンガ日和かもしれない。
 うむ、何書いてるか自分でもわからんようになってきたぞ。

 

「泣くなダリル・ダッジ。男は軽々しく涙を見せないものだ」
「……はい、申し訳ありません隊長」

 

 さて、ここまでほとんどダリルはグラハム相手にしか喋っていない。
 アラスカ野ことジョシュアもかつての同僚であるし、コーラサワーとだって一応軍時代に面識がある。
 まあちゃんと二人にもラーメンとつけ麺を出しているのだからあからさまに嫌っているわけではないらしいが、やはり今回の主賓はオーバーフラッグスの元隊長であるグラハム・エーカーであり、コーラサワーとジョシュアはそのおまけという扱いなのだろう。

 

「かーっ、やはりラーメンはつゆまで残さずに飲まないとな!」
「つけだれにはスープ割りより敢えてご飯割りで! 背中を狙い撃つ美味さ!」

 

 ま、二人は食うことに集中しているので全然問題ないが。
 普段なら「無視すんなやコラー」と文句の一つや二つをつけていたに違いない。
 やあ、ダリルを食いもの屋設定にして良かった良かった。
 うん、多分。

 

「おし、今度は担担麺をくれー」
「ならばこちらは塩とんこつを一人前」
「次はプリベンター全員で来させてもらう。グラハム・エーカーの名に懸けて誓おう」

 

 何はともあれ、新たに行きつけの店をひとつ開拓し、今日も平和なコーラサワーたちなのであった。
 ああ、ラーメン食いたいな、と。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のラーメン道は続く―――

 

 

【あとがき】
 ダリルの家事万能は勝手につけた設定ですコンバンハ。
 ちょっと土日は知人のケコーン式に出るため遠出せねばならないので早めに投下しますサヨウナラ。
 ダリルのラーメン屋、やり過ぎ感はあるけどまぁここまで好き勝手やってきたから、ほれ毒を食らわばサラマンダーということで。

 
 

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