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00-W_土曜日氏_80

Last-modified: 2009-03-15 (日) 17:16:49
 

 アザディスタン。
 中東に位置し、成立自体はここ百年足らずの新興国家である。
 お隣のクルジス共和国と泥沼の紛争の結果、これを併合し王制としたものの、そういったところ特有の人種問題、宗教問題、エネルギー問題を抱え込み、ひとつ間違えりゃ世界の警察を自認するあの某大国が喜々として介入してきかねないお国である(まぁ石油はほとんど残ってないが)。
 いや、あった、というのが正しいであろう。
 現在、アザディスタン『王国』というものは存在しない。
 OZによって枯渇寸前の化石燃料を絞り尽くされ、国土の重要地点のいたる所を軍事施設用に召し上げられた結果、内紛もクソもなく政治経済は破綻、保守派も革新派もまとめて収容施設に放りこまれてしまい、さらにはOZ崩壊後に世界統一政府によって完全に国家そのものが解体され、今では『アザディスタン特殊自治区』になっているからだ。
 さて、アザディスタンと聞けば思い出す、まぶたの裏のあのハラペコお姫様。
 誰かと言えば、そう、アザディスタンの元第一皇女、マリナ・イスマイールさんである。
 王制が廃止された今、彼女はまったくのパンピー扱いであるのだが、さてそこはやっぱり王族、あっさり自治区の代表者に納まって、そこから八面六臂の大活躍という次第。
 OZ崩壊前に密かに金銭支援を申し込んでおいたウィナー家(ご存じカトルの実家である)から援助を受けると、それを元手に事業を展開、あらぁまさかあのお姫様にこんな博才、じゃない商才があるなんてーと大儲け、
自治区は潤う自分もガッポガッポで、何時の間にやら貧乏姫と呼ばれていたのは過去の話略してカコバナー、ってな状態なのである。
 まぁこの辺りのお話は、水曜日氏の39.55話を読んでいただければ。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「だだっ広いところだな、砂しかない」
「そりゃ砂漠だからな。つうかお前、何があると思ってたんだ」
「ピラミッドとか」
「そりゃエジプトだ」

 

 相も変わらずボケとツッコミを交わすパトリック・コーラサワーとデュオ・マックスウェルの二人。
 ちなみにエジプト以外にもピラミッドはある。
 中南米、メソアメリカ文明のそれだが、何でもヨーロッパにもピラミッドはあったとかで調査中だそうな。
 やあ、ウィ○ペディアって便利でいいなあ。

 

「砂漠ってヤなんだよ、色々と思い出すからな」
「タクラマカンの件か」

 

 かつてコーラサワーはタクラマカン砂漠で行方不明になったことがある。
 アニメでも、こっちの話でも。
 まぁどちらもピンピンで帰ってきたわけだが。

 

「さっさと片付けようぜ、情報は揃ってんだろ?」
「簡単に言うなよ」
「何でだよ、巣穴を一気に襲っちまえばいーだけの話じゃねーか」
「……お前、本当に軍人だったのか」

 

 コーラとデュオの二人のすぐ側には、砂混じりの風を受けて、
 MS(ミカンスーツ)のネーブルバレンシアがずしんと立っている。
 従来のMS(これはモビルスーツ)に比べてやや小ぶりであり、パワー自体も半分程であるが、それでもガンダムパイロットたちの技量を考えると十分に過ぎる戦力であると言える。
 なお、コーラサワーのネーブルバレンシアは新橋色、ブシドーことグラハム・エーカーのものはに塗られている。
 これはまあ、こだわりというやつであろうか。

 

「で、ちんちくりんや坊ちゃんたちはどうしたんだ」
「あのお姫様の歓待を受けてる。あっちテントで」
「おいおい、アザディスタンならゲルっつーかユルトだろ」
「……アザディスタンって遊牧系だったっけかな、つうか普通のテントだよ」
「お前は行かないのかよ、みつあみおさげ」
「逃げてきたんだよ。つーかお前はどうなんだ」
「俺、あの姫さん苦手なんだよ……」

 

 コーラサワーとデュオは顔を見合わせた。
 口を開けばボケとツッコミばかりやりあっている二人だが、『あのお姫様』に関しては、ともに同じ気持ちにならざるを得ない。

 

「はぁー」
「ふぅ……」

 

 そして等しいタイミングで、大きく溜め息をつくのだった。
 どうしたもんかな、と。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 テントの中、そこには高そうな絨毯が敷かれ、さらにその上にはこれまた高そうな刺繍の入ったクロスがあり、そいでその上には銀の食器に乗せられた数々のおいしそうな料理が山程引田○功いやてんこ盛り。

 

「……おい、カトル」
「なんですか、ヒイロ」
「デュオは逃げたぞ」
「僕もちょっと逃げたいですよ……」
「あら、どうかされました?」
「い、いえ、何でもありません、マリナさん」

 

 元アザディスタン第一皇女、マリナ・イスマイール。
 貧乏姫から一転、プチセレブへの階段を上った彼女は、実は。

 

「さあ、カトル様もガンダムパイロットの皆様も、たくさん食べて下さい」
「は、はぁ……」
「ああ、また皆さんに会えて私、心の底からゾクゾクしてしまいます」

 

 やや、いや結構ショタコン気味なのであった。

 
 

 十代の若い頃から混乱の絶えない国をまとめるために尽力し、国家運営の資金を調達するために昨日は西に今日は東、という生活を送ってきたマリナ嬢。
 そんな彼女に人並みに恋愛する時間もなく、心の内を語れるのはおつきのシーリンくらいしかいないという有様で、少年しか愛せないようになってしまったとしても、まぁそれはそれでしょうがない……こともないか。
 正味の話、ガンダム史上でもここまで主人公に対する立場が曖昧なヒロインも珍しい。
 恋なのか友情なのか、それとも母親的感情なのか同情なのか、それともクルジスにアザディスタンが行った仕打ちによる罪の意識か。
 刹那と歳が離れ過ぎてるとか言って、放送前にちょっと揉めたのも懐かしい話であることよ。

 

「このアザディスタンに不埒な悪党が潜入しているということ、まったく私は知りませんでした」
「仕方ありませんよマリナさん、相手はその道では有名な人物ですから……抜け目が無いんです」

 

 靴下だったりデパートだったりカツオノエボシだったり、抜け目ばっかりだと思うが、まぁそこはそれ。
 本当にヘドが出る程の極悪人で大悪党だったら、迂闊にこっちの世界でギャグにして活躍させられませんから。

 

「ああっ、お優しいのですねカトル様は!」
「は、はいっ!?」

 

 マリナ、正座のまま数メートルを瞬間移動して、カトルの両手をがっしりと握る。
 ああもう、目がキラキラしちゃってて、何だかちょっとイタい。
 シーリンが側に居れば彼女がブレーキをかけてくれるのだが、残念ながら彼女は今は反省府組織カタロン所属です。
 今頃全力で反省作業をしているクラウスを必死にコントロールしているでしょう。

 

「ご無理だけはしないで下さい、ガンダムパイロットの方々も……。あなた方に何かあったと思うだけで、私は、私は」
「……」

 

 冷や汗かきまくりのカトル(と、ガンダムパイロットたち)。
 しかし、こんな調子では、下手すりゃ作戦実行の時までくっついてきかねない。
 そのことを思うと、暗澹たる思いにとらわれるガンダムパイロットたちなのだった。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「オデコの姉ちゃんズは?」
「現地の警備隊と打ち合わせ中」
「ふーん」

 

 ずずい、とコーラサワーは手にした紙コップのお茶をすすった。
 すっかり冷めてしまっており、美味しくはない。

 

「ところでよお」
「ん?」
「新型って話、どうなったんだよ」

 

 新型というのは、ネーブルバレンシアの改良機のこと。
 先日、天才ポニテ博士ことビリー・カタギリが蜜柑エンジンMk兇諒鷙陲僕茲燭里狼憶に新しいところである。

 

「まだもうちょっと時間がかかるらしい」
「何だよつまんねーな、せっかく実戦で試せる機会だってのに」
「テストする前にいきなり現場に放り込めるかよ」
「戦争末期の宇宙世紀のあの公国だったらやってるぜ」
「無茶言うな、前提条件がまったく違うのに同列に語れるかよ」

 

 ちなみに、グラハム・エーカーはミスター・ブシドー状態となってトレーニング中。
 アラスカ野ことジョシュア・エドワーズを引っ張って(無理矢理)、「よし砂地でジョギングだ! ジョギングだと言った!」と駆け出していってしまった。
 バカにつける薬はない、そもそもつけても治らないからバカ。

 

「あ、それでもあの博士、来るらしいぞここへ」
「へ、本当かみつあみおさげ? 何をしに?」
「さぁ。そして一緒に……」

 

 と、ここでデュオの言葉を遮るように、現地の警備隊の男が一人、二人の側へと寄ってきた。

 

「失礼します、只今、ビリー・カタギリ博士がご到着なさいました!」

 

 敬礼と報告を同時にすると、またくるりと踵を返して去っていく警備兵。
 一見失礼な行為にも見えるが、これは別にコーラとデュオを快く思ってないわけではなく、単純に忙しいからであろう。

 

「おっと、噂をすれば何とか」

 

 コーラサワーとデュオは警備兵の後ろ姿を見送った。
 そして、その向こう側に、三つの火トカゲ、じゃない人影を確認した。
 一人は、長身のポニーテール、白衣姿の男、世紀の天才、ビリー・カタギリ。
 もう一人は、銀髪眩しい、やや目つきの鋭い女性、コーラサワーの天敵、ソーマ・ピーリス。
 そしてもう一人は。

 

「またかよ、あの銀髪娘……。てか、あの横のは誰だ?」
「人類革新重工のセルゲイ・スミルノフ部長の」
「へ? あの熊のおっさんの?」
「の、実の息子さんだとさ」

 

 精悍な顔立ちながら、どこか脇が甘い印象がある青年。
 強いて言えばジョシュアに通じるところがあるようなないような。
 ただ、ジョシュアよりかはよっぽど真面目そうではあるが。

 

「名前はアンドレイ・スミルノフ。親父さんの部下ってことになるらしい」
「へー、人生色々だな」

 

 コーラサワーは彼らしくなく、神妙な口調で呟いた。
 アンドレイの幸薄そうな顔を見つめながら。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「ボスゥ!」
「何だ、どうした?」

 

 アザディスタンの奥、とある廃棄された石油採掘基地。

 

「プリベンターがどうやらやってきたようですぜ、何だか人類革新重工の人間もついてきてるとか」
「ほう、そうか」

 

 ニヤリ、と黒幕の男は髭を揺らして笑った。

 
 

「役者が揃ってきた感じだなぁ、そうこなくっちゃよぉ!」

 
 

 獰猛な獣の顔で。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 またかよぉ! いやあ相変わらずでいいですなコンバンハ。
 スメラギさんと大佐の知力戦も過去が関わってきていいじゃないですか、それと結構二代目ロックオンもいい奴ですなサヨウナラ。

 

 あと、ブシさんとカタギリは「合点承知!」でなかなか楽しめそう、そしてジェジャン合掌……。

 
 

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