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00-W_土曜日氏_83

Last-modified: 2009-03-21 (土) 19:31:39
 

 光あるところに闇あり、闇あるところに光あり。
 善あるところに悪あり、悪あるところに善あり。
 対になるものが存在して、初めてそこに価値が出る。
 まっ平らに均等でブレがないものなど、この世界のどこにもない。

 
 

 さて、プリベンターは謂わば善である。
 世界の平和を裏から守る隠密同心、これがイイモンでなくていったいどうするか。
 で、そんなプリベンターと対になる悪はいったい何かと言えば。

 

「よぉし、お前ら聞きやがれ!」

 

 まぁこっちの世界じゃあ根っからの極悪人なんぞ居ませんが、強いて言うならこのお方が善なるプリベンターの反対側ということになるんでしょうかねえ。
 いらんことしいの大天才、メロドラマ大好き、靴下臭い臭いのこの男が。

 

「いよいよ、俺達の出番が来たって感じだぜ」

 

 アリー・アル・サーシェス。
 現在、アニメ本編で一番光り輝いている悪人キャラである。
 ただし、こっちでその限りじゃないのは、賢明なる諸兄のご存知のところかと思う。
 べんべん。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 悪役は必要である。
 むしろ、悪役がどれだけ魅力的かで、作品の質が決まると言ってもいい。
 読者に憎まれ、嫌われ、それでも目が離せない悪役をいかにして作り出すか、そこにエンターテインメントの真髄があるのだ。
 悪役が主役を喰ってしまうインパクトの作品も数多くある。
 しまいには、それを最初から目的として作られた物語もある。
 その一方で、主役に魅力を徹底的に集め、悪役をザコにしてしまうというお話も多い。
 チート、という言葉は最近ネットを中心に使われるようになったが、まさにそのチート性能で敵をバッタバッタとなぎ倒していくことで、読む者見る者をスカッとさせようという狙いだ。
 ファーストは前者であるが、SEEDや00の初期などはやや後者の成分が入っているかもしれない。
 どちらがより喜ばれるかは、時の世相や視聴者の精神レベルにもよるので一概には決められないが、ひとつ、脱線覚悟である事例を以下にあげてみよう。
 あ、常○富士男の声をイメージしてもらえれば幸いである。

 

 

 むかーしむかし、とある小学校で、全校の出し物会があった時、劇をしようと決めたクラスがあったそうな。
 そしてそのクラスの先生はゆとりしゅ……げふんげふん、生徒の自主性を尊重する心優しい教師であった。
 上からの立場で生徒に劇の内容を押し付けるのではなく、生徒たち自らに劇のシナリオを作ってもらおう、と先生は思い、ホームルームでその旨を生徒達に伝え、宿題という形で一週間後までにそれぞれにシナリオを書いてきてもらうことにしたんじゃ。
 もちろん、小学生であるから細かいところまでは考えが行き届かんのは承知の上。
 じゃが、それでも生徒たちの自由な発想というものを信じておったわけじゃな。
 で、じゃ。
 一週間後に生徒達から提出されたシナリオを読んで、先生はおったまげた。
 何人かは独創性の強いお話を書いてきおったのじゃが、クラスの大半が、ほれ、いってみれば週刊少年ジャ○プやサ○デー、マガ○ンのマンガをそのままなぞったようなもんばかりだったのじゃ(チャン○オンが無いのが小学生というところかのう、んん)。
 しかも孫○空やら江戸川コ○ンやらル○ィやら金○一少年やら、堂々と既存のキャラを主人公に据えた猛者までおった始末。
 で、それだけならまだええ。
 内容の方といったら、そりゃあ酷いというシロモノじゃあなかったのじゃ。
 何の起伏もなく、主人公が一方的に敵をぶった押していくものばかり、ピンチもなければ主人公が悩む場面もない。
 ホントーにただひたすら主人公がドカーンでバキーンで犯人はお前だでカメハメハー、てなもんじゃ。
 困った先生、ホームルームで聞いてみた。
 これは本当におもしろいと思って書いたのですか、と。
 すると、皆口を揃えて「○悟空カッケー!」「真実は常にひとつ!」「俺もゴムゴムの実食べてえー」と全肯定。
 先生、生徒にさらに聞いてみた。
 主人公が敵にやられそうになったり、そこから這い上がって勝つとかいうのはないのですか、と。
 すると、皆口を揃えて「そんなのダサイ!」「何で孫悟○が負けなきゃならんの? 先生アホ?」「弱いのキライ」と全否定。
 どんな単純なヒーロー映画でも、一度は主人公が窮地に陥る場面があり、そこからの復活が見せ場となるのになあ……と先生は溜め息をつきつつ頭を抱えた次第。
 後日、その先生が顛末を教頭先生にしたところ、その教頭先生、笑顔でこう言いおったとか。

 

「クラス全員が書いてきてくれたんですね、実に立派な生徒達ですね」

 

 この阿呆めがぁそんなんだから近年の学力低下がじゃなあ、と塩でも撒いてやりたいわけじゃが、さてさて、今の子供たちは「弱い者が敵に押され、そこから力をつけて逆撃する」という所謂王道展開より、「強い者が実力を最初から発揮して敵を押し切る」ことに価値を見出しているという、何ちゅうか、ジェネレーションギャップを感じるお話ということじゃ。
 なお、劇は結局先生が思い切り軌道修正を図って桃太郎に決定。
 しかし、最大限生徒の以降を尊重した結果、誰も犬とかの家来をやりたくないという理由で桃太郎が五人に増え、
 全員で鬼をドツキ回して宝をゲットだぜーというお話になってもうた。
 挙句それが他の生徒達に受け、金賞を見事貰ったそうな。
 ついでに言っとくと、鬼の役、誰がしたとお前さんらは思う?
 家来の犬や雉をやりたくないなら、もちろん敵役の鬼にも誰も立候補が無かったのは想像つくじゃろう。
 ……そうじゃ、先生じゃ。
 先生は生徒達にボコボコにされたのじゃ。
 うちの息子はやりたくないと言っているのに無理に押し付けてきた、許せない! と父母から苦情が来るのを恐れたわけじゃ。
 いやはや、この件を評すなら、次の一言で足りるじゃろうのう。

 
 

「世も末」じゃ、と。

 

 

 ……ええと、何の話だっけ。
 日本の将来は暗いなあ、えーと違うか。
 自由とは責任が伴う者のみが持ち得る権利である。
 てえーとこれも違うか。
 ま、そういうわけである。
 どういうわけかは突っ込まないでいただきたい。
 とにかく悪役は悪役らしく、カッコ良く、そして悪さいっぱいで輝いてこそなのだ。
 そーなのだ。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「さて、と」

 

 アリー・アル・サーシェスは眼下に、かつては希少金属が山積みになっていたであろう倉庫に集った面々を視線で一撫でした。
 どれもこれも、ヒトクセもフタクセもありそうな悪人面ばかりである。
 この連中が腹の奥にどのような考えを持っているかはともかくとして、ここまで集めることが出来たのは、アリーが『PMCトラストのゲイリー・ビアッジ』として裏の世界で名が売れているからに他ならない。
 やはり伊達じゃあないのだ、この男は。

 

「お前らも知ってると思うが、どうやらプリベンターや警備隊の連中がここを嗅ぎつけたらしい」

 

 おおぅ、とどよめく悪人共。
 ただし、恐れや驚きのそれではない。
 来るなら来てみろ、という肉食獣のそれだ。
 ここに居るのは、誰も彼もが「戦争が大好き」「戦うことを糧としている」連中ばかり。
 世界に平和が訪れた今、飢えまくっているのだ、命の奪い合いに。

 

「向こうだってバカじゃねぇってこったが、それにしてもよう」

 

 カン、カンと靴音を立てて、アリーは二階から降りてきた。
 獰猛そうなこの面子の中で、彼が一番猛々しい雰囲気を放っている。

 

「俺の気のせいかねえ? 昨日辺りから、俺の知らねえ顔が数人混じってるようなんだけどなぁ、んん?」

 

 一気に部屋の空気が帯電した。
 いや、もちろん現実にそうなったわけではない。
 アリーの一睨みによって、場の「匂い」がガラリと入れ替わったのだ。

 

「ふ、ふふふふっ、へへへへへへ、プリベンターかそれとも国際警備隊のスパイさん、ってやつだな?」

 

 ゴソリ、とアリーはポケットからあるモノを取り出した。
 それは。

 

「あ、あれは……!」
「靴下だ!」

 

 今度は本当に悪人共がどよめいた。
 アリー・アル・サーシェスと靴下、この二つが示すものは唯一つだけだ。

 

「名乗り出てくりゃあ、命だけは助けてやる。そうでなきゃあ……」

 

 と、最後まで彼が言葉を紡ぐ前に、一人の大男が唸り声を共に殴りかかってきた。
 ひょい、とそれを軽くバックステップでかわすと、アリーは口の端をくいっと釣り上げて笑った。

 

「不意打ちとはいいねえ! ここで泣きだされたり腰を抜かされたりしちゃあ、チョウザメってもんだあ!」

 

 そりゃ興冷めだ、と突っ込む人間はここにはいない、残念ながら。
 いや、皆わかってるんだけど、空気を読んでるので。
 悪人だけど偉いねえ、皆。

 

「ほれ! あと何人かいるんだろ? どうせ逃げられねえなら、俺の首をここで狙いに来いよ!」

 

 さすがにこの男、危ない橋を何度も渡ってきただけあって、ハッタリの効果をよくわかっている。
 逃げられないことはないのだ、何しろアリーは「スパイが誰か」ということをちゃんと言っていない。
 名前も顔もハッキリしない上、人も多い。
 ここに「ビアッジの知り合い」を装って侵入出来る程のスパイなら、逆に逃亡することだって出来るはず。
 しかし、アリーは場の空気を操作することによって、スパイの「精神的退路」を断ち、それにより現実の逃げ道も切ろうとしたというわけだ。

 

「おいお前ら、知らねえ奴がいたら構わねえ、俺の前に突き出せ! 俺がスパイかどうか……判断してやんよ!」

 

 再び放たれた大男のパンチを、懐にさっと飛び込むことによってアリーはかわすと、流れるような動作でそのまま手にした靴下を大男の顔面に突きつけた。

 

「ぐ……えっ」

 

 ぐらり、と大男はその巨体をよろめかせると、ずしんと派手な音を立てて冷たい床へと沈んだ。

 

「たわいねえなあ! ほぅれ、そこの非常口の側にいる、バンダナの男! お前もスパイだろ?」
「ち、違う! さ、サーシェス! 俺は、俺は、おま、お前と一緒に戦ったことのあ……」
「あーそうかそうか、ヴォルガ川の鮭略奪作戦で肩を並べて戦ったっけなあ。じゃあ、てめぇかー!」
「う、うああああああああ!」

 

 相手の恐怖心を突く。
 アリー・アル・サーシェス、やはり彼は悪役である。
 例えカツオノエボシでデパート強盗で最後はヘナチョコであっても、プリベンターの敵として実に相応しい。

 

「くそっ、かくなる上は!」
「アリー・アル・サーシェス! この極悪人が!」
「お前だけでも倒して、後は後続にっ!」

 

 三人の男、いずれも鍛えられている肉体を持った剽悍そうな男たちが、アリーの前に進み出た。
 さっきの大男が破壊力のあるメイスなら、この三人は研ぎ澄まされたナイフとでも言えばいいだろうか。

 

「いいねえいいねえ! さぁて、三人まとめてかかってこいやぁ!」
「言われるまでもない!」
「とうっ!」
「とりゃあ!」

 

 同時に三人は跳びかかった。
 その素早さは、何かしら格闘技を学んだ者のそれであり、場数を踏んだ傭兵と言えども、軽々とはかわせない程のものだった。
 が、アリーの動きはその上をいった。
 バッ、と両手を広げると、くるりくるりとまるで舞うように三人の攻撃を避け、そしてかわすのと同時に両の手の靴下を顔面に叩きこんでいく。

 

「あ、あれは!」
「伝説の武術……クツ=シタ!

 

 『クツ=シタ』は、極東の都市カスガベーに住む『ヒ・ロシ』と呼ばれる特殊一家大黒柱が使用する戦闘術である。
 家庭内大戦の戦闘データの統計に基き、常に敵の死角に回りその攻撃を回避しつつ、最小の動きで最大の成果を得るという概念に立脚している。
 基本的には悪臭のする靴下を両手に持った、二挺靴下の状態での至近距離〜近距離における格闘戦を想定しているが、その一方で長い間洗濯のしていない衣類(もしくはそれに類似した臭いのもの)による一撃や、場合によっては足の裏による直接的な臭覚攻撃も行う。
 熟練した『第1級アシックサー』であれば、靴下を相手の喉の奥に突っ込むという技撃のみで、ハンマーやケンドースティック、スティールチェアーを装備したレスラー6人を倒してしまう事も可能である。
 クツ=シタの最大の特徴は、マスターすれば飛躍的に戦闘力が上がる事とされている。
 クツ=シタは基礎の動きをマスターするだけで、攻撃力(攻撃の能率)は少なくとも120%上昇(220%)、
 一撃必殺の技量も63%上昇(163%)する。さらに第1級アシクッサーになれば、その戦闘能力は計り知れないものになると言われている。
 クツ=シタ使いは銃撃においては、その一撃がどの方向に向いてるかを一瞬で判断し、その銃弾が通過する軌道上を避けて攻撃を行う。
 刃物も同じ理屈で、一度振り下ろせば慣性が働き、振り下ろしてる途中での刃の軌道修正はほぼ不可能であると考えられるため、限りなく無敵に近い存在である。
 以上、『よくわかる家庭の格闘技・ウェキペヂア編』より抜粋。

 

「ふ、ふっふっ、へっへっへ」

 

 僅か数秒、それだけで、アリーは三人の男を気絶させた。
 何という恐ろしい男か、アリー・アル・サーシェス。
 そして何と恐ろしい技か、クツ=シタ。
 そしてそして何と恐ろしい臭いか、彼の靴下。
 近くにいた男が一人、涙目になっているのは、決してアリーの凄さにビビッただけではないだろう。

 

「よし、こいつらをふんじばっとけ。イザとなりゃ取引に使える」
「お、おっす!」
「ほんじゃ、移動すっぜ! さすがにここはバレちまっただろうからなぁ!」

 

 靴下をポケットの中にしまうと、アリーは歩きだした。
 その背後では、格闘があった場所を中心に、彼の部下がファ○リーズを撒いていた。
 シュッシュッ、と。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「ああもう、何て小役人根性なのかしら……!」

 

 プリベンターの現場リーダー、サリィ・ポォは苛立っていた。
 アリー・アル・サーシェスとその一党の隠れ家を探すための作戦をたて、それをプリベンターのメンバーに指示している最中に、緊急の連絡が入ったのだ、マリナ・イスマイールから。

 

「まったく、これで後手に回っちゃったじゃない!」

 

 作戦本部(と言っても、テント一枚だが)に入ってきたマリナは言った。
 警備隊の皆さんが、内偵によって悪人たちのアジトを発見したみたいです、と。
 自ら言いに来たのは、おそらくガンダムパイロットの近くに来れるという下心なのだろうが、問題はそこではない。
 現地の警備隊とプリベンター、連携を取って行動しなければならないのに、警備隊が独自に(つまり勝手に)先行し、そしてアジトを発見していたことをプリベンターに教えていなかったのだ。
 何のことはない、つまりは功名心、手柄をプリベンターと分かちたくなかったというわけだ。

 

「後でレディ・アンの名義で正式に抗議文を送りつけてやるわ」
「それで、どうします?」
「決まってるだろカトル、速攻で叩きに行くんだよ!」
「よし、じゃあまずあの三人に突撃させよう」
「そして自爆スイッチか」
「派手にやれ、花火のようにな」

 

 ああ、結構ガンダムパイロットたちも情報を隠されていたことにご立腹の様子。
 冗談にも普段の三倍増しくらいに真剣味が混じっている。
 それもう冗談じゃなくて本気なんじゃ、というツッコミはなし。
 なしったらなし。

 

「イヤッホー! まかせとけ! 悪人連中を木端微塵にしてやっからよ!」
「否、そういう場合は粉骨砕身という言葉を使うのだ」
「隊長、一網打尽です……」

 

 で、コーラサワーとグラハムブシドー、アラスカ野は毎度の通りなのであった。
 ううむ、緊張感なし。
 で、出番も。

 
 

「さあそれじゃとっとと行こうぜ! ほれ、ほれほれ! ヤッホウ!」

 
 

 まったくなしでこれだけなのであった。

 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 おやあコーラさん、ナンダカンダフジイタカシで活躍してるなあコンバンハ。
 まあ今回は刹那や他のキャラもルイスと沙慈の二人に完全にもってかれてましたけどな、少ないシーンでも頑張ってるコーラさんに拍手サヨウナラ。

 
 

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