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00-W_模倣の人氏_02

Last-modified: 2008-11-15 (土) 17:38:21
 

「随分とご無沙汰しておりましたわねヒイロ。ご機嫌いかが?」
「……ああ、悪くない」

 

 久方ぶりに休暇をもらったヒイロは、しかしこれといって有意義に休みを満喫できるほどの趣味も持たず、かといってだらだら過ごすのも性に合わないため、結局彼は仕事に励むことで時間を潰すことにした。
 仕事といってもプリベンターとしてではなく、個人の護衛として。
 ヒイロが誰を護衛するのかといったら、当然一人しかいないだろう。

 

 リリーナ=ドーリアン。
 かつてはサンクキングダムの元首として名を馳せたこともある彼女は、現在は外務次官として多忙な日々を過ごしている。
 今日は一日リリーナの身辺警備として行く先々に同行し、ようやく休息の時間が取れた二人はしばしのティータイムを楽しんでいた。

 

「今日は来てくださってありがとう。プリベンターのお仕事だって大変なのでしょう? わざわざ時間を割いてもらって、なんだか悪いわ」
「気にする必要はない。俺の行動はすべて俺の意思で決めている。この場にいるのも誰かに言われたからじゃない」
「ヒイロ……」

 

 うっすらと目元を紅く染めて、リリーナがわずかに俯く。
 ところが鈍感なヒイロは、彼女の顔が紅くなった理由を体調不良と勘違いしたらしい。

 

「大丈夫かリリーナ、疲れが溜まっているんじゃないのか。きちんと食事は取っているのか」
「え? ええ、とりあえずは。忙しいときはちょっと疎かになってしまうけれど」
「それでは駄目だ。多忙であるならば余計に健康管理には気を使うべきだろう。どんな任務も丈夫な身体が資本なんだからな」

 

 といって、持参していた紙袋から何やら取り出した。

 

「ヒイロ、これはいったいなんですの?」
「差し入れだ。遠慮なく食べてくれ」

 

 ヒイロが並べた、大量の食料品の数々。それらは見事なまでにみかん尽くしだった。
 みかんゼリー、みかんムース、みかんクッキーといった菓子から果てはみかん寿司といった変り種まで取り揃えている。
 ちなみにみかん寿司というのは、米をみかんジュースで炊いたすし飯に、具にまでみかんをふんだんに使用したちらし寿司のことだ。愛媛県人なら知っているかもしれない。
 これを甘酸っぱくて美味と感じるか、温まったみかんはゲ○の味に等しいと感じるかは人によって大きく分かれるところである。

 

「……見事にみかんばかりですのね。どうしたのこんなにたくさん」
「俺が作った」
「……そ、そう。凄いわヒイロ。でもどうして?」
「みかんが大量に手に入ったからだ」

 

 酷く簡潔な説明に、リリーナはどう反応すべきか迷った。

 

「ありがとうヒイロ。でも、お心遣いは嬉しいのだけれど、こんなには食べられないわ」
「抜かりはない。保存が利くよう全て真空パック済みだ」

 

 問題はそこではないのだけれど、とツッコミを入れたくはあったが、どこか自慢気に語るヒイロの姿が可愛く思えて、敢えて言葉は飲み込んだ。

 

「ふふふ、面白い人」
「面白い……俺が?」
「そうよ、貴方よ。本当に面白いわ」

 

 人の顔を見て急に笑い出すリリーナを前に、ヒイロはなんだか居心地が悪かった。
 ただ、悪気は感じないし、リリーナの笑顔は嫌いではない。
 じっと凝視していたら不意にリリーナが視線を合わせてきたので、慌てて目を逸らした。

 

「そう、今の流れで思い出したわ。先日とても愉快な方にお会いしましたの。聞いて下さる?」

 

 目尻に浮いた涙を指先で拭きながら顔をあげて言う。
 ヒイロが何も言わないのを了承と受け取って、リリーナは口を開いた。
 その内容は、第一声からしてとんでもないものだった。

 

「わたくし、先日、人を轢いてしまいました」

 

 ヒイロは口に含んだ紅茶を噴き出さないようにするので精一杯だった。
 どうやらハンドルを握っていたのはリリーナ自身ではなく雇った運転手だったらしいのだが、その車が突然飛び出してきた青年を跳ね飛ばしてしまったらしい。

 

「まさか車道を横切られるなんて思ってもみなかったから、ブレーキが間に合わなかったんです。 結構スピードが出ていたから、その方、勢い良く飛んで行ってしまいましたわ」

 

 本来ならば警察沙汰になるような事件である。
 ところが、当の跳ね飛ばされた青年は、着衣はズタボロになりながらもなんと無傷で自分を跳ねた車まで走って戻ってきたという。
 話を聞きながらヒイロの胸には、何か嫌な予感が湧いてきていた。

 

「当然の事ですけど、始めはとても怒っていらしたわ。でも、その方は謝罪の為に車を下りたわたくしに、非常に優しい態度で接して下さったの」

 

 ヒイロの脳裏で二つの警鐘が鳴る。
 続きを聞いてはいけないという忠告と、聞かねばならないという命令が。

 

「それで、どうなったんだ」
「わたくしとしてはきちんとした謝罪と然るべき償いをしたいと思っていたのですが、相手の方は笑って、条件次第で許して下さると仰って」

 

 酷く嫌な汗が手のひらを滑り、心臓が早鐘を打つ。
 何故そんな状態に陥っているのか自分でもわからぬまま、ヒイロはその先を訊ねた。
 或いは訊くべきではなかったかもしれない、その先を。

 

「条件とは、どんな」
キスをさせてくれたら許す、と」

 

 途端、ヒイロの手の中でティーカップが砕け散った。
 否、この表現は正しくない。ヒイロが己の握力でもって粉砕したのだ。

 

「ヒイロ、なんてこと!」

 

 リリーナが慌ててヒイロの手を開かせる。幸い怪我はなかったようで、ほっと溜息をつく。
 ヒイロはそんなことには一切構わず彼女へ訊ねかけた。

 

「その男は、肩の下まで伸ばした赤い髪の、いやに陽気な釣り目の男ではなかったか」
「え、ええ、そうですけど。もしかしてヒイロのお知り合い?」
「知り合いでなどあるものか!」

 

 珍しく憤慨するヒイロの様子に、リリーナは目を丸くした。
 はっと我に返った彼は、身体を戦慄かせながら更に問う。

 

「それで、したのか」
「え?」
「だから! ……キスを、だ」
「ええ。して頂きましたわ」

 

 ヒイロは急激に力を失ってソファに崩折れた。
 しかしすぐさま跳ね起き、リリーナの肩を掴んで畳みかけるように言う。

 

「いいかリリーナ、その男のことは忘れろ。 お前が見たのは悪い夢だった。いいな、忘れるんだ。……俺は、今日はもう失礼させてもらう」
「あっ、ヒイロ? ヒイロ!」

 

 一方的に忠告を告げるや、リリーナが止めるのも聞かずにさっさと退出してしまった。
 取り残されたリリーナは、しばらく呆然とヒイロが去っていった扉を眺めていたが、次第に腹立たしさがこみ上げて、扉に思い切り蹴りを入れた。

 

「もう、ヒイロの馬鹿!」

 

 蹴ったはいいが爪先がとても痛くなり、目に涙を浮かべて蹲る。
 せっかく久々に会えたというのに。彼女は胸中で思いつく限りの罵倒の言葉を並べ立てながら、
 一方で件の青年にキスされたときのことを思い返していた。

 

(手の甲にキスをしてもらうことの何がいけなかったのかしら、ヒイロったら。もしあの方ではなくヒイロだったら、さぞ素敵だったでしょうね。まるで姫君に忠誠を誓う騎士のようで……)

 

 ヒイロに跪かれて手を取られる自分。
 そんな光景を妄想しているうちに、いつしか怒りも忘れ彼女は一人舞い上がった。
 恋する少女は、いつだってロマンチストな生き物なのだから。

 

          *          *          *

 

 時を移して、プリベンター本部。

 

「お、落ち着けよヒイロ! 俺が何をしたってんだ!?」
「黙れ、口を開くな。貴様は許されざる罪を犯した。その罪は万死に値する」
「だからーっ! 何だってんだよ、いいからソレを下ろしてくれよぉ!」

 

 どこぞのアーデ氏のような台詞をのたまうヒイロの手に握られているのは、少年の身体には不釣り合いのガトリング・ガン。
 本来はMS(モビルスーツ)に取り付ける為の装備を両腕に抱え、しきりに逃げ回るコーラサワーへと狙いを定めていた。

 

「いいんですか?止めなくて」
「もう知らないわ、あんな人たち。気の済むまでやらせておきなさい」

 

 長机の下に避難したカトルの問いに、サリィは溜息混じりに言葉を返す。
 朱に交われば朱くなるというが、事実コーラサワーが来てからというもの、かつて勇猛果敢に戦ったガンダムパイロット達さえもバカに染まってしまった気がしてならない。

 

「大丈夫なのかしらね、この組織」

 

 この先の苦労を思うと、涙を禁じ得ないサリィ=ポォなのであった。

 

 

【あとがき】
 というわけで二度目まして皆様ご機嫌麗しゅう。今回はヒイロさん主人公です。
 実は前回投下した際は、初めてということもあって、浮いちゃいかんなーと思い、敢えて土曜日さんの文体を模倣させて頂いてました。土曜日さんには大変申し訳ないことをしまして。
 反省はしているが後悔はしていない。けど、実は比べると一目瞭然ですが土曜日さんの方が派手でこっちは地味な文章です。いえーい。
 今回は自分の文体に戻しつつ。コーラさん主軸の話はほかの職人さんが書いてくれてるのでこちらは外堀を埋めてく感じで。
 また今度投下することがあるとしたら、そのときはそれなりのコテハンをつけるかも。

 

 ところで、どうして今日はいろんな職人さんが揃って投下してくるん?
 緊張しちゃってこっちが投下しづらいじゃないか!

 
 

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