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00-W_模倣の人氏_03

Last-modified: 2008-11-18 (火) 20:37:11
 

 今回はプリベンターから離れて、違う人物を追ってみることにする。
 本日カメラを向けるのはこの男、アリー=アル=サーシェス。
 先日、デパートの占拠に失敗し、ほうほうの体で逃げ帰った彼に注目してみよう。

 

 部下を置き去りにしてどうにかアジトへと辿り着いたものの、一つ所に留まっていてはすぐに足がついてしまうであろうことは容易に想像がついた。
 そのため、このアジトを早急に引き払って別の拠点に移動する必要があったのだが、ここで大きな問題にぶち当たった。
 逃走経路を辿られないようにするには痕跡を一切残さないのが鉄則であるが、ところがぎっちょん、アリー一味は彼も部下も揃って清潔さには縁遠い奴らばかりだった。
 何せ靴下も満足に洗えないような連中である。洗濯だの掃除だの整理整頓だのという言葉は彼らの辞書には存在しない。
 即ち、現在抱える問題とは。

 

「どうやって片付けりゃいいんだべなコイツはよぉ……」

 

 恐ろしくとっ散らかったアジトを前に、アリーは一人頭を抱えていた。
 部下という貴重な人員はプリベンターに悉く拘束されたため、人手も絶望的に不足している。
 ほとんどゴミ屋敷といって差し支えないほどがらくたが山積みになったアジトを一人でどうやって綺麗にしろというのか。アリーはなんだか泣きたい気分になったのだった。
 結局一人ではどうしようもないということで、業者の力を借りることにした。
 そうしてやってきたのが《トリニティ運送》の職員、ヨハン、ミハエル、ネーナの三兄妹である。
 トリニティ運送は近頃事業を拡大し、引っ越し事業にも着手したという。
 サービス開始したての現在はより多くの顧客を獲得するため、非常に安価で仕事を請け負っており、その上、実はトリニティ運送社長のラグナ=ハーヴェイとアリーは顔馴染みでもある。
 ラグナは業績を伸ばすためなら手段を選ばぬ男で、決して表沙汰にはできないような汚い方法を用いることもしばしばであり、そんなときにはよくアリーと手を組んでぼろ稼ぎをしていたのだ。
 そうした事情もあって、二人は互いが困った時にはいつでも力を貸す約束を交わしていた。
 今回のように、秘密裏に済ませたい引っ越しの時には非常に融通の利く業者であると言える。

 

「ここね、今回の依頼主がいるところは」

 

 赤い髪の女がスローネ(=4tトラック)を降りてアリー一味のアジトを見上げる。
 彼女と肩を並べるように、別の4トラから二人の男が降りたった。

 

「さっさと終わらせようぜ兄貴。ネーナをこんな辺鄙な地にいつまでも居させるのは可哀想だぜ」
「わかっている。まずは依頼人に挨拶だ」

 

 長兄のヨハンが先頭に立ち、アジトの入り口に向かって歩を進める。
 と、いくらも進まぬうちに依頼人の方が玄関から出てきて三人の元までやってきた。

 

「よお、あんたらがラグナんとこの作業員かい」
「はい。私はトリニティ運送のヨハン=トリニティと申します。こちらは私の弟妹で」
「ミハエルだ」
「ネーナよ」
「本日は我々三人が業務を担当させて頂きます。早速ですが、荷物はどちらに」

 

 ヨハンの丁寧な物腰と対照的に、アリーは酷くぞんざいに背後のアジトを指差した。

 

「あー、あん中にあるモン全部適当に包んで持ってってくれ。ただし、塵一つ残すんじゃねえぞ」
「へいへい。んじゃ、とっとと済ませちまうぜ」

 

 アリーの言葉に頷いて、ミハエルが早く仕事を上がりたい一心で真っ先に建物へ向かった。
 だが、彼は失敗を犯した。
 何事にも慎重を期し、用心を以て臨むべきだったのだ。
 ミハエルは何の警戒もせず、アジトの扉を一気に開け放ち──
 急に白目を剥いてドサリと仰向けに倒れた。

 

「ミハエル……? ミハエル!」

 

 ヨハンが血相を変えて叫ぶ。
 それを見たアリーがニヤリと口角を釣り上げて笑った。

 

「ご臨終だ」
「……いやあああああっ、ミハ兄ぃ!」

 

 ネーナの痛々しいほどの悲鳴が辺り一面に響き渡った。
 ──ここで何があったか説明しよう。
 答えは単純。扉を開けた瞬間に中から漏れ出した異臭が、ミハエルに直撃したのである。
 人の意識を奪い去るほどの悪臭が、内部がどれほど凄惨な状況であるかを物語っていた。
 ちなみにずっと中にいたアリーは何故平気だったかというと、これも単純な理由で、単に慣れきっていただけだった。
 その後、兄妹の献身的な救命活動でミハエルはどうにか生還を果たす。
 具体的に言えば人工呼吸と心臓マッサージを施されたわけだが、ヨハンとネーナがどちらを
 担当したかについては、読者各位の精神衛生上敢えて記さないことにする。
 さて、ミハエルは無事復活したものの、彼らの仕事はまだ終わってはいない。

 

「つーわけで、よろしく頼むわ」
「いぃやあああああ、あたしのスローネに臭いが移っちゃうううぅ!」
「耐えろネーナ、これも我らの務め。どんな苦行であろうと誇りを持って臨まねば」
「いやこれは誇りでどうにかなる問題じゃねーよ兄貴。ラグナの野郎、こんな厄介な仕事押しつけやがって。報酬は絶対に倍以上ふんだくってやる!」

 

 ガスマスクの上から更にヘルメットという重装備で三兄妹は梱包作業に従事し、散々文句は垂れながらもプロとしてのプライドから一切手を抜かず、アジトの中をきっちり空にして、三台のスローネに荷物を載せて一足先にここを発っていった。
 最後に残ったアリーは綺麗になったアジトの床に手足を投げ出し、満足そうに紫煙をくゆらせる。

 

「いやあ、綺麗に片付くモンだなあ。よーし、これでまた気分良く始められるな」

 

 次にまたプリベンターへちょっかいを出すときのことを想像して、彼は楽しげに笑った。
 実際はこの後も新拠点に運んだ荷物を開封する手間が待ち構えているし、今回仕事に当たった兄妹たちからはトラックの荷台に異臭が移ったとして損害賠償と慰謝料を求められ苦しむことになるのだが、それはまた別のお話。
 ともあれ今は、綺麗になったアジトとともに彼も心機一転、清々しい気持ちで労働後の至福の一服を楽しむのだった。

 

 

【あとがき】
 おはようございます皆様ご機嫌麗しゅう。
 なんか模倣の人で認識されたっぽいから名前はこれでいいや。いいの考え付かなかったので。
 トリップもしばらくつける予定なし。いいの考えry
 相変わらず外堀から埋めていくのが好きなようです。脇役って……いいよね。
 それではいずれまた。

 
 

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