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00-W_模倣の人氏_12

Last-modified: 2008-12-15 (月) 20:25:17
 

 太陽系第四惑星・火星。
 テラフォーミング事業が進められるこの星で、ルクレツィア=ノインは懐かしい友人からのメールを受け取った。
 差出人はサリィ=ポォ。一時期プリベンターとして共に行動した仲間だ。

 

「ゼクス、サリィからメールが来ましたよ」

 

 懐かしさに口元を綻ばせながら、ノインは傍らの相棒へと声をかけた。
 ゼクス=マーキスはノインの隣に立って画面を覗きこみながら、小さく唸る。

 

「どうかしましたか?」

 

 彼の様子を不審に思ったノインが問うと、ゼクスは顎に手を当ててこう答えた。

 

「いや……これまで連絡なんてなかったのに急に来るのは不自然だと思ってな。よく言うだろう、便りがないのは元気な証拠と」
「まさか。そんなのは迷信でしょう?」
「わかっている。わかってはいるのだが、しかし」

 

 ゼクスは渋い顔をした。

 

「……嫌な予感がする」
「ま、まあ、とりあえず中身を読んでみましょう。話はそれからです」

 

 軽く咳払いをして、ノインはサリィからのメールをモニタに大きく表示した。
 そこにはこのように書かれていた。

 
 
 ご無沙汰してるわねノイン、元気にしているかしら?
 貴方たちが火星に行ってからどれくらい経ったかしらね。テラフォーミング事業の進捗状況はいかが?
 そちらの人たちとも上手くやっていけているの? 貴方たちのことだから、心配するまでもないんでしょうけど。
 さて、私たちプリベンターは人員も増え、随分と賑やかになりました。
 多くの仲間たちに囲まれて、私は毎日――


                                       ――毎日が地獄です。
 

          *          *          *

 

 プリベンター本部。
 今日も今日とて、メンバーは次の任務までの空いた時間を持て余していた。
 そんな中、グラハム=エーカーが過去の事件データを読みながら嘆息した。
 モニタに映っているのは、ガンダムパイロットたちにも馴染みの深い仮面の男、ゼクス=マーキス。
 ゼクスの写真をじっと凝視して、彼はこんなことを呟いた。

 

「うむ、仮面とは実に良いものだな」
「また何か変なこと言い出しやがったぞ、こいつ」

 

 傍らで聞いていたデュオが肩を竦める。
 実はグラハムのこの発言は、今回が初めてではなかった。
 始まりは先日、王留美(ワン=リューミン)が第三のスポンサーとして名乗りを上げ、この本部へとやってきたときからだった。
 留美の付き人である紅龍(ホンロン)という男は拳法の達人であるらしく、同じく達人である五飛と手合わせをしていたのだが、その際紅龍が顔の上半分を覆う黒い仮面を着用していたのだ。
 それを見たグラハムが一言、

 

「格好よすぎる……」

 

 以来、グラハムは仮面に対して妙な憧れというか、執着心を抱いてしまったのであった。

 

「私も仮面をつけたいなあ」
「やめとけよ、変態度が増すだけだぞ」
「何と悲しいことだ、君には仮面のロマンがわからないのかね?」
「正直わかりたくもねえなあ」
「漫才はそこまでよ貴方たち。出動要請が来たわ」

 

 入室してきたサリィの言葉によって、グラハムとデュオのどうしようもないやり取りは中断された。
 今回持ち込まれたのは人質立てこもり事件である。
 しかも厄介なことに、立てこもり犯は遠隔式爆弾の起爆装置を複数所持していると見られるとのことだった。

 

「今すぐ世界政府を解散させないと要所を爆発させると息巻いているそうよ。まったく馬鹿げてるわ」
「馬鹿げているが、馬鹿な奴ほど平気で過激な行動も取る。油断はできんぞ」

 

 どこぞのコーラサワーのように、という台詞はかろうじて飲み込む。
 五飛の指摘に、周りのメンバーも表情を引き締める。失敗は許されない任務だった。

 

          *          *          *

 

「あれか。犯人は一人……か?」
「協力者がいるかはまだ不明だけど、立てこもっているのは間違いなく一人ね」

 

 五飛が双眼鏡で現場のビルを覗きながら問えば、サリィがそう答える。
 人質は現時点では無傷、だが体力と精神力の消耗具合はここからでは量れない。
 早急に救出する必要があった。
 プリベンターの面々はビルを包囲するように、五つの組に分かれて待機している。
 相手を刺激しないよう様子を窺いながら、隙を見て突入できるような構えだ。
 ただ。

 

「この分け方は失敗だったと思うぞ、俺は」

 

 チーム分けに対し五飛が難色を示した。
 具体的に言えば、サリィ&五飛組、ヒイロ&トロワ組、デュオ&ヒルデ組、カトル&コーラサワー組、
 そしてグラハム&ジョシュア組である。
 いろいろな意味で偏りすぎている気がしないでもない。

 

「そうね、何でこんな組み合わせになっちゃったのかしら……」

 

 サリィは今更ながらに後悔した。
 何事もなければいいが、と心配せずにはいられない。
 だがそんな不安ほど的中率は高かったりするものである。

 

           *          *          *

 

「まだか、まだ動けないのか我々は」
「当たり前だ、迂闊に動いて人質に何かあったらどうする。少しは我慢しろよ隊長」
「私は我慢弱い男だ」
「あーもう、耳にたこが出来るくらい聞きましたよ。その台詞が免罪符になると思うなよ」
「くっ、さっさと立てこもり犯がアクションを起こしてくれれば我々も動きやすくなるというのに」
「あんたプリベンターとしての自覚ありますか?」

 

 先ほどからそわそわ落ち着かないのはグラハム、ツッコミを入れるのがアラスカ野ことジョシュアだ。
 今すぐにでも犯人にダイビングボディプレスをかましたい勢いのグラハムは、無線から未だに指示が来ないことに苛立ちを隠せずにいた。
 ジョシュアはそんなグラハムの様子を横目で見て、一抹の不安を覚える。
 万が一にもグラハムが暴走したとしたら、自分一人で止められるだろうか、と。

 

「正直この人とペア組むの嫌なんだよなあ。せめてもう一人いてくれたらマシだったん……ん?」

 

 不意にジョシュアの視界が翳った。何事かと上を向いた瞬間、得体の知れない何かが顔に貼りつく。

 

「うわあっ、何だ!?」

 

 慌てて顔に貼り付いた何かを毟り取る。非常に柔らかい布の感触。
 どうやらどこかから飛ばされてきたらしい布切れのようだった。干されていたハンカチが飛んできたのだろうか。
 そう思っていたのだが、布切れを広げてみて正体を知る。

 

「うわぉ」

 

 それはレースをあしらった洒落たデザインの、紛れもない女性用パンティーだった。
 頬がだらしなく緩んでしまうのは男として仕方のない反応と言えよう。
 彼も健全な若人なのだから。
 ふと手元に痛いほどの視線を感じた。
 見れば、グラハムがジョシュアの手に握られた下着を穴が開きそうなほど見つめている。
 まあ隊長も男だしなぁ、とジョシュアはぬるいことを考えていたのだが、実際は違った。
 何せ、その男はグラハム=エーカーである。
 一般常識など通用するはずがない。

 

「それをこちらに寄越したまえ!」

 

 と叫ぶや否や、目にも留まらぬ速さで下着を強奪する。

 

「なっ、何をする気だ隊長!?」
「仮面……」
「は?」
「私に被れと、この悪戯な布が私を誘惑している!」
「ちょっ、それはあんたの錯覚ってか、それやっちゃったら人として大事な何かを失くすぞ!」
「私はグラハム=エーカー、この程度で己を失ったりはしない!」
「なにやら格好よさげなこと言ってるけど駄目だから! やめてっ、それだけはっ、いやっああああああああああ!」

 

 ジョシュアの懸命な呼びかけも空しく、グラハムは禁断の果実へと手を伸ばしてしまった。
 直視できずにジョシュアが顔を両手で覆って俯く。

 

「装・着!」

 

 下着を仮面よろしく顔に被る。
 絹の柔らかな肌触りは鼻梁や頬の曲線にも優しくフィットし、心地よい装着感を得られた。

 

「これだ、これこそ私の求めていた……」

 

 グラハムは感慨深げに呟くと、来ていた制服を一気に脱ぎ捨てた。
 制服の下に全身を覆うボディスーツを着込んでいたことに、ジョシュアは心の底から感謝した。
 これで一糸纏わぬ姿にでもなられたら、もはや救いようはなかっただろう。
 顔に下着を被る時点で紛れもなく変質者である事実に変わりはなかったが。
 カッ、とグラハムの目が強烈に光り輝いた。
 思い切り背を反らし、咆哮する。

 
 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 
 

 この瞬間、グラハム=エーカーは覚醒した。

 

(続く)

 

 

【あとがき】
 おはようございます皆様ご機嫌麗しゅう。
 なんか物凄い勢いでグラハムファンを敵に回した気配がギュンギュンします。
 まあ、ネタってことで、変態グラハムなんて受け入れられないという方はスルー推奨です。
 それでは。

 
 

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