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08MS-SEED_28_第01話

Last-modified: 2013-12-22 (日) 21:10:54

 山中の邂逅からしばらくが過ぎたある日の朝。
 ユウナの姿はスカンジナビア支社支社長室にあった。
「既存の物より軽くて強固な未知の合金。
僕らには無かった発想の教育型コンピュータ。
MSのオペレーティング・システム。
そして、理論は完成しながら結局実用化に至らなかった核融合炉と発電システム!
きわめつけ、未発見の粒子を元にした物理学!
いやいや、現代の宝の山だねまったく」
「このMSから得られるデータだけでわが社はあと10年。
いや20年は戦えますな」
 たった1機の大破したMSの調査報告書はそれとは思えないほど膨大な量となった。
 調査は機体の動力とそれにコンピュータが活きていた事でとんとん拍子に進んだがこれはアイナ・サハリンの協力を得られたところが大きい。
 転移以前に兄の下でテストパイロットを行っていた彼女は、一般のMSパイロットの水準をはるかに超えたレベルでの技術的知識を有していたのだ。
 特に核融合炉に関しては、知らずに調べていたなら大惨事に発展していた可能性がある。ユウナ、そして支社の技術陣にとっては僥倖といえよう。
 得られたデータがデータだけに、解析には非常に時間が掛かるというのが技術陣の一致した意見であり、そのために彼らは支社の設備人員では到底要件に足らないとして本社への人員派遣の要請を上申してきていた。
「で、いかがいたしますか、ユウナ様?」
「父に掛け合う間、もう少し抑えててもらえます? それほど長くは待たせませんから」
「了解しました。……何とぞ、お父上によろしくお伝えください」
「分かってますよ。そちらも機密保持には気を付けてください」
 親子以上に歳の離れた彼に頭を下げる支社長へ愛想よく応え、ユウナは部屋を出た。
 廊下を歩きながら思う。今のやり取りの意味を違えてはならないと。
 彼は報告義務を怠ると約束したのだ。いうまでもなく重大な背信行為である。
 半国営企業であるモルゲンレーテでのそれは国家そのものへの背信行為に等しい。
 もちろん、危険を冒すには無論それだけの理由がある。
 彼はどうしても本土へ戻りたいのだ。
 支社長はサハクでもセイランでもない非主流派の人間である。
 やり手であり一時はモルゲンレーテの重役の座をウナトと争ったこともあるのだが、主流から外れていたが故に彼は栄転という形でもって本土から遠ざけられることになった。
 上流階級相手の痛くもない腹の探りあいの経験もあるユウナにとっては分かりやすいことこの上ない。しかし分かりやすい相手だけに期待に応えられないとなれば掌を返すのも早いだろう。そのくらいの予想は容易く付く。
 ならば、掌を返される前に出来るだけ早く手を打たなくてはならない。
 そのくらいはこなしてみせなければ。
 独り、ユウナは思う。
 そのくらい出来なければ、カガリとの釣り合いが取れないというものだ、と。

 ユウナ・ロマ・セイランはアスハ家の姫であり次期当主でもあるカガリ・ユラ・アスハの婚約者、ということになっている。
 これは正しく政略結婚であった。セイラン家は有力五家に次ぐ位置にあり現当主ウナトは確かにやり手だがそれだけでは決して選ばれない。より重要なのは、セイラン家がサハクよりの勢力ということなのだ。
 アスハ家現当主にして代表首長の座にあるウズミは『オーブの獅子』と呼ばれ国内随一の勢力を持っているが、近年有能な後継を得たサハク家の台頭を許している。
 それに比べアスハの後継であるカガリはまだ若年に過ぎ、またその真っ直ぐすぎる気性は個人としては好ましいもののおよそ政治家向きの資質を持っているとは到底いえないのが実情であった。
 このためサハク家の足元を切り崩すと同時にアスハの、というよりはカガリ個人の地盤を固めるため、ウズミが打った手がユウナとカガリの婚約だった。
 現在のところ内々の事とされ、カガリ成人の折に大々的に公表される手筈になっている。特に当事者の一方であるはずのカガリには極秘とされた。元々カガリは社交界嫌いで通っておりドレスを着るよりはラフな格好で市街をうろつく事を好んでいたので労は無かったが、この処置に関しては活発すぎる姫の反発を見越してのこと、と専らの噂である。
 知らぬはカガリばかりなり、であった。
 またこの婚約にはさすがに他の有力五家からも批判が出たがサハク家が動かなかった事やウナトの快諾、何よりウズミの強い意向もあって既に決定事項とされている。
 もはや撤回はウズミ自身にも難しいといえた。
 故に、ユウナにとってあの二人との出会いは千載一遇のチャンス、偶然転がり込んできた掌中の珠にひとしい。
 この珠くらい物に出来なければ、いや自分にはその義務があるとさえ考えていた。
 それは実にこの若者らしくない意地であり、気概であった。
 誰からも後ろ指を指されること無くカガリとの婚約者として立つ。
 オーブにユウナ・ロマ・セイランありと、決して家の事情のみで結ばれるのではないと知らしめる。
 そんなことを考えているとはおくびにも出さず、しかしユウナは静かに燃えていた。そのためにはまずこの報告を父に、自分の最大の後援者に知らせ、協力を取り付けなくてはならないのだが。
「まさか『拾った』なんて信じるわけないし、どうしたもんかなぁ……」
 ユウナはウナトへどう報告したものか悩みつつ、最近日課となりつつある見舞いのために支社を出てタクシーを拾った。
 ユウナ・ロマ・セイラン。
 世界が彼の名を知るのは、そう遠くない未来のことである。

 シロー・アマダがその世界ではじめて覚醒したとき、彼はちょうど救急車に担ぎ込まれ病院に搬送される最中だった。
 覚醒はほんの一瞬だったがわずかに開いたその目は彼の手を握り締めたアイナ・サハリンの横顔をしっかりと捉えておりそのため彼は非常に安らかな気持ちで意識を手放すことができた。
 だが、まさかここが彼の生きた世界とは異なっているとはさすがに夢にも思わなかった。

 送付されたデータを見、支社長の報告を読んだウナト・エマ・セイランは今やっと息子の話を聞き終えていた。説明を受けている間中一言も発しなかった彼がまずしたことは、いつも掛けている眼鏡を取って眉間を揉み解す事だ。
 そうやってたっぷりと間を取った後、画面の向こうで緊張した面持ちで待つユウナに対し彼はおもむろにこう言った。
「……随分手の込んだ冗談だな」
「いや気持ちは分かるよ父さん。
僕ももし人づてに聞いたなら絶対に信用しなかっただろうしね」
 完全にこちらを疑って掛かっている父親に対しユウナは大仰に肩をすくめ、苦笑をこぼす。実際、半月ほど経過した今でも夢でも見ているのではないかと思う事がたまにある。
 昔読んだ小説の主人公のように、実は自分は山中で事故に遭っていて、今までの事は全て死の間際の妄想だったのではと。
 アマダ夫妻の見舞いに毎日行くのも、毎日支社へ顔を出すのも夢ではないという確かな証拠が欲しいからなんだろうな、と自己分析めいた事さえ思うのだ。
「山中で出会った謎の男女。大破した謎のMS。
その正体は異世界から流れてきた恋人たちだった!か。今時マンガでもやらん脚本だな。
少なくとも私がスポンサーなら脚本家を変えるよう要請するよ」
「父さんは僕とスカンジナビア支社の人間が全員狂ったとでも思うのかい?」
「まだしも、そちらの方が信憑性があるさ。このデータさえ無ければな」
 ウナトは財界人でありまた政治家ではあったが技術者ではない。
 だが優れた経営者というのはバランスシートの読み方だけ知っていればいいというものではない、とも知っていた。
 無論データの場合、数値を誤魔化すことが出来る。映像は改ざんが可能だ。そして人間は騙すことも、買収することも出来る。
 スカンジナビア社の人間が全て狂ったという可能性はおよそ現実的ではないにしても何かのペテンに掛かっているのではないか、という疑念は拭えるものでもない。旧世紀には会社の組織ごと偽造されたという笑えない話も実在する。
 いくら疑っても疑い足りない。
 それほどにそのデータが示すところは途方も無いものだ。
「これが事実存在するなら、世界はひっくり返るがな……」
 そう慨嘆してみせるウナト。
「僕がこちらを抑えておけるのも、そう長くはないんだ父さん。
今は支社長が本社への報告を遅らせてくれてるけど」
 疑いのまなざしを隠そうともしない父親を半ば無視してユウナは話を進める。
「いや、実際信じられないのも無理はないと思うよ。
ちょっと様子を見に来るなんてわけにもいかないしね」
 だがそれでもひとまずは信じて、人員を派遣して欲しい。ユウナは言い切った。
「責任は全部僕が取る」
「それこそ馬鹿な事だ。まだ学生のお前がどうやって責任を取るというのだね」
「忘れたのかい父さん。一応僕も株主だよ? 僕が所有する株式を売ればいい」
 ユウナはモルゲンレーテの株式を0.5%所有している。
 それはセイラン家が有する株式のほんの一部でありユウナが当たり前の権利として所有しているものだ。仮に捨て値で売り払ったとしても一財産にはなる。
「馬鹿者が。お前は私も巻き込むつもりか?
それに手を付ければ他の家にばれないはずがなかろう」
「そう、そのとおり。もしこれがすべてペテンなら、僕はオーブ中の笑い者だ。
カガリとの婚約も白紙に戻るだろうね」
 わずかに気色ばんだウナトだが、静かにそう告げるユウナにこれまでのどこか道化じみた感触と違う雰囲気を感じた。黙って目で先を促す。
「でも、このまま黙って本社の連中に渡したら、結局僕はオーブ中の笑い者だよ。
今ならセイランが全てを手に入れることが出来る。
僕らが親で、アスハや他の連中は僕たちが手の中にエースを持っていることにさえ
気付いてない。今なら親の総取りも可能なんだ。
どうしても信じられないというなら仕方無い。たしかに突拍子もない話だからね。
ただ、僕は私財を全て売り払って、セイランの名を使い倒してでもやるつもりだ。
それだけは知っておいてほしい」
「お前は私を脅迫する気か?」
「それだけこれに賭けてるってことだよ、父さん。
それだけの価値が、あれにはあるんだ」
 モニタの向こうで強く訴えるユウナの姿に、ウナトはわずかながら瞠目した。
 ウズミにとってカガリがそうであるようにウナトにとってユウナはただ一人自分の跡を継ぐ事の出来る唯一の存在だ。できるかぎりの教育はしてきたつもりである。
 それでも甘い所がかなりあり、自分が老いた後のことを考えると気が気ではない。
 だからこそサハクの不興を買うのも承知で見え透いたウズミの策にも乗ってみせた。
 実際、今も一方的かつ身勝手な話をしてきている。交渉というものはもう少し上手くやるものだ。これでは単に親子の情にすがっているに過ぎない。
 ただそれでも。このように強い視線を自分に向けてきた事は彼の記憶になかった。これまで自分の言葉に従順であったユウナがと軽い驚きすら感じている。と同時に、そのペテン師とやらに対して興味が涌いてくるのを感じた。
(まぁ、よいか)
 いつのまにか、そういう気分になっていた。少しは息子のわがままに付き合ってやっても罰は当たるまい、と。彼自身は今オーブを離れるわけにはいかないがその点は信頼のおける人員を派遣すればいいだけの話である。
 後はそちらに任せれば、ユウナ本人に勝手に動かれるよりはるかに安心だ。
 もし何かあった時の隠蔽も楽に済む。ペテンの類であるなら尚更だ。
 ひとまず好きにさせ、御目付けを派遣してフォローできる範囲にあるうちに事を収める。それならば必要以上に傷を負うことなく、またユウナにもいい薬になるだろう。
(まぁ、まさか事実である可能性はあるまいが) 
 常識的にそう結論付け、モニタの向こうで熱弁を振るうユウナに了承の意を伝えるべくウナトはわずかに身を乗り出した。

 シロー・アマダが二度目に目を覚ましたとき、実にさまざまなことが彼と彼の思い人を巡って起こり、更にその決着が着いた後であったこと。それは彼にとって幸運なことでもあり、また不幸なことでもあったかもしれない。
 目が醒めた彼は自分が視界が白いことに疑念を感じ、上体を起こそうとして身体が満足に動かせないことにようやく気付いた。仕方なく首をめぐらせる。
 白い天井。白いカーテン。自分は柔らかなベッドの上で清潔なシーツを掛けられて横になっているらしい、と把握したところで一気に記憶が蘇ってきた。
 敵エースとの死闘。
 巨大なMAの出現。
 爆散するジオンの戦艦。
 炎に包まれる友軍。
 部下に別れを告げる自分。
 巨大なMAから放り出される愛する女性を救ったこと。
 彼女と共に半壊した機体で巨大な敵に挑み、敵のコクピットを叩き潰したこと。
 女性をしっかりとその膝に庇い、激しい衝撃に見舞われるコクピットの中で意識を失ったこと――怒涛のような記憶。焦燥に駆られ、シローはうめくように叫んだ。
「アイナ!」
「シロー!」
 答えを期待していたわけではない叫びだが、応えは即座にあった。思いもかけない状況に驚く暇もなく、彼の視界は愛する者の顔で占領された。
「ほんとうに……シロー、よかった……!」
「アイナ……!」
 アイナの姿を確認し気が緩むとともに顔が自然と笑みを浮かべるのがわかる。
 先の焦燥はどこに消えたのかと思うほどだ。
「良かった、本当に良かった。無事だったんだな、おれたちは」
 感極まって何もいえなくなったらしいアイナの涙を拭おうとして体が満足に動かせないことを思い出した彼は、改めて自分の体がギプスのようなもので拘束されていることを理解した。
「アイナ、教えてくれ。ここはどこだ?」
 軍の病院かとも思ったが、もしそうならアイナが同室にいる意味が分からない。
 またこのような清潔な病室のある病院はシローの記憶になかった。
 前線にほど近い病院の環境など大抵において劣悪と相場が決まっている。
 ひょっとしたら傷病兵として後方に搬送されたのかもしれないが、そうなると今度は軍法違反を犯した自分がそんな待遇を受ける理由が分からなかった。
 確定しなかったとはいえスパイ容疑という大きな前科を持つ彼である。
 さまざまな可能性を考えるシローにアイナは居住まいを正し、やや緊張した面持ちでこれまでに起こったことを話し始めた。

「あらいらっしゃい、セイランさん」
「やあサハリンさん、アマダさん。どうです調子は?」
「ええ、おかげさまで」
「先生が言うには順調だそうです。あともう少しでリハビリに移れそうですよ」
「そりゃ結構。まぁしっかり休んでくださいよ」
 今はね、とユウナは内心のみで続けた。
 早いものであの山中の邂逅から既に2ヶ月が経とうとしていた。

 シロー・アマダの怪我は右肩脱臼・右腕・右大腿部骨折と右半身に集中しており文句無く重傷と診断された。覚醒後のシロー本人の話と転移前(この頃には既にそういう共通理解がなされていた)の状況、そしてアイナの傷がひどく軽かったことからアイナを庇ったために負った傷と推測されている。
 担当医師の話では折れた右足の骨が神経を圧迫しておりもうあと数時間放置していた場合、不随か下手をすれば壊死で右足切断という可能性もあったというが、病院に搬送される途中受けた救急医療士の的確な処置により最悪の事態は免れた。
 これにはアイナのみならず、ユウナも心から安堵したものだ。
 ユウナも男であるから美人の悲しむ顔はあまり見たくないというのもある。
 しかしそれ以上に大事なのは彼が前線で生き残れるほどのベテランMSパイロットであるという事実だ。
 アイナ自身もテストパイロットだが一人よりは二人の方がいいに決まっている。
 またより現実的な問題もあった。MSの解析によりセイラン家は何枚もの切り札を得たが、これらのデータがすぐに恩恵をもたらしてくれるかといえばそうではない。
 こちらの世界に無い技術の再現は容易ではなかった。
 調査につぐ調査、解析、それらを元にしての試行錯誤。
 未知、『未だ知らぬ技術』とはそういうことでもある。
 ウナトの支援や伝手によりオーブ本国やスカンジナビアからコーディネイターを中心とした優れた科学者や技術者が集まっているが、目途が立つのは早くとも来年になるとユウナは考えていた。
 ただ、比較的すぐに利用できるものもある。
 ソフト面……すなわちMSのオペレーティングシステムと教育型コンピュータに記録された戦闘データ。そして実際にあちらの世界の前線で戦い抜いたベテランパイロットが持つ経験である。
 ウナトの協力を取り付けてからまた時間を掛けて二人の話を詳細に聞きだしたユウナは今この時点において彼らに勝る対MS戦闘の経験を持つパイロットは存在しないと確信していた。それだけで、彼ら二人の価値は計り知れない。
 この時期、MSはザフトが一方的に握っている新兵器である。連合側も戦場で鹵獲したMSを元に対MS戦闘を構築中であるが、『MS対MS』という状況が発生する戦場はそう数がある話ではないのだ。なのに、彼の手には今それを既に持つ者が二人も存在する。
 ある技術者は彼らをこう評した。存在自体がいわばカンニングペーパーに等しい、と。
 一方で、ユウナは彼ら二人が平穏な生活を望んでいる事も承知していた。父ウナトが聞けば甘いと言うだろうがユウナとしては二人に再び戦えと言いたくなかったのだ。
 ユウナが彼ら二人の話を聞くにつけ感じるのはその強靭な意志の力である。
 特にシローの行為には、その是非はさて置くとしても衝撃を受けること大であった。
 ユウナは自分を現実的な人間だと思っている。今でこそ夢のような経験をしているが、いかに夢のように思えても目の前の事実をしっかりと受けいれるのが真に『現実的』であると信じてきた。これまでのユウナにとって信ずるべきものとは主に目に見えるものだったのだが、しかしシローとアイナを見ていてその考えが揺らぐのを感じていた。
 信ずるべきものを持つ人間はこうも美しく、あるいは愚直になれるのか。
 これが愛があれば何でも出来る、などと子供じみた事を少しでも匂わせる人間であればユウナの良心が痛むこともない。
 だが何かを為すには何かを犠牲にしなくてはならない、という事も彼らは弁え、また実行しているのだ。
 実の兄を、あるいは戦場を共にした部下たちの信頼を、なげうってまで貫こうとしたその重さ。
 その彼らに、再び戦場に立てとはユウナは言いたくなかった。
 これが正しく偽善であることは承知していたが、だからこそ最後の一線として彼らを直接戦火に晒す真似はしたくなかったのだ。だから、ウナトがその話を持ってきた時、渡りに船と考えて飛びついてしまった。
 それが孕む可能性に気付く事なく。

「ところで、今日はどんな御用ですか?」
 当初は1日に一度かならず見舞いに来ていたユウナも最近は4、5日に一度、それも20分も居ればいい方だ。ユウナは多忙なのである。これは現在、ユウナがウナトの肝煎りでスカンジナビア支社のオブザーバーとして就任しているためだった。
 名目上はオブザーバーだが実質上はウナトの名代といっていい。
 無論優秀なブレーンや補佐が野球チームが結成できるほど付いてはいるのだが重要な案件の過半はユウナに委ねられている。このためユウナは大学には休学届を出し、今はそちらに専念していた。
「まだ先なんですが、お二人にお話がありましてね。仕事のことで」
「仕事……ですか」
「ええ。リハビリが終了し次第、宇宙に上がってもらうことになりそうです。
今日はそれをお伝えしたくて」
 シローの雰囲気がわずかに硬くなる。宇宙はアイナと初めて出会った場所であると同時に家族を失った苦い思い出のある地でもあった。そっとその肩に手を置くアイナ。
 大丈夫だ、とでもいうふうに彼はアイナに僅かに頷きかけた。
「セイランさん。ここまでお世話になった貴方にこんな事をいうのは我侭が過ぎると分かっています。
ですがおれたちは」
「待った。勘違いしないでください。前線に出てくれ、なんていう頼みじゃないんですよ」
「しかし、宇宙はコロニー……いやプラントと連合軍が戦争中でしょう?」
「いえ、あなた方ご夫妻にはヘリオポリス、ああうちの国のコロニーなんですが。
そこに上がって欲しいんですよ」
「それはまた、何故?」
 実はですね、とユウナは心持ち声を潜めた。
「そのコロニーで、連合とオーブ……うちじゃなく他の家ですけどね。
それが秘密裡にMSを開発してるんですが、OSとオートバランサーの提供をうちが、という
ことになりまして。
ほら、戴いたデータは陸戦が中心でしょう?
それで御二人には宇宙用のOS調整のために上がってもらいたいわけですよ。
ご安心下さい、ヘリオポリスは中立コロニーです。
あなた方が戦争に行くようなことにはなりません」
 ユウナは渋る二人を安心させるために最大限の笑顔でそう断言し、更に好条件を並べ説得していった。
 後日、ユウナはこの決断を激しく悔やむことになるがこの時はまだ知る由もない。

――つづく

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