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08MS-SEED_30_第01話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:21:57

鏡を見る度にアイナ・サハリンは笑顔を作る。
いつの間にか出来た目尻の皺は悩みの種だし、自慢だった陶磁器のような白い肌は、照り付ける陽射しの影響からか日に焼けてしまい、いつの間にか肌は水を弾かなくなった。
それでも確かな幸せはここにある。夫は肉体労働が辛くなって来た等とと愚痴を溢すものの、汗水垂らして家族の為に働いてくれる。
義足と云うハンデにも負けず仕事に精を出したからか、監督になれて大きな現場をまかされている。。
子宝にも、周りに冷やかされる程に恵まれた。
腕白だったり、大人しかったり、おしゃまさんもいればお転婆な子もいる。そんな子供らを庭で遊ばせては、夫と二人であの子はどっち似だのこの子はそっち似だのと笑いあったりする今の生活を、アイナはとても気に入っている。
地に足の付いた生活――それは慎ましやかではあるものの、ジオンに籍を置いていた頃には感じられなかった充足感に満ちていた。
アイナはベッドでイビキを掻いている夫を尻目に白のシンプルなマタニティドレスに着替え、目立つようになってきたお腹を優しげに擦りながら階下の台所へと下りた。
まだ薄暗い時間からアイナの1日は始まる。
子供をコーディネーターにしない。それが夫婦で話し合った結論だった。
人間も自然の一部――遺伝子を調整せずとも、生まれて来た事それ自体が素晴らしい事。親が出来る事と云えばちゃんとした躾と充分な教育を施す事だけだ。
その充分な教育の為に、アイナは家計の節約しようと夫に愛妻弁当を作る事を朝一番の日課にしている。
最近腹周りが気になって来たらしい夫にアイナが選んだメニューは豆腐のハンバーグと銀鱈の西京漬だ。それに温野菜を詰めて、ご飯の上に梅干しを載せる。
桜でんぶでハートを描いても良いのだが、職場でからかわれてしまったと聞いて以来自粛している。
困惑しながら止めるよう言って来た夫だったが、最後に――嬉しかったけどな――と云う言葉を聞き、メニューはシンブルに、だが愛情はたっぷりと注ぎ込む様にしている。
アマダ家の朝食はご飯が主食だ。
冷蔵庫から卵を取り出しゆで卵を作る。レンジでじゃがいもとブロッコリーを加熱し、待ち時間にフレンチドレッシングとマヨネーズとレモン汁を加えた緩めのドレッシングを、楽しそうに鼻歌を歌いながら掻き混ぜる。
空いたコンロに切ったベーコンとカブをブイヨンと共に放り込み煮立たせれば、ちょっぴり手抜きだが豪華に出来る料理の完成だ。
時間は頃合い、二階から目覚ましの音が聞こえてくる。夫が子供を起こしつつ一階へと降りてくるだろう。
アイナは小走りで玄関へと向かいサンダルをつっかけて外へと飛び出した。
「あら、アマダさん家の奥さん、おはようございます。」
新聞受けへ新聞を取りに行こうとすると声を掛けられた。
「あら、アスカさん家の奥さん、今日も良い天気ですね。」
隣家のアスカ家とは家族ぐるみの付き合いをしている。子供同士も仲が良く、上のお兄ちゃんは子供の面倒見が良く、息子達はシンお兄ちゃんと呼んで慕っている。
新聞を手に家へと戻ると、食卓には家族が勢揃いしている。
「おはよう、パパ。はい、新聞」
「ありがとう、母ちゃん。……じゃ、皆揃った所で朝御飯だ。いただきます。」
「いただきまーす!」
賑やかに朝御飯が始まる。
長女のカズミは最近はアスカさん家のお兄ちゃんが気になるらしく、ダイエットと称して量を減らしている。
長男のジローはそろそろアイナの身長を追い越しそうだ。声も日に日に低くなってきていて、時期に声変わりも終るだろう。
次男のサンタは好き嫌いが多く、いつも夫に注意されている。
次女のヨツバは末っ子気質な所があるが、お姉ちゃんになるんだよと教えると――お姉ちゃんになると我が侭が言えなくなる――とベソを掻いて周りを困らせた。
そして。
アイナの真向かいにいる夫――シローはいつもアイナに優しく微笑み掛けている。
辛い事、悲しい事も沢山あったけれど今はこうやって幸せな日々を送っている。
二人で手を取り合い歩き出した第一歩は世界を飛び越えてしまったものの、シローがいたからアイナは頑張って来られた。
――大好きよ、パパ。
アイナは笑顔で納豆をかきまぜ始めた。

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