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08MS-SEED_30_第02話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:22:37

義足を付けている方の足の先端がじんわりと痛む。シロー・アマダは食後のお茶を飲みつつ部屋に響き渡るように声を上げた。
「おい、皆。今日は雨が降るかもしれないぞ?」
アマダ家恒例の父ちゃん天気予報だ。微妙な湿気を傷痕が感じるのか、天気が崩れそうになるとこのようにシローの足は教えてくれるのだ。
「あらら…。皆、折りたたみ傘を持って行きなさいね。」
母ちゃんの声に始めに反応したのはジローだ。どうやら学校に置き傘しているらしい。母ちゃんに言わせると傘を忘れて来てしまうだけだそうだ。
カズミは折り畳みの傘を鞄に入れている。それは女の子らしい華奢な作りで赤いものだ。幼い頃に買った物を今でも大事に使っている。
サンタはと云うと黄色の児童用の傘をランドセルに挿している。サンタのクラスではそれをビームサーベルに見立ててチャンバラをするのが流行っている。
ヨツバは傘は持たない。保育園の送り迎えはシローの役目だからだ。
「さてと。」
シローは空になった湯飲みを流しへ運んだ。上の子達は支度が出来たようで、玄関から元気の良い行ってきますの声が聞こえた。
シローはヨツバの手を取り玄関へと向かう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
車を走らせた矢先子供達の姿が見えた。ヨツバはそれを見て窓越しに手を振っている。
カズミと隣のシン坊は同い年で、ジローはその一歳下。三人は同じ学校に通っている。サンタはマユちゃんと同級生で、ヨツバは来年からサン兄ちゃんと同じ学校へ行けるとはしゃいでいる。
――これが幸せって奴なのかな。
嬉しくなってシローはクラクションを鳴らした。
カーラジオから軽快な音楽が流れて来る。
ヨツバを保育園で降ろし、会社で現場用の車に乗り換えたシローは軽トラックを走らせて工事現場へと向かっていた。今日の現場は街外れの道路だ。測量の道具を助手席に載せ、シローは鼻唄を歌いながら運転する。
足が痛むのは天気が崩れる兆候だから、手際良く仕事を進めて今日の分を終らせたいとシローは思う。
今朝剃り忘れた無精髭をいじりながら窓の外を見やると雲一つ無い。きっと天気が崩れるのは夕方頃からだろう。
……それにしても昨日は懐かしい夢を見た。遠い昔、世界を飛び越える前の頃の夢だ。母ちゃんの事を名前で呼んでいた頃よりも更に前、アイランド・イフィッシュにいた頃だ。
シローはそこで壮絶な体験をした。あの時は生きるのに精一杯で、今のこの幸せが掴める等と思っていなかった。
辛い思い出だが、忘れる事の許されないものだ。母ちゃんにも話した事が無いし、勿論子供にも話した事は無い。自分だけの思い出だ。
あの頃とはすっかり外見が変わってしまった。笑い皺に、腹回りに、白髪がまじりの髪の毛と。
だが、変わらないものもある。生きて帰ると誓った事。母ちゃんと添い遂げると誓った事。
永遠と云う言葉を信じたりする子供ではないが、賢さを気取る位ならば多少の愚かさを持っていたいとシローは思うのだ。
だからこそ、シローは今日もその誓いを胸に仕事に全力で取り組む。今を大切に生きる為に。

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