Top > 08MS-SEED_30_第05話
HTML convert time to 0.002 sec.


08MS-SEED_30_第05話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:28:48

第五話 しばしのお別れ

誰も動けずにいた。サイレンの音は止み、静かな部屋の中にテレビのニュースの声だけが響いていた。
オノゴロ島全土に避難命令が発令。速やかに退避するように。
そんな事を言われても困る。何処へ行けばいいの?オーブは一体どうなるの?
カズミは叫びたかった。誰かに答えを聞きたかった。
けれど、誰も答えてはくれない。誰も分かりやしないのだ。
いつの間にかテレビの映像は砂嵐に変わっていた。
「皆、急いで港へ向かうぞ。急いで準備をするんだ!」
パパの怒号に皆が我に帰ったようだった。
「パパとジローはキャンプ用のバックパックをお願い。サンタはママを手伝って。食料を確保しましょう。カズミはヨツバと一緒に皆の着替を準備しなさい。」
ママの指示に皆が散らばった。カズミはヨツバの手を引き、まずはパパとママの部屋へと向かった。
「ヨツバ、お姉ちゃんが着替を出すからあんたはそれを鞄に詰めてね」
カズミは適当に下着やら衣服やらを取り出した。ヨツバはぎこちない動作ながらもせっせと服を鞄に詰めた。
ジローの部屋、サンタとヨツバの部屋と回って皆の服を用意した。
「お姉ちゃん、神様を連れていっても良い?」
ヨツバは不安そうにチョキの形をしたぬいぐるみをカズミに見せた。ヨツバのお気に入りのぬいぐるみだ。
「良いけど、鞄にしまいなさい。手に持ってると神様がびっくりするからね。そしたらママの所に行くんだよ。後はお姉ちゃんの分だから大丈夫よ。」
カズミの声を聞き、ヨツバはぬいぐるみを鞄に押し込んだ後階段を降りて行った。
カズミは下腹部を押さえつつ自分の部屋へと向かった。
色の濃いボトム。スカートじゃなくてパンツ。冷えないようにカーディガン。替えのショーツは多めに持って、ナプキンも七日分。浸け置き用の洗剤と防水ポーチ。
それらを急いで詰めて部屋を出ようとした時に、写真立てがカズミの視界に入った。
先月の連休にお隣とキャンプに行った時の写真が入っている。ランプの光に照らされたカズミとシンがそこにいた。
ちょっぴり大人びた笑顔を作るカズミと無邪気に笑ってピースをしているシン。
あの時はカズミはドライヤーが使えなくて髪の乱れを隠す為にポニーテールをしていた。それを見たシンは似合っていると言ってくれた。大切な思い出の詰まった写真だ。
いいよね、これ位持って行っても。
カズミは写真立てから写真を抜き制服の胸ポケットにそっとしまった。
「母ちゃん、家の権利書を持ったか?」
「ジロー兄ちゃん、ファーストエイドキットは鞄に入ってるよ」
「父ちゃん、ガスの元栓は大丈夫だよ」
「防災頭巾、準備OKだよ」
「皆、準備は出来た?」
カズミが階下に下りた時には粗方準備が終っていた。
「ちょっと待って。薬だけ飲ませて。今飲まないと次いつ飲めるか分からないから」
カズミはテーブルの上に置いてある薬を飲み込んだ。気休めにしかならないかもしれないけれど、飲んでおけば安心出来る。
パパは黒。ママは白。カズミはオレンジでジローは青。緑はサンタで赤がヨツバ。めいめいの防災頭巾を被って、皆は家を出た。
お隣さんに声を掛けたけれど、既に港に向かったようだった。
パパはカズミ。ママはサンタ。ジローはヨツバ。それぞれ手を繋いで港へと向かって歩き出した。
――また、会えるよね。
家を振り返りながらカズミは呟いた。

】【戻る】【