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08MS-SEED_30_第07話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:30:31

第七話 虹の彼方

あっちへふらふら、こっちへふらふら。キョロキョロと辺りを見回しながら、シンはカズミ達の方へと歩いてきた。
カズミは思わずシンに駆け寄った。
「カズミ、防災頭巾なんて被って何やってるんだよ」
クスクスと楽しげに笑いながらシンが笑い掛けて来る。
「何って、ひな……」
血まみれの何かを腕に抱えながら、焦点の合わない瞳でシンはカズミをじっと見つめた。思わずカズミは絶句してしまった。
「カズ、マユを見なかったか?マユはきっと泣いてるんだ。お手手が千切れて痛いようって」
――シン君、貴方は何を言っているの?
カズミは肩に温かい感触を感じた。パパの手だ。大きくて温かくて優しい手。
「シン君……」
カズミの呟きは空を駆ける七色の光で遮られた。遠くで大きな声が聞こえた。
「あっ、父さんが呼んでる……早く行かなくちゃ……」
シンは爆発音のする方へと歩きだした。
「行っちゃ駄目だ、シン坊!」
パパがシンの腕を掴んで引き留めた。
「何で止めるんですか、叔父さん。みんな向こうで待ってるんですよ。聴こえるでしょ、早く来てってマユが呼んでいるんだ!」
子供が嫌々をするようにシンはパパの手を振りほどこうとした。
カズミもジローもサンタもヨツバも目に涙を浮かべていた。
多分、叔父さんも叔母さんもマユもカズミ達の前を歩いていた人のように爆発に巻き込まれてしまったのだ。
シンは余りに突然の出来事だったので受け入れる事が出来ないのだろう。
また大きな音がした。地面が震えた。
「ほら、また!早く行かなくちゃ、俺、皆にいていかれちゃうよ。離してくれよ、叔父さん、離せよ!」
強引に腕を振りほどこうとしたシンをママがギュッと抱き締めた。
「分かるから、シンちゃんの悲しみは分かるから……だから、そんな事を言っては駄目。今は生きる事を考えるの!」
その言葉を聞きシンは力が抜けたように座り込んだ。
「だって、皆、急にいなくなって……マユの腕だけそこにあって……だから、だから……」

シンは大きな声で泣き始めた。パパもママも、カズミもジローもサンタもヨツバも。
何時までも続くかと思っていた日常。それは簡単に崩れてしまった。
不意に酷い痛みに襲われカズミはバランスを崩して倒れそうになった。ジローが後ろに回って支えてくれた。
「このままだと港には行けそうもないな……。よし、皆こっちだ!」
パパは皆を元気づける様に声を出してシンの腕を引っ張って歩いていく。
パパが向かったのはマンホールだった。
「地上は駄目だから、地下を通って行こう。作業用の地下道が港に向かっているんだ」
側に落ちていた棒を使ってパパがマンホールを開けた。カズミ達はパパの指示通りに地下道へと入って行った。

第七話 天国に一番近い島 〜虹の彼方 変奏曲〜

シンが携帯電話を拾ったその瞬間だった。
空に虹が拡がり港へと続く道に降り注いだ。
余りにも綺麗で哀しい虹の先には、鋼鉄の天使が神々しい後光を携えていた。
突如虹の光を遮るように地響きが起こった。熱い風が吹き付けシンは吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられそうになったが、シンは携帯だけは守ろうとがむしゃらに受け身を取った。
シンの視界からは虹も、天使も既に消えていた。
「早く、皆と逃げなくちゃ」
体のあちこちが悲鳴を上げる。その痛みを振り切るようにシンは立ち上がった。
――誰も、いなかった。港へと続く道には沢山の人がいた筈なのに。マユや父さんや母さんがいた筈なのに。
「皆、何処に行ったんだよ?」
シンの呟きは爆発音に掻き消された。向こうの方から何度も何度も聞こえて来る。
思わず音のする方へと歩いて行くとシンは何かにつまづいた。拾い上げるとそれは温かかった。
棒のような物に布切れが巻いてあった。見覚えのある切れ端。マユの服にそっくりなボロ切れ。
「あ……あ……あああ!」
血がシンの衣服を紅に染め上げる。どんどんと冷えて行くそれを抱き締めて、シンは絶叫した。
空にまた虹が走る。キラキラと大空を懸けて行った。
「――行かなくちゃ」
シンは迷わなかった。天使の放った虹。皆を連れて行った後光。その先にはマユが待っているのだ。
マユはきっと泣いている。お手々が千切れて痛いようって叫んでいる。
だからシンは行かなくてはならないのだ。マユの腕を付けてやるのだ。そうしたら家族皆で虹の彼方で幸せになれるのだ。
――待っているんだぞ、マユ。お兄ちゃんが助けてやるからな。
シンはよろよろとした足取りで歩き出した。

第七話 優しい記憶 〜虹の彼方 転調〜

シンは歩き続けた。けれどいつまで経っても虹の彼方へは辿り着かなかった。
「どこまで行けば良いんだよ!誰が教えてくれよ!」
シンがどんなに大声で叫んでも誰も答えを返さない。返してくれる人などそこにはいないのだ。
火薬の臭い、砂煙。既に冷たくなったマユの腕。
朦朧とする意識の中、シンは爆発音の中からマユの声が聞こえたような気がした。
――お兄ちゃん、早く助けてよう。マユ、お手々が痛いよう。
頭の中に声が響き渡り、シンは思わず涙を流した。泣いて泣きはらして、笑った。
「……家に帰ろう」
出掛ける前に飲んでいた母さん手作りのレモネード。それをもう一杯飲んだら元気が出る筈だ。
そうだ、これは夢なんだ。オノゴロが戦場になるなんて有り得ない話だ。
シンはもう爆発音にも虹にも惑わされなかった。父さんも母さんもマユも家でシンの帰りを待っているのだから。
体に痛みなんて感じない。一刻も早く家へ、暖かい我が家へと向かい歩き続けた。
シンの行き先を時折大きな穴が遮った。けれどシンにとっては知ったこっちゃ無かった。
そういえば、シロー叔父さんがこの道を作ったんだっけ。いつだったかカズが誇らしげにそんな事を言っていたのを思い出した。
シンは可笑しくなって笑い出した。笑いが止まらなかった。歩くのを止めて腹を抱えた。
不意に砂煙がシンを包んだ。シンの顔は既に砂やら涙やらで汚れていた。
――何で、俺、泣いていたんだっけ?
シンがキョトンと前方に視線を走らせると、色取りどりの防災頭巾がシンの方へと向かって来るのが見えた。

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