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08MS-SEED_30_第08話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:31:17

第八話 哀しみの癒し方

パパの言っていた地下道とは下水道の事だった。暗かったけれどパパがヘッドライトで道を照らしていたからカズミ達は怖いとは思わなかった。
時折頭上から地響きが聞こえて来たけれど、皆で握り合った手の温もりで励まし合って前へと歩き続けた。
角を曲がった瞬間にカズミ達は光に照らされた。
「誰かいるのか?」
大きくて低い声で尋ねられた。声の持ち主はカズミ達に銃を向けて来た。その後ろに沢山の人がいて、その人達も銃を構えた。
パパは両手を挙げつつ光の方へ歩いて行った。ヨツバが泣きそうになるのを必死に堪えてママにしがみついた。
カズミはゴクリと生唾を飲んだ。そんなカズミをかばおうとジローがカズミの前へと出た。サンタは生気を失って青ざめた顔をしているシンを頑張って支えた。
「自分達は港へと向かう途中に戦闘に巻き込まれました。安全に避難する為に下水道へと逃げ込みました」
パパの声を聞き声の持ち主は銃を下げた。張りつめていた緊張が解け皆は安堵の表情を浮かべた。
カズミは声の持ち主へと視線を走らせた。アイロンの糊の行き届いた立派な服を着ていた。
「あれ、軍人だぜ?」
小声でジローがカズミに囁いた。
軍人さんは綺麗な格好をしているのに、私達は砂で汚れた薄汚い格好をしている。カズミはなんだか恥ずかしくなりうつ向いてしまった。
「あなた達だけですか?他にはいらっしゃらないのですか?」
軍人の言葉にシンが引き付けを起こしたように笑い始めた。
「他にいないかだって?見れば解るだろう。皆天使の虹に連れていかれちゃったんだ!俺が証人だ。ほら、この血を見てくれよ。マユの血だ。皆死んじゃったんだ!」
笑っては泣いて、シンは軍人さんにつっかかろうとした。サンタはシンにしがみついて止めようとした。
「離せ、サンタ!良くあいつらを見てみろ。服には汚れ一つないじゃないか。皆が逃げていた間にあんたらは何をしていたんだ!答えてみろよ、なあ!」
サンタを振りほどいて、シンは軍人さんへと向かっていった。今までの疲れが出てしまったのか軍人さんの前で膝からガクンと崩れ落ちた。

軍人さん達は行動が早かった。
疲労困憊しているカズミ達を支えながら港へと連れて行ってくれた。
港は混雑していた。喧騒、錯綜する噂。無秩序な人の流れ。カズミは思わず人酔いをしてしまった。
「カズミ、ちょっと腰を下ろして休みなさいな。辛いんでしょ」
ママの言葉に頷きつつ、カズミは防災頭巾を座布団代わりにして座った。
パパは避難船搭乗の手続きに行っている。避難先は二つ。オーブ本島の難民キャンプへ行くか、宇宙へ上がりプラントへ行くかだ。
カズミ達はナチュラルなので行き先は本島しか選べないのだが、問題はシンだった。
状況から察するとオーブは陥落するだろう。連合の支配下に置かれた時、コーディネーターであるシンは迫害される可能性がある。
かと言って身寄りの無くなってしまったシンに独りでプラントへ行かせる事はカズミには酷な事に思えるのだ。
そうだ、シンだ。先程トイレに行くと行ったきりシンの姿が見当たらなかった。カズミはいてもたってもいられなくなって立ち上がりシンを探し始めた。
「シン・アスカ君、シン・アスカ君はいませんか?」
人混みを掻き分けながらカズミは大きな声を出した。周りからは奇妙な視線で見られたが、お構いなしにカズミはシンを探し続けた。
シンは壁に寄りかかりポツンと座っていた。虚ろな瞳で宙をぼんやりと見つめている。
「シン君、ここにいたんだ」
カズミはシンの隣に腰を下ろした。何も喋らず、ひたすらシンの隣にいた。
「俺、プラントへ行こうと思うんだ。プラントへ行けば援助を受けられるらしいし」
沈黙を破ったのはシンだった。
「オーブにはいたくないんだ。思い出が強すぎて辛いんだ」
「そっか、寂しくなるね……」
不意にシンが立ち上がった。穏やかな表情でカズミに手を差し出した。
カズミはシンの手を取り立ち上がった。シンに手を引かれママ達の元へと戻った。
――シン君は自分の力で哀しみを癒そうとしている。
カズミはシンの手の温もりを感じつつ一抹の寂しさを覚えた。

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