Top > 08MS-SEED_96_第01話3
HTML convert time to 0.010 sec.


08MS-SEED_96_第01話3

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:18:14

 転移戦線 第一話[後]

「………」
「まだ見つからないのかい?」
「ああ、もう少し待ってくれ…それより周囲の警戒を怠らないでくれよ」
「あいよ!」
 指揮車の20mmバルカン砲の砲座に座って周囲を警戒していたキキがサンダースに声を掛ける…警戒とは言
え退屈な仕事に飽きが来ていると言った所であろうか。
 サンダース軍曹は通信機にかじりついて操作を行っていた。
 戦闘が始まってからいくつかの電波を受信したが、すぐにその周波数帯での通信が終わってしまってなかな
か捕らえられない。
 この手の部隊が近距離で使う通信は短い距離しか届かない為にさほど複雑な暗号化が行われてないのが常で
あるが、その代わりに数秒〜数十秒で使う周波数帯を変え敵に通信を傍受される事を防いでいる事が多い。
 その為に一定の決まり(=プロトコル)があり、それを守れば通信できるのであるが…指揮車にある連邦軍
の標準的な通信プロトコルではまったく連絡が取れないのでかなり特殊な部隊なのか、それとも所属がまるで
違う部隊なのであろうか。
 MSはそれ単体が最強の兵器ではない、複数のMSをチームとしてまとめ、そしてしっかりした後方支援…
他の兵科との連携、途切れない補給、そして情報の把握によって初めて最強の部隊として運用が可能になる事
をサンダースは理解していた。
 その為に隊長はその重要な役割を自分に託したのだ…その信頼を裏切る訳にはいかない。
 いっそ国際緊急通信で呼び掛けられれば楽なのだが(実際はUC世界とCE世界のこの周波数も違った為に
意味は無かったであろうが)それでは敵部隊に気が付かれていないという戦術的な利点を殺す事になる…当然
敵もその周波数も傍受できるのだ。
 08小隊内の通信によれば、仲間達の作戦はうまく行っているようだ。
「ちょ、サンダース!」
「どうしたキキ、通信ならもう少し…」
「そうじゃなくて外、外!
 囲まれたよ!」
「なに、敵か!?」
「軍人って感じじゃないけど…なんだか見慣れたような連中だね」
 武装したハーフトラックに乗ってアサルトライフルや対戦車ロケットを構える連中は揃いの軍服ではなく、
盗賊とか野盗の類といった感じである。
 キキは一応20mmバルカンを向けるが、手出ししてこないので撃たないでいた。
 なにより彼らの格好が自分達ゲリラと重なりできれば攻撃したくない。
「ひょっとしてゲリラか、キキ、見覚えは無いか?」
「知らない連中だねェ、あの車両は見たことも無いよ」
「さてどうしたものか…」
 サンダースが最善の策は何か考えようとした時、ゲリラと思われる連中に先に動きがあった。
 ゲリラの車両が左右に分かれ、1台の武装をしていないハーフトラックが前に進み出てくる。
 それにはゴーグルをかけた背が低めの2人が前に座り、その後ろに筋骨隆々で弓を背負った男が鋭く指揮車の方を睨んでいる…この男の前ではどんな大人でも小柄に見えてしまうだろう。
「アフメド、ここでいい」
 ゆっくりと前に進んだハーフトラックは指揮車の10m程度で停止し、そしてゴーグルをかけた金髪の方が立ち上がると声を張り上げた。
「お前らは連合軍なのか!?」
「女のコ…?」
「…連合…?」

「ナチュラル共め、伏兵を使って後方部隊を襲うとは小癪な真似を…!」
 キラとシローから離れた2機のバクゥは全速力で後方部隊へ向かっていた。
『ダメだ、通信が繋がらない…まさか全滅…』
「奇策を仕掛けてくるようなナチュラルに副官が殺られるか。
 まだ間に合う筈だ、一気にMSを始末してすぐ引きか……」
 突然目の前に何か飛んできたと思った瞬間、コーディネイターの反応速度をもってしても回避しきれない位に展開したネットが最高速で移動していたエイクのバクゥに絡み付くと、安定度に定評のあるバクゥでもたまらず脚を取られて2度3度と激しく転がる。

「ふっ!」
 息を吐く気合と共にカレンの陸戦Gはネットガンを捨てて砂丘から飛び出し、目の前に転がってきたスピードを大分落としたバクゥに更に蹴りを入れると今度はバクゥは90度角度を変えて十数m吹き飛んで砂丘に突き刺さり動かなくなった。
 これだけの衝撃を受ければ中のパイロットはただでは済むまい。
『なに!?』
 新たなMSの奇襲により一瞬にして僚機を失ってしまった。
 話していた仲間はトラブルがあったのか今まで画像が出ていたスクリーンからはノイズしか返さない、さすがのコーディネイターもあれだけの衝撃で気を失ったか…あるいは…。
 メイラムはそう長くは考える事はできなかった。
 カレン機が左手で掴んでいたビームライフルを右手に持ち替えバクゥに攻撃を放ち、メイラムのバクゥはギリギリの所で砂面を蹴って砂丘に飛んでそれを回避する。
 そしてクローラーで砂の斜面を走行し、残ったミサイルを放ちながらカレン機に迫る。
 カレンはそこにビームライフルをもう一射放つが…。
「ちっ、速い!」
 想像以上の速度で動かれた事で放ったビームライフルが当たらない事を悟ったカレンはシールドを前面に上斜めに構える事で予想される衝撃に備える。
 予想通りメイラムのバクゥはクローラーでの走行から一瞬にして4つ脚に切り替えるとそのまま斜面を蹴ってカレンに体当たりを仕掛けてきた。
 前足をシールドで防ぎ、そのまま持ち上げるように押し上げるてやるとバクゥの体はカレンに当たる事無く後ろに逸らされて頭の上を通り過ぎる。
 しかしそのおかげで体勢を崩したカレン機は膝を砂漠に付き、メイラムのバクゥは4つ脚で器用に着地すると砂面を滑りながら方向を変え、未だ体勢を立て直していないカレン機を正面に捕らた。
『もらっ…!』
 残されたミサイルを放とうとした瞬間断続的な衝撃が来て、背部のミサイルポッドに残った最後のミサイルが誘爆する。
『ぐおぉぉぉぉっ!』
『カレン姉さん!』
「ミケルか、よくやった!」

 後方部隊襲撃を終えたミケルの陸戦Gがカレン機と合流すべく砂丘から飛び出して合流地点でミケルが見た物は、交戦中のカレン機が4つ脚のMSに踏みつけられて膝を付いた所だった。
 反射的にそのまま砂上を滑るバクゥに向けて引き金を引く。
 速度が速かったのでなかなか当たらなかったが、バクゥは滑りながら方向を変えつつ徐々にスピードを落とし、振り向いて停止した時にマシンガンの追従が終わった…着弾したのだ。
 本体ではなくその背部上のミサイルポッドに当たったようだがミサイルに誘爆し、小規模な爆発が起こってバクゥが怯むように身をよじらせた。

「うわぁ〜っ!」
 そのまま連射しつつ前進してもう何発か着弾した後で体勢を立て直したカレン機も射撃を開始したが、これは飛び上がったバクゥに回避されてしまった。
『もう一機だと?
 まさか後続部隊は既に…』
 バクゥは2機のMSを憎々しく一瞥すると、きびすを返すし元来た方向に砂丘を飛び越えて去っていった。
「大丈夫ですか、カレン姉さん」
『ああ助かった、そっちは終わったのか?』
「はい、車両はあらかた破壊しました」
「よし、動かないあの四つ脚はサンダースに任せよう…隊長と合流する!」

『カレンは後方部隊の直前で、ミケルが襲った後続部隊を援護に来るであろう四つ脚を攻撃してもらう。
 その際、MA捕獲用に持ち込んだネットガンを使用して一機は捕獲してくれ。
 いくら四つ脚が素早くても、MAをカバーできる大きさのネットがあれば取り込める』
『私一機で相手できる数じゃなかったら?』
『敵は五機だから援護は多くても二機、ネットガンで捕獲できれば一機、ミケルが加われば戦力で上回れるだろう。
 ジオンの新型を捕獲できるチャンスはなるべく生かしたい』
『そんなにうまく行きますか?』
『未知の敵で数も多いならなるべく分断して局地的でも数を上回りたい。
 みんなが来るまで俺も殺られはしない、援護がそっちへ行かなければミケルと合流後すぐにきてくれ』
『ですがこの方法、不確定要素が多すぎると思いますが』
『即断は英知に勝る、これ以上の議論は時間という利点を失う事になる…8小隊、作戦開始!』
『了解!』
『はい!』
『あいよ〜』
『…了解』
 カレン的にはこのような行動を作戦とは呼びたくなかったのだが、シローに断言されてしまうと従わざるを得ない。
 自分の反論もまた確証が無い可能性を述べているに過ぎなくなると気がついていたので、ここは命令に従うしかないだろうとの諦めに似た感情があったのだが…。
 蓋を開けてみればミケルは後方部隊を壊滅させ(確認していないので洩れがあるかもしれないが)、4つ脚の1機は(外見からは)鹵獲可能の状態で無力化でき、1機を遁走させて自分とミケル機は無事なのだ。
「あの甘ちゃん…ちょっとはできるようになったか…」
「なんです、カレン姉さん?」
「なんでもない、逃げた奴が合流したら隊長達は4:2だ、急ぐぞミケル!」

 キラのストライクと見知らぬガンダムの周囲に砂柱が立ち上がり砂塵が巻き荒れる。
「ドコだ!?」
 この砂のスクリーンの向こうから敵が仕掛けてくる事は判っている。
 攻撃が途切れ瞬間砂漠を静寂を包むがそれは敵が飛び込んでくる合図だ、PS装甲の無いバクゥは同士討ちすると被害が大きいので、バクゥが懐に飛び込んでくる来る時は攻撃が止むのだとキラは判断し油断無く周囲を伺う。
『後ろだ!!』
「!」
 まだ名前も知らないパイロットの叫びにキラは振り向いたりせずに、そのまま左腕を後ろに引いて“アグニ”の銃底でバクゥを殴る!
 そのまま倒れたバクゥを踏みつけ…ようとするが砂塵の向こうに隠れてしまい、なおかつ援護しようとする周囲を回るバクゥの攻撃で機を逃してしまった。
『こういうときは背中を合わせろ、お互いの死角をカバーするんだ!』
「くそっ…何であんたの指図なんか…!」
 命令口調にカチンと来るキラはであったが、言われてみればそれが効果的な方法だと気が付いてしぶしぶ従う。
 そういえば確かに先程からあのMSはこちらに背中を向けていた。
 そしてその状態で何故、キラの死角から飛び掛ってきたバクゥにキラより早く気が付けたのか…キラは不思議でならなかった。
 その質問を口にする前に再び多数の着弾が砂柱を周囲に立ち上げ砂塵を巻き起こす…来る!

 ぶわっと砂のスクリーンを突き破り、疾風の如き鋼鉄の獣がシローに襲い掛かる。
 武器を持たない左側からの攻撃、しかしそれはシローの読み――というよりはセオリー――通りであり、どんなに速度が速くても初めから注意していれば対応できる。
「くっ!」
 ミサイルポッドを無くしたバクゥの体当たりは前回の反省か低目に腰の辺りを突き進んできた。
 それをぎりぎり腰を落として半壊したシールドで受けたシローは、衝撃に耐えられず誰から見てもバランスを崩したように機体が倒れ、脚は宙を舞っていた。

『そのまま砂にまみれてろ、ナチュラル!』
 バクゥのパイロットが通常であれば首を動かすのも大変な速度の中でらくらく振り向き、側面のモニターでシローの陸戦Gを倒した事を確認しながらほくそ笑む。
 砂漠で転倒した機体は簡単には起き上がれない、いくら頑丈な機体であろうがその状態で集中攻撃を受ければPS装甲であろうがただでは済むまいとバクゥのパイロット達は考えていた。
 もちろんシローの陸戦Gにはそんなものは無く、ルナチタニウム製の装甲がバクゥの450mm2連装レールガンにどこまで耐えれるかが試される事となったであろう…そのまま倒されていれば。

「ここだぁぁぁっ!!」
 バランスを崩したかに見えたシローの陸戦G、だがそれはシローが行った操縦を陸戦Gが寸分違わず実行した結果であったのだ。
 その状態でシローはブースターを最大まで噴かす。
 すると倒れかけた機体は、バクゥが駆け抜けていった方向に向かって高度を同じくして飛ぶ!
 陸戦Gの本体重量は52.8tとストライクより軽く、そしてスラスター総推力は52,000kgと重量対推力比が1に近いので、浮力を得る為の翼等が無くとも空中に浮く事も不可能ではない。
 実際には装備重量はもっと重いので不可能であろうが、当時のMSとしては重量対推力比が高い方であろう。
「お前の弱点は、強力な格闘武器を持っていないことだぁっ!」

 先ほどからの攻撃でバクゥが体当たり以上の格闘攻撃をしてない事にシローは気が付いていた。
 UCのMSはミノフスキー粒子の影響下での有視界運用を想定されているので、初期の頃の対MS戦闘を考慮されていない物を除けば必ずと言っていい程格闘武器が装備されており、それは性能で勝るザクであっても射撃兵器では倒せないガンダムに重大な被害を与えられるような強力な攻撃であり、UCのMSパイロットで格闘戦を意識しない者は皆無と言ってもいい。
 だから気がついたのだ…今のバクゥには格闘武器が無いと。
 シローは左ふくらはぎ側面にあるサーベルホルダーを展開して左手にビームサーベルを握らせると、そのまま機体を捻って体勢を元に戻しつつ飛び去ろうとするバクゥに後ろから迫り、ビームサーベルを切り上げた。
『うわぁぁぁぁっ!』
 シローの陸戦Gを転倒させた事を確認したバクゥのパイロットは転倒させた筈の陸戦Gが空中を飛んで後ろから迫る姿を、陸戦Gがすぐ後ろに迫り下から振り上げる夜の砂漠を明るく照らすピンク色の光を放つビームサーベルを見て叫び声を上げる。
 直後、機体を擦るような妙な振動が襲い機体バランスが崩れ前のめりになる。
 コントロールスティックは動かしていない、機体バランスが前に崩れると言う事は…後ろ足のある下半身の辺りを切り落とされたのだ。
 体勢を再び戻して地面に膝を付きつつ右手にビームライフル、左手にビームサーベルを持ったまま着地するシローの陸戦G、対して下半身を切り落とされたバクゥはそのまま短い高度を墜落してゴロゴロと転がった。
「そこっ!」
 キラは残りの上半身を“アグニ”で貫き、そのバクゥは完全に爆散した。

『なにっ!?』
『殺られただと!?』
 砂漠で人型MSにバクゥが負けるはずが無い。
 それはコーディネイターがナチュラルに勝るぐらいに常識と思っていたバクゥのパイロット達に驚愕を与えた。
 更に追い討ちをかけるように、カレンとミケルから転進してきたもはや武装の無いメイラムのバクゥが驚くべき報告をしてきたのだ。
「大変だ、後続部隊が壊滅だ!」
『なんだってーーーー!』
『それは本当かメイラム!』
「ああ、間違いない!!」
『エイクはどうした?』
「二機の人型MSに殺られた!
 後続部隊も蹂躙されてダコスタ副官とも連絡がつかない!」
『クソ、こんな事が…』
『夢でも見ているのか…!?』
 バクゥ隊に動揺走る!
 彼らにとってはありえないことが連続して起こったのだ、動揺の一つもするであろう。
 ザフトという組織はプラントの軍隊ではあるものの軍のような階級等の指揮系統が無く、作戦の都度部隊の隊長を任命してその指揮下に入るという方法を取っている。
 コーディネイターである彼らは総じて聡明で優秀であり、その都度もっとも適切な人物が指揮を執る方法に問題は無い――自分以外が指揮を執ったりするような事になっても妬みや嫉妬と言う人間感情による士気の悪化も起きない…とされている――というのがザフトの論理だ。
 大きな部隊、方面軍とか旅団とか師団とか大隊とか中隊クラスは一度決まれば指揮官が更迭させられるまでは同じ人物が指揮を執り部隊の規模に応じて副官や参謀等のスタッフが置かれる事になるが、その上で攻撃隊や小隊等の小部隊ではその都度隊長クラスが割り振られる事になる。
 今回AAを襲撃した部隊は陸上大型戦艦レセップスを旗艦とするザフト地上部隊アフリカ方面軍のバルトフェルド隊の中から、アンドリュー=バルトフェルド隊長にちょっとした用があったのでダコスタ副官が部隊の指揮を取る事になっていたのだ。

 だがミケルの後方部隊襲撃によりダコスタ副官はかろうじて生き残ったものの通信手段を失い、そしてバクゥの通信能力では20km以上離れて待機しているレセップスと連絡を取り合う事はできず、残された3機のバクゥ隊は指揮する者がいなくなっただけではなく見える以外の情報を得る方法が無くなってしまっていたのだ。
 情報も状況も得られず指揮する者もいない…こういう時こそ軍人としての個人の能力が問われる。
『…ここは引こう』
「なに!?」
『ナチュラル共に背を向けるというのか!』
『ここは連合のMSと戦った情報を伝えるのがもっとも優先すべき事じゃないのか?
 それに…今は引いて後で後方部隊の生き残りと合流しなければ』
「くっ…それも仕方ないか」
『ナチュラルめ、このカリは高く着くぞ!』
 こうしてバクゥ隊は常識的と思われる行動、撤退の道を選んだ。

 シローとキラがバクゥを1機撃破した事により戦場の雰囲気が変わった事をシローは感じ取っていた。
 カレンとミケルの攻撃は成功したらしい。
 先程から4つ脚は高速で移動しつつ見え隠れしていたのが今では時より砂丘の影に確認できる程度の隠れの方が多い動きをしていた。
 数は2vs2になった筈、もう1機のガンダムも相変わらず通信できないとは言えかなりの戦力になる事は証明済みだ。
 4つ脚の相手は楽ではないとはいえ、相手が引くぐらいまでは攻勢をかけていいだろう。
 シローがカレンとミケルの位置をもうすぐ合流できそうな場所にいると確認した時、指揮車からの画像付きの通信が入る。
『隊長、いいですか?』
「サンダーズ、味方との連絡が取れたのか?」
『いえ、それが……』
『お前が隊長か?』
「誰だお前は!?」
 画像の中には見知らぬ金髪の少女と言って差し支えない娘が映っており、その隣に困り顔のサンダース軍曹と後ろにキキと見知らぬ青年と見知らぬマッチョが映っている。
 武器を突きつけられていない所を見ると指揮車が制圧されたとかの類ではないのだろう。
『こっちの指定する場所にバクゥを追い込め、トラップが仕掛けてある!』
「トラップだって!?」
『ああそうだ、信用しろ!』
『こいつらレジスタンスなんだって』
「キキも無事か。
 バクゥってのが四つ脚の事なんだな……何処に誘導すればいい?」
『隊長!』
『隊長!?』
『隊長、ゲリラを信用するんですか?』
『ゲリラじゃない、レジスタンスだ!』
 通信は08小隊のMS全機に伝わっており、今まで何も言わなかったカレンと状況の急変につばを飲み込んでいたミケルの2人もあっさりと初めて会う画面の向こうのレジスタンスを信用したシローに驚きと批判の混じった声を上げた。

「そうだ、ここは彼らを信用する。
 地元のレジスタンスなら騙しはしないだろう。
 それに…」
『『『それに?』』』
「あの目は嘘を言ってない…キキが何か企んだ時の目とそっくりだ」
『なんだよそれは!』
『…確かにそうですね』
『そりゃぁ正しいかもな』
『自分は隊長の判断に従います』
『???』
 顔を覗き込まれて目をパチクリさせるレジスタンスの少女…08小隊の面々に笑顔が浮かぶ。
「サンダース、位置を伝えてくれ。
 カレン、ミケル、敵を追い込むぞ!」
『『『了解!』』』
『おいお前!』
「どうした?」
『カガリ=ユラだ……信用してくれてありがとう』
「自分はシロー=アマダ、こちらこそご協力に感謝します!」

「カレン、ミケル、四つ脚を指定されたポイントへ追い込むぞ!
 “カエル跳び”だ!」
『『了解!』』
 シローの言う“カエル跳び”とは、MSの戦闘機動の1つである。
 まず適切な1機が敵に対して射撃を行う。
 この援護の元で他の機体が前進し、適当な場所まで前進したらその機が援護射撃を行ってそれまで射撃をしていた機が前進する。
 これにより途切れの無い援護射撃の下部隊を前進させるというのが通称“カエル跳び”機動なのだ。
 実際には障害物の有り無しや戦場の広さや敵の数や状態は停止なのか移動なのか等でその方法は微妙に変わる事が多いが、途切れの無い援護の下で部隊が前進するという骨子は変わらない。
 この時残されたバクゥの数は3機、対するストライクと陸戦Gは4機で数も上回っていた。
「ミケル、そこで射撃を開始しろ、敵の右側に攻撃を集めて左側に誘導するんだ!
 カレン、左に30度200m前進してから攻撃を交代してくれ、俺はこのガンダムと前進する!」

 シローは敵と味方と罠のある地点をMAPにプロットしつつ――実際の作業は各機の情報から指揮車が行っている――バクゥを追い込む。
 バクゥ隊も同じように相互に援護射撃を交えつつ引いて行くのであるが、シローの適切な部隊運用により遁走する事ができずにいた。
 全力で移動しようとしてもMSがやってきて攻撃を受けるので、応戦しつつ方向を変えなければならなくなっていたからだ。
 そんな中、シローは通信が通じないキラのストライクに対しても指示を出していた。

「…ついて来いっていうのか?」
 敵が見えなくなる前からそのMSはキラをMSの顔を動かしてちらりと見ると左手を前に振って走り出したのだ。
 素早くゼスチャーで相手の意図を読み取りキラもそのMSを追いかける。
 どうやらバクゥを追っているらしいがしばし進むとそのMSは停止してビームライフルを撃ち始めた。
 キラも射撃をするべきか…と考えた時、そのMSは左手を横に突き出して前へ振る。
「追いかけろって?」
 キラはブースターを噴かして小ジャンプしつつ敵を追った。
 そのうち別の方向からの閃光が見え、そちらを見るとさっきキラに指示を出したと同じMSが射撃を行っていた。
 自分はどうしたらいいかと後ろを振り返るとさっきのMSは走り出していて、振り向いたキラに気がついたのか左手を前に振ったのでキラはそのまま前進した。
 そのうちもう1機別のMSも現れて同じように移動と射撃を行う…キラはそこでこの同型機のMS達がお互いに連携して敵を追っていると言う事を確信した。
「チームプレイって奴なのか…?」
 キラは連携など無視しストライクの推力で一気に前進して“アグニ”を撃ち込んで自分でやっつけてやる!
 …という考えが一瞬浮かんだがこの場で――キラはまだ“戦場”という表現をできずにいる――それをやってもいい結果にならないのではないかとの結論を出した。
 この男の登場で確かにこの場の流れが変わった…そのままでもやれていたかもしれないが、一人で戦ってきた今までより負担が少なく戦えたと思う。
 そんな男のやる事だ、ここは従った方がいいのかもしれない。
 また、偉そうに指示を出す男の指示に従って何が起こるかという事に興味が出てきた…もちろんそれで悪い結果になったら怒鳴りつけてやろうとも考える。
 …相手を怒鳴りつける自分の姿を想像できずにいたのであるが。
 時々後ろを確認しながら前進すると、あのMSは武器を持った右手を振って前に突き出し右に振った。
「攻撃しろ…右側を狙え…か?」
 キラは停止して“アグニ”を3機の内最も右側を走るバクゥを狙い打つ。
 光の奔流が放たれ失踪する鋼鉄の獣に追い縋るが、長距離であったこともあり走行していたバクゥは進路を
左に傾けてそれを回避する。
 数発撃った所でストライクの頭部をそのMSに向けると、それに気がついたかあのMSは左手を前に振ってから左にちょい振ったのでキラは進路を少し左に取りながらそのMSを意識しつつ前進した。
 同型3機のMSは適度に散開しつつバクゥの頭を抑えるように移動しつつ、常に1機は射撃しながら追いかけている…キラもあのMSの指示に従って何度か射撃と前進を繰り返していた。
 キラがこのMS達が何かの意図を持ってバクゥを誘導しているのではないかと思い始めた時、あのMSは停止して今までにない大振りなアクションでキラに向かって両手を広げた。
「止ま…れ?」

「来たぞ」
 カガリはその時、砂色のシートを被って砂漠の砂丘の上に伏せていた…隣には同じように伏せて双眼鏡を覗いているアフメドとキキと、その後ろで周囲を警戒しているであろうキサカがいた。
 砂丘を飛び越えて3機のバクゥがやってくる。
 後ろからは赤くて太い光線や細めのピンク色の光線、そして多数の小さく光る火線が代わる代わるバクゥを追い立てる猟犬のように飛来し、バクゥ達を駆り立てていった。
「もう少しだ」
 見る見るうちに近づいてきたバクゥ達は、砂漠に伏せる3人に気がつかず百数十m先を通り過ぎる。
 乗ってきたハーフトラックは後ろのここから下った砂丘の凹みにシートを被せて置いて来ているのでバクゥ達も気がつかなかったようだ。
 もっとも多数のMSに追われている上に武器も尽きかけていた彼らは気が付きようも無かったであろうが。
「あの隊長、キッチリ追い込んでくれたな」
「あったりまえだろ、シローが指揮をしてるんだ!」
「あれだけ自信たっぷりで、出来なかったでは済まされないからな」

 キキがジト目でカガリを睨みつけるが、カガリアフメドから双眼鏡を受け取り覗き続けていた。
 すぐ目の前をストライクではないMSが砂丘を飛び越える小ジャンプからブースターを吹かしながら着地してくる。
 ちらりとMSの顔がこちらを向いたと言う事はこちらを発見したのであろう。
 目のいいパイロットだとカガリは思い、そして同時にこのMSに乗っているのがあのシロー隊長だろうと確信した。
「シローのガンダムだ!」
「シロー止まれ、もういい!」
 カガリがサンダース軍曹から借りてきた通信機に怒鳴ると、シローは停止してストライクのいる方に両手を振る。
 バクゥが有効なエリアに入った瞬間、起爆スイッチのセイフティーカバーを開けて一つ目のボタンを押し込んだ。
 それはカチッという小気味いい音を立てて無線式トリガー内に潜り込み、電気信号を発生させてそれを受信機へと伝えた。

『なっ、なんだ!?』
 瞬間、バクゥの周囲で連続して爆発が起こる。
 次の瞬間バクゥの足元の砂がそれまでの砂漠の砂とは異なり、いきなり内部に落ち込むような流れとなって
3機のバクゥをアリ地獄のように絡め取った。
『うっ、うわぁぁぁぁ!』

 走っていたバクゥが脚を取られるのを確認してカガリは狩りに成功した狩人のような笑みを漏らすと、
もう一つのスイッチを押し込む。
 直後に巨大な火柱が上がったと思った瞬間目の前を白い巨大な壁が塞いだ…見上げるとシローのMSがしゃがんでカガリとキキ達の前に腕を降ろしたのだ。
 直後に耳をつんざく爆音と、砂漠に伏せていてなお剥ぎ取られそうな爆風が吹き抜けた。
「うひゃぁ〜〜〜!やったぁ〜〜〜!」
 キキが隣で頭を抱えて風を防ぎながら声を上げる。
 シローの配慮が無ければ本当に吹き飛んでいたかもしれない、カガリはそう考えつつ爆風が止まってから砂をほろいながら立ち上がり、シローのMSを見上げて左の拳を突き出して親指を立てた。

「そうか…この辺りには石油や天然ガスの廃坑とかがあると聞いた事があったな…。
 ナチュラルめ、こちらの制圧地域にMS部隊で浸透してきたどころかトラップまで用意していたとは…」
 ダコスタは残存した人員をまとめ、破壊を免れた車両を使って修理可能な車両を元に戻して修理させつつ砂丘の上に上がってバクゥ部隊の行く末を双眼鏡で見ていた。
 敵の数が上回りバクゥ隊が引いたのはまぁ悪い判断ではなかったが、罠に誘い込まれて全機が壊滅したらしい。
 結局MSはストライクと見知らぬ同系のMSが3機であり、その3機はAAから出撃するのではなく周囲に突然現れた事から既にここにいたかAAと合流すべく接近中であったのだろう。
 AAがここに着地して動かなかった事やトラップを仕掛けていたことを考えればAAがここに降りて来たのはあらかじめ予定されていた事なのかもしれない。
 ダコスタはAAが地上に降下してMS隊と合流しビクトリア宇宙港を後方から支援する為に来た……というシナリオを想像する。
「…だが、ビクトリア宇宙港は既に我々の手に落ちている…遅かったな」
 ダコスタは踵を返すと砂丘を駆け下りる…唇を噛んで決意に満ちた顔は『まだ負けた訳ではない…始まったばかりだ!』と雄弁に語っていた。
「ダコスタ副長、車両修理終わりました!」
 砂丘を降りると部下が全員が乗り込める分の車両の修理が終わった事を告げる。
 さすがに手が早い、あの爆発はここからでも見えたであろうが修理終了の報告しか言ってこない所を見ると自分の動向でバクゥ隊に何があったは察してくれたようだ。
 そうだ、この部下達がいる以上まだ戦える、まだ負けてはいない。
「全員乗り込こめ、これよりレセップスへ撤収する!」

 キラが停止した直後にあのMSはしゃがみ、意図を測りかねていたキラを次の瞬間大きな衝撃が襲った。
 バクゥの周囲に大きな爆発が起こったと思った瞬間、目の前に巨大で真っ赤な炎が立ち上がっていたのだ…
いや、巨大とかそんなレベルを超えている…直径200mもあろうかという大爆発だ。
 そしてそこには追いかけていたバクゥがいた筈だ…これではあのバクゥ達は……。
「これが狙いだったのか……」
 キラは目の前の巨大な火柱を見ながら、出撃してあのMSと遭遇してからの事を思いやっていた。
 ふと気がつくと砂漠は薄く夜の終わりを告げつつ次の日の出を迎えようと空が白んできている。
 それをバックに、あのMSがハーフトラックと共に近づいてくる。
 ほんの数mの所まで近づいて停止するとそのMSの顔の前にある胸部のハッチが上に開き、一人の軍服らしき物を着た黒髪の青年が立ち上がってストライクを見ている。
「こいつがあのMSに乗っていた奴か……」
 しばしその顔を見ていたキラ。
 その間に彼はやれやれといわんばかりに少し破顔して敬礼して名乗りを上げた。
「極東方面軍機械化混成大隊、MS第二中隊第08MS小隊隊長、シロー=アマダ少尉です!」
 それを聞くとキラもハッチをあわてて開け、フェイズシフトダウンを起してトリコロールからグレイに色を変えたストライクの外に出てヘルメットを脱いだ。
「キ…キラ…キラ=ヤマトです!」
「君がパイロットか…!」
 シロー=アマダはキラを見て少しばかり驚いたように目を見張った。
 同系のMSもここを目指して集まってくる。
『ヤマト少尉、爆発が見えたぞ、そっちはどうなってる!?』
『キラ、無事なの?
 キラ、答えて!』
 通信機からはAAからの通信が入っていたが、キラは目の前のMSと、そのパイロットのシローと、集まってくるMSと、ハーフトラックからこちらを見ている人達と、砂漠の夜明けを代わる代わる見ていた。

 これが、キラ=ヤマトとシロー=アマダの初めての邂逅であった。

 

「……で、俺の出番は?」
「もう終わったみたいですよ?」
 待機していたムゥ=ラ=フラガ少佐は、出番の無いままスカイグラスパーの中で状況が収束した事をコジロー=マードック曹長から聞いた。

】【戻る】【