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08MS-SEED_96_第02話中

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:22:22

『両名とも無事にジブラルタルに入ったと聞いて安堵している……先の戦闘ではご苦労だったな』
 時よりノイズの混じるモニターの向うに座る金髪の男はモニターのこちらの相手をねぎらう口調で話しかけていた。
 これに表情と口よりも雄弁に語るという視線が付けばモニターのこちらの相手をねぎらっている事がもっときちんと伝わったかもしれないが、仮面をつけたその顔からはそれが伝わる事は無い。
 もっとも、本当に相手をねぎらっているのか、上司と部下と言う立場上そうした方が後々スムーズに行くからと言う社交辞令でしかないのか、偽りを重ねた仮面の男には自分の本心すらも曖昧に……部下が無事だった事が嬉しいしその労をねぎらいたいのも彼の本心で、任務中に地球に落下した部下をどう扱おうか苦心しているのまた彼の本心であった。
「死にそーになりましたけど」
 モニターの前の椅子に座る色黒で金髪の赤い服を着た少年がやれやれといわんばかりに被りを振って口の端を歪めた。
 何せ大気圏突入ができるらしいとは判っていたが実際にやるとなると話は別、減速用のパラシュートとかのオプションをつけている訳でもなくどうやればいいかなど判らない。
 ローラシア級MS搭載戦艦ガモフのゼルマン艦長が第八艦隊旗艦メネラオスと刺し違える前に脱出用の降下ポットを射出してくれていてそれを盾に突入は成功したものの、今度は重力と推力の綱引きとなりいくら足元が海だとしてもこのまま落下すればばらばらになる危険すらあった。
 だが偶然にも落下予想地点近くに大型輸送機ヴァルハウがMS支援空中機動飛翔機グルゥを搭載して飛行している事を宇宙(ソラ)にいたナスカ級高速戦闘艦ウェザリウスのアデス艦長が尽き止め、アデス艦長の要請の元ヴァルハウに同乗していた整備士やパイロットがマニュアルでグルゥを動かし落下中の2機のMSに垂直降下で相対速度を合わせてギリギリのところで無事ランデブーして彼らをジブラルタル基地に回収したと言うエピソードがあったのだがここでは割愛する。
 そんな短時間での生死を巡る攻防であったにも拘らず色黒で金髪の少年はその一言で切って捨てた。
 その後ろに立つ顔に包帯を巻いた白髪のこれも赤い服を着た少年は、目の前に親の敵でもいるかのようにこちらを睨んだ一言も声を発しない。
 この2名は彼…ラウ=ル=クルーゼの部下であり、赤い軍服は優秀な成績で訓練校を卒業した者にだけ送られる名誉の証である。
 そしてその名誉に恥じぬように連合の開発したMSを5機中4機までを強奪したのだ……その後盗り逃したMS1機とそれを乗せた新型戦艦には地球に逃れられてしまったのだが。
『“足つき”は今後地上部隊の標的になるだろう、君達もしばしジブラルタルで休養した後奴らを共に追ってくれ。
 最大限の援助を受けれるように地上部隊にも議会から通達が行っている筈だ』
 右上に表示された残り通信時間はもう僅か、これが0になったら彼らに与えられた通信時間は終わる。
 遥かプラントから地球のジブラルタル基地と通信を繋ぐ事は簡単なことではない…なにしろ彼らプラントが散布したNJには電波の伝播を妨害する副次機能もあり、今回はレーザー通信の通信時間を数分だけと言う事で割り込ませてもらったのだ。
 地球の拠点とプラント本国との通信は重要であり連絡を取り合う事に事欠く事は無く常に順番待ち状態で、また自転する地球とのレーザー通信を繋げ続ける事もいろいろと大変である。
 そこをプラント議会――パトリック=ザラ委員長――の後ろ盾でようやく数分だけ開けて貰っていたのだ、数秒後にはここの会話は切断されて他の要員の通信かデータがレーザーとして流される事になるだろう。
 残り数秒で彼は部下を激励するべきか助言を与えようか注意を与えようか迷ったが、いつも通り多少の軽口――この軽口も彼の遺伝子によるものだろうか――を含んだ口調で部下の向上心を刺激する事にした。
『……無論、機会があれば君らが撃ってくれて構わんよ』
 挑発的な笑みを浮かべる事で更に部下を煽る…しかし仮面に隠された顔の表情ではそれを全て伝える事はないが、そんな中途半端な伝わり方――全ては伝えられず残りは相手が勝手に思い込むしかない――が彼が他人に何か伝えるのに一番相応しいような気がしていて彼はいたく気に入っていた。
 そして唐突に画面は途切れる、彼らに与えられた通信時間が終わったのだ。
「宇宙(ソラ)には戻ってくるなって事?
 俺達に地べたを這いずり回って“足つき”を探して来いっていうのかよぉ」
 色黒で金髪の少年はそんな汚れ仕事は自分のような優秀な者が行う事ではないと言うように肩をすくめつつ後ろに立つ少年に同意を求めた。
 しかし包帯を巻いた白髪の少年は無言で退出しようと後ろに振り返り、頭部の包帯を外して歩いて行く。
「おいイザーク!」
 無視された形の色黒で金髪の少年は憤りながらも立ち上がり白髪の少年の後姿に声を掛けるが一瞬で黙り込む…色黒で金髪の少年はそこに周囲に怒気を振りまく白髪の少年の闘気を見た気がした。
「……機会があれば……だと?」
 振り向いた今なら一睨みで5万人を殺せそうな怒気を孕んだイザークと呼ばれた少年の顔には、眉と眉の間にある眉間と呼ばれる人間の弱点とされる部分から右の頬にかけて大きな傷跡が刻まれたままである。
 この医療技術の進歩したCE世界、しかも回復力もナチュラルのそれを遥かに超える物がある彼らコーディネイターに傷を消せない筈が無い。
 だから色黒で金髪の少年は理解した…イザークが傷を残したのは彼の決意の表れ、屈辱を自らに刻み付ける事によってその怒りを力に変えて彼に傷をつけ屈辱を与えたストライクと“足つき”を倒すと言う、彼なりの不退転の決意なのだ……それこそ毎朝毎晩顔を洗う度に新たな怒りを彼に与えてくれる事であろう。
 ……さすがにやりすぎな気がしない訳ではない。
 色黒で金髪の少年…ディアッカ=エルスマンはそこまで熱い性格ではないしむしろクールに物事を捉える性質だと自分では思っている。
 人生は所詮ゲーム、面白おかしく生きた方が楽しいに決まってる…特に自分が勝者になるゲームならなおさらだ。
 が、熱くなるその性格は彼の…イザーク=ジュールの長所でもあり短所でもある。
 彼は短気で怒りっぽいがその怒りは主に相手に向けられる為に自分の力となる事が多い。
 そう思うところがあるからこそ、ディアッカはこの性格に問題が無い訳ではないイザークと共にこれまで戦ってきたのだ…なんにせよ彼といればトラブルに事欠く事は無いし、彼の能力も自分を勝者にする為に使うには問題ない。
「やってやるさ! 次こそ必ず!!
 ……この俺がな!!!」

 その決意は本物のようであった。
 イザークはそのまま歩き出し、あっけに盗られたディアッカがようやく追いつくとそこは基地司令の部屋の前であった。
「おっ。おいイザーク…」
 イザークがノックもせず部屋に入った瞬間、さっきのイザークと同じような怒気を孕んだ声がその中から聞こえてくる。
「なぜこれ以上の戦力は提供できないと言うのですか!」
 ちらりと視線を入ってきた2人に向けた基地司令とは対照的に、声を荒げる本人は2人には気がつかないように叫び続けた。
「AAにはストライクの他にもMSが三機合流しています!
 そのMSの詳細は分析中ですが大気圏内を航行できる機動戦艦にMSが四機、これは十分脅威になる戦力です!
 降下した位置からですと占領したビクトリア宇宙港の攻撃も可能ですし、ここジブラルタル要塞の背後を突く事すら考えられます!
 このまま奴らがアフリカに居座ると、連合が南アフリカ統一機構をまだ支援すると言う政治的な意味合いに使うのかも知れません、ともかくこのままにしておくのは我々の為になりません!
 一刻も早く叩いておく必要があるのです!
 こちらにもっと戦力を回してください、今直ぐに!!」
「……AAだと?」
 イザークの低い呟きは失った以上の戦力の補給要請をジブラルタル基地司令に噛み付くダコスタの耳にも入った。
 それは同じ感情を同じ敵に向ける同士としての共鳴なのかも知れない。
「君は?」
「クルーゼ隊のイザーク=ジュールだ、AAを知っているのか?」
「ああ、手痛くやられた…クルーゼ隊か、確かAAを宇宙(ソラ)から追い落としたのが君らだったな」
「……遠回しではなく撃ち漏らしたとはっきり言ったらどうだ?」
 口調は静かに、だがイザークの雰囲気が鋭く尖り拳に力が入れられたのをディアッカは気がつき、飛び掛ったらすぐにでも止めるべく身構えた…が。
「俺は奴らにバクゥ五機と支援部隊を丸ごとやられておめおめと逃げ帰った。
 簡単に仕留められる相手だとは思っていない、むしろ奴らをこちらの勢力圏に追い落としたクルーゼ隊の手際は見事だった」
 ダコスタは自らの失点をさっさと明かしAAが並みならぬ相手だと公言した…イザークとダコスタはお互い相手が何を考えているのか探り合うかのように睨み合う。
 先程の喧騒から打って変わって重い空気が室内を支配したが、それを打ち破ったのは司令官の発言であった。
「……そうだ……ダコスタ副官、彼らをバルトフェルド隊に配備しましょう!
 彼らもAAに対して討伐意欲を燃やしているようですし、彼らは連合から奪取したMSを乗りこなしていると聞きます、彼ら二人がいればバクゥ四機分の働きはしましょう!
 うん、それがいい!」
 ダコスタの強固な押しかけ要請にうんざりしていた基地司令のクロード=オーキンレックは暑さのせいかそれとも冷や汗か吹き出す汗を上品なシルクのハンカチで拭きながら自分の提案に一人満足げに頷く。
 振って沸いてきた赤服の少年二人をどう扱っていいのかと決めかねていた事もあり、頭痛の種になりかけていたこの問題を一気に両方解決できるたった一つの冴えたやり方を思いついたようであった。
「……俺はそれで構わない、AAと…ストライクと戦えるならな!」
「まぁイザークがそう言うなら…」
「ダコスタ副官、ではそういうことでよろしいですね?」
「しかし人型のMSでは砂漠での機動戦は…」
「ダコスタ副官、我々にも余裕は無いのです……バクゥのような局戦は数も多くは無いのですし、支援車両はどの部隊も必要なのです。
 戦力を渡さないとは言ってません、これ以上はそちらに割けないと言っているのです……彼らクルーゼ隊二機の追加でよろしいですね?」
 ダコスタはそこで頷くしかなかった。
「司令、我々の要求を早急に聞いていただき、ありがとうございます」
 イザークはダコスタを押しのけてオーキンレック基地司令の前に立ちそう言うと深々と礼をし、ディアッカもそれに習い…ディアッカはそのままの姿勢で口を開く。
「つきましては司令、我々の配下として部隊を貸していただきたい」
「なっ…なんだって!?」
「我々クルーゼ隊地上派遣部隊はAAとストライクを討伐するべく議会の最優先命令を受けております。
 議会から通達が来ておりませんかな?」
 これは無論ディアッカのハッタリである。
 確かにオーキンレックには『援助するように』との通達は来ていた…そこでディアッカが自分達は議会の最優先命令を受けていると言う事により『議会の最優先命令』を『援助するように』と思い込ませたのだ。
「……判りました、部隊を捻出するのにしばし時間をください……」
 オーキンレックの搾り出すような声と共に部屋を後にする3人…少し歩いたところでダコスタとディアッカはお互いを見合い、それこそ悪代官と悪商人のような笑みを交わす。
「これから世話になる、手土産だと思ってくれ…ディアッカ=エルスマンだ」
「マーチン=ダコスタだ…さすがは赤服、こっちにいる間の世話は全て任せてくれ」
「俺はイザーク=ジュール……ストライクとAAは俺が倒す!」

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