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08MS-SEED_96_第02話1

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:20:35

「どういうことだこりゃ!?」
 コジロー=マードック曹長はひたすら困惑していた。
 坊主(=ヤマト少尉)らと共に新たなG兵器…MSがやってきて当然のように整備をしなければならないのだが…新型機(?)だけあってストライクとはいろいろ違っているようだ。
 否、ぜんぜん違う…何とかメンテナンスベッドに収納したのはいいとしてなぜだか機体全体が熱い。
 砂漠で日が昇ってきたからかとも思ったがストライクはそうでもない、とりあえず整備の者には厚いグローブを着けさせたが、まずは冷却でもしないと本格的な整備にもかかれないかもしれん。
 そして規格が違うらしく、武器もG兵器にあわせて作られた(もしくはG兵器がAAの規格に合わせられたのか)AAのメンテナンス用の通路や整備マニュアルに適してない。
 ……なによりMSのもっとも大切な電源ケーブルを接続するコネクターが見当たらないのはどういう事だ?
 MSにとってバッテリー残量は命。
 こいつが無ければビームライフルも撃てないしPS装甲もダウンしちまう…何より機体が動かなくなる、故にMSはカタパルトで射出する瞬間まで電源ケーブルに繋がれてバッテリーの消耗を防いでいるのだ。
 さすがに電源ケーブルが切れたら3分で動かなくなるなんて事は無い、それでも1秒でも長く1馬力でも多くの出力を出せた方がいいに決まってる。
 確かにコネクターが弱点と言えない事も無い、何処かのハッチの中にそれが隠されているのかも知れないと次々とハッチを開けて回るも、
小型のバッテリー等に使うと思われるような小さなコネクターは見つけたものの、目標であるメインバッテリーらしい物が見つからない。
 ……それは整備に当たる兵(つわもの)としてのプライドをいたく傷つけていた。
 すぐ側の格納庫の端の方で新しく合流したこのMSのパイロットであるアマダ少尉は今、指揮下にあるハチ小隊の面々とうちの艦長や副官、フラガ少佐と坊主と話し合っている。
 どこにあるのか聞いちおうかと思ったが、整備士としての最後のプライドがそれを止めていた。
 このMSのパイロット達は坊主に比べかなりの腕前だったと伝え聞く、だったら整備に任せる前に必要な動作を忘れる筈が無く、電源ケーブルのコネクタを守るハッチのロックを開けない筈が無い。
 今いじっているのはアマダ少尉の隊長機であり、アマダ少尉がうっかり開け忘れているのではないかと他のMSにかかっている整備士に聞いてみたがやはりそのような部分が開いているとの報告は無い。
 彼らの常識では整備士が電源ケーブルコネクタのハッチを開けるのかもしれないと、ストライクとは違って胸部の上部にある開いたままのコクピットを覗いて見たものの…新型だけあるのかさっぱり判らないし、それらしい表記やボタンやレバーも無い。
 どっちにしろ、ここまで見つからないのであればこのMSはカタパルトで射出する前に電源ケーブルを外さなければいけないだろう。
 それはこのMS達がこのAAでの運用を前提にされていない事を示すのであり、敵のど真ん中に降下したAAでしばらく同居しなければならない事を考えればいろいろと運用に無理が来るやもしれない……それはどう転んでも整備に当たる自分らの負担が増えると言う寸法だ。
 今まではストライクとメビウス0の2機だけだったので何とかなったが、これからはMS4機とスカイグラスパー3機の一気に3.5倍に増えたのだ、元々人員も少ないのに機数が増えるだけでももう十分に人員不足なのだが。
 ともかくもう一度と、今度は先ほど以上にメンテナンス用のハッチや装甲を開け、防塵用にカバーされた部分を外して行く。
 そして胸部の大掛かりなメンテナンスハッチ…と言うよりは装甲自体を開くように右の胸部を開けてその奥のハッチを開けて中に入り込むと、今度は何だかよく判らない機関にぶち当たる。
「…なんだこりゃ?」
 ケーブルの配線や機体中央部分にあること、厚い装甲で守られている事を考えてもこれがMSの心臓と思われるが…どう見てもバッテリーではない。
 それにこの仰々しい冷却装置は…バッテリーから電力を取り出すと確かに熱は出るがそれにしてもこの冷却装置はオーバースペックに見える。
 まったく新しい未知のテクノロジーにぶち当たったような感覚を覚え――事実その通りなのだが――冷や汗をかきながら息を飲み込むマードック曹長。
 手がかりを探す彼が見つけたのはその謎の機関に付いていたプレートで、そのプレートには『Nuclear Fusion Reactor』と書かれていた。
「……核…融合…炉……まさか……」

 マリュー=ラミアス少佐は現在AA艦長である。
 元々は士官学校をそれなりに優秀な成績で卒業し同時に技術仕官としての教育も終了していたという才媛で、その後は第八艦隊のハルバートン准将推し進めていたG兵器開発計画に参加して開発にも携わっており、AA就航後は副長の一人となってG兵器のオブザーバー的な存在として艦長を補佐し、MS運用の経験を積み戦術を構築して最終的には量産化に向けての計画に携わる筈であった。
 が、“ヘリオポリス”で艦長であったバルケンバーク大佐以下幹部が皆戦死し、軍令承行令(艦長等が指揮を執行できなくなった場合の指揮継承順位に関する決まり。
 指揮官としての教育を受けている兵科将校の方がたとえ機関科や整備科や医務科や主計科の将校より階級が低くても艦を指揮しなければならないという順位を決めるものであり、例えばラミアス大尉(当時)は整備科や機関科や内務科のトップに立つ立場でもあったがAA全体の副長である為兵科にも属しており、CIC(=Combat Information Center、中央戦闘指揮所)長であった兵科のバジルール小尉(当時)より先にAAの艦長代理に着任したのだがこれが整備科にしか属していなければ階級が高くともAAの艦長代理はバジルール小尉(当時)が着任していたであろう。
 フラガ大尉(当時)はAA所属ではないので階級が高くても艦長代理にはなれない)により繰り上がってAAの艦長とならなければいけなかったのだ。
 4機のG兵器を奪われたその後も、民間人のコーディネイターがG兵器を操縦できる唯一の人材であったり、“ヘリオポリス”が崩壊したり、民間人を収容したり、奪われたG兵器が襲ってきたり、味方であるが味方ではなかった“アルテミス”で逮捕されたり占拠されたり、コーディネイターの歌姫を拾ったり無許可で返されたり、そんなこんなで苦労して第八艦隊と合流したものの目の前で壊滅し第八艦隊司令官でG兵器開発の先頭に立っていたハルバートン准将が戦死したり、唯一残されたG兵器のストライクを守るためにアラスカに降下できずに敵勢力のど真ん中の砂漠に降下したり……。
 このままでは26歳にして眉の間に深い皺が刻み込まれてしまう…その前に胃潰瘍か十二指腸潰瘍になる可能性の方が高いのだが。
 そして悩みの種がまた一つ――これは絶対一つでは済まない――眼前に広がっていた。
 ストライクの他に見知らぬ所属不明の3機のMS+トラックだけでも十分大事なのだが、その所属不明機がまるで漁師のように網にかかった獲物…バクゥを引きずって来ていたのだ。
 引きずった後が無いのはトラックがホバートラックで後を消してきたらしい…それぐらいは気が回る部隊のようだが、何か泥臭いというか特戦隊みたいな気がする…自分とは余りソリが会わないかもしれない。
 さらにそれらのMSを取り囲んでいる所属不明のハーフトラックの群れはレジスタンスらしい…所属不明機のパイロット達は既にレジスタンスの輪の中で親しげに歓談しているようだし、唯一所属が判っているキラもレジスタンスの小柄な金髪の人物とじゃれ合っている…。
 昨晩ザフトの敵襲があってストライクが出撃してから戦闘はそちらへ移り、謎のMSが出たり巨大な爆発が起こったりと状況は推移しているのにAAはまるで置いてきぼりを食らったように状況からも情報からも取り残されてしまった。
 要領を得ないキラの説明で合流ポイントへ向けて飛翔してたどり着いた所に広がっていたのが今の情景である…マリューならずとも頭を抱えるであろう。
 事実人手不足となし崩しでAAの副長のポジションにいるナタル=バジルール中尉も美しい眉をひそめてこの状況を何とか把握しようと努力しているようだ。
「……ともかく、話し合わなければならないようね」
「味方…と判断されますか?」
「ヤマト少尉がすっかり打ち解けちゃってるようだしね、それに謎のMSについても話を聞かない事には判断付かないわ。
 後をお願い」
「ハッ」
 マリューは兵科から武装させた数名と共にAA下部ハッチへエレベーターを降りる…中には出番も無く終わったムゥ=ラ=フラガ少佐も同行する。
「やれやれ、出番が無かったとは言え……俺、こっちはあんまり得意じゃないんだよね」
 おどけた表情で弾が入っていることを確認して再びハンドガンをホルスターに入れて叩くムゥの言動に、緊張を孕んでいたエレベーターの中はくすりと笑いが漏れる。

 艦内では唯一の同じ階級でもあり“エンディミオンの鷹”と証されるエースパイロットであるムゥの存在はマリューにとっては頼りがいのある存在だ……時折見える軟派な態度はどうかと思うのだが。
 彼がおどける状況であればまだ何とかなる、そんな存在感もエースパイロットの資質の一つなのであろう。
「フラガ少佐にも不得手があるんですか?」
「当たり前だろ、俺だって人間だからな…だから頼りにしてるぜ?」
「後ろの守りは任せてください」
「影から見てますからね、何かあったらすぐ駆けつけますよ」
「そりゃぁたのもしい、一つ頼んだぜ」
 ムゥもAAの乗員もまだ雑談で緊張をほぐす事が出来る余裕がある、むしろそれすらなかった自分を少々恥じつつ、このメンバーがいる限りマリューは大丈夫な気がしていた。
 そんな柔らかな雰囲気も、エレベーターが最下層に付くまでであった。
 兵科の人間は下部の扉の左右にアサルトライフルを構えつつ潜み、マリューとムゥは雑多な人種の交じり合う中へ向かって行く。
 飛んできたAAを見上げる者、雑談する者、バクゥの前で記念写真を撮る者、殴られるパイロット、近づいてきたAAの軍人を睨みつける者…。
 その中で雑多な人々の中から進み出てきた人物は、軍服のようなものを着ている数名に私服の少女だった。
 彼らはマリューとムゥの前に進み出て踵を揃えて敬礼――もちろん私服の少女はしない――し、マリューとムゥもそれに返礼する。

「極東方面軍機械化混成大隊MS第二中隊第8MS小隊隊長、シロー=アマダです。
 以下三名は8小隊所属、ジョシュア曹長、サンダース軍曹、ニノリッチ伍長、そして…我々の民間人協力者のキキです」
「地球軍第八艦隊アークエンジェル艦長、マリュー=ラミアスです。
 こっちはムゥ=ラ=フラガ少佐…」
「ほぅ、“エンディミオンの鷹”とこんな所で会えるとはよ」
 横から野太い声が会話を遮ってかけられ、全員そちらへ顔を向ける。
 いつの間に近寄ったのかレジスタンスの一団のなかでも体格のいい髭面で頬に傷を持つ男が数名引き連れてやってきていた。
「この辺に知り合いは居ない筈だがね…俺も有名になっちまったもんだ。
 で、そちらのミスターはどこのどなただい?」
「俺はサイーブ=アシュマン、俺達は“暁の砂漠”だ。
 あんたらを助けたとは思っちゃいねェ、礼ならいらないぜ?」
「貸し借りはなし……と言う事ね」
「そー言うこった。
 …さて、お互い何者か判った所で聞きたい事があってね…こっちとしちゃぁ地球軍の新型特装艦なんて禍の種が振ってきて驚いてるんだ。
 あんたらもこんな場所に好きで降りてきた訳じゃなかろう?」
「…それはここから立ち去れという事かしら?」
「そうは言ってネェが…こっちとしても“砂漠の虎”相手に何かと苦労していてね」
「“砂漠の虎”ですって!?」
「あ〜りゃりゃ、そんなやばい相手かよ…」
「フラガ少佐、“砂漠の虎”とは?」
 聞き慣れない言葉にシローが反応し、マリューとサイーブの会話を邪魔しないようにムゥに小声で話しかけた。
「知らないのかい?
 “砂漠の虎”って言えばアンドリュー=バルトフェルトの別名さ。
 パーソナルカラーのバクゥを操り、ユーラシア戦車部隊をエルアラメインで壊滅させたザフトのエースパイロットさ」
「……ザフト?」
 シローら08小隊の面々が納得行かないような顔でお互いを見合わせているうちに向こうでは話が纏まったらしい。

「ヤマト少尉、遊んでないでストライクを艦に戻しなさい!
 …さてアマダ少尉、あなた方にはまだいろいろと聞きたい事がありますが…まずはあの“大物”を何とかし
なければならないわね。
 …よくままぁバクゥを無傷で捕まえたものね」
「運よくそういう装備がありましたから…パイロットは衝撃で既に死亡していました、亡骸は指揮車に乗せたままです」
「そう…まぁここで敵のコーディネイターの捕虜を作るなんて厄介事を更に抱えなくて済んだわ…彼には悪いけどね」
「…コーディネイター?」
「ところで……極東方面軍のあなた方が何故ここに?
 それより、連合にいつの間にMS部隊ができた訳?
 ストライクを初めとしたG兵器が最初のMSだと思ってたけど…東アジア共和国じゃMSはもう量産されてるの?」
「はぁ?
 …自分は一月ほど前に8小隊の隊長に就任しましたが…MSはもうとっくに量産されてるんじゃ…。
 ……ラミアス艦長、東アジア共和国とは?」
「はぁ?
 地球連合を構成する国の一つじゃない、知らない訳無いでしょ?
 っていうかMSがそんなに前からあるなんて聞いてないわよ?」
「地球…連合?
 地球連邦じゃなくてですか?」
「連合はあくまで連合よ…アマダ少尉、からかわないで!
 それより、最重要機密であるMSがレジスタンスと協力するなんて…」
「敵MS五機の内、三機は彼らの協力のおかげですよ。
 記念撮影もバクゥは撮ってもいいと言いましたがガンダムは撮るなと言っておきました…連中も素直に了解してくれましたよ」
「それは幸いだけど…」
「……ラミアス艦長、我々8小隊をアーチエンジェル…」
「アークエンジェルです」
「…アークエンジェルに乗船許可お願いします。
 ちょっとお互いの事情がかみ合っていないようです、ここで話し込むよりは場所を移動した方がいいと思うのですが」
「…それもそうね。
 とりあえずレジスタンスとは話が付いて、彼らの本拠地に一時身を寄せることになります。
 あなた方のMSについてもいろいろ聞きたいところですし…。
 AA艦長として8小隊に乗艦を許可します」
「ありがとうございます。
 よし、カレン、サンダース、MSに搭乗して鹵獲機をAAに運び込むぞ、ミケルは指揮車で足跡消しを頼む。
 詳しい話はAAに乗ってからにしよう。
 ……ひょっとすると……我々はとんでもない状態に陥ってるかもしれないぞ?」
「それは…どういう事でしょうか?」
「隊長、なにかあるんですかぁ?」
「……先程の噛みあわない会話に関する事ですかね、隊長」
「そうだ、キキは……カガリさん、AAに乗るんですか?」
「ああ、案内人が必要だからな」
「うちのキキもつれてってくれませんか?」
「え、なんだいそりゃ。
 …まぁ、空飛ぶ船に乗れるならいいか」
「そうしてくれ。
 よし、行動開始だ!」
「「「了解!」」」

 バクゥを収納しストライクと共に格納庫に入った陸戦Gは、余っていたG兵器用のメンテベッドにその機体は収納し、コンテナをつけたままではメンテベッドに入れない為、またストライクのランチャーパックのようにAA側での収納する規格に合っていなかったので指揮車と共に隅に置かれてチェーン等で床に固定されている。
 そして先程のマリュー、ムゥに加えナタルと、ストライクから降りてきて口をへの字に結んで軽く睨みつけるような目線をシローに送るキラが08小隊の面々と顔を合わせていた。
 キラの視線を受け流しつつ少々考えるようなしぐさをして言い澱んでいたシローは意を決したようにマリューに口を開く。
「ラミアス艦長、唐突で申し訳ありませんが実は我々は位置を見失っておりまして…現在位置はどこなんでしょうか?
 それと正確な時間…現地時間で結構ですが」
 なにそれ? な表情を隠さないままマリューは答える。
「正確にはオペレータに聞かないと判らないけど、ここは北アフリカの砂漠で今は…4:54って所かしら」
「え!? 中央アジアの砂漠、ではないのですか?」
 サンダース軍曹が聞き返し08小隊の面子は様様に驚いた訝しんだりする中、一人シローは納得する…というかやはりという顔をする。
 対してAA組はなんだこいつらカラかってるのか風な雰囲気を濃厚に漂わせる。
「我々が砂嵐の中で現在地を見失ったのは数時間前の中央アジアの砂漠で、その時はまだ14時だったのですが…」
 カレンの状況説明もヘタクソ以下な嘘としか聞こえない。
 バクゥを鹵獲する程優秀だった筈の特戦MS隊が何故こんな意味不明の事を言い出すのか…その意図が読めずに困惑し、また08小隊の面々からも自分のおかれている状況が判らずに困惑しており、辺りを妙な空気が包んでいた。
 それはキラの出迎えに来たフレイが彼らが周囲に発散する異様な気に圧倒され近寄れずにいたぐらいだ。
 その異様な雰囲気に気がついた整備士の連中も手を休め遠回しにそちらを見つつ聞き耳を立てているしかなかったのである。
「アマダ少尉、我々は宇宙から降りてきたばかりなので東アジア共和国風のジョークには慣れていないのですが」
 いい加減にしてくれと言わんばかりにナタルがシローを睨みつける。
「バジルール中尉、あなた方が戦っている相手はなんと言います?」
「はぁ?」
「もう、いい加減にしてちょうだい!
 戦争している相手を知らない軍人なんている筈無いでしょ!
 これで最後よアマダ少尉、私達の戦っている相手はザフト、プラントのザフトよ!!」
 とうとう切れてヒステリックに叫ぶマリュー、しかし08小隊の面子もますます困惑するしか無い。
「ザフ…ト? プラント…? なんですそれ?」
「隊長、知ってます?」
「我々はジオンと戦っているのではないのですか、ラミアス艦長?」
「ジオン? そっちこそ何を言ってるか判らないぜ?」
「おかしくなったとでも言うんですか?」
「部隊ごと集団幻覚でも見ているのでしょうか?」
「……まさか……ひょっとしたら……」
 キラもムゥも訳の判らない事を言い出す08小隊の面々に疑いの目を向ける…ナタルは先にマリューに切れられてしまった為に勤めて冷静にするしか無いと腹を括ったようだ。
 そんな中、一人シローは額に汗をかきつつも何かに思い当たったかのように納得していた。
 そしてそれをどう伝えようかと熟考する様にゆっくりと目を閉じ、意を決したように大きく深呼吸をして目を見開いて全員の顔を見ながらゆっくりと自ら状況をかみ締めるように区切りつつ話し出した。
「皆さん…ちょっと確認の為に皆さんには自分からの質問に答えてもらいます、よろしいですね?」
 その異様とも言える雰囲気に思わず飲み込まれたように黙り込む。
 軽く混乱している中ではっきりと信念を持った人物が率先して物事を進めた場合、多くの人はそれに飲み込まれるというか引きずられることが多い。
 異様な程の緊張感と緊迫感を持って言葉を重ねるシローに、その場に立つ7人は流れに引き込まれてしまっていて首を縦に振るしか無かった。
「…では質問を開始します。
 ラミアス艦長、あなた方が戦っている相手はザフトという軍隊なのですね?」

「そうよ」
「サンダース、我々の敵はなんだ?」
「はっ、ジオン…ジオン公国軍です」
「バジルール中尉、ここは地球ですよね?」
「…もちろんそうです」
「フラガ少佐、ここの地球の大陸の名前を答えてください」
「あぁ…うん、ユーラシアにアフリカ、南北アメリカにオーストラリア、かな」
「カレン、君はどうだ?」
「はぁ…ユーラシアをアジアとヨーロッパに分けるかどうかで見解は別れるとは思いますけがだいたいはフラガ少佐と同じです…正確に言えば南極大陸も入りますが」
「ヤマト少尉、君が乗っているのはモビルスーツか?」
「あたりまえじゃないですか、さっきから何をからかってるんです!?」
「ミケル、太陽系の惑星の数と地球の衛星はなんだ?」
「ハァ…惑星は水金地火木土天海で8つと…衛星は月、ですよね?」
「ラミアス艦長、あなたはどうですか?」
「ん〜……(指を折っている)あってるけど…それがどうしたって言うの!?」
「そうですか……地球とその環境はほぼ同じといっていいのか……。
 フラガ少佐、飛行機を発明したのは誰です?」
「えと…ライト兄弟、だったっけ?」
「カレン、どうだ?」
「兄がウィルバー・ライト、弟がオービル・ライト、二人合わせてライト兄弟ですね」
「ヤマト少尉、リンゴが落ちる物理現象をなんと言う?」
「…万有引力の法則、ですよね」
「ミケル?」
「はぁ…それでいいと思いますが…一体何を?」
「バジルール中尉、今は何年何月ですか?」
「ん…CE71年、2月15日ですが…」
「CEとは?」
「コズミック・イラですが?」
「サンダース、我々の年号は何だった?」
「UC…ユニバーサル・センチュリー、0079年の10月…でしたが」
「やはり…違うのは最近なのか…」
「アマダ少尉、さっきから何を?」
「話を聞いていれば…事実と違った事を言ったり常識的なことを聞いてきたり何の為にこんな事を…」
「では最後の質問。
 ヤマト少尉…コロニーが落着した場所は…どこだ?」
 キラはシローがその質問をしたその瞬間、一瞬だけではあるがものすごく苦しげになった気がしたが…まるで自分達の正気を疑っているようなその世界の基本的な知識の質問をしてくる事にそんな事はどうでも良くなりキラは声を荒げる。
「コロニー? 落着? 何訳の判らない事言ってるんですか!?
 確かに“ヘリオポリス”は僕らの目の前で崩壊しましたが、地球になんか落ちてませんよ!」
「「「!!!???」」」
 キラのこの返答にAA組はキラが大声を出した事に少々驚いた程度だが、08小隊組は露骨に…そしてありえないと言わんばかりの驚きと動揺を示す。
 その狼狽っぷりは発言したキラすら自分が基本的な世界情勢について間違った発言をしたのかと動揺させるものであったが…しかし自分が言ったここ数分の台詞を思い出して間違った事は言ってないと安心する。
 では目の前のシローを除いた3人の動揺っぷりはいったい何なのだろうとキラは不思議でならなかった。
「コロニーが…落ちてない?」
「じゃぁ…じゃぁ…あなた達はどこと戦争してるんです!?」

「ザフトだろ、聞いてなかったのかいミケル……最もそんな物が本当にあれば、だが」
「……そうか……やはりそうだったのか……」
 再びシローが眉に皺を寄せ顔面蒼白になって呻り出す…見て取れる程の脂汗をかき、首元のTシャツをぐいと下げて荒れていた呼吸を深呼吸して鎮めると、再び全員に鬼気迫るような眼力を向けてゆっくりと話し出す。
「みんな落ち着け……そして皆さん、冷静になって聞いてください。
 我々8小隊はアジア中央方面の砂漠で任務についていましたが途中昼頃砂嵐に遭遇し位置を見失いました。
 そして嵐が収まった時には深夜の北アフリカ方面の砂漠にいてあなた方に合流、敵と交戦しました。
 邂逅してからの我々8小隊とAA乗員とでの奇妙な常識の一致と不一致。
 お互いが嘘を言っていないと仮定して…そしておそらくそれは仮定ではなく真実なのでしょうが…それらがお互いに成り立つ為に起こった納得の行く状況があるとするならば、そしてそれが実際に起こったのなら!
 とある現象が起こったという事で全てに説明が付きます…それは……」
 そこまで言いつつ、最後の結論の前で言い淀むシロー。
 妄想なのか真実なのか先を早く言って欲しいのかもういい加減にして欲しいのか、それぞれがそれぞれの割合で交じり合いつつも緊張の度を高める面々…そしてシローは決着をつけるべく、重い口を開いたのである。
「どうやら我々8小隊は…別な世界にやってきたようです」
「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」
 目が点とかポカンとするとか鳩が豆鉄砲食らったというかそんな唖然としたと言うのがぴったりな表情を浮かべるしかない人々、それでもシローは話を続ける。
「当初は何か超自然的現象によりアジアの砂漠からアフリカの砂漠に運ばれてしまったのではないかと思っていました。
 しかし我々の常識とあなた方の常識は、驚くほど似ている部分があるのにまるで違っている部分も多く存在します。
 宇宙とか地理とか自然現象とか法則に関しては同一の様で、人類の歴史が一定までは同じようですが…近年、察するにユニバーサル・センチュリーとコズミック・イラとの年号が付いた人類が宇宙に進出した前後の辺りからの歴史が違うようです。
 そう考えれば別の世界と言うよりは並行世界と言うべきでしょう。
 並行世界の存在は素粒子物理学的見地から存在が予言されている事象ではありますが、それを実際に観測する事になるとは……」

『……………』

 いきなり飛躍した論理展開に驚くと言うよりはあきれる人々。
 特にキラやAA乗務員達はアマダ少尉は今朝未明の戦闘で酸素欠乏症か何かでおかしくなったに違いないと確信している。
 そしてそうは考えなかった数少ないメンバーの内の一人、マリューはホルスターからハンドガンを抜いてシローに突きつけた。
「アマダ少尉、貴方をスパイ容疑で逮捕します」
「おいおい、それはちょっと早計過ぎるんじゃないのか?」
「いえ、彼らを逮捕してくださいフラガ少佐…みんなも手伝って頂戴、彼らは恐らくAAを強奪に来たザフトの工作員よ!」
「我々は地球連邦軍の軍人であってザフトとか言うものの工作員ではありませんが…」
「お黙りなさい、そうやって我々を混乱させようとしても無駄です」
「…艦長、それは違うと思いますよ」
「バジルール中尉、あなたまでおかしくなったと言うの!?」
「いえ、状況的に見てもそれは無いと申しているだけです。
 内部に潜入しての工作であればこんな戯言を言わずとも普通に接する方が任務を達成できるでしょう。
 現に彼らはAAに乗り込んでいるのです、このまま夜を待つなりしてから行動する方が確実です」
「彼らはバクゥ四機を破壊したフリをしてまんまとバクゥ一機をAAに持ち込んだのよ、何を企んでいるか…」
「おいおい、少尉の話もブッ飛んでるがその考えもおかしいぜ?
 俺達は偶然この砂漠に落ちてきたんだ、それなのに用意周到に罠を仕掛けて待っていると言うのはありえないな」
「じゃぁさっきの話を信用しろって言うの!?」
「いや、それは……」
「自分は信じますね、その話!」
「え?」
「マードック班長……!」

 唐突も無く周囲に響き渡った大声、それは頭上十数mのメンテベッドの上からかけられた。
 そこにはメンテベッドの中に立つフルハッチオープンしたかのような陸戦Gの前に立ったAAに住む整備の鬼、コジロー=マードック曹長が腕を組んで仁王立ちしていたのだ。
 マードック曹長はMS班班長…と言う訳ではないが、整備科のトップはマリューなのであるが艦長業が忙しく整備の現場にほとんど顔を出さない為、実質的にNo.2のマードックが整備科のトップだと言っても過言ではない。
 その為誰が始めたかは定かではないがいつの間にやら『班長』と言う冠が付く様になり、今では誰もが“マードック班長”と呼ぶようになっていたのである。
「自分はアマダ少尉が別世界から来たって言うのが、一番納得行く話だと思いますよ」
「マードック班長…あなたまでおかしく…」
「まぁこっちへ来てください、確たるヨウコ…ならぬ確たる証拠って奴をご覧にいれますよ!」
 何事かとメンテベッドに上がるAAの4人とシロー。
 そしてマードック班長が見つけた例の機関を見せるが、ナタル、ムゥ、キラの3人は何がなんだか判らないまま戻ってくる。
「これが? 何?」
「まぁまぁ、艦長がご覧になるまで待ちましょうや」
 マリューも技術仕官であるが目の前にある機関が一体なんなのかを知る事はできなかった…そこで素早く周囲を見渡して手がかりを掴もうとして目に入ったプレートには、更なる混乱を招くものが書かれていた。
 繰り返すがマリューも技術仕官である、そこに書かれた文字を見て衝撃を受けない筈が無い。
 こんなもの嘘に決まっている、しかしもしアマダ少尉の戯言が真実でそれが目の前にあったとしたら…それが今も可動状態にあるのであれば……その価値は計り知れないどころか、この世界をひっくり返す事すら可能であり…そしてそれをどうするかの判断を自分はしなければ成らないのである。
 これは嘘だ、嘘に決まっている、嘘でなければならない、しかし本物だとしたら……陸戦Gの胴体から這い出してきたマリューは激しい精神的動揺に足元をふらつかせていた。
「タキム社製? NC? 核……融合炉!?
 嘘よ、こんな物ありえないわ、こんな物のどこを信じろって言うのよマードック班長!」
「艦長、目の前にある機械を信じれないようじゃァ、技術屋失格ですぜ。
 アマダ少尉、このMSは核融合炉で動いてるんですね?」
「はい、核ジェネレータです…この世界には無いんですか?」
「おいおい、嘘だろ?」
「核融合炉って……まだ実用化されてないんですよね?」
「そうだ坊…少尉、実用化に失敗してとっくに開発は中止している」
「核融合じゃなくて普通の原子炉とか…」
「原子炉だったらMSを動かせる程の電力を生み出せる物をこの程度の大きさでは作れませんよ。
 ニュートロン・ジャマー(以後NJ)影響下で動いている事自体おかしいって事になりますし、ここにいる全員被爆してますよ…この距離なら致死量の放射線を浴びていて不思議はありませんしね」
「本当に動いてるんですか? ただの見せかけで普通にバッテリーで動いているとか…」
「…アマダ少尉、顔だけでいいから動かしちゃぁくれませんか?」
 頷いてコクピットに入ったシローは脚や腕等の関係ない部分を除いて胸部の装甲などを閉め、陸戦Gを起動させる。
 ツインアイを光らせて再起動した陸戦Gは顔を左右に動かし、未だ健在である事を周囲に示した。
「どうです、まだ動くでしょう…PS装甲が無いから多少は稼働時間が長いとしてももう数時間は稼動してます、ストライクならとっくにバッテリー切れしてますよ!
 それに頭の先から足の先まで…文字通り足の裏まで見ましたが電源コネクターが見当たりませんでした、こいつを充電する事はできやしないんですよ。
 我々の世界で今このMSが動く事自体がアマダ少尉が別世界から来た立派な証拠さ!」
「じゃぁ…じゃぁ……アマダ少尉は……本当に別世界の人間!?」
「そう言う事です……アマダ少尉、ようこそCEの世界へ!」
「こちらこそしばらく厄介になります」
 コクピットを降りたシローと愉快に笑うマードック班長は、陸戦Gの前でがっちりと硬い握手を交わした…
…二人以外が唖然とする中、北アフリカを飛行するAAの中で……。

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