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08MS-SEED_96_第03話2

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:28:22

「サイーブ、どういうことだこれりゃ!?」
「…客人だ、仲良くしろよ」
 翼の両端を崖に擦りながら“暁の砂漠”の秘密前線基地のある岩山の谷底に着地したAAは、MSの手により擬装ネットを被せる作業が進められていた。
 それを横目にマリュー、ナタル、ムゥの3名は“暁の砂漠”の司令室に通されていた…周辺の情報を得る事と今後の具体的な“暁の砂漠”との協力体制の確立、そして今後のAAのとるべく進路に付いて話し合う必要があったからだ。
「ひょ〜〜〜…こんな所で暮らしているのか?」
「ここは前線基地だ、皆家は街にある…焼かれてなければだがな」
「街?」
「タッシル、ムーア、バナディーヤ…俺達は有志で集まった一団だ」
「…艦の事も助かりました」
「……持ちつ持たれつだ、こっちにも協力してもらう事もある」
「……俺達も大変だけど、アマダ少尉達も大変そうだよな。
 戦時中の軍人が異世界に来てみればそこでも戦争の真っ最中…どうするんだろうねェ連中……」
「こちらに協力する気はあるみたいですけど……」
 サイーブは脇のコーヒーサーバーから金属製マグカップにコーヒーを入れ一人で飲みつつ地図を睨んでいる。

 自分にも入れてくれるかと期待したマリューだがサイーブが一人で飲み始め、自分で入れようとしたもののその場にもうカップはなく紙コップも無かったので結局飲めずに話に参加した。
 周囲の状況や最近の出来事も聞くが、バナディーヤには“砂漠の虎”と彼の指揮下であるバルトフェルト隊がこの一帯に展開しているとか、ビクトリア宇宙港が2月13日に占領されただとか、ここは親プラント勢力のアフリカ共同体やザフトの支配地域であり連合軍勢力である南アフリカ統一機構は追いやられている等、いい話題は聞こえてこない。
 更にAAの今後の進路もザフトの支配地域やAAが高度をそう取れない為に山脈等を避けてアラスカへ向かうには、ジブラルタルを突破するか紅海方面を抜けてインド洋に抜けるかぐらいの物とだ再認識する。
 予断であるがこのAAの大気圏内での飛行方法が軍機(?)である為、この高度と言うのが海抜からの絶対高度なのか地表からの相対高度なのかが判断できなかったりする。
 前者であれば飛行に大気の密度や気圧が関係するのか例え緩やかな地形であっても確かに山脈は越えれないという事に成るのだが、後者であれば磁力による地表との反発力とか地面効果を利用しているのか緩やかであれば高地も何とか超えれる筈なんですけど…でも水中も移動できるからなんだか判らないなぁ。
 まぁ機器トラブル等で落下した場合海面の方が被害が少ないと言う判断だったのかもしれませんが…そもそも浮くのかAA……?

「はぁ〜〜…レジスタンスの隠れ家にいるなんて…何か話がどんどん変な方に進んでる気がする…」
 夕暮れ、赤い夕日がAAをえんじ色に染める中、AAの偽装作業を終えレジスタンスより提供される夕食の完成を木箱に座って待っていたサイは誰に言う訳でもなくため息混じりに呟いた。
「はぁ〜〜…砂漠だなんてさ…こんな事ならあん時残るなんて言うんじゃ無かったよ」
 久々の1Gに体が重いのか、カズイもサイと同じようにため息をつきながらボヤく。
「でもあそこでシャトルに乗ってたら今頃死んでたぜ?」
「そうなんだろうけどさ」
「これからどうなるんだろうね、私達…」
 不安げに呟くミリアリアを並んで座っていたトールがそっと肩を抱き寄せる…ミリアリアもトールにもたれかかって、そっと目を閉じる。
 そこへきょろきょろと誰かを探すようにフレイがやって来る…ひとしきり仲間の周囲を見渡すと、「キラは?」と仲間達に問いかける。
 サイは苛立ちげに唇を曲げるが、キラの姿を探すフレイはそれに気が付かない。
 フレイの問いかけにサイの苛立ちを感じ取った仲間達は声を発する事もなく首を振る…。
 その頃キラは―
「お〜まだやってんのか、そろそろ飯じゃないのか?」
「夕べの戦闘で接地圧とかいじったんでその調整ですよ…昼間はカモフラージュとかあの人達とのリンク作業とかで時間取れませんでしたからね」
 ―AAの格納庫、ストライクのコクピットでキーボードを出してOSの調整を行っていた。
 飯時ではあるがAAの整備員は全体で食事を取ったりするようなことはしない、交代で誰もが流し込むように食事を取ってはすぐ戻ってくる…今の彼らの双肩には4機のMSと3機の航空機が圧し掛かっているのだ。
「は〜ん、なるほど。
 そんなとこまで自分でできるって便利なパイロットだよなお前って。
 それにしても俄然ヤル気出してるじゃねぇか!」
『やらなきゃどうしようもないじゃないか……!
 僕が頑張って護らなきゃこの船は……』
「まぁいい傾向だな、アマダ少尉達がやってきてライバル意識でも芽生えたか!?」
 ふとものすごい勢いで叩かれていたキーホードが止まる。
「あんまり無理するなよヤマト少尉!
 あと飯はしっかり食えよ、でっかくなれないからな…はははははははっ」
 マードック班長は笑いながら手を振ってストライクのコクピットを離れた為にその事に気が付かなかった。

「……アマダ少尉にライバル意識……?
 そんな気は全然無いけど……。
 でも……アマダ少尉達が居れば……僕一人が強くならなくても…?」
 ふと思いついた事に呆然とするキラだったが、ブンブンと頭を振る。
「いや、ダメだ!
 あんな異世界から来た人達には任せて置けない…やっぱり僕がなんとかしなきゃ!」
 そう思い直して再びキーボードを叩き出すキラ…入力されるキーボードから発するポチ音はそれまで以上にまさに叩くといった音を辺りに撒き散らしては広い格納庫に吸い込まれて行く。
 それからしばらく…直にその音は小さくなり再びキラは手を止める。
『………』
 キラの頭からは巨大な湾が出来たオーストラリア大陸や作業中にミケルから聞いた総人口の半分が失われたと言う、想像もつかない異世界の戦争の凄惨な戦争被害がこびり付いて離れなかった。
 総人口の半分と言えば隣にいる人の2人に1人が死ぬのだ…それもコロニーが核攻撃を受けたり毒ガス攻撃を喰らったり巨大なコロニーが落ちてきたりと、自分が死ぬと気が付く事もなく一瞬にして…。
 隣にいた人が半分死ぬ…例えばフレイとサイとトールとミリィとカズイと自分、瞬きした瞬間この内の半分が死んでいたら…。
 そして自分が今している事はまさにそういう事を手伝っているんじゃないか…仲間を、皆を、この船を護る為に、あのシャトルを撃った敵と同じ事をしているんじゃないか……。
 そして現に今も戦争は続いている、どこかで戦いで命は失われているだろうし、NJによるエネルギーや食料不足で兵士でも無い人の命が奪われている。
 そう考えるにいたって再びキラは更に強く頭を左右に振る…そうすればそんな怖い考えが頭の中から飛び出すとでも言うように。
 キーボードを再び叩き始めるキラ…だが“ヘリオポリス”ではどこか遠い出来事と思っていた戦争がいつ誰の命が奪われるか判らないリアルな恐怖として、そしてそれに自分も加担しているんじゃないかという得体の知れない恐怖がその脳裏からついに剥がれる事は無かった……。

「ストライクのパイロットを知らないか?」
 砂漠の夜は冷える、鉄板を四角くしただけの簡易なかまどで乾し肉をあぶったり暖を取っていたレジスタンスにカガリが声を掛ける。
「いや、AAの若いのならあっちの方にいたけど…何かようか?」
「用って程の事じゃないが…また名前を聞くのを忘れたんだ」
「またうっかりな事だな」
「あ? 知り合いなんじゃなかったのか」
「え、あぁ…そうだな、知り合いと言えば知り合いで…」
「カガリ!」
 暗闇からキサカが表れカガリを呼ぶとクイっと顔を振ってカガリを呼び、2人は連れ立って歩き去った。
「……あの2人って、結局何者なんだろうな」
「幸運の女神だろ…」
「…それにしても…あのパイロットが気になるのか?」
「まぁ、ロボットのパイロットだしな…バクゥを潰してるし」
「あんなの俺達のトラップのおかげじゃないか!」
「怒鳴るなよアフメド、あいつらはその前に一機は潰してもう一機は捕まえただろ。
 お前が対抗意識を燃やしたってMSは潰せないだろ」
「…フン、俺だってMSの一機や二機潰せるさ!」
 苛立ちげにあぶっていた乾し肉を噛み千切るアフメドは、カガリが去っていった方向をじっと睨みつけた。
『MSを潰せばカガリだって俺を…』
 かまどの炎を写すアフメドの瞳は、まるで彼自身の瞳が燃えている様に炎が揺らめいて見えていた。

「君達、一緒にいいかい?」
「飯持って来てやったぜ」
 サイとカズイとトールとミリアリアが妙な雰囲気を引きずって沈黙していた中、シローとキキが3つづつ食事を乗せたお盆を持って現れ、笑顔で食事のトレイを皆の前に差し出した。
「これはトルコ料理の家庭の味って言うのかな、さっきちょっと食べたがなかなかイけるぞ」
「あ…あなたは…」
「俺はシロー=アマダ、こっちはキキ。
 君達はヤマト少尉の友達なんだろ、君達の話を聞かせてくれないか?」
「シケた顔してないで…そーゆー時は腹減ってんだ、食いなよ!」
 異世界からやってきた少尉と少女は彼ら少年少女の“ヘリオポリス”の事件が起こる前、彼らがまだ学生として暮らしていた頃の話を聞きたがっていた。
 特にキキと言う少女は歳も近いのか、異世界でしかも宇宙にあるという学校や生活について興味津々といった感じで聞いてくる。
 シローが目を細めて少年のような表情でいろいろ聞いてくるのとキキの新鮮な驚きで続きを即す態度に、初めは表情も硬かった少年少女達は次第に滑らかに、そして“ヘリオポリス”の事件からこっち続いていた緊張が解れるかのように談笑交じりであれこれとかつての…2度とは戻ってこない幸せな時間の…事を話し始めていた。
 刹那と知らず通り過ぎた時代(とき)を懐かしむように少年少女達は自分達の生活を…仲間達と過ごした時間を語り、やがてその輪に08小隊のカレンやサンダース軍曹やミケルも加わって異世界との習慣や風習の違いや常識的な事や最近の流行り廃りにまで会話の大輪が咲いた。
 …しかしそんな楽しげな異世界交流も、未だにきょろきょろと辺りをうかがいながらうろつきまわるフレイをサイが見つけ、そちらへ駆け去ってしまって残されたカズイとトールとミリアリアが顔を見合わせてなんとも気マズイ表情で沈黙してしまい、適当な所でなし崩しに終わりを告げてしまった。

「ちょっと待てよフレイ!
 そんなんじゃぜんぜん判らないよ!」
「うるさいわね、もういい加減にして頂戴!」
 キサカとの話を終えて戻ったカガリの前に、激しい男女の言い争いの声が響いて岩陰から出てきたフレイと出くわす。
 カガリに気付いたフレイは一瞬ばつが悪げにカガリを睨みつけると、プイッとばかりに踵をかえして別の方向に歩き出す。
「おい、なんだよそれは!?」
 困惑げにフレイに追いすがりサイはフレイの腕を掴もうとするが、強引に腕を抜いてそれを避けるフレイ。
 やがてAAの下部出入り口から出てくる何か不機嫌げなキラを見つけると、笑顔でダッシュしてキラに駆け寄った。
「キラ!」
 フレイはキラの左手に胸を押し付けるように両手でしがみ付くと、そのままキラの背後に回ってサイから隠れる。
 何事かとフレイを覗き込んだキラだが正面に気まずげに立ち止まったサイを見つけると、フレイの代わりにキラが口を開いた。
「……なに?」
 苛立ちげな…それまで自分に向けたことの無いような冷たい月下の下で鈍く光るナイフのような目でキラに睨まれ、サイは思わず目を逸らしながら搾り出すように答える。
「…フレイに話があるんだ…キラには関係ないよ」
「関係なくないわ!
 私、夕べはキラの部屋に居たんだから!!」
 キラの背中から眉にシワを寄せながらフレイが叫ぶ。
「!!!」
 心臓が握り潰されたかのようにビクリと痙攣して逸らしていた目を瞬時に戻したサイの目は衝撃に見開かれていた。

 フレイは相変わらず怒りの表情のままサイを睨みつけ、まるで信じられない…信じたくないと焦点の合っていない瞳で2人を見つめるサイにいたたまれなくなり今度はキラが顔を逸らす。
 …ついでに何とはなしに会話を聞いてしまっていたカガリが頬を染めて岩陰に張り付く。
「キ…ラ……」
 しばらく3者の間に流れた沈黙の時間は、サイを衝撃から立ち直らせるには十分であった。
 唖然と見開かれていた瞳は次第に怒りを込めた物へと変わり、拳が瞬時に白くなるまで握り込められつつ噛みしめた奥歯の奥から掠れるようにサイは言葉を紡いだ。
「どういう……どういう事だよフレイ…キミは…」
 怒りとも動揺とも取れる震える声で問いかけるサイを、まるで一刀両断するかのようにフレイは更に声を荒げ叫ぶ。
「どうだっていいでしょ!
 サイには関係ない!!」
 2人のこれまでの関係を断ち切るような叫びにサイは自分が後ずさった事も気が付いていない。
 そんなサイ見て、背中に押し付けられるフレイの暖かさと柔らかい感触を感じて……サイに対する罪悪感を感じてなおも上回る感情がキラの心に浸透する。
 今まさにフレイは自分の物なのだ…かつて憧れていただけの存在が自分の物に、心の奥では嫉妬していた存在が負け犬のように自分の前で後ずさっている。
 キラの中に湧き上がる高揚感とも優越感ともつかない感情が、もう自分を抑える必要は無いぞと叫ぶ。
 そう、もうコーディネイターである事を隠す必要もない…ナチュラルのサイに遠慮する必要など無いのだ。
「関係無いって…俺達は…」
「もうよせよ、サイ」
 開き直ったかのように堂々と胸を張りフレイの前でサイに向かって立つキラ。
 そこにはそれまでいた気弱な目立たないように生きてきた少年の姿は無く、自信と力に溢れた少年がそこに居た。
「どう見ても君が嫌がるフレイを追っかけてるようにしか見えないよ」
 それまでないような嫌悪感に満ちた吐き捨てるような声と明らかに見下すキラの目に、そんなキラにもたれかかって満足げに目を閉じてもたれかかるフレイの態度に、サイも頭の中で何かが弾けた。
「…なんだと?」
「昨日の戦闘で疲れてるんだ……」
 怒りと悔しさに顔を歪めるサイ、その瞳には自分を裏切った者同士を射すくめようとするかの眼力があって肉体的には自分の優位を疑わないキラもそのサイの目の前に立っていられる程精神的には強くなく、フレイから左腕を引き抜いてサイに背を向けると、呟きながら右手でフレイの肩を抱いて立ち去ろうとする。
「もう……みっともない真似はやめてくんない?」
「キィラァァァっ!!」
 磨り潰しそうな叫び声を上げ憎い敵に向かってナイフを突き出すような気合と迫力で右手にキラに掴みかかろうと駆け寄るサイ、その速さはフレイが聞いたことのの無いようなサイの叫び声にびくりとして振り返ろうとするより早くキラの肩を掴む……筈であった。
 それまで目を逸らして早く立ち去りたいと思っていたキラは、向かってくるサイの殺気に素早く反応して振り向くと同時に迎撃体勢を整え、冷静に相手の動きを見切ると最善の方法で対処を施した…それまで倒してきたザフトのMSと同じように。
 キラもサイに負けない気迫でまなじりを決し眉毛を吊り上げ歯を噛みしめて向かってきたサイを睨みつける…今では敵となった親友に対してもした事がないようなブチ切れた表情をキラもまたしていたのだ。
 キラが向かってきたサイの右手を右手で掴む速度や反応はサイをはるかに上回っていてサイにはそれに反応できない。
 そのまま一度左回りにサイの右手を捻ると、サイが思わぬ痛みに低く呻ってその手を戻そうと力を入れ、その力を利用して一気にキラはサイの体が後ろ向きになるまでサイの右手を右回りに捻り上げると、害虫か何かを見るような目つきでサイを見下すと冷たく言い放った。
「やめてよね!
 ……本気で喧嘩したらサイが僕に敵う筈無いだろ!」

 それはそれまでの精神的高揚感をそのまま肉体的にも押し出した結果でもあった…ナチュラルの中でコーディネイターである事を隠して生きてきたキラは、頭脳的にも肉体的にも自分の能力を抑えて生活して行く事を余儀なくされてきたのだ…生まれて始めて感じるような開放感と、今まで自分を下にあるように振舞ってきた者へ精神的にも肉体的にも勝っている事を思い知らせる事が出来た優越感にキラは酔っていた。
 捻った腕をぐいっと突き離すとサイはよろよろと無様に砂漠にしりもちを突き、呆然とした表情でキラを見上げた。
 そこにあるのは怒りや憎しみではない、大きな驚きにサイはズレたメガネの奥から呆然とキラを見つめる…それはまるで、今まで本当の力を隠して大人しくしていたキラはなんだったのかと…気が弱く引っ込み思案だったキラを何かと気に掛け、遊びに誘ったりサークルに呼んでフレイ達を紹介したのはなんだったのかと問いかけるようにキラには思えた。
 ……大きく膨らんだ開放感と高揚感は見る見るうちに小さくなって行き、変わりにキラの心は罪悪感に圧迫される。

「あ…あぁ……」
 突然始まった男同士の暴力的な抗争にフレイは怯え思わず身を離して後ずさる…そのおかげでフレイは横合いから近寄ってくる人物に気がついた。
 そして横合いから飛び出したその人物は、無言で硬く握った拳でキラを殴り付けた。
「がふっ!」
 それは罪悪感に苛まれてその場を立ち去ろうかと考えていたキラのまるで意識しない左頬にヒットし、不意打ちにも程があるといった風に数m吹っ飛ばしてキラに砂まみれの地球とのファーストキスを体験させた。
 MSの戦闘等で受ける衝撃とは違った拳を頬に受けた衝撃と口に広がる鉄の味とザリザリとした砂の感覚にくらくらしながら何事が起こったのか判らないキラは、地面にひれ伏したままの視界でフレイでもサイでもない第三者の足をみつけ、そのまま視界を上げて自分を殴ったと思われる人物を見上げた。
「何をしているヤマト少尉!
 彼は友達だったんじゃないのか!?」
 そこには怒りの表情でその場に仁王立ちするシローが腕を組んでキラを見下ろしていた。
「お前は友達を護る為に軍に残ったんじゃないのか!?
 その為にMSで戦っているんじゃないのか!?
 それなのに……なんだ今のザマは!!」
「フレイは優しかったんだ……。
 ずっと付いててくれて…抱きしめてくれて…僕を護るって…!」
 唇をについた砂を拭い、ゆっくりと呟きながら立ち上がるキラ。
 罪悪感に押し潰された開放感と高揚感が再び頭をもたげ、そして殴り倒された屈辱感とシローに対するいろいろな感情が湧き上がって怒りとなり、それはキラの全身に抑えがたい破壊衝動と殺意をみなぎらせる。
『アマダ少尉はサイじゃないんだ…僕が殴っても罪悪感は無い。
 殴られたんだ殴り返して当然だ!
 異世界から来たナチュラルにコーディネイターの力を教えてやれ!』
 破壊衝動と殺意を持ったキラがキラにそう語りかけ、キラは自分を解放する囁きに身をゆだねて叫びながらシローに殴りかかる。
 その叫びはキラが心の奥底に今まで閉まってきた、誰にも言えなかった心の叫びであった。
「僕が…どんな想いで戦ってきたか、誰も気にしないくせにっ……!」
 それはサイやフレイが見たことも無い速さでまるで飛ぶようにシローに殴りかかったように見えた。
 その時、キラはシローの右腕の筋肉がピクリとごく僅かに動くのを見た。
 さっきと同じ右手で向かってくる自分を殴って来ようというのだろう…凄い速さで右に避わして、アマダ少尉が驚く顔に右拳を叩きつけてやる!
 僅かな時間にそう考えると自分の身体能力であればそれも十分可能と熱くなる身体の中で妙に冷静になって行く部分がそう告げ、シローの拳が届く距離に入った瞬間キラは右にステップを踏んで拳を振り上げる。
『ガツ…っ!』

 骨と骨がぶつかる鈍い音がして宙を舞って無様に砂漠に転がったのは…青い制服の方であった。
 キラが右にステップをした瞬間、シローの狙い澄ましたアッパー気味の左のフックがキラの右顎にヒットした。
 それはキラ自身がステップした事で更に衝撃を増し、声も発せられずキラはもんどりうって砂漠を2度3度と転がったのである。
「……キラ!」
 四つんばいになって必死に身体を起こそうとするキラにフレイは駆け寄ると、ポケットからハンカチを取り出して口の中を切ったのか血を滴らせるキラの顔を覗き込み、一瞬そのキラの怒りに満ちた表情と凄惨さにたじろぎながらもハンカチを当ててシローに向き直って叫ぶ。
「暴力は止めてください!」
 叫びを聞いて周囲にさっきまで一緒に居たカズイとトールとミリアリア、そしてキキとカレンとサンダース軍曹とミケルも集まってくる…岩場に隠れて様子を伺っていたカガリとキサカもシローの登場で状況が判らなくなって顔を出していた。
「暴力じゃない、修正だ!」
 シローがそう吐き捨てるように叫ぶと、それまで苦痛に呻いていたキラはフレイを護る様にキッとシローを睨み上げる。
「…何があったんだ?」
「隊長がヤマト少尉を殴ってるように見えますけど…」
「いんや、ありゃキラが悪いね」
 最初からシローと共に居て事の顛末を見ていたらしいキキが告げる。
 未だに立てないのか四つんばいから座り込むように姿勢を変え睨み続けるキラに、シローはゆっくりと問いかける。
「……ヤマト少尉…俺達の中の誰が、お前の想いを理解できないと思うんだ?」
 思いも因らない問い掛けにはっとしてキラは現れた08小隊の面々を見やる。
 たったそれだけのシローの台詞で、08小隊の面々はキラに起こったであろう出来事を思いつつ…自分が抱えている事に想いを馳せる。
 下を向いて自分の靴先の砂を見つめるミケルには遠く離れた故郷に護るべき、思いをぶつけたい心が離れそうな恋人が居る…だが今ではその想いを込めた手紙を届ける手段は無い。
 ため息をついてやれやれ…といわんばかりに目をつぶったカレンも一年戦争当初に夫を戦争で失っている。
 遠くの星空を…宇宙(そら)を睨むサンダース軍曹は“死神”と呼ばれ、3度目の出撃で味方部隊が全滅するというジンクスが付いて回った…今ではそのジンクスは破れたが、それでも仲間が、自分以外の友軍が全滅した事実は消えない。
 そっぽを向くキキとて、戦争により村のまとめ役であった父が重傷を負ったりゲリラとして生きて行かなければならなかった。
 そして深いため息と共に黙祷するように目を閉じたシロー…故郷である“アイランド・イフィッシュ”が毒ガス攻撃を受け、家族も、知り合いも、ご近所も、コロニー全住人皆が一瞬にして皆殺しに合い、その故郷はコロニー落しとして地球に落とされ、その中で死山血河を築きながら自ら破壊しなければならず、それでも破壊し切れなかった故郷であった破片は地球に消せない大きな傷跡を残し、何億人もが死んだのだ。
 その表情の奥にどんな想いがあるかはキラには判らない。
 だがそんなキラも、08小隊の面々がそれなりの思いを抱いている事をその表情から読み取る事ができた。
「ヤマト少尉、明日朝6:00に運動着で格納庫に来い」
 座り込んだままのキラらを残して、シローはキラに背を向けて振り返るとそう言い残して歩き去る。
 シローの姿が完全に見えなくなるまで、キラはその後姿を呆然と見送っていた…。

「隊長、一体何を始める気なんですか?」
 08小隊の面々は歩き続けるシローを追って小走りで駆け寄ってくる。
「これから皆にも話す…どうやらやらなければならないことが増えたようだな。
 ラミアス艦長にも話を通さないと…」
「やらなきゃならないことって…あの朝6時に集合の事ですか?」
「隊長、厄介ごとはゴメンですよ」
「そう言うなカレン…俺達が生き残り目的を果たす為には、ヤマト少尉の力も必要だ」
「隊長…笑ってるんですか?」
 サンダース軍曹のその言葉に、驚いて皆が顔を覗き込むと…確かにシローは笑っていた。
「そうか、俺は笑っているか……。
 サンダース、ヤマト軍曹が殴りかかって来た時…俺がごく小さなフェイントを仕掛けたのは気がついたか?」
「隊長がフェイントを…いいえ」
「だよな、普通はあんなフェイントには引っかからない……。
 キラ=ヤマト…あいつは育てば凄いパイロットになるぞ!
 …こっちの世界の楽しみが増えたな」
「はぁ…」
 何か良からぬこと(とシロー以外は考えている)を考え出したシローに困惑する08小隊の面々。
 見上げる砂漠の星空はどこまでも遠く頭上に星々を輝かせ、地上の底で焚き火を囲んで軽い酒宴を開いているようなマリューらにシロー達は向かって歩いていった……。

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