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08MS-SEED_96_第05話1

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:54:36

『転移戦線』第四話「慟哭たる砂塵」

 ―アバンタイトル―

 その時第八艦隊に属するイアン=リー少佐は改130m級電子情報管制艦『ゴルシフ』で艦隊の指揮を執っていた。
 彼の指揮する艦隊――と言っても当艦と130m級護衛艦と輸送艦各1隻の小艦隊――は事前に調べ上げたザフトの哨戒の目をくぐって大気圏ギリギリにまで接近し、これから始まるミッションに備えている。
 彼の所属する第八艦隊は先程AA降下の護衛にて壊滅していた…しかし、軍事的に壊滅とは損耗率5割辺りを示す物でありこの時点でも第八艦隊はその艦船の半分は残していた。
 だが、第八艦隊司令官ハルバートン准将を筆頭に首脳陣がほぼ戦死しており艦隊として機能していない。
 ――否、そう見せようとしていた――!
 確かに前線で指揮したり新たな作戦を立案する人員はすべからず戦死してしまった…しかし各宙域に分散していた残存艦船、基地守備隊や整備、補給、経理や事務等を行う後方部隊は丸ごと残っている……そしてハルバートン准将の最後の作戦指令も。
 第八艦隊壊滅と言うニュースは連合切っての知将と誉れ高いハルバートン准将の戦死も相成ってインパクトがあり、第八艦隊は最早機能していないと――敵も味方も――思い込む事になったのであるが……彼ら第八艦隊が決して死に絶えた訳ではない。
 第八艦隊があくまで伏して殲滅された真似をしているのは“ヘリオポリス”にて連合がG兵器をテスト中との情報を掴んだ程諜報能力が高いと思われるザフトと、G兵器に否定的であり艦船やモビルアーマーによる物量作戦だけでザフトに勝利しようとする多くの旧態依然な連合軍人に対する、ハルバートン准将亡き後フェイクとしてAAを援護する作戦の第一段階であったのだ。
 特に情報漏れに関しては連合の防諜能力がザルであるか…意図的にリークされた可能性がある以上、策を講じるに越した事は無い。
「まさに『死せるハルバートン准将生けるザフトと連合の石頭を走らしむ』だな……」
「三国志ですか、艦長?」
 傍らのハンツ=クレフェンバック大尉が艦長席のイアンを振り返る。
 この自分とさして年が変わらない副長は士官学校の後輩であり、どちらが昇進して艦長になってもおかしくなかった…自分が先に昇進したのは単なるハンモックナンバー(士官学校の年次や卒業時の席次)の為であり、艦の指揮をさせるには必要な階級という物が存在する。
 本来なら自分の昇進はまだ先の筈だが…今の第八艦隊にはそうしなければ人材が足りない程人員が不足しているのだ。
 その中でもこの男を自分の副官として引っ張ってこれたのは幸運であろう…任務に対して忠実な職業軍人で常に沈着冷静に物事を進めるその各種能力は高く、何より気心が知れているというのが心強い…。
「だった筈だよ、副長……ハルバートン准将はまさにこの乱世の孔明のような存在だったとは思わんかね?」
「尊敬しておりましたしその戦略眼は確かな物もありましたが…戦死してしまっては元も子もありません」
「……その死を無駄死ににしない為に我々は行動を起しているのだ」
「まったくです」
 ……最も、多少辛口なのが玉に傷なのではあるが。
「艦長、作戦エリアに到達しました」
「よし、作戦開始だ…通信を開始せよ!」
「輸送艦『あるぜんちな丸』に発光信号、“降下かぷせるヲ準備セヨ”」
「通信来ました…データ受信順調です!」
 今回『ゴルシフ』がここに来ているのは索敵能力や電波等の受信能力の高さで敵を早期に発見し回避する為である――なにせまともに戦って勝てないから――がそれだけではなく、地上にいるAAとの通信が主な理由であった。
 既に何度か航宙哨戒機がこの手のやり取りを行っていたが通信キャパシティの低い哨戒機ではおのずと限界があり、またAAに降下カプセルで物資を補給する必要もあったのでその時に一気に巨大なデータのやりとりをしようというのだ…その為には通信能力の高い強襲機動特装艦とやり取りするには通常の130m級護衛艦では通信能力が足りず、船体を延長して通信・電子戦能力を高めた電子情報管制艦『ゴルシフ』に白羽の矢が立ったのだ。

「周囲の警戒を怠るな、降下カプセル投下後は速やかに退避するぞ!」
 宇宙ではさておき地上では真昼間の投下作戦であるが…一応周囲20km内に敵は居らず、派手に開くパラシュートではなく展開式クッションと減速用固形ロケットの噴射なので昼間の方が見つかり難いし、回収する方も日のある方が見つけ易く作業もし易く音が遠くまで届く事も無い。
 後はAA側がどれだけ幸運かに掛かってくるだろう。
「艦長、最重要の通信が終了しましたが…7番の画面をご覧ください」
 7番の画面は艦長席の脇にある小さな画面で余り見易い物ではないのだが…逆に余り周囲に見られたくない物を見るには都合がいい。
 そしてこの副官がそこで見ろというからには…余り見て楽しい物ではないのであろう。
「ほぉ…バクゥをほぼ無傷で鹵獲、なかなかの戦果じゃ……ん?
 これは本物か? 敵の諜報活動の一旦とかでは…」
「符丁はAAの物です…AAが丸ごと占領でもされてない限りは。 問題はこの辺りですね……」
 副長の指し示す辺りには…AAが異世界のMSと思われる部隊と遭遇し現在これが指揮下にありこれらのMSはこの世界に無いテクノロジーで動いている事、彼らも協力を惜しまないが彼らにもそれなりの要求があるので軍に限らない権力者との会合を要求している事…が書かれていた。
「……一体どう判断すればいいのやら……どう思うかね、副長?」
「添付されている画像はCG等では無い様に見えますが…我々がこうして支援している中、AAがそこまでして我々を騙す意味がありません。
 それにこの著名ですが…ナタル=バジルール中尉は自分も知っていますが大法螺を吹く人物ではなかったと思います」
「それでは副長はこれが……」
「本物である可能性は否定できません、確かめてみるまでは」
「やれやれ……こういう時上官に報告して指示を仰げばよかった頃が懐かしいよ…」
「第八艦隊では既に我々が上から数えた方が早いくなってしまいましたからね…それに艦隊司令、この作戦に関しての全権限はあなたにあります」
 事の外“艦隊司令”を強調する副長……思わず嫌味かとも思ったがこの男はそんな事をする男ではないし、むしろ自分の立場を再認識させて決断するようにと促しているのであろう。
「……ともかく、今は作戦の遂行を考えよう。
 軍上層部への報告は……異世界云々は除いて正確に伝える、バクゥ鹵獲には喜んで喰い付くだろうしな…それを回収しようと動いてくれるかもしれん」
「ではAAに対してどう返答しましょう…特に“軍に限らない権力者との会合”の辺りは」
「一応こちらからコンタクトはしてみると伝えてくれ……」
「では艦隊司令にはそういったツテがお有りなので?」
 どうも淡白なこの男にしては珍しくこの辺りに絡んでくる…さっきのバジルール中尉にでも気があるのか?
 内心そう思いながらもそれならそれで協力するのもやぶさかではない…異世界云々をまともに取り合うよりははるかにマシだと考えつつ、自分の知る“軍に限らない権力者”を思い出しつつ答えた。
「ああ……一応私もブルーコスモスのメンバーなのでな。
 ……なんだその目は、ブルーコスモスと言ってもテロ活動が主じゃなくただの反コーディネイターの政治団体だよ」
「そうでしたか、それは失礼しました」
「まぁ実際私も出世に有利になるぐらいの気持ちで参加したのだが…第八艦隊じゃまるで意味は無かったよ」
「ハルバートン准将は派閥とかには拘る人じゃありませんでしたからね」
「だがブルーコスモスと無縁ではなかった筈だ…GAT計画自体スポンサーはブルーコスモスだったと聞いている……うん、だったら話は早く通じそうだな」
「そのブルーコスモスの誰にコンタクトを取るおつもりで?」
「ブルーコスモス最大の出資者であるアズラエル財閥の御曹司にしてブルーコスモスの盟主、ムルタ=アズラエル盟主だよ。
 あのお方なら…こんな唐突で滑稽で有象無象な話でも聞いてくれるかもしれないな」

『転移戦線』第四話

「見えました、あれです!」
 誰かが指差す方を見れば確かに上空から黒い点が移動している。
「よし、落下地点へ移動開始…ヤマト少尉に移動すると伝えろ。
 上空のフラガ少佐からはその後の報告はあるか?」
「降下カプセルが見えた方向を伝えてきた後周囲を旋回して索敵を続けると連絡があった以後はありません」
 偽装の為に私服――柄が悪く見えるようなボロボロの物をレジスタンスから借りた――を着たナタル以下20名近いAAの乗組員は、レジスタンスの仲介でタッシルの街で大型のトレーラーを数台レンタルし、それとレジスタンスから借り受けたこの辺ではポピュラーでもあるハーフトラック数台に分譲して砂漠を疾走していた。
 目的は降下カプセルからの物資回収、彼ら以外に護衛兼物資の積み込みを行うキラのエールストライクが数キロ離れて並走し、上空をムゥのスカグラが索敵も兼ねて飛行していた。
 ちなみにAA自体が移動するのは目立ち過ぎるので控え、陸戦ガンダムも機動力に問題があるのでAAの護衛に残してある。
 ……実はこの布陣はマリューの補給ぐらいは異邦人の手を借りたくないとの考えもあったのだがそれに気が付く者はいなかった。
 黒点だった物は見る見る大きくなり円錐型の降下カプセルである事がはっきりしてきた…それは僅かな距離を開けて2つ、地平線へ向けてぐんぐん落下して行く。
 あのスピードではせっかくの補給物資が台無しになるかも…と誰もが思った時、下部からまばゆい光と共に炎が噴出された…逆噴射だ。
 あんなに炎を吹き出しては誰かに見つかるかも…特にコーディネイターはきっと目も良いに違いない。
 だが周囲20kmには敵がいないことを確認した上の投下の筈であるし、上空でムゥも警戒している…それに真っ昼間の日の高い状況なら地面からの熱で蜃気楼が起きるように遠距離では見難く、音も暖かい空気により上空へ屈折して遠くまでは届き難い…8小隊が遠距離でもザフトの部隊の移動音を捕らえられたと逆だ。
 また万が一見つかったとしてもジャンク屋として誤魔化す事になっている…その為の私服である。
 残り僅かな所で降下カプセルは下部を吹き飛ばして着地用のエアクッションを展開し、そのまま数度バウンドして地上に突き刺さった。
「落ちたぞ…近い方へ急げ、ヤマト少尉に連絡だ!」
 疾走するハーフトラックの上で双眼鏡を覗き込んでいたナタルは、後方の荷台に通信機と共に座るチャンドラ軍曹に叫んだ。

「どうだ、チャンドラ軍曹?」
「はっ、現在衝撃緩和用のゲル状物質を中和中ですが…内部のコンテナの多くは原形を止めています。
 持ち帰って開けてみないと判りませんが…精密機器は無い筈ですし、オイルや食料品なら大丈夫じゃないでしょうかね?」
 落下地点に何とかたどり着いたナタル一行は内部を確認する…ハッチを開くと中からはゼリーのような物がこぼれ出す。
 落下直前に降下カプセル内部は衝撃緩和用のゲル状物質を展開させており、そのままでは寒天質の中にあるカエルの卵を取り出すような事になりかねないので中和用の溶液を散布してゲル状物質を液体にして流している…もう一方でも同じ作業が行われている筈だ。
「作業を急げよ…いつ敵が来てもおかしくは無い」
「了解しました! しかし作業用重機が…」
 チャンドラがそう言いかけると遠方から滑空と着地を繰り返してエールストライクが飛んで来る。
『バジルール中尉、遅くなりました!』
 側にまずシールドを、その上にビームライフルを置いたキラが降下ポットの開いたハッチへと近づく。
「少尉、ともかく手近かなコンテナから取り出してトレーラーに並べろ!
 作業員は並べ終わったコンテナにホロをかける作業にかかれ!
 急げ、一刻も早く作業を終えるんだ!」
『イェッサー!』
 新人訓練を終えたヤマト少尉はいい…それは訓練を経て軍人的な反応を返すようになったとかより、素直になったというか行動がはきはきとして見ていて気持ちがいい。
 そんな少年の姿勢は今後も誰からも信頼され頼られる存在となり、連合では唯一と言っていいMSパイロットは今後もAAを護ってくれるだろう。
 そんな少年の頼もしさ――将来的な話だろうが――にナタルは灰色の機体を見上げて目を細めた。

「バルトフェルド隊長、直に出撃の許可を!」
「…君もしつこいね、AAの位置が判らない以上出撃を許可しても無駄だろ。
 それよりもコーヒーを飲みたまえ…大概の問題はコーヒー一杯飲む内に解決する物だよ」
 ここはバナディーヤ、“砂漠の虎”が駐屯している街でありバルトフェルド隊はここにあった郊外の商人の大きな屋敷を地元の豪商達の“好意”により譲られ本拠地としている。
 その“好意”が名前の通りの物ではないとは判っているが、例え表面上でも友好に接しているのであれば――例えどんな裏があろうとこちらが優位である間は――好意に甘える事にしたのだ。
 部隊を体良く郊外に追いやられたような物ではあるが、郊外というのは大量の物資やMSそしてバルトフェルド隊の旗艦である陸上戦艦レセップスを駐機させるには丁度良く、また兵器等のメンテナンス用や物資の保管や兵舎代わりのドームを立てるのにスペースはあるに越した事は無い。
 特にこのメンテナンス用のドームは多少の傷であれば再生するナノスキンでできていて空気で膨らませるので軽くて丈夫、しかもかなり大きな物を簡単に作る事ができる優れ物で、砂漠の炎天下に日陰を作り時々吹き荒れる砂嵐の防風防塵に加え機械に悪影響を及ぼす砂の侵入を防いでくれる。
 最近も新しい物を収納するのに立てたばかりだがたった数日で小山のようなドームが出来上がり、内部は空調の効いた快適で埃の少ない解析や修理に理想的な環境を作る事ができた。
 こうした表に出難い縁の下の力持ち的な物のおかげで部隊は戦力を消耗する事無く保持し続けられるのだ。
 が、こうした目に見える戦力ではない物に対して目端の利く軍人は少なく、高い地位や階級にある程それらを鑑みる事は無い…それはコーディネイターも例外ではなく、自らの能力の優秀さ故に途中経過をすっ飛ばして結果だけを性急に求める性質の強いコーディネイターは余計その傾向が強い……とはナチュラルの弁だ。
 目の前の赤服の少年兵士を見ているとそんな戯言が真実なのではないかと思ってしまう。
 なにせ目の前の赤服の少年―イザークは『大概の問題はコーヒー一杯飲む内に解決する』と話したとたん、カップを持ち上げてぐいっとコーヒーを飲み干してしまったのだ。
「さぁ、行きましょう!」
「……だから、行き先が判らないって言ってるだろ?」
 ようやく隣の同じく赤服を着た少年―ディアッカが口を開く。
 『熱くなかったんだろうか?』と言う目線をディアッカに向けると『熱い奴だから平気なんでしょ?』と目線で返される。
 同じ隊にいるのでどういう人となりかは判っているようだ…ならばついでにきちんと躾けて欲しいと思うのであるが。
 ディアッカの方はとりあえずコーヒーを楽しんでいたようだが感想を言う気は無いらしい。
「大気圏内のAAの最大速度が判らないのでどこまでが行動半径内かは判らないが、我々の制圧地域から出ようとすれば必ず網にひっかかかる。
 …が、行方をくらまして一週間以上経つ……であれば未だどこかに潜伏していると考えるのが妥当だ。
 今部下達が探してはいるのだがね、砂漠では隠れられる場所も限られる…もうすぐ見つかるだろう。
 まぁもう少しゆっくり待つんだな」
「隊長、ここでしたか」
 一部盛り上がって迷走する隊長室をクールダウンすべく…と言う訳ではないだろうが副官のダコスタ君が入ってくる。
「おぅダコスタ君、君もどうかね?」
「いえ、結構です。 それより隊長、タッシルに向かう聞き込み部隊の準備ができましたが…」
 コーヒーを術無く断ると近寄ってお客に聞えないように、小声で囁く。
「…あの方も同行させてほしいと……」
「ああ、そういえばタッシルにいる長老だか大長老だかに話を聞きに行きたいと言っていたな。
 …とは言えアイ……」
「アンディー…」
「おぉアイシャ、どうしたかね?」
「私もタッシルに行くワ……イイワネ?」
「おぃおぃ、既に決定事項じゃ俺に言う必要ないんじゃないか?」
「あら…私達の隊長はアンディーでショ? 曲がりなりにも許可ぐらい取らなイト」

「う〜ん……タッシルは今でこそ動きは悪いがレジスタンスの協力者が多い街だからなぁ…」
「今はこの街のブルーコスモス派の方が精力的に動いてるような物ですからね。
 とは言え隊長、機動戦力は既に展開済みのと現在整備中ので手一杯で余裕はありません」
「俺の“ラゴゥ”はどうだ?」
「すぐにでも動かせますが……レセップスの直援に数えてますからダメですよ」
「そうか……ん?」
「「ん?」」
 考えを巡らすようにソファーに座る赤服の少年兵達を何気なく見ると思わず目が合う…ああ、ここに余剰戦力があったな。
「……イザーク君、ディアッカ君、それでは出撃許可を出そう。
 タッシルに向かう部隊に同行してこれの護衛をしてくれたまえ」
「俺達を用心棒代わりに使うつもりですか!?」
「まぁそういきり立つなイザーク君、本番を前に砂漠での機動訓練だと思ってくれ。
 なぁに、君らは街の外にいて立っているだけでいい」
「……囮になれ…と?」
「…ディアッカ君、タッシルと言う街にはAAは潜めんよ。
 だがもしレジスタンスとAAが協力体制にあった場合は…」
「…俺達のMSを見て、脚付きがおびき出される…と?」
「もしくは逃げ出す…どっちにしろこちらの網に引っかかる。 そうすれば一番近い場所にいる機動戦力は……」
「俺達と言う事ですか、了解しました! クルーゼ隊二名はタッシルに向けて出撃します!」
「……若いねぇ……」
 赤服の少年兵2人を送り出して呟く…なにやらアイシャやダコスタ君がジト目でこちらを見ている。
「……なにかね?」
「隊長……うまい具合に焚き付けましたね」
「レジスタンスとAAが協力体制にあるなんテ…はっきりしてないんでショ?」
「ダコスタ君の見た新型MSが三機ならばまぁ、正規軍じゃないと運用はまず無理だろうね。
 とは言え地元に詳しい協力者でも居ないとこれだけ潜伏は無理だろ」
「まぁそうですが……」
「いいワ、何かあれば私が護ってあげるかラ」
「確かに、アイシャが居れば大抵の事は大丈夫だろうな…どっちのお客様も頼むよ。
 それにタッシルはレセップスの今日のパトロールコースにも近い…何かあっても“ラゴゥ”であればものの十数分で行けるさ」
「頼りにしてるワ、アンディ……」
 視界の隅でダコスタ君が後ろ手でドアを閉めるのが見え、俺達は遠慮なく抱き合う事にした。

 こうしてバナディーヤから数両のジープとAPC(装甲兵員輸送車)に加え2台の大型トレーラーに積み込まれてシートを被せられたMS――言うまでも無くデュエルとバスター――が出発した。
 数刻後問題なくタッシルの街に到着し、APCから武装した兵が降車していくつかの隊に別れ街の中でAAを見た事は無いか、連合の兵士を見た事は無いかと聞き込みを始めた。
 また、アイシャと他数名は街を治める長老の所へ向かい今回の事情を説明すると共に聞き込みを行う。
 そして郊外の街を見渡せる砂丘の上では…。
「デュエル―アサルトシュラウド―起動する!」
「バスター、起動するぜ」
 シートを外したトレーラーから2台のMSが立ち上がり、街を見下ろす状況になった……が。
「…なぁイザーク」
「くっ…なんだディアッカ!?」
「砂漠って言うのは…なかなか動き辛い物だな」
「キサマそれでもザフトの赤服か! これぐらい慣れろ! 脚付きやストライクが出て来た時どうする!」
「そりゃそーだけどね……」

 砂丘の上と言う砂漠の中でも砂が流れて立ち難い場所のせいか足場が悪く…常に微調整しなければ立ったままではいられない程だ。
 ここで無様に膝を付いては赤服の名折れ…見上げているトレーラーの作業員は元より、街の中から見ているであろうナチュラルにそんな無様な所を見せる訳には行かない。
 ディアッカは苦労してトレーラーに片膝を付いて期待を安定させてから、シートの側からキーボードを取り出して接地面の調整を行う……まぁこれで無いよりはマシであろう。
 地上の調整として砂漠用の足回りの設定のパラメーターはインストールされてはいるが…それはあくまでジンやジン・オーカーの物であり、元々連合製のMSであるこの機体にどれだけ通用する物であるか……。
 どうやらイザークも苦労しているようだが…見栄かプライドかディアッカのようにトレーラーに膝を付く事無く直立している…ゆらゆらと少々動いているのは必死でバランスを取っているからだろう。
「やれやれ……」
 見かねたディアッカは近距離通信を開き、イザークと交信を開始した。
「今こっちでパラメータを少々いじってみた…送信するからこいつを入れてみてくれ、多少はマシになる筈だ。
 まぁ機体が違うから微調整はそっちでやってくれ」
「ああ…判った」
 そうして調整していた為……彼ら2人は街ではない場所から彼らのMSを憎々しく見つめる視線に気が付かなかったのである。
 そして……。

「バジルール中尉……あれは……」
「ああ、間違いない…デュエルとバスターだ……」
「何故こんな所に…我々の行動がバレたんでしょうか?」
「……いや、そうではあるまい……だとしたら既にこちらに敵が来ていてもおかしくない筈だ。
 それが無いという事は……どちらにしろAAに連絡をしなければ…チャンドラ軍曹」
「……ダメです…NJのせいか…雑音が酷くて……」
「クッ…! どちらにしろ今は身を伏せて通り過ぎるのを待つしかないか……」

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

「おいサイーブ、聞いたか!?」
「ああ…タッシルにザフトのMS二機と歩兵部隊が入り込んでいろいろ聞きまわってるそうだ」
「どうする?」
「どうするも無い、放っておけ」
「だが奴らが町を攻撃したら…」
「それは無い、確かに俺達レジスタンスにタッシル出身者も居るのは知っているだろう。
 だが今町に居るのはレジスタンスじゃない、砂漠の虎もそれぐらいは判っているだろ」
「じゃぁ本当に…」
「何もするな、むしろここで手を出した方がタッシル攻撃の口実を与える事になる」
「そうか…みんなにそう伝えてくるよ」
「頼む、俺も後で行く。
 ……問題は今、カガリ達もタッシルに居るって事だ……」
「カガリ達が? 俺達の“勝利の女神”に危ない事が無きゃいいが」
「ああ、(カガリが)先走らなければいいが…」
 サイーブと彼に報告に来た仲間の心配する所は180度違っていたのだが幸いにも彼がそれに気が付く事はなかった。
 その後もいくつか指示を伝え仲間の去り際にサイーブは呼び止めた。
「……ああそうだ、MSがタッシルに現れた事をAAにも伝えておけ。
 確か投下物資を回収して一度タッシルに寄る予定だった筈だ。
 それにタッシルに現れたMSは人型のMSで…あんたのとこのMSに似てるってな」
 有線通信により伝送されてきた画像のプリントアウトを見ながら、サイーブは仲間にそう伝えた。

「なに!? タッシルにMSだと!?」
「そうだアフメド、連合のほら、あれに似たMSが二機街外の砂丘の上で威圧して、奴らはその中で街をいろいろと嗅ぎ回っているらしい…」
 若いレジスタンスが指差した方向にはストライクと陸戦G各1機が棒の様な物を――彼はそれを踏み切りの遮断機の棹に違いないと思った…MSサイズの物があればだが――持ってAAから出てくる所であった。
「さては俺達に手を焼いて街に直接手を下てきやがったか……サイーブはなんと言ってる!?」
「“手を出すな”だとさ、今手を出した方が逆に虎にタッシルを攻撃される口実になるとか」
「ちっ…それじゃ俺達が弱虫みたいじゃないか。
 あのMSに似てるって? それじゃたいした強くないんじゃないのか!?
 あの時だって俺達のトラップが無きゃバクゥに勝てなかったんだし」
「そんなのは知らないよ…サイーブはむしろ、カガリ達がタッシルに居る事の方を心配してたぜ。
 確かに我らが“勝利の女神さまっ”に何かあったら困るけどそんなに心配する程の事でも……」
「おい、カガリがタッシルに居るだって!?」
「うぉっ、落ち着け、落ち着いて手を離せよ!
 ……ふぅ、今朝からタッシルに行ってるぜ、キサカと一緒にな。
 しかしお前がカガリの事知らないなんて珍しいな」
「昨晩の騒ぎで昼まで寝てた。
 それにしても…………おい、若い連中に声を掛けて密かに集めろ」
「は? 何をする気だ?」
「いいから、男を上げるチャンスだって事だ…!」
 鋭い眼光で憎々しく見上げた先には、キラの乗るストライクが陸戦Gと長い棒で打ち合いをしていた。

「どうした、隙が多いぞ!」
「くっ…まだまだっ!」
「ビームサーベルや格闘武器は強力だが間合いが短い…ステップだけで避わす事も可能だ。
 相手の挙動を良く見て切り込まないと逆に隙を生む事になる…こんな風に!」
 キラが振り下ろした模擬刀――軽くて弾力性がある軽量の模擬訓練用の棒、丁度ビームサーベルぐらいの長さがあり1m置きに赤白に塗られている為遮断機の棹と思われても仕方がない――にシローは右手に持つ模擬刀で受けつつ陸戦Gの右足を引いて半身に避け、模擬刀の勢いを下へ流した。
「うわっ! ……くぅっ!!」
 模擬刀を流されて体勢が前にのめったストライク…だがキラは即座に膝を弛ませて腰を前に入れ上半身の体勢を垂直に戻し、来るであろうシローの反撃に備えて弛ませた膝を伸ばして後ろへジャンプした……が。
「いい反応だが…まだあまいっ!」
 飛び引いたストライクに同調するように右足を引いた陸戦Gも、その脚で大地を蹴って前にジャンプしてストライクに追従し、模擬刀を前に突き出した。
 突き出された模擬刀はそれでもキラの超人的な反射神経でストライクを僅かに捻ってコクピット部を避わす事はできた物のそのすぐ右上側に突き刺さり、フェイズシフトしていないストライクとコクピットのキラを揺らした。
「うぐっ…っ!」
「あた〜り〜〜。
 推定機体損傷度67%、損傷箇所上半身右側、バッテリー及びプロペラント破損、機体動作に著しい被害の可能性78%、キラ、あんたの負け!」
 模擬戦の判定をしていたキキがオペレーター席から模擬戦モードのストライクへからの推定ダメージをキラとシローに告げた。
 ちなみに試作機として模擬戦も視野に入れて作られているストライクと違い陸戦Gにはそういったモードは無い。
 故に3方向からカレンとサンダース軍曹とミケルが判定員としてストライクの攻撃が陸戦Gに当たったかどうかを監視していた。
「ダメージを考えれば目標の機体を切り裂くように斬るのは確かに有効だが隙も大きくなる。
 お前みたいに機体を素早く正確に操作できる場合は、突きを高速で繰り出した方がいい場合が多い」
「サー、イェッサー!
 でもアマダ少尉……模擬刀ならまだしもビームサーベル同士では受けられないんですからこういう風に捌かれても実戦では……」
「「「えっ!?」」」
「…えっ!?」
 最初の複数の「えっ!?」はシロー達08小隊の…その後のしばし後の「えっ!?」はそれで何かを察したキラの声であった。
 訓練中にも関わらず、キラとシローはお互いのMSの通信の画面でお互いの驚きの表情を見つめながら恐る恐る同時に声を出した。
「ヤマト少尉…ひょっとしてこの世界のビームサーベル同士って……打ち合えないのか!?」
「アマダ少尉…ひょっとするとそっちのビームサーベル同士って……反発するんですか!?」

「こっちの世界のビームサーベルは簡単に言うと…そうだな…。
 先端から力場――Iフィールド――を棒状に形成して、その中にビームライフルと同じようなメガ粒子だかミノフスキー粒子だかの高エネルギーを流して形成しているんだ。
 この時の力場とかなにやらのおかげでビームサーベル同士や他の格闘武器――ヒートホークとかヒートサーベル――とも反発するので切り結ぶ時に受けたり流したりすることが可能なんだ」
「…こっちとしちゃぁ“だか”とか“なにやら”の辺りをはっきり聞きてぇんですが……」
「すみませんマードック班長、正直自分にも良く判りません」
 急遽訓練を一時止めてまでマードックにも話に混じってもらってお互いの世界のビームサーベルの情報交換を始めたのは、主にシローら08小隊の面々に対してこの世界の武器を説明する為である。

 今の所はGAT5機ぐらいしかない装備であるがその内4機もが奪われている…敵の武器として登場する日も遠からじと言った所であろう。
 その時に自分達の常識で戦っては危険な為、キラがマードック班長を呼んでのビームサーベル講義とあいなったのだ
…キラ自身がOS等のソフトウェアには強かったがMS自体のハードウェアには余り詳しくなかったと言うのもあるが。
「その“力場”ってのは例の“M系技術”なんですかい?」
「そうです…ミケル、どんな感じだったっか?」
「はい、極簡単に説明しますと…M粒子は一定濃度に達すると粒子が立体格子状に整列する性質を持っており、その状態で斥力(二つの物体が互いに反発し合う力)を生み、それで打ち合えるようになるんですよ。
 ビームサーベルの原理としては発振部から棒状…というか円錐状になるようにM粒子を電磁的に誘導してそういうフィールドを成型し、エネルギーCAPにより縮退寸前の状態のまま保持されたM粒子を流し込んで収縮させた時に生じた量欠損の一部が運動エネルギーに変化してそれが光や熱や破壊力となります。
 詳しくはもっといろいろあるんですが簡単にいうとまぁそんな感じです」
「……サンダース、判ったか?」
「まぁ…なんとなくは」
 シローらはビームサーベルをどう使って戦うかやどう整備すればいいかぐらいしか知らず――パイロットとしてはそれで十分――その動作原理とかは良く知らなかった…そこで小隊内でも整備の腕が立つ(整備を押し付けられていた)ミケルに話を振ったのだが…。
 シローも良くは知らないがミケルは徴兵前は工学系大学の学生だったようで、入隊後もその手の知識を吸収するのは苦ではなかったらしく自分も知らない事を話すミケルに声には出さない物の驚いていた。
 ミケルの説明を聞いても良く判らないような顔をしているシローとサンダース軍曹らには構わず、キラとマードックはなるほどと言う顔をしていた。
「なるほどねぇ…さすがに常温核融合が実用化されてる世界の技術だ、ビームサーベル一つ取ってもそこまで高度な事をしてやしたか…確かにそれじゃァエネルギーの効率もいいし破壊力もある。
 ホント“M系技術”ってのは魔法みたいなもんですナぁ!」
「そうですね…エネルギーCAPとかどんな仕組みなのか想像も付かないですが…ビームサーベルにまで縮退技術って凄いですね…」
「あ〜……で、この世界のビームサーベルはどんな感じなんだ?」
「そうですね…こっちの世界のビームサーベルは電場(帯電体の間に作用する電気力の存在する場所またはその作用、電界)によって棒状にビームを固定しているだけなんです」
「そーゆー訳です、イメージ的にはホースから出しっぱなしで棒状に伸びた水だと思ってくだせぇ。
 だから電場でビームを固定しているとは言え斥力が働く程の物じゃありやせん、ホースの水剣を物に当てても水が飛び散って途切れるだけ…決して打ち合えはしやせん。
 まぁビームサーベルならその時にダメージを与えますし、ビームは出しっ放しですから直に元の長さに戻りますがね」
「確かに……それじゃぁ打ち合えませんね…。
 もし我々のビームサーベルと打ち合ったらどうなります?」
「多分力場を持つそちらのビームサーベルに当たった瞬間こちらのビームサーベルは飛び散るんじゃないでしょうか? そして力場から抜けた所でまたビームの刀身を形成する…まさしく木の棒とホースの水剣を打ち合わせたように」
「って事は……我々が不利と?」
「そうとは言えないぞカレン…確かにビームサーベルはすり抜けるが、こっちのビームサーベルは元々存在し続けるから相手を斬ることも出来る。
 出来ないのは異世界同士のビームサーベルを打ち合わせる事であって、弱い強いじゃ…」
「いえ隊長、そうでは無くて……ビームサーベルや格闘武器をビームサーベルで受けられると言う常識を持った我々が不利だという事です。
 もし攻撃されてとっさに受けようとしても、相手のビームサーベルは素通りしてしまうんですからね」
「あ、そうか!
 う〜ん、俺達は特に気をつけないといけないな…ビームサーベルに限っては避けるしかないのか…。 ヤマト少尉、この世界のビームサーベル…いや、格闘線での注意事項があれば教えてくれないか?」

「はい…えと…確かにビームサーベルでは受けれませんが、シールドでならある程度は受けられます…」
「この前少尉に話したようにシールドにはビームコーティングされてやすからね!
 それに部材そのものも特殊な共振現象を起こす固有振動数を持った鋼材同士の複合金属で作られてやして、微細な振動をする事でビームを拡散させられます。
 まぁ…ビームが長い時間そこにあり続けるビームサーベルの場合はそれでもダメージを喰らいやすから…」
「なるほど…そういえばヤマト少尉、PS装甲ではどうなんだ?」
「ええと…PS装甲にビームライフルは有効ですから効くと思います」
「思うって…はっきりしないなぁ」
「すみません……あまり斬られた事が無いので……」
「「「「…………」」」」
「おぃおぃ、そりゃ自慢って奴じゃないのか?」
「そういう訳では……」
 沈黙した08小隊に変ってキキの冷やかしに慌てるキラ、その慌てっぷりに周囲は穏やかな笑いに包まれた……その時。
「みんな、居るわね?」
「これは艦長、丁度良かった…八小隊の方々に判るようにPS装甲について講義を…」
「そんな暇は無いわ、訓練を中止してブリーフィングルームに集まって!」
「何か起こったんですか、艦長?」
「そうよ…恐らくデュエルとバスターが現れたわ……バジルール中尉たちが居るタッシルに!」

 ――その頃、タッシルでは――
「おいキサカ、敵だ!!」
「……判っているカガリ。 では長老、我々がここにいてはまずいでしょうから今日はこれで」
「うむ…気を付けなされ」
「どうするキサカ、敵はMSまで出してきたぞ…どう戦う!?」
「落ち着いてください、貴方は今どんな状況か判っているんですか?」
「そんな事見れば判る! 奴らが街に兵隊とMSを送り込んで攻撃しようとしているんだ!」
「まるで違います…確かに兵士がタッシルに入りましたが、目的は占領や戦いではなく聞き込みのようです。
 恐らくAAの行方を捜しているのでしょう、であればあのMSは兵士の護衛か…もしくは餌ですね」
「餌?」
「あのMSを見てAAが喰い付いてくるのを誘っているのでしょう…いいですか、自分の思い込みだけで動いてはいけません。
 状況を判断するに必要な情報を収集してから状況を判断し、決断しなければ危険な場合もあります。
 確かに即断が英知に勝る場合もありますが…貴方が将来解決しなければならない問題の多くは、熟考して判断しなければならない物なのです」
「そんな事判っている! だが目の前にMSがいるんだぞ! 奴らが襲ってこないとは限らな……」
 その瞬間、キサカはカガリの口を押さえて自分の方に抱き寄せたまま物陰に隠れた。
 カガリが何か言って暴れようとしたが…キサカのただならぬ緊張感に沈黙するしかなく、口を押さえる手をとんとんと叩いて静かにすると合図した後キサカの睨む方向を自分も見る。
 そこには…先程2人が出てきた長老の家に入ろうとする2人の女性と数名のザフトの兵士が居た。
 先頭に居た日差し避けのローブを外し長い美しい黒髪の一部にメッシュを入れた女性が……家の中に入る瞬間2人が隠れている方向に目だけ動かし、赤い唇を微笑むように釣り上げた。
 カガリはその目に射ぬかれたようにビクリとなったが…その女性がそれ以上は何もせずに中に入っていったので知らずに力が入っていた全身の力を抜き……キサカの方を見ると自分以上に緊張し冷や汗を流している事に気が付いた。
「おいキサカ…」
「……見逃してもらえましたね…我々も移動しましょう」
「長老達は大丈夫かな?」
「兵士は付いていましたが…恐らく大丈夫でしょう……コーディネイターの中でも…バケモノだな……」
「あの女がか?」
「ええ……戦場で会いたくは無いですね」

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