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08_落穂拾い_第02話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:35:31

第二話 ソラ

 長い黒髪が風になびいている。カズミは溶けるような陽射しを追い越すように坂道を駆けていた。
 その先にはジローが信号待ちをしている。カズミはジローに追い付くとの背中に抱きついた。
「あんたちょっと走るの早いわよ。誰のせいで遅刻しそうになっているか判ってる?」
「へいへい、俺が寝坊したからだろ。男には色々あるんだよ!」
 ジローの声はどんどんと大人の声になっているように聞こえた。何となく男の子のにおいがした。
 今日からカズミ達は学校に通う事になった。新しい学校生活はちょっぴり不安に思えたけれど、カズミの胸は希望に膨らんでいた。
 信号が青に変わった。ここまで走れば大丈夫だろうと二人は歩く事にした。
「なあ、姉ちゃん。俺、柔道を続けられるのかな?父ちゃんはいいって言ってくれてるけどさ、今はそういう時じゃないだろ」
 ジローは申し訳無さそうに肩を落として深く溜め息を吐いていた。
「あんたは柔道をやりたいんでしょ?やれば良いと思うわよ。パパもそう言ってたじゃない」
 カズミの言葉を聞き、ジローは顔をしかめて後頭部を掻いた。
「姉ちゃんだってJRCやりたいんだろ?でもしないっていってたじゃないか」
「私の事は気にしないでいいのよ。避難所でボランティアするんだから」
 カズミはジローの背中を勢い良く叩いた。悲鳴を上げるジローを尻目にカズミは更に続けた。
「パパやママの気持ちを考えてあげて。あんたがやっぱり柔道はやらないなんて言ったら、きっとショックを受けると思うわ。今は言葉に甘えていいのよ。ほら、急ぐわよ!」
 ジローを元気付けるようにカズミはにっこりと笑い、再び走り始めた。
 どうにか遅刻せずに済んだカズミとジローは校庭へと向かった。校庭にはオノゴロから避難して来た生徒達がいた。
 思った以上に人が少なかった。先の戦闘に巻き込まれて亡くなった人、やプラントへ向かった人もいるのだろう。
「カズちゃん!」
 懐かしい声に急に呼び止められてカズミは後ろを振り返った。そこには栗色の髪を二つ縛りにした少女がいた。
「――ミホ!無事だったのね?」
 カズミは思わずミホに抱きついた。嬉し涙が一粒溢れた。
「ちょっと、それは私の台詞よ。家は港に近かったから早く船に乗れたのよ。お父さんがこっちで単身赴任していたから避難所には行かなかったしね」
 ミホは優しくカズミの肩を抱いた。カズミは後ろに下がりミホの姿を瞳に映した。
「私、カズちゃんが心配だったのよ。カズちゃん家の方はほぼ壊滅だってニュースでやっていたんだもの。ショックで食事が喉を通らなかったんだから――で、シン君は無事だったのかしら?」
 シンと言う名前。カズミにはまだちょっぴり胸が痛む名前だった。
「シン君はプラントにいったんだ――一人で」
 カズミに影響されたのか、いつもハイテンションのミホの表情に翳りが出来た。
「そっか。シン君も大変だったんだね。で、ちゃんとお別れ出来た?」
「――出来たよ。泣かないように頑張ったよ、私」
カズミは努めて明るく振る舞った。ぎこちない笑顔だったけれど、空元気を出した。
「告白は?たかが告白だもの、良い機会だったんじゃない?」
 周りに聞こえないようにミホが耳元で囁いた。
「されど告白よ。いつかシン君がオーブに戻って来た時までお預けよ」
 カズミはお返しとばかりにミホの耳元でそっと囁いた。
 ――この気持ちを大切にしたい。シン君が好きだから。
 カズミは空を見上げた。雲の切れ間が碧に溶ける空の彼方に浮かぶプラントがきらりと輝いたような気がした。

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