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556 ◆GHLUSNM8/A氏_外伝その四

Last-modified: 2011-09-22 (木) 02:46:23
 

外伝その四 「戦士の休息かい、アムロさん?」

 

アムロが戦線へと向かう前日、ザラ家ではささやかなホームパーティーが開かれた。
招かれたのはアムロの他、シーゲル・クライン、ラクス・クライン、アムロ隊の面々とその家族だ。
パトリックは公務に追われているので参加していない。

 

「ではアムロ隊長の必勝を祈願して。………乾杯」
「「「乾杯」」」

 

各々は自分の持つグラスに口を付ける。授業参観以来、アムロは親たちに一定の信頼を置かれていた。
今回のパーティーが開かれたのも、その辺りに関係する。が、直接の発端は意外な事にラクスなのだった。

 

「初めましてアムロさん。わたくし、ラクス・クラインと申します」
「これはご丁寧に。アムロです。以前からテレビで拝見していた通りの女性のようで、安心しました」
「それはどういう意味ですの?」
「実際に会ってみても、優しい人、という印象を受けます」
「たった一言交わしただけですのに?」
「特技なので」
「ふふっ、おかしな人」

 

上品な笑みをこぼすラクス。アムロは彼女の事を大雑把には理解していた。
プラントの歌姫、アスランの婚約者、イザークの憧れるアイドル。
そして、兵を奮い立たせる女神、という肖像。
しかし、アムロの目の前にいる彼女はただの少女でしかなかった。
心根は優しく慈愛に満ちていて、アイドル………偶像としての彼女が持たない魅力がそこにある。

 

「アスランがあなたのことばかり話すので、どんな人なのか、一目お会いしたく思っていました」
「こちらこそ、歌姫にお会い出来て光栄です」
「本当にそう思っています?」
「もちろんですよ。ダンスの一曲でもご一緒したいくらいです」
「やっぱりおかしな人。顔に嘘だって書いてありますよ?」
「ふっ、ラクス様も私と同じ特技をお持ちのようだ。
 ダンスに女性をエスコートするのは難しいんです、僕には。
 MSと違って思うように動きませんから」
「MS!!」

ラクスの目が輝く。その両目はアイドルでも歌姫でも、ましてや女神なんてものではない、
好奇心の溢れる少女の目だった。

 

「モ、MSが何だというです?」

ラクスの威勢に一瞬気押されてのけ反るアムロだが、さすが年長者、
よくわからない汗を流しつつ冷静に聞く。
「わたくし、一度でいいのでMSに乗ってみたかったのです!
 アスランは危ないから乗せられないと怒るし、ザフトの方に頼んでもアスランと同じことを仰るし………」
「僕も全くの同意見なのですが」
「そこを頼む、アムロ隊長」
「シ、シーゲル議長!?」
「娘の頼みを聞いてやりたいという親心なのだ。それに一流パイロットである君なら心配ない」
「(ここにも親バカが………)議長直々に言われましても、民間人を乗せるわけには。
 それに今は戦争中なのですよ」

そうなのだ。ここでは穏やかな空気が流れても、
目を少しでも他の宙域に移そうものなら凄惨な光景を目にする事になる。
自分の最高指導者がこんな享楽に耽っていては、戦場で血を流している者たちも浮かばれない。

 

「戦士とて戦に出る前は少しでも楽しみたいだろう。
 かつてのアメリカでは、出兵に際してホームパーティーをにぎやかに開いていたと聞く」
「議長の仰ることはよくわかりました。 ですがこの場でそれを仰るという事は、
 ここにいる面々…アスランやイザーク達も戦地に赴く、ということですか?」
「彼らのような若者も銃を取らねばならないのは、プラントの悲劇だな」
「肯定と受け取ります。………そうですね、
 ラクス様の件はこちらの条件を認めていただければ飲みましょう」
「取引というわけだな。うむ、議長職を渡せという要望以外なら応じよう」

シーゲルは髭を触りながら愉快そうに笑う。アムロもまたシニカルな笑みを浮かべて返した。

 

「あんな柔らかそうな椅子は老後の為に取っておきたいので、遠慮しますよ。
 私の要望は、私の部下、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル、そしてここにいないラスティを
 後方に配置して欲しい。それだけです」
「アムロ隊長!?」
その言葉に驚いたのはイザークだった。彼はエザリアとディアッカの三人で談笑していたはずだが、
どうやらお手洗いにでも立ったのだろう。アムロ達の話すテーブルを通り過ぎた時、その言葉を聞いた。

 

「自分はいつでも最前線に往く覚悟は出来ております!腰抜けと馬鹿にされたくはありません!!」
「声を大きくするな、ここはパーティー会場だぞ。
 ………激戦区に行けば、それだけ死ぬ確率が高くなる。当たり前だがな」
「ですから、自分には死ぬ覚悟があります。だから………!」
「君は後方に死の危険がないと思うのか?それは違うな。
 連合が物量に物を言わせて多方面作戦を行うかもしれない。
 その時手薄な地域を誰が守る?君たちにはプラントの一番近くで戦って欲しい」
「アムロ隊長………」
「傷ついた仲間や同胞の骸を最も目にするのも後方支援部隊だ。
 戦争とはどういうものか、君たちは戦う前に知っておくべきだと、僕は思うよ」

アムロの言葉を噛みしめるように、イザークは押し黙った。
そのやり取りを遠くで見ていたエザリアは、アムロと目が合うと涙を溜めながら一礼した。
子を喜んで前線に送る親などいないのだ。

 

「君の要望は確かに受け取った。喜んで取引に応じるよ、アムロ隊長」
「ありがとうございます、議長閣下。………惜しい事に自分には時間がありません。
 主賓が途中でいなくなるのは本当に失礼な事ですが、
 自分はラクス様をエスコートしなければならないので、これにて」
「まぁ、嬉しいですわ。でも先ほどはそんなことは出来ないと仰っていましたのに?」

ラクスは首をかしげて天真爛漫な微笑みをアムロに向ける。
天性の魔性だな、アムロはその微笑みに右腕を差し出した。

 

「MSの上でなら別ですよ」

 

――――――――――――

 

「すごい!すごいですわ!!」
「ラクス様。あまり乗り出しては危険です………!」
コックピットを開けはなったのはラクスの要望だった。
自分の甘さを呪いながら、アムロはジンに、両手をおへそ辺りに構えて少しのけ反るという
不自然極まりない姿勢を取らせ続けている。

 

「まるで自分の足で高みに立っているよう………。飛行機や高いビルでは味わえない感覚です」
「MSは最も人に近い機械ですから。ですが、次からのライブはMSで行う、
 なんて馬鹿な事は言わないでくださいよ」
「それはいい考えですね!」
言ったそばから………!アムロの眉間にグランドキャニオンのような皺がよる。
少し叱りつけてやろうかと思った時に、彼女………ラクス・クラインは歌いだしてしまった。

 

「………綺麗な声だな」
「ありがとうございます」
「っ!…聞こえていたようですね。お人が悪い」

クスクスと二人は笑いあう。それはとても心地の良い光景で、アムロの心はやすらいだ。
怒る気も失せてしまったようだ。

 

「この宇宙のどこかでは、この瞬間にも命が消えているのですね」
「今のは鎮魂歌ですか?」
「ええ。『ヴァレンタインの悲劇』で散った命に。そしてこれから消えていく命に」
「………僕はこれから、その火を消していくでしょう。同時に多くの人の心に憎しみの火を灯しながら」
「なら私は、その憎しみが少しでも和らぐように歌い続けます」
「やはりあなたは、優しい人のようですね」
「それは特技ですか?」
「どうでしょうか?僕にも分りかねます」
「ふふっ。やっぱりおかしな人………」

 

そう言ってアムロを見るラクスの瞳には、好奇心でも憧憬でもない、
ちがう色が映っていた―――――――――――――――――――――。

 
 

「今日はありがとうございました、アムロ隊長」
「本当に車は良いんですか?警護も付けないで………」
「歩くことは健康にいいんですよ。それに、ザフト最強のあなたがいれば恐いモノなどありません」
「道端にMSでも落ちていればいいんですけどね」

プラントではすでに人工の照明がおとされ、夜となっている。
MSを堪能したラクスは歩いて帰ると言いだし、お付きはアムロだけしか要らないとまで言った。
これにはアムロだけではなくSPの人たちも驚かされ、同時に頭を抱える事になったが、
彼らはラクスに気付かれないよう尾行するということで落ち着いたようだ。

 

「アムロ隊長、私をラクスと呼ぶのはいかがかと。その名は無用な関心を呼びます」
「ではなんとお呼びすれば?」
「そうですね………。人類の歌姫、リン・ミンメイはどうですか!?」
「遠慮します」

ラクスは愛らしい少女だ。若干のオタク気質があるようだが、それもある意味でアムロに合う。
だが今はそんなことが問題なのではなくて、ただでさえ美しさで注目を集める彼女が騒げば、
よからぬ虫も迷い込むわけで………。

 

「へへ、そこの可愛いお嬢ちゃん。ちょっとお話しようぜ」
「ちょっとラクスに似てねぇか?」
「男は邪魔だ!うせな!!」
「こういう事にもなるわけか………」

辺りは暗く、住宅街からも離れていた。然るに、こういったアウトローが集まるのも必然。
簡単に言えば、アムロ達は絡まれた。

 

「すまないが、道を開けてくれ(………三人は少しキツイな。SPはなにをやってるんだ)」

あちらは犬に噛まれてます。

 

「おめぇにゃ聞いてねぇよ!!早く消えろ!!」
「声ら荒げるなよ。僕はただここを………グフゥ!?
「うっひょ〜!忠告を聞かないから、痛い目見るんだぜおっさん!!」

強烈な蹴りがアムロの鳩尾に入る。
忘れていたかもしれないが、アムロはナチュラルなのである。
コーディネイターと喧嘩をすれば、勝てる道理はない。
アムロは男の蹴りを「殺気」として感じていたが、生身はMSとは違うのだ。

「おっさん、だと………?俺、は…ア、ムロ………だ………!!グッ!?

あまりの痛みにしゃがみ込んでいたアムロに、男達の蹴りが容赦なく浴びせられる。
弱者をいたぶる事は、彼らの最も得意とする所だ。

 

「お止めなさい!!!」

 

張りのある声で叫んだのは、ラクス。
男達は彼女に振りかえるが、アムロが必死にそれを止めようともがく。

「逃げろ、ラクス…!!」
「おっさんは黙っとけや!!」

止めとばかりにアムロの顔をサッカーボールのように蹴る男。それを見てラクスの怒りは頂点に達した。

 

「ささ、一緒にイイ事しようぜぇ、『ラクス』ちゃん」「歌姫と同じ名前とか萌える〜!」
「お止めなさいと言ったんです。立ち去るなら見逃します」

じりじりとラクスに近寄る男達。激痛で立てないアムロ。事態は絶体絶命!
………かと思われた。

 

不良A「さぁさぁ、こっちに…」バキィ!!グフゥ!?
 アムロ「ラクス!早く逃げ………」
不良B「あぁ?なにやってんだお前…」ドスッ!!ギャン!?
 アムロ「早く、逃げ………?」
不良C「ちょちょ、えええ!?…」バコッ!!アッガィ!?
 アムロ「………」

 

この状況を簡潔に説明しよう。 瞬殺。
詳しく説明しよう。目にも止まらぬスピードで、ラクスが男達を殴り倒す。以上だ。
(もちろん殺してはいない。と思われる)
死屍累々(?)の暗がりで、ラクスはアムロを見て安心したように笑う。

 

「ラ、ラクス………」
「わたくし、父から拳法を習っておりますの。確か、流派・東方不敗という独特のものですわ」

 

アムロは、何があってもシーゲルの逆鱗に触れないよう誓った。

 
 

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