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556 ◆GHLUSNM8/A氏_第五話

Last-modified: 2011-09-19 (月) 04:02:45
 

第五話 「風雲急を告げるよ、アムロさん!」

 

訓練の場は演習場から講義室に移った。しかし、ここでもアムロは頭を抱える事になる。
アマルフィ夫妻が早々に姿を消したため悩みの種も減ったかと思われたが、
アスランパパとイザークママはそれを補って余りあるほどパワフルだ。

 

「――――――――であるからして、多数の敵に対する戦法は奇策を用いるより堅実に行うのが良い。
 ここまでで質問は?」
「はい」
「………なぜあなたが手を挙げるんですか、アスランパパ?」
「その程度の事はすでにアスランは知っている。もっと高度な講義をしてもらいたいものだな」
「マンツーマンで教えられるほど、僕達には時間がありませんので」

 

アムロはすでに溜息を隠さない。
いかに相手が雲の上の高官だとしても、これ以上ストレスに堪えるのは、彼には不可能だった。

 

「アスランパパ。専門家の言う事に茶々を入れるのはどうかと思いますけど?」
「ふっ。これは失敬をした、イザークママ。
 先ほど誰かが『イザークの戦闘理論の方が理にかなっている』と、
 プロフェッショナルのアムロ隊長に噛みついていたものでね」
「まぁまぁ、あなたも落ち着いて」
「レノアは黙っていろ」

 

まったく、アスランママことレノア・ザラが唯一の良心だな。アムロは心の中でぼやく。
アスランとイザークは顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 

「それでは、話を進めよう。――――ここで重要なのは防衛線を維持する事だ。
 君たちがいかにエース級の実力を持っていたとしても、もし単騎で突撃しようものなら陣形に穴が空く。
 君たちの危険もあるが、味方はさらに危険になるんだ」
「質問だ」
またあんたか………。アムロは渋々、パトリック・ザラに発言を促す。

 

「ナチュラルの軍隊など、その『エース級』の一機でかき乱せばよい。
 その後一気に攻勢に出れば、状況は変えうる」
「敵を侮ってはいけません。集中砲火を受ける可能性もあります。
 それに、一度守勢に回った軍隊はそう簡単に総攻撃へは移れません。
 『総攻撃』自体も、こちらの損害を予想すればあまり良い手では………」
「その為の赤服だろう。それに防衛を続けた所でジリ貧ではないか」
「………後者のみに答えさせていただきます。確かにアスランパパの言には一理ありますが、
 戦場とは常に流動的であり、攻め時とは必ずあるものです。
 無理矢理女性の股を開くような行動では、結果は望めません」
「表現が下品だぞ」
「これは失礼しました。自分は『軍人』ですので」
ザフトに所属する自分をあえて軍人と呼ぶ事でせめてもの抵抗を行い、
パトリックはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。アムロは内心、憤りを通り越して呆れていた。

 

(たかがMS一機で何が出来るというんだ?
 いやMSが生まれてまだ間もないのだから、そう考えてしまうのも無理はないのかもしれない。
 しかし仲間の死を省みずに得た勝利など、相打ちと何が違う………)

 
 

「――――――――――さて、講義は以上だ。次は守備隊の指揮官として今後の作戦を立ててもらう。
 要はディベートだな。戦線は膠着したものの、状況は先ほどの講義内容のままとする」
アスラン達は机を動かし、一つの大きなテーブルのように置く。そこにアムロも座って、彼は言った。
「では、開始」

 

その場は一気に熱に包まれた。
各自、持論を雄弁に語る。そのどれもが、実際に採用されて足るものだった。
イザークは相手を防衛線の中までわざと侵入させ挟撃をかけることを発案し、
逆にアスランは防衛線を維持したまま有利な地形まで徐々に後退すべきと言う。
どちらも勇猛・慎重といった性格が見て取れる。
ディアッカは両者の意見を聞きその折衷案的なものを自分の考えとしている。
最もローリスクハイリターンなのは彼の意見だろう。信頼性は二人の作戦に劣るが、及第点には充分だ。
アムロは部下の成長に微笑みを浮かべ、このまま良い時間が過ぎると思うと彼は心が温かくなった。
しかしパトリックとエザリアが、そのふざけた幻想をぶち殺す。

 

「アスラン、なぜ一点突破で戦況を打開しようとしないのだ!?それでも選ばれたコーディネイターか!!」
「ち、父上………!?」
「あなたもですよ、イザーク!ナチュラルを倒すためには犠牲もやむをえません!!」
「お止めください、母上…!!母上から同胞を軽んじるような言葉は聞きたくありません!!」

 

アムロは呆然とする。なんだこれは?こいつらは何を言ってるんだ?
講義を邪魔されたからではない、アムロは彼らの言葉そのものに怒りを感じている。
なんとか耐えようとするが、駄目だった。ついにアムロの堪忍袋は爆ぜてしまう。

 

「あなた!エザリアさん!少し落ち着いて………」
「黙っていろ!」「黙っていてください!」
「黙るのは貴方達の方だっ!!!!!!!」
「「「!?」」」

 

アムロの怒声が響き、場が鎮まる。肩で息をしているアムロは強い口調のまま続ける。

「さっきから聞いていれば、勝手な事を言う!!
 自分の子供に肩入れをしてしまうのは、それぐらいは大目にでも見よう。
 だけど貴方達は子供たちの本質を見ちゃいない!!
 貴方達が見ているのは『自分の子供としての』アスラン達で、アスラン達自身の事じゃない!
 なんでそんなことが出来る!?子供は大人のおもちゃじゃないんだぞ!!!
 自分の価値観を子供にまで押しつけてどうなるんだ!?
 こうであれ、ああであれと子供たちに期待を押しつけて何になる!!」

アムロは乱れた呼吸を整えて、冷静に次の言葉を紡ぐ。

「………貴方達が本当に愛しているのは、自分自身だ」

 

最後の言葉に、エザリアは顔を青ざめ俯く。
パトリックは対照的に真っ赤な顔で今にもアムロを殴り飛ばす勢いだ。
怒りに震える彼を抑えたのは、その妻・レノアだった。

 

「あなた、私の話を聞いて?………私って、ユニウスセブンでお野菜を育ててるでしょ。
 それで、いっつも心の中で『大きくなあれ』『元気になあれ』って呟いてるの。
 最初は、本当にそれだけだった。芽が伸びて作物がスクスク育つだけで嬉しかったわ。
 でもいつしか、私は『良い色になれ』『美味しくなれ』って願うようになってたのよ。
 もちろん、農業を営む上では大事な事だわ。でも、それってお野菜の本質ではないのよね?
 だって、作物は成長することが目的なんですもの。
 私は、いつの間にか自分の為に祈るようになっていたのね………。
 子育てだって、同じ事が言えるわ。『元気に育って欲しい』、それだけでいいのに、
 私たち親は『お勉強が出来るように』『偉い人になるように』って思っちゃうんですもの」
「レノア………」
「アムロさんの言うことは正論よ。
 アスラン自身に、たとえ親であっても、私たちが立ち入っちゃいけない。
 その方向性に文句を付けるなんて、もっと駄目よ。
 いけない道に入った時だけ、修正してあげればいいの」

 

レノアは微笑んだ。その笑みは子供らしくありながら上品なもので、
場の空気をまるで羽毛のように、柔らかく包みこむ優しさが溢れている。

「子供は私たちの物ではないの。そうでしょ、パトリックさん………?」
「わ、私が間違っていたというのか?」
「あなたは間違ってなんかいないわ。ただ曇っていただけ。
 親は子の鏡なんだから、自分だけを映してちゃ駄目じゃない」

めっ、と可愛らしく怒るレノア。真剣な顔もすぐに人懐っこい笑顔に戻る。
パトリックは毒気こそ抜かれているようだが、すぐに己のスタンスを変えるほど軽い人間ではない。
だが、彼は少しだけ、アスランを見た。そして次に、アムロを見る。

 

「非礼は詫びよう。私も少し頭に血が上っていたようだ。
 それとアムロ隊長、なんというかだな………ど、同胞を見捨てるような作戦は私は許さんぞ。
 敵はあくまでナチュラルなのだ。そこを踏まえて、今後の訓練を行ってくれ」
「了解しました、ザラ国防委員長」
「私も何と言っていいか………。イザークには母の醜い姿を見せてしまいました。
 私を呼ぶイザークの愛情に応えるためにも、私は変わらなければ。
 アムロ隊長、それまでイザークをよろしくお願いします」
「もちろんそのつもりです、エザリア議員」
「大断線、というヤツですね!」
「それを言うなら大団円です、ザラ夫人。それはともかく、あなたのおかげですよ」

アムロはすでに柔和な表情を取り戻している。
彼の言葉が親たちの図星を付いたか、それともまったくの見当外れだったのか、それはわからない。
わからかないが、アムロの真摯な言葉が事態を好転させたことは確かだった。

 

「おいアスラン」
「言うな、みなまで言うなイザーク………」
「じゃあイザークの代わりに俺が言うぜ。お前んとこの両親、すげぇイチャイチャしてるなwww」
「せめて仲睦まじいと言ってくれ…!」

 

先ほどまでの口論は終わり、講義室の空気は極めて良いものとなっている。
特にザラ夫妻の間は、もうハートマークが飛び交っているんじゃないかという雰囲気だ。

「あらイザーク。あなたの母も父もまだラブラブですよ?」
「は、母上!?弟も妹もいりませんからね!?(独占的な意味で!)」

(まったく、こうも変わるものか。アスランママには本当に感謝だな)

アムロは再びため息をつく。しかしそれは、どこか優しさを含んでいた。
こんな雰囲気ならば、授業参観も悪くは無いな。そう思っていた時。

 

いつでも日常は突然に瓦解する。

 

大慌てでザフトの高官が飛び込んできた。彼は恐怖とも怒りともとれる表情を浮かべている。

 

「ザ、ザラ国防委員長!!」
「何を言っている。私はアスランパパだ」
「ふざけないでください!パトリック・ザラ様!!」
「お、おお。そうだった。で、一体何があったのだ?」
「連合が、我がプラントに宣戦を布告しました………!!!」

 
 

C.E.70年2月11日。人類はかつてない大戦争を予感する。