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Azrail_If_186_第15話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 21:56:05

回答期限まで、残りおよそ2時間。

 ウィリアム・サザーランドは、
東アジア共和国の「独断専行」を口を極めて糾弾していた。
 また、近く開かれる地球連合総会で
東亜を追放処分にする決議案を通すべく、文字通り狂奔していた。
 この時の彼の様子は、いささか常軌を逸して鬼気迫るものがあったと、
後に言われることになる。

 シン・アスカとレイ・ザ・バレルは、オノゴロの北東に出撃した戦艦「ミネルバ」の
格納庫で、愛機のコクピットにおさまっていた。
 コンディション・イエローが発令されていたためだ。
 そうして「ドミニオン」艦隊と睨みあいながらも、
彼らは、次の出撃はオーブを相手に行われるだろうと予感していた。

 それと対峙する「ドミニオン」ら第62任務部隊は、
また別の一種異様な緊張感に包まれていた。
 通信がまだ回復していなかったのだ。
 仮に、ザフト・東亜・大洋州の連合軍から仕掛けてきたならば、
それはそれで構わないと彼らは思っていた。
 敵の行動に文句をつけても仕方がないし、やり返すだけだからだ。
 しかし、もし、彼らがこちらを無視してオーブに攻撃をかけた場合、
果たしてどう動くべきなのか。
 全く静観するべきなのか。ザフト側に加勢するべきなのか。それともオーブに加勢するべきなのか。
 本国からの連絡が途絶えている今、その判断は全て彼らの「独断」に任されていた。

 ユウナ・ロマ・セイランは、発表用の原稿を手にしたまま、
時折読み返しつつ、落ち着かない様子で部屋の中を歩き回っていた。
 見かねたウナト・エマ・セイランが、それを叱責した。

 ムルタ・アズラエルは、何もやることがなくなったので、テレビを見ていた。

「いよいよですね」

 オーブ近くの公海に浮かぶ船上の、甲板の上で、ひとりの記者がそう呟いた。

 船は、一見するとただの漁船のように見えたが、船首の部分に巨大なアンテナを備えていた。
 アンテナの根元からは太いケーブルが生えている。
 いざとなればこれを海底を走る有線ラインに接続して、情報が発信できるという仕組みだ。

 男と、この船の乗員たちは、共同放送社――ターミナル系の最右翼で、
オーブにデュランダルの演説を中継した報道機関――の特派員たちだった。

 大洋州や、オーブに派遣されている支局員とは別口だ。
 彼らには彼らの目的があった。

「ええ」

 先ほど口を開いた記者に、日陰になっている辺りに佇んでいた人物が応じる。
 記者は一度そちらを振り返り、また海の方へ視線を向けた。

 彼の視線の先には、小さいが、肉眼で確認できる距離に「ドミニオン」の艦影がある。

「ここが正念場だ。気合を入れてかからないといけませんね」

 再び、記者がつぶやいた。

「ええ」

 同じように、日陰の人物が頷く。

「頼みますよ。成功するかどうか、あなたにかかっているんですから」

 記者はそう念を押した。
 日陰の人物は、それを聞いて少し長い沈黙を挟んだ後、

「……分かっています」

 とだけ答えた。

 そして、ついにタイムリミットが訪れた。

 発表のために特別にしつらえられた部屋には、
各報道機関のマイクがずらりと並べられた壇が設置されていた。
 マイクの中には、大西洋連邦の主要な放送局のものもある。サザーランドのメディア工作の賜物だ。

 誰も居ない壇上の映像が、テレビを通じて世界中に配信されている。

 再び別室で、アズラエルは画面越しにその様子を見つめていた。
 もう何も考えることはない。ただ黙って待つのみだ。

 そして、同じものを、隣室のジブリールも見ていた。

 それは単にテレビが付けっ放しになっていたためで、彼が意図したものではない。
 そのため、画面を見つめる彼の視線には何の感情もなかった。
 ただ、視界に映るものとは無関係に、

 ――何が悪かったのだろう。

 ということだけが、彼の頭を占めていた。

 やがて、ユウナがどこからともなく壇上に現れ、一斉にフラッシュがたかれる。

 進行役が会見の開始を告げると、
ユウナは厳しい顔を作り、ゆっくり、噛み締めるように話し始めた。

「オーブ連合首長国代表代行、ユウナ・ロマ・セイランです。
これよりプラント、東アジア共和国、大洋州連合政府からの要求に対し、
我が国の回答を発表いたします。

まず第一の要求、大西洋連邦のムルタ・アズラエル、ロード・ジブリール両氏の
所在についてでありますが、確かに我が国は彼ら2名の亡命申請を受理しました。

彼らは迫害されて祖国を追われてきたのであり、保護するのは人道上の立場からして、
当然のことと考えております。

そして次に、第2の、彼らの身柄引き渡しについてでありますが――」

 フラッシュが飛び交う。眩しさにユウナは少し目を細めた。

「その前に、プラントのギルバート・デュランダル議長にお訊ねする。
プラント政府が主張しているロゴスの罪科とは、具体的に一体何を指すのか?」

 報道陣にざわめきが走った。

 小声で囁きあう声がさざなみのように広がる。
 この時、この中継映像は、全世界で瞬間最高視聴率を記録した。

「プラントは、ロゴスが意図的に『世界』とやらを操作し、戦争を起こしてきたという。

これはつまり、ロゴスという、民間のいち組織が、
世界各国の世論を誘導し国家間紛争を誘導してきたという意味であると解釈している。

個人的にはこれだけで既に大いに疑問があるが、
仮にそうだとして、これを裏付ける証拠はどこにあるのか?
プラントはまず、これを立証するべきだ。

資本主義の発達した現代、最も大きな消費は民衆の生活に費やされるもの、
即ち民需に他ならず、これを減退させる戦争は企業にとって悪夢に他ならない。
そうなれば経済は後退し、コングロマリットたるロゴス系企業すべての業績を悪化させるだろう。

デュランダル議長にお訊ねする。ロゴスに戦争を起こす理由がどこにあるのか!」

 高らかにユウナは声を上げた。

 このような事態は予想されていたことだったため、プラント寄りの報道各社は
このシーンをカットすることを決めていたが、共同放送社は生中継を続けた。
 また政府から放送自粛を求められていた各社も、
密かに業者などを使ったインターネット配信を行ったため、
情報のシャットアウトは事実上、ほとんど行き渡らなかった。

 ユウナは更に続ける。

「また、仮に、本当に仮にロゴスが各国政府をそそのかし、
圧力をかけて戦争を起こさせていたとしたら、それは外患誘致罪に該当する可能性が
あるとは思うが、どうしてそれをプラント政府が裁くのか?

いつの間にプラント政府はそんな権利を手に入れたのか!

本当に裁く権利があるとしたらそれは組織体としてのロゴスの幹部たち、
すなわちコーラー、リッター、マクウィリアムズ、グロード、ヴァミリア、ネレイス、
モッケルバーグ、ジブリール、そしてアズラエル……
彼らが国籍を有する大西洋連邦やユーラシア連邦、そして我がオーブ連合首長国であり、
決してプラントではありえない。

このような行為は法の名を踏みにじる暴挙であり、また国家主権の侵害である。

我が国オーブは法を尊ぶ独立国家としての立場から、
また人道上の立場から、プラント政府の第一の要求を断固拒否する!」

 明瞭な響きでユウナの言葉が打ち出されると、室内は一時、静かになった。
 しかし、すぐさま待機していたサクラ役の人間が拍手を始め、
つられた記者が何人か手を叩き始める。

 音割れのしそうな喝采が、会見場に満ちた。

「第3、第4の要求については、仮にそのような勢力が我が国に存在するとしたら
大変ゆゆしき事態であるので、こちらで調査した上で対処する。

第5の要求については、我が国は一切の情報を持っていない。
引き続きカガリ・ユラ・アスハ代表の捜索を続ける」

 以上、会見を終わる、と締め括り、ユウナはカメラに背を向けて壇上から退いた。

 拍手がそれを追うようにわき起こる。

 オーブが、真っ向からプラントとの対決姿勢を打ち出した瞬間だった。

 これを受けたプラント側はすぐさま東アジア、大洋州と連名で、このような声明を発表した。

「この期に及んでなお国際協調を無視し、自国の権益に執心するオーブの対応は
極めて不誠実であり、世界の混乱を拡大させるものである。

我等の想いにこのような身勝手を以て応ずるというのなら、我々は正義と
切なる平和への願いを以て断固これに立ち向かう。

これより我々はあらゆる手段をもって、
ロード・ジブリールとムルタ・アズラエル両名の身柄を確保する!」

 オーブの会見から、実に44分後の早業だった。

 これを受け、カーペンタリア湾に残っていた艦艇が続々と出撃し、
大艦隊となってオーブの南の海に集結した。

 翌日にはプラント側からオーブ政府に宣戦布告がなされ、オーブもこれを受理した。

 そして、ついに、プラント連合軍はオーブ領海内へ侵攻を開始した。

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