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Azrail_If_443_第02話

Last-modified: 2007-11-09 (金) 21:56:25

西の空に座する太陽は、静かにその日の仕事を終えようとしていた。
少しずつ近づいてくる夜の尖兵たちは、たなびく雲に艶やかな装いをほどこしている。
アズラエルの乗る飛行機は、その身を紅く染めながら、
さながら一枚の絵画のようなその光景に必死に溶け込もうとしているかのように見える。
アズラエルは、どこか幻想的で、圧倒的な自然のダイナミズムに一瞬目をとられたが、
すぐに正面のモニター写る長い黒髪の女性に視線を戻した。
「で、ヘリオポリスが崩壊したと聞きましたが?」
「ああ、どうやらザフトの攻撃にあったらしい。
こちらの方でも十分な情報は集まっていないのだが」
「それは『ザフト』がコロニーを破壊したということですか?」
「どうもそうらしい。いや、まだ断定することはできないが。
まもなく調査隊を向けることになっている。詳細が分かり次第、連絡しよう」
「連絡は入り次第お願いしますよ。しかし、彼らは何を考えてるんだか……
知らない人間がどれだけ死のうと関係ないですが……気分のいいものではないですね……
PS装甲のためとはいえ、やはり宇宙での試験運行は失敗でしたかね。
奇を狙わずに月で試すべきだったかな……で、GATシリーズはどうなったんですか?」
「詳細は未だわからないが、戦艦規模の熱量を観測している」
「アークエンジェルは無事ですか。ヘリオポリスの位置的にアルテミスに逃げ込む可能性が高いな……」
「今回のことは防衛体制も含め、こちらのミスだ。申し訳ない」
「済んだことは仕方ありません。まぁ後でお願いすることもあるかもしれませんが。
それに、僕が一回の失敗で人を切り捨てるような人間に見えますか?」
 どこかからかうような口調とは裏腹に、目の奥はいささかも笑っていなかった。
もっともすぐに作り笑いを浮かべ、ごまかす。ここで押し過ぎても意味はない、と判断したのだ。
「それよりも、分かってるでしょうが、
 どこから情報が漏れたかも調査しといてくださいね。
 連合の方はこちらでやっておきますから」
「ああ、承知した。で、例の件はうまくいったのか?」
「とりあえず言質は頂きました」
「そうか、しかしウズミも迂闊だな。MSがGATシリーズを表すとは限らんだろうに」
「まぁ彼も僕と貴方がつながっているとは思わなかったんじゃないですか?
 多少は感づいているかもしれませんが。
 もともとGATシリーズはうちの技術の方が多いんですけどね。
 後は実働データさえ手に入れば、問題ありません。
 それよりも僕が欲しいのはOSです」
「ああ。まだ未完成ではあるが、そちらのOSよりは完成度は高いはずだ」
「本当なら不良品の取引なんてしたくないんですけどね……
 まぁ背に腹は変えられませんしね。
 ところで、貴方の立場は大丈夫なんですか? 
 僕が言うのもなんですが、なかなか危ない取引ですよ?」
「心配は無用だ。我らはオーブの闇を司る一族。
 このようなことも一度や二度ではない」
「ですが、MSは国を守る力なのでは?」
「確かに。しかし、守るとは闘うことだけではない。
 結果として国を守ることにつながれば、それもまた国を守る力だ。
 そのようなことはアズラエル殿の方がご承知なのではないか?」
「使えるものは使うのが商人ですからね。ま、今のは試しただけですよ。
 あなたを私の取引相手として見るに足るかどうかね」
「ほう……で、満足してもらえたかな?」
「ふふ、答えは次の機会に」
 通信を終え、アズラエルが椅子の横にあるボタンを押すと、長身で金髪の青年が室内に入ってきた。
きれいに着こなしたスーツから身を開放すれば、少年とも呼べそうにも見える。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、実はちょっと厄介なことになっちゃってね。
 アルテミスの指揮官が誰だかわかるかな?」
 その言葉と共に青年は端末を操作し始め、正面のモニターには恰幅のいい禿げ頭の顔が写しだされる。
「これはまた……あんまり直視したくないですねぇ。で、彼は?」
「ジェラード・ガルシア少将、さしたる戦果はありません」
「名前から察するに、西ユーラシア出身ですかね?」
「はい。旧EU地域出身となっています」
「となると、アズラエル製薬の会長にお願いしましょうか。
 ロゴスのメンバーに借りをつくるのも癪ですし。
 とりあえず圧力はかけておかないとね」
 そうつぶやく横で、青年はすぐさま端末を操作し、通信を開始していた。
その仕事の早さに満足感を感じながら、アズラエルも自分の仕事を手早く終わらせる。
旧EU地域に本社を置く財閥の系列企業の会長にちょっとした指示を終えると、
大きく息を吐き出し、深く椅子に沈みこんだ。
「ふぅ、これで今日の仕事は終わりかな。というかもうやらないぞ」
「お疲れ様です」
 秘書である青年は労わように声をかける。
「ああ、仕事の時間も終わったんだから、オルガもいつも通りでいいですよ」
「おっしゃ! あー、疲れた。ちゃっちゃっと帰ってお袋のメシ食おうぜ」
「だから今帰ってるじゃないですか。そうそう、シャニとクロトから報告はきましたか?」
「ああ、きてるぜ。コーディ用のOSで元気に試験機動かしてる画像が送られてきたよ。
 まぁ研究は進んでないみたいだけどな。
 あいつらのデータを基準にすると、1000人に一人しかMSには乗れないぜ」
「うーん、やっぱりオーブ待ちですかね……ってなんで僕はまだ仕事の話を!」
「親父が言い出したんじゃねーか」
「あぁ! 早く家に帰ってサラのご飯が食べたい!」
「だから今帰ってる途中だって……」
 二人を乗せた飛行機は、機内の喧騒をよそに、静かに夜の闇へと溶けていった。